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第1章
15 今更なんだよ
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「ねぇ、スレイズ。私とキスして?」
さぁーと冷たい風が横に吹く。
目の前には頬を少し赤く染めた女。
彼女は俺を誘っているようにも思えた。
「…………何言ってんだ?」
「私とキスしてって言ってるの」
パトリシアは優しくニコリと笑っていた。
俺はそんな彼女に思わずため息をつく。
はぁ。昼間の笑みはそういうことだったのか。
「――――――――――――ふざけんな」
俺はパッと彼女の体を突き放す。
気持ち悪さと恐怖。その2つをパトリシアから感じた。
「今更なんだよ」
本気で……お前のことを思っていたんだ。だが、彼女は俺を捨てた。でも再会したら、突然キスしろ?
本当に今更だ。もうお前のことなんて好きでもなんでもない。
その瞬間、ふとナターシャの顔が浮かぶ。無邪気な笑みを浮かべる彼女を。
今、俺の好きな人は――――――――――――きっと彼女なのだろう。
「『キスをして』? バカなこと言うのも大概にしてくれないか?」
「えぇ、そんなこと言わずにー」
パトリシアの笑みが企みの笑みへと豹変していく。
やっぱり別の目的があったのか。
「キスさえすれば、ファーストキス覚醒は無理でもセカンドキス覚醒があるかもしれないじゃない。そしたら、私のステータスは元通り」
「お前、それが狙いで…………」
コイツは俺のことをこれっぽちも好きなんて思ってないのだろう。人間とすら思っていないのだろう。
きっと俺のことを道具にしか見えていないのだろう。
だいたい、セカンドキス覚醒なんてあるのか? あってもどうなるんだ?
――――――――――――いいや、そんなことはどうでもいい。
そんな覚醒とかなんとかで、パトリシアにキスなんてされてたまるか。
その時、瞬時に顔を両手で押さえられる。そして、パトリシアの顔がぐっと寄ってきた。
「私に力をちょうーだい♡」
やべっ。
パトリシアにキスをされそうになったその瞬間、
「おっと!」
俺はグイっと後ろに引っ張られる。
パトリシアの手も離れていく。
しかし、こけることはなく、誰かに支えられていた。
後ろをそっと見る。
すると、そこには頬を赤く染めた彼女がいた。
「スレイズは私のだから!」
ナターシャは俺の服をぎゅっと握っていた。
なんでこんなところにナターシャが……………………?
「誰かと思えば、ナターシャだったの」
パトリシアはフンと鼻を鳴らしていた。
「パトリシアちゃん、スレイズにキ、キスはしないで!」
「はぁ? どういうこと? あんたたち、付き合っているっていうの?」
「そ、そ、そういうわけではないけれど………………」
「なら、キスするしないは私の自由でしょ」
俺の自由はないのかよ。
俺の気も知らずに、女2人は睨み合い。
2人は戦いを始めるのではないかと思うぐらい、敵意をむき出しにし、近づいていく。
「スレイズが嫌がっていたでしょ? 無理やりキスをするのはどうかと思うの!」
「あんたはいっつもねぇ…………あんたはいっつも私の嫌なことをするわね」
「そんなことをしようとしたつもりはないよ。私はただスレイズが嫌がっていたから止めただけ」
「ハッ。そんなこと言って、本当は私からまたスレイズを取られたくなくて止めたのでしょう?」
「それは…………」
パトリシアはナターシャの腹を思いっきり蹴る。
「う゛っ!」
結構痛かったのか、ナターシャはお腹を抑える。
ナターシャは強くなったとはいえ、パーティーの中では物理耐性は低い。物理攻撃は嫌っている様子だった。
さらにパトリシアの靴に何か細工されていたようで、ナターシャは耐えきれず地面に倒れた。
「ナターシャ!」
俺はナターシャの所に急いで駆け寄る。ナターシャは痛みを堪えながらも、声を出した。
「パトリシアちゃん…………暴力はダメだよ…………」
「邪魔しないでよ、ナターシャ。あんたがいなければ、この先何があっても私が一番の幸せ者になれると思うの。あ、いっそのこと今消してやろうかしら?」
パトリシアの狂った瞳は地面に倒れたナターシャを捉えていた。そして、彼女は腰にあった剣を取り出す。
「死んでちょうだい」
カキィ――ン。
その音ともに2つの剣が交わる。
「お前、正気か?」
俺の剣がパトリシアの剣を受け止めていた。
パトリシアの剣はそれほど強くなく、片手であってもすぐに振り払うことができた。
ここが街中ではなかったら、魔法で攻撃でも仕掛けているところだ。
ボコボコにしてやりたい。
そんな感情が湧き出てきたが、俺はぐっと堪えた。
周囲にいる住民に迷惑をかければ、ギルドにも迷惑をかけるかもしれない。ナターシャたちもきっと困ることになるだろう。
攻撃を仕掛けてくると思っていたパトリシアだが、俺相手に勝ち目はないと思ったのか、フンと鼻を鳴らし、剣をしまっていた。
俺は倒れたナターシャを抱き上げる。
「今日のところはキスを奪うのは止めておくわ。スレイズが嫌がっているみたいだし、今度
にする」
「お前とはキスなんてしたくない。一生」
「あら、それはどうかしら? もしかしたら、気が変わるかもしれないわよ?」
パトリシアはニヤリと笑みを浮かべた。
本当に嫌な笑みだな。
なんで俺はこんなやつと付き合ったのだろう。
後悔の気持ちが今更押し寄せてくる。
ナターシャにぎゅっと服を掴まれる。
パトリシアはナターシャをじっと見て、そして、背を向けた。
「ナターシャ、あんたは楽に幸せ者になれていいわね」
楽に幸せ者?
ナターシャの努力を知らずに何言っているんだ。
そう言って、パトリシアは去っていく。
ナターシャの方を見ると、まだお腹を押さえていた。
「ナターシャ、大丈夫か?」
「多分大丈夫」
「多分って…………」
ナターシャのことだ。心配かけたくなくて、これは無理してるな。
家まで横抱きして帰ろう。
痛みが治まってくると、ナターシャはそっと呟いた。
「でも、なんでなんだろう。私、メイヴと散々武術はやっていたのに。蹴りを1発くらっただけで倒れることなんてなかったのに…………」
「…………」
その日の夜はずっと冷たく気味の悪い風が吹いていた。
さぁーと冷たい風が横に吹く。
目の前には頬を少し赤く染めた女。
彼女は俺を誘っているようにも思えた。
「…………何言ってんだ?」
「私とキスしてって言ってるの」
パトリシアは優しくニコリと笑っていた。
俺はそんな彼女に思わずため息をつく。
はぁ。昼間の笑みはそういうことだったのか。
「――――――――――――ふざけんな」
俺はパッと彼女の体を突き放す。
気持ち悪さと恐怖。その2つをパトリシアから感じた。
「今更なんだよ」
本気で……お前のことを思っていたんだ。だが、彼女は俺を捨てた。でも再会したら、突然キスしろ?
本当に今更だ。もうお前のことなんて好きでもなんでもない。
その瞬間、ふとナターシャの顔が浮かぶ。無邪気な笑みを浮かべる彼女を。
今、俺の好きな人は――――――――――――きっと彼女なのだろう。
「『キスをして』? バカなこと言うのも大概にしてくれないか?」
「えぇ、そんなこと言わずにー」
パトリシアの笑みが企みの笑みへと豹変していく。
やっぱり別の目的があったのか。
「キスさえすれば、ファーストキス覚醒は無理でもセカンドキス覚醒があるかもしれないじゃない。そしたら、私のステータスは元通り」
「お前、それが狙いで…………」
コイツは俺のことをこれっぽちも好きなんて思ってないのだろう。人間とすら思っていないのだろう。
きっと俺のことを道具にしか見えていないのだろう。
だいたい、セカンドキス覚醒なんてあるのか? あってもどうなるんだ?
――――――――――――いいや、そんなことはどうでもいい。
そんな覚醒とかなんとかで、パトリシアにキスなんてされてたまるか。
その時、瞬時に顔を両手で押さえられる。そして、パトリシアの顔がぐっと寄ってきた。
「私に力をちょうーだい♡」
やべっ。
パトリシアにキスをされそうになったその瞬間、
「おっと!」
俺はグイっと後ろに引っ張られる。
パトリシアの手も離れていく。
しかし、こけることはなく、誰かに支えられていた。
後ろをそっと見る。
すると、そこには頬を赤く染めた彼女がいた。
「スレイズは私のだから!」
ナターシャは俺の服をぎゅっと握っていた。
なんでこんなところにナターシャが……………………?
「誰かと思えば、ナターシャだったの」
パトリシアはフンと鼻を鳴らしていた。
「パトリシアちゃん、スレイズにキ、キスはしないで!」
「はぁ? どういうこと? あんたたち、付き合っているっていうの?」
「そ、そ、そういうわけではないけれど………………」
「なら、キスするしないは私の自由でしょ」
俺の自由はないのかよ。
俺の気も知らずに、女2人は睨み合い。
2人は戦いを始めるのではないかと思うぐらい、敵意をむき出しにし、近づいていく。
「スレイズが嫌がっていたでしょ? 無理やりキスをするのはどうかと思うの!」
「あんたはいっつもねぇ…………あんたはいっつも私の嫌なことをするわね」
「そんなことをしようとしたつもりはないよ。私はただスレイズが嫌がっていたから止めただけ」
「ハッ。そんなこと言って、本当は私からまたスレイズを取られたくなくて止めたのでしょう?」
「それは…………」
パトリシアはナターシャの腹を思いっきり蹴る。
「う゛っ!」
結構痛かったのか、ナターシャはお腹を抑える。
ナターシャは強くなったとはいえ、パーティーの中では物理耐性は低い。物理攻撃は嫌っている様子だった。
さらにパトリシアの靴に何か細工されていたようで、ナターシャは耐えきれず地面に倒れた。
「ナターシャ!」
俺はナターシャの所に急いで駆け寄る。ナターシャは痛みを堪えながらも、声を出した。
「パトリシアちゃん…………暴力はダメだよ…………」
「邪魔しないでよ、ナターシャ。あんたがいなければ、この先何があっても私が一番の幸せ者になれると思うの。あ、いっそのこと今消してやろうかしら?」
パトリシアの狂った瞳は地面に倒れたナターシャを捉えていた。そして、彼女は腰にあった剣を取り出す。
「死んでちょうだい」
カキィ――ン。
その音ともに2つの剣が交わる。
「お前、正気か?」
俺の剣がパトリシアの剣を受け止めていた。
パトリシアの剣はそれほど強くなく、片手であってもすぐに振り払うことができた。
ここが街中ではなかったら、魔法で攻撃でも仕掛けているところだ。
ボコボコにしてやりたい。
そんな感情が湧き出てきたが、俺はぐっと堪えた。
周囲にいる住民に迷惑をかければ、ギルドにも迷惑をかけるかもしれない。ナターシャたちもきっと困ることになるだろう。
攻撃を仕掛けてくると思っていたパトリシアだが、俺相手に勝ち目はないと思ったのか、フンと鼻を鳴らし、剣をしまっていた。
俺は倒れたナターシャを抱き上げる。
「今日のところはキスを奪うのは止めておくわ。スレイズが嫌がっているみたいだし、今度
にする」
「お前とはキスなんてしたくない。一生」
「あら、それはどうかしら? もしかしたら、気が変わるかもしれないわよ?」
パトリシアはニヤリと笑みを浮かべた。
本当に嫌な笑みだな。
なんで俺はこんなやつと付き合ったのだろう。
後悔の気持ちが今更押し寄せてくる。
ナターシャにぎゅっと服を掴まれる。
パトリシアはナターシャをじっと見て、そして、背を向けた。
「ナターシャ、あんたは楽に幸せ者になれていいわね」
楽に幸せ者?
ナターシャの努力を知らずに何言っているんだ。
そう言って、パトリシアは去っていく。
ナターシャの方を見ると、まだお腹を押さえていた。
「ナターシャ、大丈夫か?」
「多分大丈夫」
「多分って…………」
ナターシャのことだ。心配かけたくなくて、これは無理してるな。
家まで横抱きして帰ろう。
痛みが治まってくると、ナターシャはそっと呟いた。
「でも、なんでなんだろう。私、メイヴと散々武術はやっていたのに。蹴りを1発くらっただけで倒れることなんてなかったのに…………」
「…………」
その日の夜はずっと冷たく気味の悪い風が吹いていた。
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