はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第2章

第28話 本音

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 よく考えれば分かることだった。
 メミがあんな薬を1人で作るなんて無理だったこと。
 メミは優秀で平均以上ではあるが、俺よりも筆記試験はよくない。

 誰かが手伝ってくれたことなんてすぐに分かることだったのに。バカだな、俺。

 思わず自分の情けなさに笑う。そして、俺は紺色髪をなびかせる妹に目を向け直した。
 レシピの紙を見たメミは驚きを隠せないのか、目をカッと開いていた。

 「アスカさんは…………この紙は捨てたんじゃなかったの?」
 「どうやらデータ保存していたらしいぞ」

  そう答えると、メミの顔がぐにゃりと歪んでいく。

 「お前はここに載っている特定記憶抹消薬を使って、俺の筆記試験の邪魔をした」
 「作ったとしても、私が使ったという証拠はありません」

 「…………証拠、証拠とさっきから連呼しているが、嘘発見器を持ってきて確かめてみるか? 正直に言え。お前はアスカと一緒に作ってレシピを覚え、もう一度1人で作り直したんだろ?」
  「…………」

 すると、俺の話に耳を傾けていたギャラリーがざわつき始める。
 そりゃ、そうだろう。試験の妨害は大問題。メミの行為は退学レベルだ。

 メミは俺の言葉と周囲の反応に動揺。俺を睨み、ギリッと歯軋りをしていた。
 そんなイライラモードのメミに、俺は楽しげな声で提案する。
 
 「メミ、久しぶりに勝負しないか」
 「…………」
 「お前の好きな剣での勝負はどうだ?」
 
 提案すると、メミは呆れた様子でハッと鼻で笑い、

 「お兄様が苦手としてきた剣術? 本気でおっしゃっているのですか?」
 
 とバカにした態度で問うてきた。

 ————そりゃあ、そういう態度になるよな。剣術は俺の苦手分野にしていた・・・・からな。
 だが、俺が今魔法を使えば、いくら魔法制御がうまかったとしても、お前を殺すことになりそうだ。

 「本気だ。俺とメミでは魔法では勝負にならないだろう」

 背後に用意していた銀のレイピアを投げると、メミの前の地面に刺さる。彼女はその片手剣を取った。
 俺はもう1つの赤銅色のレイピアを手に取った。

 「どうなっても知りませんよっ! お兄様!」

 メミはそう言い放ち、全速力でこちらへ走ってくる。俺はというと構えることなく、動くこともせず、向かってくるメミをじっと見つめていた。
 鬼のような形相のメミは俺の首に向けて、剣を振る。

 「なっ」

 彼女の口から声が漏れる。
 こんな兄の姿見たことないもんな、見せたことなんてないから。
 俺はメミの攻撃をさっと避けていた。時間がゆっくり進んでいるように感じる。そして、メミの瞳孔が大きくなっていくのが確認できた。

 いつもと違う俺にさらに苛立ちを感じたのか、メミはらしくなく感情任せに剣を振っていく。一方、俺は剣先を地面の方に向け、のらりくらりと避ける。メミの剣はかすりもしない。

 「避けるばっかり! 小心者っ!」

 一旦メミから距離を取り、後方へと下がる。

 「ならこれでいいのか?」

 俺は赤銅色の剣を構え、何度もやってくるメミの銀の剣を受け止める。
 一瞬均衡を保っていたが、それはすぐに崩れ俺の剣がメミの剣を振り払う。押されたメミは安全を取ってか後方へと下がった。

 「くっ…………」
 
 しかし、彼女は態勢を立て直し、俺に向かってくる。
 再び俺とメミの剣が交差し、周りには火花を散っていた。



 ★★★★★★★★



 「意外ね」

 ギャラリーの中でそっと眺めていたアスカが小さく呟く。

 「何がだーい?」

 その隣で見ていたラクリアはその一言を聞き、首を傾げた。彼女はどうやらアスカが驚く理由が分かっていないようだった。

 「ネルは剣術が苦手だったはず。魔法以上にできなかったはずよ。なのに、アイツは難なく扱えてる」
 「それは…………昨日部屋でコッソリ練習していたとーか?」

 ラクリアの予想にアスカは横に首を振る。

 「それはないと思うわ。あの姿は…………」

 アスカはネルから目を逸らさない。

 「何年も前から剣を扱っていたような姿だもの」

 2人とともにリコリスもネルに赤い瞳を向けていた。彼女はいつも以上に大人しく、静かに見ている。
 遠くで剣を扱うネルは一瞬も息を乱すような姿はなかった。

 「あいつ…………目が」

 ふと、リコリスは気づいた。ネルのあの赤い瞳が出会った時の緑色の瞳へと変わっていたことに。



 ★★★★★★★★



 俺はひたすらに仕掛けてくるメミの攻撃をさばいていた。
 集中力が切れつつあるのか、メミの剣にキレがなくなってきている。

 「なんで兄様が剣をまともに扱えるのっ!」
 「さぁな」

 答えれない…………ことはないが。
 俺はちらりと運動場の隅に目をやる。あの3人は驚きの瞳をこちらに向けていた。

 こんな姿を見られたら、あとで色々と言われるな。まぁ、その時は絶対黙秘権を行使しよう。
 
 最近感じること。それはあの4人でいることがどこか心地いいこと。
 リコリスは問題児悪魔だし、アスカは偉そうなちびっ子、ラクリアはサングラスをかけた変人公爵令嬢だし、俺はレベル高いくせに魔法制御できないしで変人の集まりだけどさ。

 でも、アイツらといて悪くないなと思い始めてる。
 変人の集まりであるあのメンツでワイワイやっていたい。
 だから、あのことを言うつもりはない。俺が元々剣術を得意としている理由を、その能力を隠していた理由を教えるつもりはない。

 「実技で本来の力を出さないあなたが憎い!」

 俺とは違う黄色の瞳を持つメミ。

 「全て…………全て忘れたような態度のあなたが憎いっ!」

 忘れちゃいない。
 メミお前と過ごした日々は忘れはしないぞ。
 1年前、お前が何を考えていたか知らないが、俺はお前と過ごせてよかったと思ってるよ。

 でも、お前は俺が邪魔なんだろう? 
 今の俺もお前が邪魔だ。
 
 じゃあな、メミ

 俺のレイピアの先はメミの首を捕えていた。

 「お前の負けだ、メミ」
 
 メミの額から汗がゆっくり落ちていく。
 
 「…………お兄様、もう1勝負しましょう」
 
 メミはまだ諦めていないのか、そう提案してきた。
 兄妹最後のケンカだ。ちょっとぐらい付き合ってやってもいいか。 

 「いいだろう。何で勝負だ」

 尋ねると、メミは剣を背後へと捨て、笑みを浮かべた。


 
 ★★★★★★★★



 「あれ、どういうことよ」

 呆れ顔を浮かべるアスカ。
 そして、彼女の目線の先には蹴り合うネルとメミ。男女の能力の差があっても、メミは男子と同じくらいの強さはあったが、今はネルの方が上回っていた。

 「どういうことというのはー?」
 
 困惑顔のアスカの問いにラクリアは首を傾げた。
 アスカは示指を立て、話始める。
 
 「いい、ラクリア。あのネルは1年前勉強以外何もできなかったの。魔法実技にしろ、剣術にしろ、体術にしろ、何もかもよ。でも、今のネルは…………」
 「何もかもできているねぇー」

 アスカの説明でネルの異常さに気づいたラクリアはうーんと唸る。

 「アイツ…………何か隠してる?」

 静かに傍観していたリコリスは2人に聞こえないよう小さく呟いた。 



 ★★★★★★★★



 ボロボロの姿になったメミは地面にへばっている。
 俺は彼女の前に立ち、見下げた。

 「ま、まだよ…………おにいさま…………まだ…………魔法がある」
 「今のお前で今の俺に魔法で勝てるか?」

 そう言うと、メミの瞳はぐらりと揺らぐ。

 「お前の負けだ。じゃあな」

 俺が立ち去ろうとした時、足元を何かに捕まれた。
 下を見ると、汚れたメミの手。

 「…………お、おにいさまが大切なものをぜんぶ、ぜんぶ壊した。返して…………ぜんぶ返して」
 「お前が全部壊したんだろ」

 俺は手を振り払い、その場を去っていく。
 本当はこんなことはしたくなかった。俺は本当はずっと兄妹仲良くやっていきたかった。

 大切な兄妹の絆を壊したのはお前だよ、メミ。



 ★★★★★★★★



 モナー兄妹の戦いを遠く離れた山から見守る2人。彼らは1本の木の上に上り、運動場を見つめていた。
 白い軍服の少年、その隣にはゼルコバ学園学園長コンコルド。
 
 「ありゃりゃー。ネル、あんなに剣を扱えているよー。さすがだねー」
 「でも、なぜ隠していたんでしょうな」
 「平穏を望んでいるからだろうね、きっと」
 「『平穏を望む』…………ですか」
 「まぁ、ネルに平穏な生活なんて無理な話だよ」

 そう言って、少年はフッと笑みをこぼす。
 彼の言葉にコンコルドは「そうですなぁ。一体誰のせいでしょうな」と同意する。そして、少年の方に訝し気な目を向けた。
 しかし、少年はその視線を無視。すぐさま話題を変えた。

 「それにしても、コンコルド」
 「なんでしょう」
 「結界のことなんだけど、そろそろ外してもらえる?」
 「そろそろというのはいつ頃でしょう?」

 少年はうーんと唸り、腕を組む。

 「そうだね…………ザ・セブンの学校が競う大規模な体育祭とか運動会みたいなやつ。あれだよ、あれ。名前をど忘れしちゃった」
 「体育祭や運動会みたいなやつ…………七星祭しちせいさいですかのぉ?」
 「ああ、それそれ。それが始まる前に外してくれたらいいと思う」
 「承知いたしました」

 少年は隣の木の太い枝へジャンプ。

 「ぶしつけですが、これからどこへ?」

 コンコルドが尋ねると、少年は枝上でくるりと回り、ニコリと笑った。
 
 「ちょっと国王のところに」
 「なっ」
 「心配しないで、コンコルド。ちょっと会ってくるだけだから」

 コンコルドは少年の発言に頭を抱える。

 「『ちょっと会ってくる』ですかぁ…………どうなっても知りませんぞぉ」
 「だいじょうぶーだいじょうぶー」
 
 少年の陽気な背中を目にし、コンコルドは溜息をつくしかなかった。
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