はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第3章

第51話 七星祭で会おうや

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 バトルが終わると、俺はすぐに大穴の底に置いてきた先輩たちを転移魔法で移動させた。
 帰ってきた先輩たちは底が暑かったのか、2人とも上半身素っ裸。

 「いやぁー! ネルが1つ目の的を壊した時点で、俺らが勝ったと思ったんやがな!」

 大穴から戻ってきたカイ先輩は、にっこにこでそう言ってきた。
 マグマにでも落ちて死んでるかもとひやひやしたが、生きていらっしゃった……本当によかった。

 「僕らの方が考えが甘かったね」
 「ああ、壊した直後は油断してくれると思ったんやけどな。秒で気づかれたな!」

 最初は勝つ気がなく、いち早く終わらせるにはどうすればいいかばかり考えていた。

 でも、俺も途中からバトルを楽しんでいたな……。
 もしかすると、勇者相手となら互角に戦えて、楽しくなるのかもしれない。

 あ、そういえば双子先輩にちょっと聞きたいことがあったんだった。

 「あの……なぜ最初の魔法攻撃を受けなかったんですか?」

 2人のバトルで気になったこと。
 それは、カイ先輩が俺の最初の攻撃を跳ね返したこと。

 先輩たちが俺らの動きとか物の動きをコピーできるのなら、最初の攻撃を受けておけばいい。
 受けた上で、俺らの1つ目の的にコピー、そしてもう一回コピーしておけば、勝てたはずだ。
 だが、先輩たちはそうしなかった。

 「ああ……あれは完全に魔法攻撃やったからや」
 「カイが使った『鏡面同期ミラーシンクロノ』は、魔法攻撃以外の動きは全てコピーできるんだけど、魔法攻撃だけはコピーできないんだ」
 「やから、魔法攻撃は『反射ラリフィッシオーネ』で対策しとるってわけや」

 なるほど……そういうことだったのか。

 「だからといって、安直に物理攻撃を誘導したら、こっちの考えが読まれる。だから、簡単には壊させへんように動いたわけや」

 暴れていたから、魔法攻撃ばかりを使う戦い方をすると思ったんだが、意外と頭を使っていらっしゃる……。

 「まぁ、一度魔法攻撃もコピーしたことがあるんやけど、何にも起きんかったな」
 「でも、最近の論文だと改良の余地ありって感じらしいよ」
 「そうやったんか。俺らも研究せなな」
 
 ……さらには論文もお読みなっている。
 俺、少し先輩なめてました。すみません。

 「俺らの相手、俺らの魔法を研究してきたやつらばっかりやったから、久しぶり定番の戦術ができたわ」
 「でも、次のネルには通じなくなるし……使った瞬間気づかれたし」
 「次はまた違う戦法でいかなあかんな」
 「そうだね」
 「戦ってスッキリしたことやし、帰るか……おおっと、危ない、危ない。ネルにアレを渡すの忘れ取ったわ」
 「あ、僕も」

 すると、ヨウ先輩はズボンのポケットに右手を入れ、探る。そして、そこから何かを取り出した。
 取り出した右手にあったのは、小さな折り畳み式の手鏡。
 ヨウ先輩はそれを「はい、これ」と、俺に渡してきた。

 「ありがとうございます……あの、これなんですか?」
 「それはな、さっき使った鏡の魔道具と一緒のもんや」

 そうなのか……ちょっと気になっていたからありがたい。
 あとでアスカに解明してもらおうか。

 「でも、なぜ俺に?」
 「ネルがそれを持っておけば、僕らがすぐに君の所に行ける」
 「せや。勇者はいつ魔王軍のやつらに会うか分からんからな。勇者には全員あげとるんやで。ピンチになったらこれを開いてくれや」
 「まぁ、ネルがピンチになるとは思えないけどね」
 「逆に俺らがなるかもしれんな。そん時はお前を呼び出すから、よろしゅうな」

 そう言って、双子先輩はあははっと笑う。
 うーん。2人の方がピンチになるイメージがつかないな。

 「なぁ、ネル」
 「はい」
 「お前、七星祭来るやろ?」
 「あー……」

 行く気はない。だけど、補講は回避したい。
 だから、結局は行くことになりそう……なりそうだけど。
 でも、行きたくねー。かといって、パリスの補講は嫌だ。

 答えに迷っていると、双子先輩は残念そうな顔をした。

 「なんや、こーへんのか」
 「それは残念」
 「何言ってるの! もちろん、いくわよ! そうでしょ? ネル!」
 
 俺の代わりに、元気に答える悪魔女。

 「ネル、やっぱりこのねーちゃんとチーム組んでんか?」
 「まぁ……はい」

 本当はチェンジしたいんですけどね。

 「私だけじゃないわ! シェイク家の令嬢とも組んでるわ!」
 「お? シェイク家の令嬢やて? シェイクって東の公爵よな? 何番目の子や?」
 「えっと……ネル、ラクリアって何番目?」
 「末っ子だから、3番目じゃないか」
 「3番目って婚約してないやつやん」
 「わぉ……ネルは意外と出世に積極的だね」
 
 驚いたのかヨウ先輩は、俺を見て大きく空いた口を手で隠す。
 いや……別に、ラクリアを狙ってるわけじゃありません。
 あいつが勝手にチーム表に名前を書いたんです。

 ラクリアは日頃の行いはアレだが、バトルとなるといい動きをするから、結果オーライではあるけども。
 あの人を婚約者にしたいかと聞かれれば、「NO」一択だ。
 
 「ふーん。東で有名な『3番目』とネルのチームなら、今回の七星祭はおもろいことになりそうやな」
 「それに、アリオトの勇者も来るって言ってたしね」
 「そうやった、そうやった。ネル、アリオトの勇者のことは知っとるか?」
 「あんまり……」

 アリオトの勇者が最近見つかったこと、そいつは俺らより年が2つ上だってことぐらいしか知らないな。
 すると、カイ先輩はニヤリと笑みを浮かべた。

 「アイツ、ごっつうおもろいで」
 「あの人のバトルは面白かった」

 カイ先輩の言葉に、ヨウ先輩もうんうんと激しく頷く。
 そう言われると気になるな……一体どんな人なんだろう。

 というか、双子先輩は勇者全員の所に行ってるのだろうか。
 意外と仲間意識もある方なのか……すごいな。

 「そいつも来るらしいから、楽しみにしときや! それじゃあ、俺らは帰るいぬわ! 七星祭で会おうや! ネル!」
 「じゃあね、ネル。また戦おう」

 そうして、暴風のように騒がしい双子は、去っていった。



 ★★★★★★★★



 双子先輩と別れた俺たち。
 その直後、俺は大勢の人に取り囲まれ、サインを求められたが――。
 
 『兄様はモナー家の人間です』
 『もし兄様とお話したいでのあれば、まずは私を倒してからにしてください。大事なご用事がある場合にも、私かメダイ先生を通してください』
 『兄様に話しかけた方は、自動的に私との決闘になりますので、ご容赦くださいませ』

 とメミが公言すると、誰もサインを求めなくなった。
 ワ―キャー騒いでいたやつもいなくなった。

 確かに、ずっと追っかけられるのは鬱陶しい。
 休み時間に少しだけならいいが、一日中となると、さすがにしんどい。
 そう考える一方で、心の奥では『普通の子と話せるきっかけになるのでは?』という淡い期待もあった。

 でも、メミさんがああやって言っちゃったからな……誰も話しかけてこないだろうな。ちょっと残念。

 そんなことがあって、俺の追っかけは消えたため、授業を受けようとした。
 でも、疲れもあったので、結局俺たちはアスカの研究室に戻ることにした。

 「あーれ? あれ、リナさんじゃなーい?」

 その帰り途中、ラクリアが指を指した。
 指した方向を見ると、回廊を急いで歩いていく水色ロング髪の女子を発見。
 彼女はどこかに行く途中のようで、急ぎ足で歩いていた。

 あれ、リナだよな? なんか……焦ってる?

 普段は表情が乏しいリナ。
 彼女の横顔はどこか焦っている、苛立っているように見えた。

 「おーい、リナ! 何してんだ?」

 声をかけると、ハッとするリナ。
 俺らに気づいた彼女は、こちらに駆けてきた。

 「どっか行ってる途中だったみたいだが、どうしたんだ? そんな急いで」 
 「……今から保健室に行くところなんだ」
 「保健室?」

 なぜまた保健室に……って、ASET関連か。
 なら、邪魔はしない方がいいだろう。

 「そっか。フィー先生によろしく言っておいてくれ。あと、俺は入らないってことも。じゃ、俺らはアスカの研究室に行ってるからな」
 「……今は研究室には空いていない」
 「空いていない? ……アスカ、授業にでも出てるのか?」

 授業免除されているアスカが授業にでるとは……珍しい。
 しかし、リナは横に首を振った。

 「ん? じゃあ、これから予定でもあるのか?」
 「……ないはずだ」
 「?」

 俺は思わず首を傾げる。隣のメミたちも訝し気にしていた。

 授業にも出てない、研究室にもいない……なら、アスカは何をしているんだ。
 アイツにとって研究室は家みたいなものだろう。
 最近は寮室にも戻らずあそこにいるんだぞ。

 すると、リナは深刻そうな顔をして、こう言ってきた。

 「アスカが倒れたんだ」 
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