はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第3章

第49話 おとろしいやん

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 雲一つない快晴の空。
 その空の下にある訓練場には、少し冷たい風がふく。

 …………ああ、この風と一緒にこの人たちをどっか飛ばしてくれないかな。

 そんなことを思いながら、俺ははぁとため息をついた。

 目の前にいるのは、双子の勇者。
 彼らに半強制的バトルに誘われた俺は、訓練場に来ていた。

 だが、ここに来るまでいろいろあった……正直、めんどくさかった。

 双子先輩の侵入の報告を受けた教頭先生は、他校の生徒が無断で学園に入り、さらには魔法使用していることに激おこぷんぷん丸。外に出てきて、双子先輩を追い出そうと、忠告しにきた。

 だが、先輩も負けず、「ネルと戦わせろ」と主張。
 しまいには双子が暴れだそうとしていたため、戦うなら訓練場でしてくれと教頭が折れた。

 …………まぁ、俺は一度も「戦いたい」なんて言ってないのだがな。

 しかし、双子は選択の余地もくれず、俺は訓練場に連行された。

 「よっしゃっ! よくわからん先生もおっぱらったし、これで戦えるな! ネル!」
 「先生がいなくなってくれてよかったよ。本当に邪魔だった」

 そして、双子先輩は清々しいそうに、俺に話してきていた。
 先生がいなくなってよかったとは……本当にこの2人は怖いな……。

 「早速戦いたいところだけど、ネル、ゼルコバ学園のバトルって、七星祭のものと一緒?」
 「はい、一緒です」

 緑色髪のヨウ先輩の問いに、俺は即座に答える。

 よしっ。
 さっさと終わらせて、アスカの実験室に逃げよう。
 しかし、カイ先輩は横に首を振った。
 
 「ヨウ、いつものルールでするんか? それやったらいつも通りでおもろくないやろ。勇者同士のバトルなんやから、少し変えようで」
 「そうだね。いつものルールだと味気ないね」

 いつもの学園のバトルルールは、どちらかが戦闘不能なるまで戦うというシンプルなもの。
 七星祭でもこのルールが使用されているため、各学園も同じものを起用している。
 そのルールではなく、別のものでするのか。

 「変えるといってもどうするんです?」
 「あー……」

 言ったものの思いつかなかったのか、カイ先輩は黙り込む。
 俺も思いつかず考えこんでいると、ヨウ先輩は提案を出してくれた。

 「勝利条件は戦闘不能ではなく、的を壊すのはどうだろう?」
 「的、ですか?」
 「そう、的。ねぇ、カイ。フィールドの両端に2つずつ、的を作ってくれる?」
 「いいぜ」

 ヨウ先輩が頼むと、カイ先輩は手にしていた杖を動かし、そして、訓練場の両端に、お盆サイズの2つの木の的を作った。
 
 「あの的はどう守ってもOK。壊すのもどんな方法でもOK。これでどう?」
 「いいと思います」
 「七星祭で似たような競技があった気がするが、いいんじゃねーか」
 「……文句言うのなら、ヨウが考えて」
 「文句はねーよ。学園内のバトルではあんま見たことないし、これで行こうや」

 これでやっと戦えるか……?
 すると、カイ先輩が何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。

 「ヨウ、俺ら大事なこと忘れ取ったやん」
 「え? 何?」
 「ネルには相棒さんがおらへん」
 「ほんとだ」

 てっきり、1対2かと思ってたけど、人数合わせをしてくれるのか。

 「ネル、誰か僕らと戦ってくれる友人、相棒とかいる?」
 「相棒ですか……」

 訓練場の隅を見る。
 そこにいるのは悪魔女とチェケラ女とメミ。
 その3人に向かって、俺は叫んだ。

 「なぁ! 1人、誰か俺と一緒に戦ってくれないか!」
 「はいはーい! 私したーい!」
 「ここは私です! 妹の私がします!」
 「私は遠慮しておくYO!」

 2人は元気よく挙手したが、ラクリアは横に首を振った。

 ラクリアはダメか……となると、リコリスか、メミか。
 この2択は……うん、当然メミだな。
 そうして、メミを呼ぼうとした時。

 「げっ、メミがおるやんけ」

 と、カイ先輩の呟きが聞こえてきた。
 隣を見ると、彼はなぜか嫌そうな顔を浮かべている。
 兄のヨウの方も、メミを見て眉間にしわを寄せていた。

 「あの……お2人ってメミとお知り合いなんですか?」
 「そうやな、知り合いといえば知り合いやわ」
 「知り合いになんてなりたくなかったけどね」
 「? 知り合いなのに、なんで嫌そうにするんです?」

 そう尋ねると、カイ先輩は顔をゆがめる。
 うお……すごく嫌そうだ……。

 「いや……だって、あいつ、おとろしいやん」
 「おとろしい?」

 おとろしいってなんだ?
 言葉の意味が分からず首を傾げていると、ヨウ先輩が教えてくれた。

 「怖いってことだよ……僕も彼女は無理、怖い」

 よほど怖いのか、ヨウ先輩は肩を震わせている。

 うーん……カイ先輩もヨウ先輩も怖がり過ぎじゃないか?

 確かに、以前のメミは怖かった。
 『話しかけないでくださいオーラ』がハンパなかったし、俺に対しては『大っ嫌い』って言ってきているような睨みをしていることもあった。

 でも、能力のある勇者が怖がることはないんじゃないか?
 先輩たちは気に食わなかっただけで門や道を壊す暴れん坊。
 正直、メミの方が怖がると思うのだが……。

 「なんで先輩はメミを怖がってるんです?」
 「いやなぁ、毎回あいつと七星祭で会うんやけど、いっつも怒られるんや」
 「メミに……ですか?」
 「せや」
 「僕らに『無駄に物を壊すな―!』とか、『汚い言葉使うな―』とか」
 「『煽ってくんなや―!』とかやな。ほんましつこいぐらい言うてくるんや」
 「そうそう。僕らが彼女に会えば、絶対に1時間の説教タイムが始まる」
 「ひぃ……あの説教を思い出しただけ身震いがするわー。なんぼ腹が立ったからといって1時間もずっと説教するか? 普通?」
 「しないしない」
 「よな? ジブンは俺らのおかんかてな」

 メミから距離があるため、聞かれていないことをいいことに愚痴り始める双子。
 よほどメミが嫌なようだな……。

 「ま、そういうことやから、メミは却下や。悪いな、ネル」
 「……ハッ、なぜあなたたちの意見で決めないといけないんです?」

 と聞こえてきたのは妹の声。
 気づけば、メミが近くまで来ていた。
 メミはかなり怒っているのか、圧のある笑みを浮かべている。
 そして、そんな彼女の後ろには目を輝かせる悪魔女。戦う気満々なようだ。

 ああ……メミが来ちゃったか。
 これは先輩方が怯えて……って、先輩はどこにいった?

 さっきまで隣にいた双子先輩。
 彼らはいつの間にか俺の後ろにいた。メミから身を隠しているようだった。

 本当に怖がってるんだな……。

 「い、いつの間にこっちに来たんや! 説教やろう!」
 「早くどっか行って! 僕たち、まだ物を壊してない!」
 「何を言っているんですか。あなたたち、校門と道を壊したでしょう?」

 メミがそう言うと、双子は黙り込む。
 だが、一時してカイ先輩が口を開いた。

 「俺たちはネルと戦いにきたんや! 説教されにきたんやない!」
 「物を壊した時点で、説教はします。絶対です」

 俺の後ろで「ひぃ―」という小さな悲鳴が聞こえる。

 なんかめんどくさくなってきたな……。
 もういっそのことメミとこの双子が戦えばいいのに。
 先輩が負けたら、メミに説教を受ける。先輩が勝ったら、説教なし。

 …………もうそんな感じでいいんじゃないっすか。

 だが、逃げ出すこともできないため、ぼっーと空を見上げていると、自分の服が引っ張られるのを感じた。下を見ると、カイ先輩が引っ張っていた。

 「……なぁなぁ、ネル。あの黒髪のねーちゃん、あんたの彼女か? やったら、姉ちゃんに相棒になってもらいーや」
 「そうだね。彼女なら大丈夫な気がする」

 俺としてはメミ、ラクリアとの方が戦いやすい。 
 けど、勝敗はどっちでもいいからな……もう悪魔女でいっか。
 メミを呼んだら、先輩たちがめんどくさくなりそうだし。

 そうして、俺は先輩たちの言う通りにリコリスを呼ぶと、選んでもらえなかったメミはすねた。
 すねたメミをなだめると、彼女から「審判は私がします」と言ってきたので、頼むことにした。
 まぁ……双子先輩はピーピー文句を言ってきてはいたが、メミを選ばなかったんだ。そこは許してほしい。

 人数がそろったことで、俺たちはフィールドの両端に移動。それぞれ準備をした。

 審判のメミはフィールド中央に立っている。
 俺たちが準備できたことを察すると、メミは双子先輩に声をかけた。

 「双子は……準備できましたね。はい。了解しました」
 「おい! 俺らまだ何もいっとらんやろーに! 俺らの扱いてきとーすぎへんかっ!」
 「そうだ! そうだ!」
 「……そこの双子、うるさいですよ。レッドカード出しますよ」
 「そないな制度ないやろ!」
 「そうだ! そうだ!」

 本当に仲悪いな……。
 そんな騒がしい双子を無視して、メミは俺の方に顔を向ける。双子先輩の時とは違って、優しい微笑みを浮かべていた。

 「……兄様たちも準備いいですか?」
 「おう」
 「私も大丈夫よ!」

 返事をすると、審判は頷き。

 「では、バトル開始っ!」

 その合図で、双子先輩とのバトルが始まった。
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