はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第3章

第57話 俺たちは着ぐるみパジャマでサンバする 後編

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 「貴様、メラクの勇者ではないだろ。最近新聞で見た気が――」
 「いや! 俺はメラクの勇者です! あんまり時間ないんで、皆さんの上司ボスの所に行かせてもらいますねぇ!」

 めんどくさくなった俺は、魔族を風魔法で吹き飛ばす。
 加減はしていないため、天にぶっ飛んでいくやつもいた。

 「……おりゃっ」
 「うわっ――!!」
 「……えいっ」
 「勇者風情が……って、ウアアァ――!!」

 ……こんなの楽勝じゃん。
 幹部の部下だから、もうちょっと骨のあるやつがくるかとも思ったんだがな。

 1人だけ筋肉だるまみたいなゴリゴリのやつもいたが、土魔法を使って岩で手足を拘束して、杖で頭を叩くとすぐに動かなくなった。
 そうして、幹部の部下たちを適当にぶっ飛ばした俺たちは、城の中へと踏み込んだ。

 「お邪魔しまーす!」
 
 城はかなり広く、自分の声がこだまする。

 「侵入者だ――!!」

 俺たちの侵入に気づいた他の魔族が出てきた。
 が、秒で倒せた。
 ……本当に雑魚ばかりじゃないか。

 幹部もこんな感じだったら、ちょっと悲しいんだけど。
 これだと魔王軍は勇者勢に秒でやられるぞ。
 
 「リナ、幹部はどこにいるんだ?」
 「不在でなければ、城の最上階にいるはずだ」

 最上階ね、まぁ、お偉いさんっていつも高いところにいるもんな。
 もしいなかったら、お姉さんを助け出して、リナとお姉さんだけを逃がそう。
 そして、俺たちは幹部様を待って、気が済むまで殴らせてもらう。
 うん、そうしよう。

 と思ったが、幹部様は不在ではなかった。
 最上階の一番奥の部屋、そこには玉座があり、彼はそこに座っていた。

 「貴様ら、勇者だな」

 人間とは違う紫色の肌。
 その肌はしわしわで、あごには地につきそうなぐらい長いひげ。
 頭部にはヤギのようなご立派な角があり、先ほど戦った弱い部下とは違う風格は感じた。
 
 他のやつらはいないし、多分こいつがリナの姉さんを捕まえているという魔王軍幹部だな。

 「そうでーす。メラクの勇者です。よろしーく」
 「ん? メラクの勇者だと? 貴様が?」
 「そうでーす。よろしーく」
 「貴様、メラクの勇者ではないだろ」
 「そうですってば」
 「いや、違うだろ」
 「いや、俺はメラクの勇者ですって」
 「……なら、名を名乗れ」 

 メラクの勇者の名前ってなんて名前だっけ?
 いいや、適当に名前を作ろ。

 「ええっと……俺はタロウ・ヤマダです。そっちはあれだな、人間の女を攫う変態じいちゃんだな。どうもよろしく」
 「私は変態ではない……全くふざけているのか。メラクの勇者はそんな名前ではないはずだ」

 と聞かれてもな……メラクの本名覚えてないし。
 困った俺はリナに小声で尋ねた。

 「……おい、リナ。メラクの勇者の名前ってどんな名前だった?」
 「メラクの勇者はイツキ・ニトベという名前のはずだ」
 「おっけー、イツキ・ニトベね」

 俺は仕切り直して、じじい幹部をビシッと人差し指で指す。

 「魔王軍幹部! よく聞け! 俺の名前はイツキ・ニトベだ! メラクの勇者だ! シクヨロ!」
 「おい、嘘をつくな。全部聞こえていたぞ」

 クソぉ……聞こえないようにできるだけ小さな声で話していたのに、気づかれるとは。
 ああ、でも、いっか。
 どうせこいつは殺すんだし、教えても広まらないだろう。

 「悪い、メラクの勇者っていうのは嘘だ。俺はネル・モナー、アルカイドの勇者だよ」
 「ほう、アルカイドの勇者か。最近見つかった勇者ではないか。それで、そっちは――」
 「フンっ、私は名乗らなくても分かるでしょ? ライナスのじじい」

 そう言って、リコリスはフードを取り顔を出す。
 彼女の頭にはいつもの角が生えていた。

 『なんで悪魔がおるねーん』とツッコミが飛んでくるくらいには呆れるかなと思ったのだが、じじい幹部は意外にも動揺、目を見開いていた。

 「な、なぜ“悪魔の兵器”がここにいる?」

 ……はて、悪魔の兵器ってなんだろう?
 おっさんの話しかけている相手からするに、リコリスのことだろうか?
 リコリスとじじい幹部は知り合いなのか?

 隣の悪魔女はというと珍しく冷たい目をして、じじい幹部を見ていた。

 「ネル、コイツさっさと殺しちゃいましょ」
 「……ま、まさか貴様は命を受けてこの世界に来たのか」
 「ハッ、そんなわけないでしょ。暇だったから表世界こっちに来ただけよ。てか、あんた、私を生贄にしてレベルを得ようとしていたわね」
 「た、確かに勇者からはレベルを奪おうとしていたが、“兵器”の貴様を生贄にするつもりなど――」
 「何を言っても、絶対に許さないから。さっさと死になさい」

 あれ? なんかリコリスさん、怒っていらっしゃいますな。
 あれか? 元同僚とかか? 
 でも、仲が悪い感じだし、ぶっ倒しても問題はなさそうだな。

 すると、リコリスはボロコートを脱ぎ、サンバの格好になった。
 しかし、恥ずかしがる様子はなく、関節をぽきっぽきっと鳴らして、準備体操をし始める。
 激おこモードで、服を気にしている場合じゃないようだ。
 てか、リコリスこいつ、物理攻撃で行くつもりだな。

 「2人してふざけた格好できおって……私をなめているな」

 着ぐるみパジャマとサンバの衣装で来たせいか、ちょっと怒っているじじい幹部。
 ……なめてるわけないだろ。こっちは危うく殺されかけたんだ。

 「ふん、まぁ誰が来ようと構わないが……こちらに人質がいるのを忘れられては困るな」

 その瞬間、俺は転移魔法を使った。
 幕で隠れていて最初は気付かなかったが、玉座の奥には部屋があった。
 そこに移動すると、小さな牢屋に入れられた1人の女性を発見。
 柵をぶっ壊し、彼女を助け出す。

 「その人質って、彼女のことか?」

 そして、俺はその女性を抱えて、元の場所に戻っていた。
 たぶん、この人がリナのお姉さんなのだろう。
 
 茶色の髪が美しいリナの姉さんは眠らされているのか、目を覚まさない。
 すぅーすぅーと寝息を立て、静かに眠っていた。
 まぁ、呼吸もしているし、外傷があるわけでもなさそうだから、きっと大丈夫だろう。

 「貴様、いつの間に!」
 「あのさ……魔王軍幹部なら、もうちょいマシな結界を張ってくれないか」

 魔王軍幹部だし古代魔法を使っているみたいだから、強めの結界とか張ってるのを期待したんだがな。
 牢屋に結界が張られていたが、一瞬で壊せた。
 しかも結界は1つだけ。
 俺がじじい幹部なら、複数の結界を張るところだ。

 「リナ、この人がお前の姉さんか?」
 「ああ、ありがとう」

 姉さんを引渡すと、リナは安堵の表情を浮かべていた。
 そうだよな。家族を兄弟姉妹を失うのは怖ったよな。

 「リナ、お前逃げてていいぞ」
 「いや、私もここにいる。ネルがいないと、学園には戻れないからな」
 「そうか。じゃあ、ちょいと待っていてくれ。すぐに終わらせるから」
 「ああ、待ってる」

 リナの姉さんを助けたから、俺らはこれで好き勝手暴れられる。
 戦う準備ができた俺とリコリスは横に並んだ。
 俺は大杖を構え、リコリスは低い姿勢をとる。

 「さぁ、サンバタイムの始まりよ! 覚悟しなさい! 変態じじい!」
 「思う存分殴らせてもらうぜ! 幹部様!」

 そうして、俺とリコリスはじじい幹部に向かって駆けだした。
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