はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第3章

第54話 暴走とキス

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 「ちょうどいい生贄がいてよかった――」

 耳を澄ましていると、聞こえてきた副会長の声。
 どうやら俺たちのことについて話しているようだった。

 …………生贄って、俺らのことだよな。
 俺らを生贄して一体何をする気なんだ?

 聞き耳を立てていると、コツコツと足音が近づいてくる。
 すると、あの2人が入り口から姿を現した 。

 「あら、起きてしまいましたか」

 やってきた眼鏡副会長セトの後ろには、無表情のリナ。
 彼女は俺に冷ややかな瞳を向けていた。

 「お前ら、俺たちをこんなにすっぽんぽんにしてどうするつもりだ」

 あの幼女先生でさえ、取ろうとしたのは上の服だけだったんだぞ。
 それなのに服を全部脱がすとは……。

 「お前ら、変態か」
 「ふふふ、僕は変態ではありませんよ」
 
 その眼鏡をして変態じゃないとは言わせんぞ。

 「……それで? 俺らをこんな風にして、何をしようとしているんだ」

 生贄と聞く限り、俺らを代償にするというのは分かる。
 しかし、その後のことや目的が分からない。
 強力な悪魔や魔物を召喚するのだろうか。
 すると、眼鏡男はふふふと笑みを漏らす。

 「捕まえたあなたはどうせ死にますし、ちょっとぐらいは教えてあげましょう。ネルさん、あなたはレベル剥奪魔法レベルシッパーレというものをご存知ですか」

 レベル剥奪魔法レベルシッパーレ――――少しだけメミから聞いたことはある。
 他人からレベルを奪う魔法で、約半世紀前に開発された魔法の中では新しいもの。
 仲直りする前までメミは、俺がその魔法を使ってレンを殺し、レベルを得たと考えていたらしいのだが……こいつらはそれを使うというのか。

 そう尋ねたが、セトは横に首を振った。

 「あの魔法は魔力コストを抑えることはできますが、成功率は非常に低い。ですが、僕らは確実にあなた方のレベルを奪いたい……失敗はしたくないのです。ですので、僕たちは古代魔法『レベル吸収魔法レベルアッソブルミート』を使うことにいたしました」
 「は?」
 
 古代魔法だと?
 
 「いやぁ、レベルシッパーレと違って、準備にかなりの時間がかかりましたよ。大杖に魔石に魔法陣、そして、あなた方……まぁ、あなた方を準備をするのは簡単でしたね、ええ」
 「……」

 なるほど、レベルがバカ高い俺からレベルを奪って自分の物にでもするのか。
 でも、それには1つ疑問がある。

 俺からレベルを奪うのは分かる。
 でも、なぜリコリスまで捕らえたんだ?

 アイツから奪ったところで少しのレベルしか得られない。
 魔物を倒してレベルを上げた方がよほど効率がいいと思うのだが。

 セトはそれさえもお見通しなのか、そのことについても教えてくれた。

 「リコリスさんを捕まえたのはただのお試しですよ。一度試してみて、本当にできるのか確認。ダメなら調整し直して、本番を行うのです」
 「なるほどな……」
 「ですので、今からリコリスさんで試験します。ああ、分かっているとは思いますが、あなたは暴れないでくださいね。こちらも手荒な事はしたくないので」

 と、副会長様は嫌な笑みで念を押してきた。
 そうして、ご丁寧な説明をしてくれた彼はリコリスの近くに小さなテーブルを移動させ、その上に小さなクッションを置き、そのクッションの上に手のひらよりも大きい丸い紫の魔石を静かに乗せた。

 あの魔石にレベルをつめるのか……そんなことできるんだな。

 「では、リナ」
 「はい」

 リナは俺たちを捕まえる時に副会長が使ってきた、あの大杖を手にする。
 杖先に漬けられた禍々しい黒の魔石は、嫌な瘴気を放っていた。

 このままだと悪魔女は死ぬ。
 
 失敗しても死ぬし、成功しても死ぬ。
 だから、この状況をなんとかしないといけない。

 普段だったら、悪魔女のことはウザいと思っている。
 どこかの森に放置してきてやろうかと思うぐらいにはウザいと思っている。
  
 だけど、あいつが訳の分からないことで殺されるのはちょっと違う気がする。

 「おい、リナ」
 「……」
 「本当にこれでいいのかよ」
 「……」
 「なぁ、答えろよ!」

 叫ぶが、リナはこちらを見向きもしない。
 魔法を使おうとしたが、無効。
 何も起きない。
 
 狭い場所ではあったが、俺は助走をつけバリアに体当たり。
 だが、バリアはうんともすんとも言わない。壊れない。

 ――――ああ、悪魔女が死ぬ。本当にリコリスが死ぬ。

 その瞬間、全てを失う時のような絶望が襲ってきた。
 遠くから『もう二度と失いたくな・・・・・・・・・・』――そんな声が聞こえてくる。

 「なぁ! リナ! こんなことやめろ!」
 「……」
 「おい! リコリス! 目を覚ませっ!」

 リコリスは体をピクリとも動かさない。目を覚まさない。
 そうして、リナはリコリスがいる魔法陣の前に立ち、大杖を構えた。

 「レベルアッソブルミート」

 リナが詠唱した瞬間、魔法陣の光は赤から紫に変わる。
 その紫光はリコリスの体を包み込んだ。

 「ああ……」

 リコリスが死ぬ。
 本当に死ぬ……。

 どうしようもなくなった俺はその場で座りこむ。
 
 失敗しても成功してもリコリスは死んだ。
 そして、俺も死ぬ。

 絶望していると、「は?」というリナの困惑の声が聞こえてきた。
 顔を上げると、そこには先ほど見ていた光景とは違うものになっていた。

 詠唱開始時には紫だった魔法陣の光。
 それはなぜか黒くなっていた。

 「副会長、これ聞いていたのは違います」
 「リナ、これは失敗だ。魔法を止めるんだ」

 眼鏡副会長の指示を受け、リナは魔力供給を止めるが、魔法陣から出る黒い光は止まらない。
 気づけば、リコリスは起き上がっていた。
 だが、俯ていているせいで、起きているのか、黒い光が身体を起こしているのか分からない。

 「くっ! 副会長!」
 「これはっ!」

 ぶわっと空気が揺れ、バリアがパリンと割れる。
 そして、リコリスはガっと頭を上げた。

 「ア゛ァァ――――!!」

 素っ裸な悪魔女は、とんでもない覇気を放っていた。
 黒い爪は長く、白肌には奇妙な紋様が描かれている。
 いつの間にか、黒のうろこが生えており、大事なところを隠していた。

 そんな悪魔女に圧倒された眼鏡副会長とリナは、腰が抜けたのか座りこんでいる。

 おい、これリコリスだよな?
 いつものふざけた悪魔女だよな?
 今のアイツはあんなの悪魔というより、怪物――。

 「ア゛ァァ――――!!」

 雄たけびを上げるリコリスはドンっと足踏みをし、地面をバキバキに割る。
 壊れた魔法陣は機能しなくなり、光は消えた。

 ドンっ、ドンっ、ドンっ。

 何度も足踏みをして、ついには俺の魔法陣もバキバキに壊れていた。
 満足するまで足踏みをしたリコリス。
 彼女は赤く光らせる瞳を眼鏡副会長に向ける。

 そして、一瞬にして彼に近づき、首をガシッと掴んだ。

 「っくぅ……はっ…なせっ……!」
 「ア゛ァァ――――!!」

 首を掴んだまま、リコリスは副会長のみぞおちをガンガンっと蹴りを入れ、そして、殴り飛ばした。
 落ちた眼鏡がカラカラと音を立て地面を滑る。

 副会長をKOにしたリコリスは、すぐさま次のターゲット見つける。
 そして、一瞬で彼女に近づいた。
 
 「こ、こっちに来るな……」
 
 だが、リナの声は暴走悪魔に届くことはない。
 声をかけても意味がないと悟ったリナは大杖を捨て、腰につけていた剣を手にする。
 その剣は俺の両腕を切った黒の魔剣。

 武器は持ったところで、今のリコリスには効かないだろうと思われた。
 だが、剣を手にしたリナの動きも意外にも早く、一瞬でリコリスに捕まれることはなかった。

 もしや、あの剣は身体強化でも付与する魔剣か?

 しかし、リナがリコリスの首に攻撃を入れようとした瞬間、リコリスにガっと顔を捕まれ。

 「ア゛ァァ――――!!」
 「う゛っ!」

 腹に右手の拳を入れられ、蹴りで壁にぶっ飛ばされた。
 死んではなさそうだが、意識はもうないだろうな……。

 そうして、2人を倒したリコリスは、俺に目を向けてきた。
 
 「ヴァ゛ァ――!!」

 猪突猛進に走ってくるリコリス。
 裸の俺はガシッと彼女の両手を掴み、突進を押させる。

 「おい! リコリス! しっかりしろ!」

 そして、俺たちは両手を組み、向き合う形に。

 「ア゛ァァ――――!!」
 「くっ!」

 雄叫びをしながら、押してくる悪魔女。
 俺は思わず倒れそうになるが、なんとか堪えた。

 コイツ、こんなに力があったかと思うぐらいに怪力なんだけど……。

 よく見ると、リコリスの瞳は赤く、白目部分は黒くなっている。
 隠していた角は出ており、しかも以前見たものよりもずっと大きくなっていた。

 「おい! リコリス! 目を覚ませっ!」

 そう叫ぶが、リコリスは正気に戻ってくれない。
 威嚇するリコリスの口から、鋭い歯が見えた。

 くそっ! もうこうなったら!

 俺は思いっきり頭を振り、リコリスに頭突きをかます。

 「って、いったぁ!」
 「ア゛ァァ――――!!」

 だが、悪魔女はピクリともしない。俺が痛いだけ。

 くそっ……こんなにこいつの頭は硬かったか? 
 岩みたいに硬いのだが!

 頭突きのせいか、俺の手の力は一瞬弱まり、その瞬間にリコリスに押し倒された。
 彼女は両手を離さず、俺に馬乗りになる。

 俺はジタバタ足を動かすが、リコリスはびくともしない。
 そして、彼女はニヤリといやらしい笑みを浮かべて、言った。
 
 「アハハァッ! オマエから、いい魔力のにおいがするナ゛ァ――」
 「!」

 コイツ、しゃべれるのか?
 今なら話が通じるのか?
 
 「リコリス! 目をさま――」

 声をかけようとした瞬間。

 「ん!?」

 俺はリコリスにキスをされていた。
 それも濃厚なキス。
 だが、口を離すことはできず、彼女が満足するまでキスが続いた。
 
 一時してから、ようやく解放。
 リコリスは俺から口を離し、上体を起こす。
 彼女はとても幸せそうな顔を浮かべていた。
 そして。

 「コレデ、満足ゥ……ごちそうサマァ……」

 と言って、リコリスは失神。
 彼女の体についていた黒いうろこははがれ、ぱたりと背中から倒れ込んだ。

 ……リコリスの暴走が収まったのか?

 ようやく落ち着いたリコリスに、俺は安堵してはぁと息をつく。

 「でも、キスされた……」

 しかも無理やりのキス。あれは絶対に強制だった。

 うぅ……悲しい。
 俺、一度も女子とキスしたことがなかったのに……。
 初めてがこの悪魔女だなんて。

 てか、リコリスの暴走はなんだったんだよ……。

 倒れたリコリスを見ると、何事もなかったようにすやすやと眠っていた。
 コイツ、俺に無理やりキスしたあげく、幸せそうに眠ってるとか……ハッ、ムカつく。

 「おい、リコリス」
 
 ムカついた俺は、リコリスの頬を手でぺしぺしする。
 そうして、彼女の頬をはたいていると、彼女の閉じていた目が開いた。

 「……ん? ネル?」
 「目を覚ましたか?」
 「……?」

 リコリスは寝ぼけているのか、むくりと上体を起こす。
 正直に言おう……リコリスの大事なところはもう丸見えだった。

 「って、ネル、なんで裸なの? ここはどこ?」
 「分からん」
 「てか、なんか寒いし……って、私も裸じゃない!」

 ようやく自分が裸であることに気づいたリコリスは、バッと大事なところを手で隠す。
 そして、彼女はハッと息をのんだ。

 「まさか、ネル。私を襲って……」
 「いや、違う」

 断じて違う。
 間違っても、俺は悪魔女を襲いはしない。
 それに、俺は強制キスをさせれた身だ。

 怒るのなら、俺の方だぞ。

 しかし、リコリスは信じていないのか、俺にジト目を送ってくる。

 「そんな嘘までついて……」
 「嘘じゃない」
 「まさか生徒会とグルになってこんなことをするとは思わなかったわ。呆れた」
 「だから、違うって」
 「いくら女の子と付き合えないからって、私を襲うなんて……ネルのド変態っ!」
 「ごほっ」

 俺はリコリスに顔を殴られ、地面に倒れ込む。

 …………くそっ。
 俺がしたわけじゃないのに、なぜ殴られなといけないんだよ。

 「服はどこよ! ネル! どこに服を隠したの!?」
 「しらねー」

 そう答えると、リコリスはキィーと怒り出し、俺の腹をポコポコ叩く。

 …………まぁ、でも、よかった。
 リコリスが死ななくてよかった。

 「ネルはやっぱり変態ね! メミに言いつけてやる!」

 ポコりながら、そんなことを言ってくる悪魔女。

 …………うん。
 とりあえず、あの眼鏡副会長とリナは許すまじ。
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