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第3章
第48話 双子の勇者
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見知らぬ生徒の報告を受けた俺は校門に向かった。
そこにはボコボコになった門や道があり、その近くにいたのは警備員の胸倉をつかんで叫ぶ2人の男。
暴れていた2人は俺を見つけるなり駆け寄ってきて、なぜかキャッキャッし始めた。
そんな2人に、俺は名を問うと。
「俺らはミザールの勇者や! よろしくな、新人勇者!」
炎のように明るいオレンジ髪の男から、元気な返事が返ってきた。
「……ミザールの勇者?」
「せや!」
…………ミザールの勇者って、あの「双子の勇者」のことだよな?
ミザールの勇者――――それは七星の勇者であり、世間では「双子の勇者」と知られている唯一2人の勇者。
彼らはロザレス王国東部にあるレフダー学園所属の勇者だったはず。
「せや。俺がミザールの勇者、カイ・モーガンや」
「僕がミザールの勇者、ヨウ・モーガン」
その双子の勇者は親切にも名乗ってくれた。
エネルギッシュなオレンジ髪の方がカイ、落ち着いている青色の方がヨウか。
なるほど、顔がそっくりだったと思ったら、双子だったのか……。
よく見ると、2人の瞳の色は同じ緑。
話し方と髪色だけ違うが、身長も体格もほぼ同じだった。
…………確かミザールの勇者って、俺の1つ年上だったか。
気を悪くして暴れられるのも困るし、一応敬語で話そう。
「ミザールの勇者さんでしたか……どうも、ネル・モナーです」
「おう! わざわざ名乗らんでも、お前の名前は知ってるで!」
「うん、新聞読んだから」
そう言って、カイはにかっと笑い、ヨウは優しく微笑む。
そして。
「よろしくな!」「よろしく」
と、2人は俺に右手を差し出した。
同時に握手は無理なので、俺は丁寧に1人1人握手を交わす。
2人はとても嬉しそうにしていた。
うーん。さっきまで暴れていたものだから、かなり凶暴なやつかと思ったけど……結構気がよさそうな人たちだな。
…………ん? いや、でも、待てよ。
ここからミザールの勇者が所属する学園って、ここからめちゃくちゃ遠くないか?
「あの……新聞を読んですぐに来たんですか?」
「おう! そうやで! な! 兄ちゃん!」
「うん。アルカイドの勇者が気になってたから」
マジか……。
気になるだけで、10日かかるところを半日で来るとか、化け物か。
「それで……お2人は何をしにきたんですか」
「何をしにきたって……そりゃあ、仲間になるあんたにご挨拶しにきたんや」
「挨拶……? それだけのために?」
「そうや。仲間に挨拶するのは大切やろー?」
カイはあたかもそれが当たり前かのように、答える。
隣のヨウも激しくうなずいていた。
俺に挨拶するためだけに来たって……いくら俺に会いたかったとはいえ、学園で暴れ回らないでほしいものだが。
魔王並みに怖すぎるから。
でも、挨拶だけしにきたってことはもう用はすんだのか?
しかし、2人に帰る様子はなく、こんなことを話し始めた。
「でも、カイ」
「なんや? ヨウ」
「彼に挨拶するだけじゃ、僕は物足りないよ」
「せやな……俺もそう思うわ。挨拶だけして帰るとか、なんかこう……勇者らしくないよな!」
「そうだね。勇者なら、アレしかないよ」
「おう!」
…………なんか嫌な予感がする。めちゃくちゃ嫌な予感がする。
そう思った俺はその場を離れようとした。
だが、カイにガっと肩を組まれ、逃げ出せない。
ヨウも俺の前に立ち、逃げ道を塞いでくる。
…………まずい。嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしない!
そして、カイとヨウはニコッと笑って、こう言ってきた。
「なぁ! ネル! 俺らのちょっと相手してくれてんか!」
「君と少し戦ってみたいんだ」
★★★★★★★★
ネルたちが去り、物静かになったアスカの研究室。
そこで向き合っていたのは、ツインテール幼女と水色髪の女子。
その2人――リナとアスカの間には、妙な空気が流れていた。
2人の仲は、リナが男『リク』として過ごしていた頃から関わりがあったため、それほど悪いわけではない。
もちろん、リナの正体が女と知った直後のアスカは、少し距離を置いていたこともあったが、最近ではそれもなくなり、親しい友人になっていた。
だが、今目の前にしているリナは仏頂面。微笑みもしない。
そんなリナに、アスカは恐る恐る話しかけた。
「ねぇ、リナ。さっきのことなんだけど……」
先ほど練習場所としていた仮想世界上では、アスカは他人の思考が読めた。
不信がられることがないよう、彼女は事前にリコリスやラクリア、メミの思考を話しながら告白した。
だが、リナの思考に関しては絶対に口にしなかった。
当然、アスカは彼女の思考も把握している。
でも、言うべきではない、と判断した。
どうしても彼女が今考えていることを、アスカは信じたくなかった。
だからこそ、彼女に問う。
――――今、リナの考えていることは本気なのか、と。
「…………」
「ねぇ……何か言ってよ」
「…………」
だが、リナは何も言わない。
何も答えてくれない。
「そう……本当なのね」
そう呟き、アスカは腰にしまっていた銃をとる。
銃は彼女お手製の魔道具で、トリガーを引くと光線が放たれるというもの。
その銃口を、アスカは迷いなくリナの頭に向ける。
「あたしは研究所の物」
「…………」
「悪いけど、あんたを放っておけないわ、リナ」
だが、リナは動じない。微動だにしなかった。
「さようなら」
そう言って、アスカはトリガーを引いた。
そこにはボコボコになった門や道があり、その近くにいたのは警備員の胸倉をつかんで叫ぶ2人の男。
暴れていた2人は俺を見つけるなり駆け寄ってきて、なぜかキャッキャッし始めた。
そんな2人に、俺は名を問うと。
「俺らはミザールの勇者や! よろしくな、新人勇者!」
炎のように明るいオレンジ髪の男から、元気な返事が返ってきた。
「……ミザールの勇者?」
「せや!」
…………ミザールの勇者って、あの「双子の勇者」のことだよな?
ミザールの勇者――――それは七星の勇者であり、世間では「双子の勇者」と知られている唯一2人の勇者。
彼らはロザレス王国東部にあるレフダー学園所属の勇者だったはず。
「せや。俺がミザールの勇者、カイ・モーガンや」
「僕がミザールの勇者、ヨウ・モーガン」
その双子の勇者は親切にも名乗ってくれた。
エネルギッシュなオレンジ髪の方がカイ、落ち着いている青色の方がヨウか。
なるほど、顔がそっくりだったと思ったら、双子だったのか……。
よく見ると、2人の瞳の色は同じ緑。
話し方と髪色だけ違うが、身長も体格もほぼ同じだった。
…………確かミザールの勇者って、俺の1つ年上だったか。
気を悪くして暴れられるのも困るし、一応敬語で話そう。
「ミザールの勇者さんでしたか……どうも、ネル・モナーです」
「おう! わざわざ名乗らんでも、お前の名前は知ってるで!」
「うん、新聞読んだから」
そう言って、カイはにかっと笑い、ヨウは優しく微笑む。
そして。
「よろしくな!」「よろしく」
と、2人は俺に右手を差し出した。
同時に握手は無理なので、俺は丁寧に1人1人握手を交わす。
2人はとても嬉しそうにしていた。
うーん。さっきまで暴れていたものだから、かなり凶暴なやつかと思ったけど……結構気がよさそうな人たちだな。
…………ん? いや、でも、待てよ。
ここからミザールの勇者が所属する学園って、ここからめちゃくちゃ遠くないか?
「あの……新聞を読んですぐに来たんですか?」
「おう! そうやで! な! 兄ちゃん!」
「うん。アルカイドの勇者が気になってたから」
マジか……。
気になるだけで、10日かかるところを半日で来るとか、化け物か。
「それで……お2人は何をしにきたんですか」
「何をしにきたって……そりゃあ、仲間になるあんたにご挨拶しにきたんや」
「挨拶……? それだけのために?」
「そうや。仲間に挨拶するのは大切やろー?」
カイはあたかもそれが当たり前かのように、答える。
隣のヨウも激しくうなずいていた。
俺に挨拶するためだけに来たって……いくら俺に会いたかったとはいえ、学園で暴れ回らないでほしいものだが。
魔王並みに怖すぎるから。
でも、挨拶だけしにきたってことはもう用はすんだのか?
しかし、2人に帰る様子はなく、こんなことを話し始めた。
「でも、カイ」
「なんや? ヨウ」
「彼に挨拶するだけじゃ、僕は物足りないよ」
「せやな……俺もそう思うわ。挨拶だけして帰るとか、なんかこう……勇者らしくないよな!」
「そうだね。勇者なら、アレしかないよ」
「おう!」
…………なんか嫌な予感がする。めちゃくちゃ嫌な予感がする。
そう思った俺はその場を離れようとした。
だが、カイにガっと肩を組まれ、逃げ出せない。
ヨウも俺の前に立ち、逃げ道を塞いでくる。
…………まずい。嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしない!
そして、カイとヨウはニコッと笑って、こう言ってきた。
「なぁ! ネル! 俺らのちょっと相手してくれてんか!」
「君と少し戦ってみたいんだ」
★★★★★★★★
ネルたちが去り、物静かになったアスカの研究室。
そこで向き合っていたのは、ツインテール幼女と水色髪の女子。
その2人――リナとアスカの間には、妙な空気が流れていた。
2人の仲は、リナが男『リク』として過ごしていた頃から関わりがあったため、それほど悪いわけではない。
もちろん、リナの正体が女と知った直後のアスカは、少し距離を置いていたこともあったが、最近ではそれもなくなり、親しい友人になっていた。
だが、今目の前にしているリナは仏頂面。微笑みもしない。
そんなリナに、アスカは恐る恐る話しかけた。
「ねぇ、リナ。さっきのことなんだけど……」
先ほど練習場所としていた仮想世界上では、アスカは他人の思考が読めた。
不信がられることがないよう、彼女は事前にリコリスやラクリア、メミの思考を話しながら告白した。
だが、リナの思考に関しては絶対に口にしなかった。
当然、アスカは彼女の思考も把握している。
でも、言うべきではない、と判断した。
どうしても彼女が今考えていることを、アスカは信じたくなかった。
だからこそ、彼女に問う。
――――今、リナの考えていることは本気なのか、と。
「…………」
「ねぇ……何か言ってよ」
「…………」
だが、リナは何も言わない。
何も答えてくれない。
「そう……本当なのね」
そう呟き、アスカは腰にしまっていた銃をとる。
銃は彼女お手製の魔道具で、トリガーを引くと光線が放たれるというもの。
その銃口を、アスカは迷いなくリナの頭に向ける。
「あたしは研究所の物」
「…………」
「悪いけど、あんたを放っておけないわ、リナ」
だが、リナは動じない。微動だにしなかった。
「さようなら」
そう言って、アスカはトリガーを引いた。
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
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重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
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