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第1章
4 突然のキス
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街の一角にある飲み屋。
ナターシャが『飲みに行こう』と言った後、すぐに俺はそこへ連れてこられていた。
その飲み屋はすでに多くの客で賑わっており、俺たちは空いていた店の隅の席に座った。
そして、お酒が来ると、俺たちは乾杯しようと、グラスを手に取った。
「とりあえず、スレイズ。畑完成おめでとー!」
「ありがとう…………ってお前酒なんて飲んでいいのか?」
年的には大丈夫だろうが、ナターシャの両親はアルコールに弱かったはず。
遺伝していればナターシャは1杯だけでノックアウトだろう。
「大丈夫! 大丈夫! これノンアルだから」
「え? マジで? なら俺もノンアルに変更…………」
「せっかく頼んだのだから、飲んで飲んで!」
ナターシャはにひっーと笑う。
そういうのなら、飲ましてもらうかな。久しぶりだし。
俺は遠慮なく酒を飲み始める。
そうして、おしゃべりをして、飲んで、そして話して、を繰り返していくうちに、自分の体にお酒がどんどん回っていく。
俺は机に顔をうつ伏せ、彼女の方を見る。
ナターシャは一滴も酒を飲んでいないのにも関わらず、顔を赤くさせていた。
コイツ、においでも酔うタイプなのか…………絶対酒を飲ませたらいけないやつじゃないか。
「ねぇ、スレイズ」
「なんだ? 眠たくなったか?」
「いやぁ、じぇんじぇん眠くないよぉ! むしろぉ元気いっぱいよぉ…………私、スレイズに聞きたいことがあるの」
なんか口が絡まっているけど…………本人が酔っていないというのなら、酔っていないということにしよう。飲んではいないしな。
「それで、聞きたいことってなんだ?」
「まだパトリシアちゃんのこと好き?」
「…………まぁな」
裏切られた。けれど、俺はそんなにスパッと諦めれるような人間ではない。
「そっかぁ…………」
とだけ言って、ナターシャは俺の頭を撫でてくれる。その手は温かくどこからか優しさを感じた。
しかし、それ以上は話してくれず、ナターシャは俺の頭をわしゃわしゃと撫でるだけだった。
「いい時間だしぃ、そろそろ帰ろっかぁ」
「そうだな。そろそろ寝ないと明日の仕事ができないしな」
そうして、俺たちは店を出た。
外はすでに真っ暗で、空には星々がキラキラと輝いていた。静かな通りに少し冷たい横風が吹く。寒かったのか、ナターシャはぶるりと身体を震わせていた。
「家に帰るまで、これ着とけ。寒いだろ」
「あ、ありがとぅ…………スレイズは相変わらず優しいね」
「優しい…………か? よくベルベルティーンや妹にはお節介やろうとか、おかんとか言われていたけれど」
「うん、優しいよ」
ナターシャはニコリと微笑み、家の方へと歩き出す。俺も彼女の横について歩いた。
沈黙の時間が続き、通りの家からの声が聞こえてくる。
これは…………俺から話題を何か出した方がいいか?
いや、といってもつまらないような話題しか思いつかない。
隣をちらりと見ると、ナターシャは酔いのせいか、ずっとニコニコ笑顔で、時折「私、幸せものだぁ」なんて呟いていた。
そんな笑顔になれるのは本当に幸せだと思う。
でも、俺の横で言っているんだ? 皮肉で言っているのか?
私はうまくいってますよ、ってか?
まぁ、ナターシャがそんなことを考えるような人間ではないことは分かっている。
昔から心優しく、困っている人がいれば誰であっても助ける。
それがナターシャのところで、俺がずっと見習っているところ。
今日も俺を気遣って、飲みに誘ったのだろう。
本当にいいやつだよ…………。
と再度横を見ると、彼女と目が合った。
キラキラと輝いていた瞳は落ち着きを取り戻し、真剣な表情を浮かべていた。
「ど、ど、どうした? 気持ち悪くなったか?」
「…………」
「…………なぁ、どうしたんだ?」
「私ね、明日王都に行くの」
「は? 王都?」
王都はこの街からずっと離れたところにある。そんなところにナターシャは何をしに行くんだ?
酔ってるからそんなことを言っているのか?
「あのな…………いくら王都に夢見ているからって、そんな冗談は言うなよ。現実が悲しくなる…………」
「本当に行くの。私のパーティーね、つい最近王都のギルドに誘われて、1週間前にそのお誘いの返事の手紙を出したの」
「…………はぁ?」
私のパーティー?
困惑している俺に構わず、ナターシャは話を進めていく。
「だから、一時ここに帰ってこれなくなる。もしかしたら、帰ってくる時にはおばあちゃんになっているかもしれない」
「本当に何を言って————」
と言おうとした瞬間、口をふさがれた。
ナターシャの唇によって。
————————え?
この状況は何ですか?
な、な、なんで俺、ナターシャにキスされてるわけ?
完全に頭の中は真っ白になっていた。
柔らかい唇が離れると、ナターシャは満足そうにニコッと笑っていた。
「だから、私のことを忘れないでね」
そう言った彼女の灰色の瞳から、一粒の涙が流れていく。
その涙が地面に落ちた瞬間、
「な、な、なんだこれっ!?」
突如、俺の体が光り始めた。
「…………何が起きているの?」
ナターシャもよく分かっていないのか、目を見開いていた。
光を放つ俺の体は徐々に軽くなっていく。自然と力も沸いてきていた。
————————————————————————一体、何が起きているんだ?
ナターシャが『飲みに行こう』と言った後、すぐに俺はそこへ連れてこられていた。
その飲み屋はすでに多くの客で賑わっており、俺たちは空いていた店の隅の席に座った。
そして、お酒が来ると、俺たちは乾杯しようと、グラスを手に取った。
「とりあえず、スレイズ。畑完成おめでとー!」
「ありがとう…………ってお前酒なんて飲んでいいのか?」
年的には大丈夫だろうが、ナターシャの両親はアルコールに弱かったはず。
遺伝していればナターシャは1杯だけでノックアウトだろう。
「大丈夫! 大丈夫! これノンアルだから」
「え? マジで? なら俺もノンアルに変更…………」
「せっかく頼んだのだから、飲んで飲んで!」
ナターシャはにひっーと笑う。
そういうのなら、飲ましてもらうかな。久しぶりだし。
俺は遠慮なく酒を飲み始める。
そうして、おしゃべりをして、飲んで、そして話して、を繰り返していくうちに、自分の体にお酒がどんどん回っていく。
俺は机に顔をうつ伏せ、彼女の方を見る。
ナターシャは一滴も酒を飲んでいないのにも関わらず、顔を赤くさせていた。
コイツ、においでも酔うタイプなのか…………絶対酒を飲ませたらいけないやつじゃないか。
「ねぇ、スレイズ」
「なんだ? 眠たくなったか?」
「いやぁ、じぇんじぇん眠くないよぉ! むしろぉ元気いっぱいよぉ…………私、スレイズに聞きたいことがあるの」
なんか口が絡まっているけど…………本人が酔っていないというのなら、酔っていないということにしよう。飲んではいないしな。
「それで、聞きたいことってなんだ?」
「まだパトリシアちゃんのこと好き?」
「…………まぁな」
裏切られた。けれど、俺はそんなにスパッと諦めれるような人間ではない。
「そっかぁ…………」
とだけ言って、ナターシャは俺の頭を撫でてくれる。その手は温かくどこからか優しさを感じた。
しかし、それ以上は話してくれず、ナターシャは俺の頭をわしゃわしゃと撫でるだけだった。
「いい時間だしぃ、そろそろ帰ろっかぁ」
「そうだな。そろそろ寝ないと明日の仕事ができないしな」
そうして、俺たちは店を出た。
外はすでに真っ暗で、空には星々がキラキラと輝いていた。静かな通りに少し冷たい横風が吹く。寒かったのか、ナターシャはぶるりと身体を震わせていた。
「家に帰るまで、これ着とけ。寒いだろ」
「あ、ありがとぅ…………スレイズは相変わらず優しいね」
「優しい…………か? よくベルベルティーンや妹にはお節介やろうとか、おかんとか言われていたけれど」
「うん、優しいよ」
ナターシャはニコリと微笑み、家の方へと歩き出す。俺も彼女の横について歩いた。
沈黙の時間が続き、通りの家からの声が聞こえてくる。
これは…………俺から話題を何か出した方がいいか?
いや、といってもつまらないような話題しか思いつかない。
隣をちらりと見ると、ナターシャは酔いのせいか、ずっとニコニコ笑顔で、時折「私、幸せものだぁ」なんて呟いていた。
そんな笑顔になれるのは本当に幸せだと思う。
でも、俺の横で言っているんだ? 皮肉で言っているのか?
私はうまくいってますよ、ってか?
まぁ、ナターシャがそんなことを考えるような人間ではないことは分かっている。
昔から心優しく、困っている人がいれば誰であっても助ける。
それがナターシャのところで、俺がずっと見習っているところ。
今日も俺を気遣って、飲みに誘ったのだろう。
本当にいいやつだよ…………。
と再度横を見ると、彼女と目が合った。
キラキラと輝いていた瞳は落ち着きを取り戻し、真剣な表情を浮かべていた。
「ど、ど、どうした? 気持ち悪くなったか?」
「…………」
「…………なぁ、どうしたんだ?」
「私ね、明日王都に行くの」
「は? 王都?」
王都はこの街からずっと離れたところにある。そんなところにナターシャは何をしに行くんだ?
酔ってるからそんなことを言っているのか?
「あのな…………いくら王都に夢見ているからって、そんな冗談は言うなよ。現実が悲しくなる…………」
「本当に行くの。私のパーティーね、つい最近王都のギルドに誘われて、1週間前にそのお誘いの返事の手紙を出したの」
「…………はぁ?」
私のパーティー?
困惑している俺に構わず、ナターシャは話を進めていく。
「だから、一時ここに帰ってこれなくなる。もしかしたら、帰ってくる時にはおばあちゃんになっているかもしれない」
「本当に何を言って————」
と言おうとした瞬間、口をふさがれた。
ナターシャの唇によって。
————————え?
この状況は何ですか?
な、な、なんで俺、ナターシャにキスされてるわけ?
完全に頭の中は真っ白になっていた。
柔らかい唇が離れると、ナターシャは満足そうにニコッと笑っていた。
「だから、私のことを忘れないでね」
そう言った彼女の灰色の瞳から、一粒の涙が流れていく。
その涙が地面に落ちた瞬間、
「な、な、なんだこれっ!?」
突如、俺の体が光り始めた。
「…………何が起きているの?」
ナターシャもよく分かっていないのか、目を見開いていた。
光を放つ俺の体は徐々に軽くなっていく。自然と力も沸いてきていた。
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