はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~

せんぽー

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第2章

第22話 冷ややかな瞳

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 俺はラクリアとともに食堂へと向かう廊下を歩いていると、言いあっていた2人がハァハァと息を切らしながら、走ってきた。

 「ネル! なんで置いていったのよ! あ! まさか紙を提出しにいったの?」
 「言ってねーよ。ほら、この通り紙はここにあ………」
 
 チームメンバーが書かれた紙をひらひらと振って見せていると、リコリスはそれをしゃくり取り、丁寧に折るとすぐに自分のポケットにしまった。
 
 「これは私が預かっておく。ネルに勝手に出されたら困るもの。5人集まるまでぜっーたいに提出しないわ」
 「………そうですか、どうぞお好きに」
 
 絶対集まらないと思うがな。
 チームメンバーの紙を配られてから日にちが結構経っている。ほとんどの人がチームを決めているだろうし、1学期と同じチームメンバーにするやつもいる。そんな中、俺らのチームに入るやつなんていないだろう。

 紙を取られることを警戒しているのか、リコリスはこちらをじっと見ている。
 まぁ、コイツにそんなことを教えたって、「はい、そうですね」と言うことは聞かないだろう。
 
 チームメンバー4人が集まったところで、廊下を歩いていると、背後から叫んでいる声が聞こえてきた。
 
 「モナー君! ネル・モナー君!」
 
 廊下に響く自分のフルネーム。ドキリとした俺はゆっくりと後ろを振り向く。
 目に入ったのはこちらに手を振りながら走ってくる金髪の少年。遠くにいるため、顔ははっきりしないものの、なんとなく誰か分かった。
 
 「あれ………リクじゃない?」
 「ほんとだ。生徒会の人だわ。ネルとは違って爽やかオーラ満載の美少年だわ」
 「おい、リコリス。隣に俺がいるんだが。聞こえているんだが」
 「彼、必死にネルを呼んでるYO」
 
 俺は足を止め、学園のアイドルリクを待っていると、女子たちの視線がこちらに向いているのを感じた。

 変に注目は集めたくないんだが。
 てか、生徒会のやつが俺に一体何の用なんだよ………早くご飯を食べに行きたいのだが。
 
 リクは息を切らしながら、俺の前に来ると立ち止まる。
 
 「モ、モナー君、急に呼び止めてすみません」
 「………ああ。それでどうしたんだ? 俺を呼んでいたんだよな? アスカを探してるのか? アスカならここにいるぞ」

 アスカを親指で指す。しかし、リクは首を横に振った。
 
 「いいえ。今日はアスカさんに用があってきたのではなんです」
 「それなら、俺に用か?」
 「用………といえば用ですかね?」
 
 おい、なんだ。そのはっきりしない返事は。
 俺が訝し気な目で見ていると、リクは照れくさそうに頬をかく。
 
 「その………食堂に向かっているとモナー君の姿が見えたもので………よかったら昼食をご一緒させてもらえればと思いまして………」
 「なるほど」
 
 怪しい。
 これは非常に怪しい。俺の警戒センサーがサイレンを鳴らしている。

 普通俺の姿をちらりと見えた程度で追いかけるか? 恋する女の子じゃああるまいし、普通の人間は全力ダッシュで追いかけたりしないだろう。
 さらに目を細めて見ていると、隣にいたリコリスがぱぁと顔を明るくさせていた。
 
 「一緒に食事? 生徒会の人と? もちろん、いいわよ!」
 「本当ですか!?」

 「断る理由もないでしょ。ただ一緒にご飯を食べるだけなんだし。そうよね? ネル?」
 「え」
 
 目を輝かせた嬉しそうな顔を近づけ、リコリスが問うてくる。
 コイツの考えが分かったぞ………………リクをおもちゃにできないか企んでるな。

 まぁ、ここで意味もなく断っても、変に思われるだけだな。
 俺は小さくうなずき。
 
 「ああ、いいよ。昼食を一緒にするだけだろ」
 
 そうして、5人で食堂に向かうと、そこは腹をすかせた生徒でいっぱいになっていた。
 全長20mはある長机が何個も用意されている食堂だが、席はあまり空いている様子はない。

 授業が終わってから結構経つもんな………もうちょっと早く来ていたら座れる場所があったんだろうが、ここは歩き回って探すしかない。
 空いている席がないか探していると、彼女と目が合ってしまった。
 
 「………お兄様」
 
 昼食中のメミ。彼女は、魚のソテーを口に入れようとしていた。しかし、俺と目が合い、口に入れる直前でフォークを止めている。

 こ、ここは今すぐ立ち去って………。
 すぐさま目を逸らし去ろうとした時、背後にいた問題児リコリスが声を上げていた。
 
 「あらー? そこにいるのは………ハンスじゃない!」
 「リ、リコリス様! お疲れ様です」

メミの向かいに座っていたハンスは悪魔女にぺこりと頭を下げる。

 「ほら、ハンス。そこでまったりご飯を食べてないで、四つん這いになって」
 「四つん這いですか?」
 「そうそう………よっこらせっと………ちょっと座るわよ」
 「………お前、何してんだよ」

 あたかもいつもの通りかのようなリコリスとハンス。傍から見てハンスは、どこからどう見てもリコリスの舎弟にしか思えなかった。
 コイツら………いつの間にこんな関係になってんだよ。

 この前までのハンスはリコリスの姿を見ると、肩を震わせ怯えていた。
 しかし、今はというと、そんな様子一切感じられない。
 むしろハンスは生き生きした顔でリコリスの動く椅子になっている。
 
 「ちょっと疲れたから、ハンスに椅子になってもらったの」
 「なってもらったの、ってな………」
 「じゃあ、ハンス。このまま前進! 5人が座れる席を探すわよ!」
 「はい、リコリス様!」

 リコリスはハンスの背中に座り、痛い状態の2人は席を探すべく、前に進み始める。

 「………ちょっと待ちなさい」

 カチャりと音が響く。ナイフとフォークを置いたメミがリコリスの前に立った。
 
 「ハンス。あなた、今何やっているの?」
 「何をやっているって、俺はリコリス様のご命令に………」

 「何、後輩の言うことをホイホイ聞いているの! 様づけなんてやめて! 四つん這いも止めて! みっともない」
 「みっともないないって………これはリコリス様のために………」
 「いいから立って!」
 
 メミに手を引っ張られハンスは立ち上がる。
 リコリスもすっとぼけた顔で立ち上がると、トボトボと歩いて俺の隣に戻ってきた。

 なんでハンスはリコリスに申し訳なさそうな顔をしてんだよ………。
 メミは、しょんぼり顔を浮かべているハンスを自分の背後に回すと、悪魔女をぎろりと睨み。
 
 「リコリスさん………だったかしら。後輩であるあなたがハンスをこき使っているのはどうかと思うわ」
 
 俺の方をちらりと目を向けてきた。
 
 「まぁ、どうせお兄様に指示されてやっているのでしょうけど」
 
 メミの冷ややかな目。兄を慕う妹の瞳ではなく、敵を見る瞳だった。

 ————俺はお前に何をしたっていうんだ。
 俺という存在が邪魔なのか? 学園に帰ってきたことが気に食わないのか?
 それとも無意識のうちにお前を傷つけるようなことをしてしまったのか?

 何度も何度も考えても、メミが俺を敵視する理由が分からない。
 困惑の顔を浮かべていると、リコリスがメミの言葉に声を上げた。
 
 「あんたねぇ! 何をペラペラしゃべっていると思ったら! 私の行動は、私自身が決めてるの! それでいっつもネルがあーだこーだ文句言ってくるの! そう言えば! ネルの家で会った時もネルに対して文句言ってきていたわねぇ!」
 「リコリスさん、落ち着きましょうよ………」
 
 歯ぎしりさせているリコリスをなだめるかのようにリクが止める。しかし、リコリスは彼の話を気にも留めず、メミを睨んでいた。
 
 「はぁ………なんだか食事する気分じゃなくなったわ。ハンス、教室に帰るわよ」
 「え、でも、俺まだあまり食べてな………」
 「いいから、帰るの」

 メミはハンス、その他の取り巻きたちを連れて、食堂を出ていこうとする。
 彼女は俺たちの横を通ろうとした時、
 
 「リク、あなたは生徒会の一員なんだから、そんな人たちと付き合ってないで、まともな人たちを付き合いなさいな」
 「………」
 
 そう言って去っていった。
 メミからするに俺はまともな人間ではないってことですか。
 思わず重いため息をつく。
 そして、ちらりと様子を伺うと、リクはどこか神妙な顔を浮かべていた。
 
 「なんか悪いな、俺の妹が」
 「いいえ………こちらこそなんか悪い気にさせてしまってすみません。丁度席が空いたところですし、食事にしますか」
 「そうだな」
 
 そして、俺たちはメミたちが座っていた席で昼食を取ることにした。
 向かい合って座るリコリスは美味しそうにハンバーガーを食べている。
 一方、俺の机の前には頼んだ魚のソテー。

 …………なんか食べる気失せたな。
 そう思いながらじっーとそのソテーを見つめていると、隣の席にいたリクが声を掛けてきた。
 
 「モナー君、食べないんですか?」
 「ああ…………食べるよ」

 声を掛けられてやっと食べ始めることができたが、どうしてかその美味しそうなソテーの味を、俺は全く感じることができなかった。
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