52 / 62
第3章
第52話 アスカのお姉さん
しおりを挟む
リナと会ってから、俺たちはすぐに保健室に向かった。
保健室に行くと、いたのは部屋の主のフィー先生。
そして、ベッドの上には、小さな金髪の少女が眠っていた。
「あのアスカが倒れることってあるんだな……」
徹夜明けでも、ピンピンしているやつだ。
寝ているところは初めてみたかもしれない。
ベッドで眠っている姿は、ただの小さい女の子。
アスカって頭がいいせいか少し大人びていところがある。
精神年齢でみれば、悪魔女よりずっと上だろう。
でも、こうしてみると、アスカはまだ子どもなんだよな……。
リナ曰く、俺らが職員室に向かった後、2人で片づけをしていたらしく、その時に突然アスカは倒れたとか。
もしかしたら、仮想空間の管理をしていたために、アスカに負担がかかっていたのかもしれない。
天才だから、大丈夫だろうとか思っていたが、あいつも人間だ。
無理をすれば、倒れることだってある。
ちょっとは体調に気遣ってやればよかった……今度、アイツが好き名お菓子でも買ってあげよう。
「リナさんが急いで連れ込んできた時にはびっくりしたけど、アスカさんにこれといった外傷はなさそうよ。一応、回復魔法をかけたんだけど、まだ起きてくれないみたい」
と焦る俺たちに、フィー先生は冷静に教えてくれた。
「……それで、これから、アスカはどうするんだ?」
目立った外傷もなく、回復魔法をかけても起きないとなると、アスカの体に何かあったとしか思えない。
しかし、「病院に連れていくのか?」と聞くと、フィー先生は横に首を振った。
「保護者の方がいらっしゃるみたい。その後の対応は保護者に任せているわ」
すると、保健室の扉がガラリと開いた。
「失礼します。こちらに、アスカ・ウィスタリアはいますでしょうか」
入ってきたのは、金髪の美人お姉さんと複数の黒スーツ男。
お姉さんはモデルのようなすらりとした足に、キュッとしまったウエスト。
腰近くまである長い金の髪は1つに三つ編みにされており、目元はサングラスをしていて分からないが、顔はどこかアスカにていた。
「あなたは……」
「アスカ・ウィスタリアの保護者です」
アスカの保護者……お母さんにしては若いから、お姉さんあたりだろうか。
アスカって姉妹だったのか。初耳だ。
てか、あの黒スーツ集団は何だ? ボディガードとか何かか?
「って、あなた誰かと思えば、アリシアじゃない」
フィー先生がそう言うと、アリシアさんは丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、フィー先生」
「久しぶり。あなた、サングラスをかけてたから、一瞬誰か分からなかったわ……『もしかして?』と思ってはいたけど、アスカさん、あなたの妹だったのね」
「はい、妹までお世話になっています」
フィー先生は、アリシアさんと知りあいなのか、親し気に話している。
アリシアさんってたぶんここのOGとかだよな……いつから王女様はここで務めているんだよ。
すると、アリシアさんは俺の方に目を向けてきた。
「あなたがネル・モナーさんですね」
「あ、はい」
「私、アスカの姉のアリシア・ウィスタリアです。どうぞよろしくお願いします」
と丁寧に挨拶をしたお姉さんは、俺に右手を差し出してきた。
俺はその手を取り、握手を交わす。
どうやら、アスカは家族に俺たちのことを話しているみたいだな。
「皆さん、ご安心を。アスカはすぐに戻ってくると思いますので、その時はよろしくお願いしますね」
そう言うと、アリシアさんは黒スーツ男に指示し、アスカを抱えさせる。
「では、失礼します」
そうして、お姉さんとアスカ、黒スーツ集団は颯爽と去っていった。
急いでいる感じからするに、きっと病院に連れていくのだろう。
今度、お菓子を持ってお見舞いにでも行こう。
すると、リコリスが駆け寄ってきて、「ねぇねぇ」と俺の上着を引っ張ってきた。
「アリシア・ウィスタリアって、ウィスタリア研究所所長の孫じゃない?」
「え? そうなのか」
「はい、多分そうかと……サングラスをされていてあまり分かりませんでしたが、きっとウィスタリア研究所所長のお孫さんだと思います。雑誌で見た人と一緒でした」
メミの説明に、リコリスは「そうよね」とうんうんと頷く。
なんでリコリスがそんなことを知ってるんだよ。
「となると、アスカはアリシアの妹だから、アスカも所長の孫になる?」
「そうなりますね」
「WOW、アスカさん、ウィスタリア家の子だったんだねー」
…………え。マジか。
全然教えてくれなくて知らなかったけど、アイツにお偉いさん所の孫だったのかよ。
「これって、フィー先生はもしかして……」
「いいえ。アリシアのことは知っていたけど、アスカさんのことは知らなかったわ」
「リナはアスカから聞い――」
とリナを見ると、なぜか彼女の顔は青ざめていた。
「おい、リナ、どうした? 大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
「……そうか?」
「ああ、気分が悪いのか?」
そう聞くと、リナは横に首を振った。
「……いや、アスカが心配でな」
ああ、そっか。
そうだよな。
目の前でアスカが倒れたんだもんな。
「そんな心配しなくても、大丈夫だろうよ。あいつは地獄の底に落ちても、自力で這い上がってきそうなやつだからさ」
「そうそう。あういうムカつくやつこそ、なかなか死なないのよ」
「お姉さんもああやって言っていましたし、アスカさんは大丈夫かと」
「元気になって帰ってくるYO!」
「……そうだな。ありがとう」
みんなが励ますと、リナは安心したのか、少しだけ微笑んでいた。
★★★★★★★★
アスカが倒れて数日後の放課後。
元々アスカの実験室で練習をする予定ではあった俺たちだが、アスカがいないと研究室は使えないため、裏世界で特訓することになった。
といっても、特訓するのはリコリスがメイン。
リコリスが猪突猛進行動ではなく、自分の状況を踏まえたうえでの行動ができるような特訓。
悪魔女には、自分の得意魔法を生かせる状況を作り出していけるようになってもらわねば。
そのため、俺はまず得意魔法を生かした戦術を展開できるように、教えることにした。
リコリスが得意としているのは、闇魔法と俺が教えた氷魔法。
それを生かすよう、考えてもらった。
もちろん、闇魔法と氷魔法は幅広いので詳細を教えながら、その中でもどういう系統を使っていくのか、2人で考えた。
闇魔法の方が馴染み深いので、闇魔法を中心に探っていくことに。
そして、片っ端から闇魔法を使っていく中で。
「影を使うのはいいわね!」
影魔法を扱う時のリコリスは、特段楽しそうだった。
たとえば、相手の影を利用して瞬時に近づき、攻撃を入れたり。
逆に自分の影を変化させて、相手を影に引き込んで、攻撃を入れたり。
気づけば、リコリスは影魔法を駆使した戦法をとっていた。
もちろん、相手は俺なので、回避することはできた。
が、普通の学生相手なら通用するだろう。
勉強の時もそうだったが、リコリスの物覚えは意外と早いな。
地頭はいいのに、残念なことに行動はバカになってしまう。
これがなんと悲しいことか。
一方、メミとラクリア、リナの3人は、俺が裏世界でも自由に動けるようにした上で、近くの魔物を倒してもらっていた。
メミはレベル上げになるのでと喜んでやっていてくれた。
そして、3時間ぐらいした頃だろうか。
リコリスがへばったので一旦休憩を入れ、2人で木陰の下で休んでいると、タッタッタッと足音が聞こえてきた。
誰かと思って見ると、ポニーテールで縛った水色の髪を揺らして、リナが走ってきていた。
「お、リナ。お疲れ」
「おつかれー」
「……ああ、お疲れ様」
そう言ってきたリナは俺の左隣に体育座りで座った。
ちなみに、リコリスは俺の左で寝そべっている。
風が心地いいのか、眠たそうにしていた。
「リナがこっちにくるなんて、どうしたんだ? 暇になったか? それとも魔物がヤバくてピンチか?」
「いや、魔物はちゃんとメミとラクリアが倒してくれている。2人はとっても楽しそうだ。相性がいいみたいだ」
と少し明るい声で話すリナ。
彼女は意外にも笑みを浮かべていた。
「……なんか、最近のリナは生き生きしてるよな」
「そうか?」
「ああ。表情筋がよく動くようになってる。楽しそうだ」
出会った頃のリナは、ロボットのように仏頂面。笑うとか知らなそうだった。
もちろん、リクの頃は別人のように笑顔を浮かべてはいたけど、リナになってからは一切なかった。
でも、最近はちょっと違う。
「よく笑うようになったよ」
「……そうか?」
リナはあまり分からないのか首を傾げていたが、俺は頷いた。
「ああ。ほら、リコリスの扱いは確実に変わっているだろ? めんどくさいとか言ってリコリスを無視してたのに、最近はリコリスで遊んでいるしな」
「え? 私が遊ばれている?」
「リコリスを遊ぶ……それは確かにそうかもしれない」
「え? そうなの? 私が遊ぶ側じゃないの?」
うるさいので、リコリスの口を手で押さえる。
「あとアスカが倒れた時だって、かなり心配そうにしていたし、心配なあまり青ざめていたしな。今までのお前なら、なんとも思わず、平然としていただろうよ」
「……そうだろうか」
自覚がないのか、リナはまた首を傾げる。
ASETの人間とはいえ、まだリナも子ども。
感情を押し殺さないといけない仕事は偉い大人に任せて、もっと遊んでもいいはずだ……もっと笑っていいはずだ。
「私は笑うようになったのか?」
「ああ、俺にはそう見えるよ」
「そうか……」
確かめるように小さく呟くリナ。
彼女は俺らから顔を背け、赤い空へと目を移す。
横から見えるリナの青い瞳は、少しだけ揺れていた。
――――気のせいだろうか。
嬉しいことのはずなのに、リナの横顔はどこか少し悲しそうに見えた。
「そういえば、お前こっちに何しに来たんだ? リコリスを遊びたくなったのか?」
「ああ……ちょっと2人に聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「ああ。ネル、リコリス、お前たちは週末空いているか?」
「空いているといえば空いている」
「私もー」
「そうか、それはよかった」
「ん? 何か用事があるのか?」
「ああ、ちょっとお前たちを招待したいという人がいてな」
「招待した人?」
うわー、今招待されるとか……きっと俺が勇者だってこと分かってだよな?
相手がお貴族様だったら、絶対行かねー。
と言うと、リナは首を振った。
うむ……どうやらお貴族様ではないらしい。
「じゃあ、誰だよ」
そう問うと、リナの顔は真剣なものになる。
「生徒会がお前たちを呼んでいるんだ」
★★★★★★★★
12/21 第53話の更新が間に合わなそうなので、今日の朝7時に更新します。よろしくお願いします。
保健室に行くと、いたのは部屋の主のフィー先生。
そして、ベッドの上には、小さな金髪の少女が眠っていた。
「あのアスカが倒れることってあるんだな……」
徹夜明けでも、ピンピンしているやつだ。
寝ているところは初めてみたかもしれない。
ベッドで眠っている姿は、ただの小さい女の子。
アスカって頭がいいせいか少し大人びていところがある。
精神年齢でみれば、悪魔女よりずっと上だろう。
でも、こうしてみると、アスカはまだ子どもなんだよな……。
リナ曰く、俺らが職員室に向かった後、2人で片づけをしていたらしく、その時に突然アスカは倒れたとか。
もしかしたら、仮想空間の管理をしていたために、アスカに負担がかかっていたのかもしれない。
天才だから、大丈夫だろうとか思っていたが、あいつも人間だ。
無理をすれば、倒れることだってある。
ちょっとは体調に気遣ってやればよかった……今度、アイツが好き名お菓子でも買ってあげよう。
「リナさんが急いで連れ込んできた時にはびっくりしたけど、アスカさんにこれといった外傷はなさそうよ。一応、回復魔法をかけたんだけど、まだ起きてくれないみたい」
と焦る俺たちに、フィー先生は冷静に教えてくれた。
「……それで、これから、アスカはどうするんだ?」
目立った外傷もなく、回復魔法をかけても起きないとなると、アスカの体に何かあったとしか思えない。
しかし、「病院に連れていくのか?」と聞くと、フィー先生は横に首を振った。
「保護者の方がいらっしゃるみたい。その後の対応は保護者に任せているわ」
すると、保健室の扉がガラリと開いた。
「失礼します。こちらに、アスカ・ウィスタリアはいますでしょうか」
入ってきたのは、金髪の美人お姉さんと複数の黒スーツ男。
お姉さんはモデルのようなすらりとした足に、キュッとしまったウエスト。
腰近くまである長い金の髪は1つに三つ編みにされており、目元はサングラスをしていて分からないが、顔はどこかアスカにていた。
「あなたは……」
「アスカ・ウィスタリアの保護者です」
アスカの保護者……お母さんにしては若いから、お姉さんあたりだろうか。
アスカって姉妹だったのか。初耳だ。
てか、あの黒スーツ集団は何だ? ボディガードとか何かか?
「って、あなた誰かと思えば、アリシアじゃない」
フィー先生がそう言うと、アリシアさんは丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、フィー先生」
「久しぶり。あなた、サングラスをかけてたから、一瞬誰か分からなかったわ……『もしかして?』と思ってはいたけど、アスカさん、あなたの妹だったのね」
「はい、妹までお世話になっています」
フィー先生は、アリシアさんと知りあいなのか、親し気に話している。
アリシアさんってたぶんここのOGとかだよな……いつから王女様はここで務めているんだよ。
すると、アリシアさんは俺の方に目を向けてきた。
「あなたがネル・モナーさんですね」
「あ、はい」
「私、アスカの姉のアリシア・ウィスタリアです。どうぞよろしくお願いします」
と丁寧に挨拶をしたお姉さんは、俺に右手を差し出してきた。
俺はその手を取り、握手を交わす。
どうやら、アスカは家族に俺たちのことを話しているみたいだな。
「皆さん、ご安心を。アスカはすぐに戻ってくると思いますので、その時はよろしくお願いしますね」
そう言うと、アリシアさんは黒スーツ男に指示し、アスカを抱えさせる。
「では、失礼します」
そうして、お姉さんとアスカ、黒スーツ集団は颯爽と去っていった。
急いでいる感じからするに、きっと病院に連れていくのだろう。
今度、お菓子を持ってお見舞いにでも行こう。
すると、リコリスが駆け寄ってきて、「ねぇねぇ」と俺の上着を引っ張ってきた。
「アリシア・ウィスタリアって、ウィスタリア研究所所長の孫じゃない?」
「え? そうなのか」
「はい、多分そうかと……サングラスをされていてあまり分かりませんでしたが、きっとウィスタリア研究所所長のお孫さんだと思います。雑誌で見た人と一緒でした」
メミの説明に、リコリスは「そうよね」とうんうんと頷く。
なんでリコリスがそんなことを知ってるんだよ。
「となると、アスカはアリシアの妹だから、アスカも所長の孫になる?」
「そうなりますね」
「WOW、アスカさん、ウィスタリア家の子だったんだねー」
…………え。マジか。
全然教えてくれなくて知らなかったけど、アイツにお偉いさん所の孫だったのかよ。
「これって、フィー先生はもしかして……」
「いいえ。アリシアのことは知っていたけど、アスカさんのことは知らなかったわ」
「リナはアスカから聞い――」
とリナを見ると、なぜか彼女の顔は青ざめていた。
「おい、リナ、どうした? 大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
「……そうか?」
「ああ、気分が悪いのか?」
そう聞くと、リナは横に首を振った。
「……いや、アスカが心配でな」
ああ、そっか。
そうだよな。
目の前でアスカが倒れたんだもんな。
「そんな心配しなくても、大丈夫だろうよ。あいつは地獄の底に落ちても、自力で這い上がってきそうなやつだからさ」
「そうそう。あういうムカつくやつこそ、なかなか死なないのよ」
「お姉さんもああやって言っていましたし、アスカさんは大丈夫かと」
「元気になって帰ってくるYO!」
「……そうだな。ありがとう」
みんなが励ますと、リナは安心したのか、少しだけ微笑んでいた。
★★★★★★★★
アスカが倒れて数日後の放課後。
元々アスカの実験室で練習をする予定ではあった俺たちだが、アスカがいないと研究室は使えないため、裏世界で特訓することになった。
といっても、特訓するのはリコリスがメイン。
リコリスが猪突猛進行動ではなく、自分の状況を踏まえたうえでの行動ができるような特訓。
悪魔女には、自分の得意魔法を生かせる状況を作り出していけるようになってもらわねば。
そのため、俺はまず得意魔法を生かした戦術を展開できるように、教えることにした。
リコリスが得意としているのは、闇魔法と俺が教えた氷魔法。
それを生かすよう、考えてもらった。
もちろん、闇魔法と氷魔法は幅広いので詳細を教えながら、その中でもどういう系統を使っていくのか、2人で考えた。
闇魔法の方が馴染み深いので、闇魔法を中心に探っていくことに。
そして、片っ端から闇魔法を使っていく中で。
「影を使うのはいいわね!」
影魔法を扱う時のリコリスは、特段楽しそうだった。
たとえば、相手の影を利用して瞬時に近づき、攻撃を入れたり。
逆に自分の影を変化させて、相手を影に引き込んで、攻撃を入れたり。
気づけば、リコリスは影魔法を駆使した戦法をとっていた。
もちろん、相手は俺なので、回避することはできた。
が、普通の学生相手なら通用するだろう。
勉強の時もそうだったが、リコリスの物覚えは意外と早いな。
地頭はいいのに、残念なことに行動はバカになってしまう。
これがなんと悲しいことか。
一方、メミとラクリア、リナの3人は、俺が裏世界でも自由に動けるようにした上で、近くの魔物を倒してもらっていた。
メミはレベル上げになるのでと喜んでやっていてくれた。
そして、3時間ぐらいした頃だろうか。
リコリスがへばったので一旦休憩を入れ、2人で木陰の下で休んでいると、タッタッタッと足音が聞こえてきた。
誰かと思って見ると、ポニーテールで縛った水色の髪を揺らして、リナが走ってきていた。
「お、リナ。お疲れ」
「おつかれー」
「……ああ、お疲れ様」
そう言ってきたリナは俺の左隣に体育座りで座った。
ちなみに、リコリスは俺の左で寝そべっている。
風が心地いいのか、眠たそうにしていた。
「リナがこっちにくるなんて、どうしたんだ? 暇になったか? それとも魔物がヤバくてピンチか?」
「いや、魔物はちゃんとメミとラクリアが倒してくれている。2人はとっても楽しそうだ。相性がいいみたいだ」
と少し明るい声で話すリナ。
彼女は意外にも笑みを浮かべていた。
「……なんか、最近のリナは生き生きしてるよな」
「そうか?」
「ああ。表情筋がよく動くようになってる。楽しそうだ」
出会った頃のリナは、ロボットのように仏頂面。笑うとか知らなそうだった。
もちろん、リクの頃は別人のように笑顔を浮かべてはいたけど、リナになってからは一切なかった。
でも、最近はちょっと違う。
「よく笑うようになったよ」
「……そうか?」
リナはあまり分からないのか首を傾げていたが、俺は頷いた。
「ああ。ほら、リコリスの扱いは確実に変わっているだろ? めんどくさいとか言ってリコリスを無視してたのに、最近はリコリスで遊んでいるしな」
「え? 私が遊ばれている?」
「リコリスを遊ぶ……それは確かにそうかもしれない」
「え? そうなの? 私が遊ぶ側じゃないの?」
うるさいので、リコリスの口を手で押さえる。
「あとアスカが倒れた時だって、かなり心配そうにしていたし、心配なあまり青ざめていたしな。今までのお前なら、なんとも思わず、平然としていただろうよ」
「……そうだろうか」
自覚がないのか、リナはまた首を傾げる。
ASETの人間とはいえ、まだリナも子ども。
感情を押し殺さないといけない仕事は偉い大人に任せて、もっと遊んでもいいはずだ……もっと笑っていいはずだ。
「私は笑うようになったのか?」
「ああ、俺にはそう見えるよ」
「そうか……」
確かめるように小さく呟くリナ。
彼女は俺らから顔を背け、赤い空へと目を移す。
横から見えるリナの青い瞳は、少しだけ揺れていた。
――――気のせいだろうか。
嬉しいことのはずなのに、リナの横顔はどこか少し悲しそうに見えた。
「そういえば、お前こっちに何しに来たんだ? リコリスを遊びたくなったのか?」
「ああ……ちょっと2人に聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「ああ。ネル、リコリス、お前たちは週末空いているか?」
「空いているといえば空いている」
「私もー」
「そうか、それはよかった」
「ん? 何か用事があるのか?」
「ああ、ちょっとお前たちを招待したいという人がいてな」
「招待した人?」
うわー、今招待されるとか……きっと俺が勇者だってこと分かってだよな?
相手がお貴族様だったら、絶対行かねー。
と言うと、リナは首を振った。
うむ……どうやらお貴族様ではないらしい。
「じゃあ、誰だよ」
そう問うと、リナの顔は真剣なものになる。
「生徒会がお前たちを呼んでいるんだ」
★★★★★★★★
12/21 第53話の更新が間に合わなそうなので、今日の朝7時に更新します。よろしくお願いします。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚
ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。
原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。
気が付けば異世界。10歳の少年に!
女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。
お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。
寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる!
勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう!
六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる!
カクヨムでも公開しました。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる