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第3章 学園編
86 ??視点:希望 && 絶望 後編
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「まさか君もループしていたとは」
「私もびっくりです」
お互いにループしていることに気づいた僕らは、これまでのループのことを話した。
ルーシーと一緒に生きようとしたが、殺されてしまったこと。
ルーシーを生かそうとしても、死んでしまうこと。
やっとルーシーが生きてくれると思ったら、敵対してしまうこと。
ルーシーは涙を流しながらも、最後まで聞いてくれた。
「あんな普通になってしまったけど、僕はずっと好きだった」
「ステラさんをいじめたのに、ですか?」
「そこは……確かに許せないよ」
いじめは許せない。絶対に許せない。
だけど。
「僕も非があったんじゃないかって思う。君に対する態度とか」
「…………」
「今、謝ってすべてが許されるわけじゃないけど……ルーシー、今までごめん」
「私こそ、ライアン様の思いをちゃんと確認せずに、勝手なことをしてごめんなさい」
そうして、謝り合うと、僕らはなぜか笑ってしまった。
ああ……ルーシーと笑い合うなんていつぶりだろう。
「今後はどうしましょう? ライアン様の話からするに、私たちが……その親密にしていると、アース様が急に現れて……」
「えー? 僕がどうしたのー?」
「「!?」」
気づくと、僕の隣にアースがいた。
彼は目を輝かせて、僕らを交互に見てくる。
「ねぇー。なぁーに話してたのー? 僕にも教えてよー」
「……アース、なんでこんなところにいる? 勉強の時間じゃなかったの?」
「あー、抜け出してきちゃったぁー。それよりも兄さんたちが話していたことが知りたーい。教えてよー」
「……それは無理だ」
「なんでー? 話してたのは僕のことでしょー?」
「悪いんだけど言えないんだ」
「…………」
「……そろそろルーシーも帰らないとね。遅くなると、ご両親が心配するし」
ルーシーに視線を送る。
彼女は僕の意図を察してくれて。
「そ、そうですね! では、ライアン様、アース様。私はこれでおいとまさせていただきます……」
と帰ろうとした。
だが。
「え?」
体は動かなかった。
僕もルーシーも。
「な、んで?」
と頑張って立とうとするが、体は動かない。
まるで何かで押さえつけられているよう。
「おい、無理に動くなよ」
少年とは思えない低い声。
その声の主であるアースの瞳は水色から赤に変わって、ぎらりと光っていた。
「動いたら、死ぬよ?」
そう言って、アースは右手をきゅっと絞る。
その手先についていたのは透明な糸。
気づけば、糸は僕らの体を縛っていた。
「アース様、なぜ私たちにこんなことを……」
「ルーシーは意外と冷静だね……その様子だと、君もループしているのか。ふーん」
「……アースもループをしているのか?」
「僕? 僕は残念ながらしていないよー? 前の記憶なんてないねー」
と言って、あっはっはと1人笑うアース。
「この感じだと言う通りにしてもらえなさそうだから、君たちには死んでもらうね!」
アースはぱちんと指を鳴らす。
その瞬間、ルーシーの首がスパッと切れた。
「ルーシー!」
ルーシーの頭がごろんと床に転がる。
そ、そんな……出会って一日目だぞ?
今まで1日目で殺されるなんてことはなかったのに。
動揺が隠せず、かといって何もできず、僕はアースを睨む。
「そんなに睨まなくても、兄さんもルーシーと同じところに送ってあげる!」
「…………」
「じゃあね、兄さん。さようなら!」
その瞬間、糸で首をガッと切られ、視界が横になる。
首から、自分の血が噴き出ているのが見えた。
「全くぅ、あの女神もよくあがくもんだねー」
ああ……。
ルーシーもループしているのが分かったのに。
また、死ぬのか……。
「ねぇ、エフェメリス様?」
そのアースの一言を聞いて、僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
アースに糸で殺された次の人生。
その人生では僕らは殺されず、アースを捕えることができた。
僕らを殺そうとしていたアースを、ヘルメスに助けてもらい、捕らえたのだ。
これで、僕らを殺す人間はいなくなった。
だが、その後、僕は地下深くの牢屋に足を運んでいた。
「やぁ、兄さん。こんなところに来て、どうしたんだーい?」
アースは牢屋の中でも結構くつろいでいた。
魔法結界があるため、決して外にでることはできないのだが、その狭い牢屋の中でも彼は生き生きとしている。
物がいっぱいあるし……随分とくつろいでいるみたいだな。
自分の魔法で作ったであろうソファに、アースは寝転がっていた。
「兄さんは何も用なしに、僕の顔を見に来たってわけじゃないでしょー?」
「まぁね」
何も用がないのに、殺人者の前に来るわけがない。
僕は単刀直入に聞いた。
「エフェメリスって誰だ?」
前回の人生でのアースの呟き。
それは、まるで誰かに話しかけているかのようだった。
「それは僕らの神様だよ、兄さん」
「……神?」
「そうだよ、兄さん。この王国はあの女神を主神としているけど、僕らの神エフェメリス様は全てが見える神様。あの女神よりも偉大な神様だよ」
「その神がお前に『僕らを殺せ』と言っているのか?」
と問うと、アースは首を横に振った。
「そんな命令、エフェメリス様が出すはずがないじゃーん」
「ではなんと?」
「『正しき道へと修正しなさい』かなぁー? まぁ、兄さんはつくづく正しい道を歩んでくれないみたいだけどね。神はいつも溜息をついているよー」
正しい道というのは、まさかステラを選ぶ道か?
なぜそんなにステラを選ばせようとするんだ?
「それにしても、兄さんたち、最近随分楽しそうにしているんじゃなーい? でも、気を付けた方がいいよー。たとえ、僕を捕えたからといって、油断はしない方がいいかもねー」
アースは悪魔のように、にひっと笑い。
「僕以外にも神の使いはいるんだからさー」
そう僕に忠告してきた。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「ライアン様、見てください! お魚さんがたくさんいます!」
嬉しそうに声を上げるルーシー。
ラザフォード家が所有している別荘地。
その近くにある湖、僕らはそこに来ていた。
今日はいつもの服装と違い、水着姿。
ルーシーの水着姿はとても綺麗だった。
まぁ、ちょっと目のやり場に困ってしまうことは……あったけど。
殺されるストレスが常にあった僕とルーシー。
だが、アースが捕らえられてからはすっかり安心していた。
もちろん、完全にというわけではない。
アースが以前忠告してくれたように、彼以外にも僕らを殺しにくるキラーが現れるかもしれない。
だから、今回はヘルメスに同行してもらっている。
警戒態勢を維持しつつも、僕らはバカンスを楽しんでいたのだが……。
「ライアン様! これ見てください!」
「わっ!? ルーシー!? そいつをどこで捕まえたの!?」
「え? この子はそこでプカプカと浮かんでいました!」
こ、こいつはステラが捕まえていたものじゃないか。
確か、ステラはミュトスと名付けて、飼い始めて、一時して命令したらその姿に変わることに気づいて「不思議だねー」って話をして。
ある日、冗談で「人間になって」って言ったら、妖精族の王子が現れて……。
「ってこいつ、ギルバートじゃないか!」
「ギルバート? この子の種類の名前はギルバートというのですか? ライアン様は博識ですね!」
「いや、違うよ……そいつはシューニャみたいな感じのものだと思うよ」
「シューニャ、ですか? それは聞いたことのない生き物ですね……」
ルーシーはそのシューニャをつんつんとつつき、そして、抱っこ。
満面の笑みを浮かべて、シューニャを撫でていた。
「……ルーシー、その子をどうするつもり?」
「この子ですか? もちろん、連れて帰ります!」
「つ、つれて帰るの?」
「はい!」
元気よく返答するルーシー。
一緒に返事をするように、シューニャもぴぃーと鳴いた。
連れて帰りたい、か。
かわいいからそうしたい気持ちはわかるんだけど、そのシューニャの中身は男なんだよな。
「それは……やめた方がいいんじゃないかな?」
というと、ルーシーは分かりやすくしょぼんとする。
ああ……がっかりするルーシーも可愛い。
うーむ。仕方ない。
「そ、そのシューニャは狂暴と聞くから、僕が飼うよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
☀☽☀☽☀☽☀☽
僕はシューニャを飼い始めた。
正直な感想……ルーシーや以前のステラが引かれるのも分かる。
ミュトスは僕にかなりなついてくれた。
ブラシで撫でると、気持ちよさそうにしていた。
おい、この子の中身は本当に男なのか?
と最初は疑っていたが、一時してからはどうでも良くなっていた。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「我が名はステラ・マクティア! 魔王に使える闇の支配者!」
――――なぜこうなった。
城下町はすでに炎はつつまれ、王城は崩壊。
空は紫へと変わり、以前の世界とは全く異なっていた。
ムーンセイバー王国はもう国としての形がない。
きっと国民の多くは死んだであろう。
見上げれば、空には魔王に魂を売ったステラと。
「なぜですか!? ステラ・マクティア! なぜあなたのような人が魔王の配下に!」
ルーシーがいた。
「それは当然であろう! 月の聖女よ!」
「当然……?」
「そうだ! あのお方は迷える私に導きをくださった! 当然あの方に使えるのは当たり前であろう!」
「でも、あなたに使えているのは人類の敵、魔王です!」
「魔王ではない! 我が王はミサキ様だ! 間違えるでない!」
ああ……ステラはもう魔王しか眼中にないな。
まるで狂信的な信者のよう。
「月の聖女よ! 我が王の願いのため、国とともに滅びよ!」
まさかステラが敵対すると思っていなかったな。
ステラが魔王につくなんて。
「まずは貴様の王子を殺しておこう!」
ステラは僕を見るなり、手を伸ばしてくる。
「ライアン様! 逃げて!」
ルーシーの叫び声が聞こえるが、動けない。動かなかった。
だが、ステラは手に魔力をため込み、光の玉を作っていき、そして、放った。
「ピィ——!!」
だが、僕は死ななかった。
目の前には白い獣がいた。
「ミュトス!?」
ミュトスが結界を張っていた。
いや、あれはミュトスじゃない――――。
目の前の獣は光を放ち、姿を変えていく。
「ムーンセイバーの王子、僕は男が嫌いなんだけどね」
気づくと僕の前には1人の白髪の少年が立っていた。
「だけど、君は嫌いじゃなかったよ。ライアン」
「君は……」
「僕の名前はギルバート! ギルバート・グラスペディアだ!」
小さな彼だが、ステラの攻撃を結界で押さえていた。
まさか彼が僕らの味方をしてくれるなんて。
妖精族の王子の突然の登場に驚いていた僕だが、やってきたルーシーに逃げようと促された。
「ライアン様、今は逃げましょう!」
「でも、ギルバートが……」
「大丈夫だ! ライアン! ここは任してくれ! ライアン!」
ちらりとこちらを向き、笑うギルバート。
小さな体の彼だが、背中は大きく見えた。
「じゃあね、ライアン! どうか君たちは生きてくれ!」
1人戦うギルバートを置いて、僕とルーシーはその場から逃げた。
☀☽☀☽☀☽☀☽
僕らは逃げた。
でも、魔王は攻撃してきた。
ルーシーは頑張った。
だけど…………。
「でんか、また、ですね」
「…………」
「また、わたしたち……しぬの、ですね」
「きみは死なないよ」
僕らは生きるんだ。
今は魔王のせいで壊された世界だけど、この世界で生きる。
妖精族の王子ギルバートに願われたんだ。生きてくれと。
それにもう……2度目なんて嫌だ。
ルーシーが死ぬところをこれ以上見たくない。
「そんなかおを……なさらないで、ください。つぎはきっと……だいじょうぶ、です」
「ルーシー、死なないで」
「あんしんして……きっと、だいじょう、ぶですから……だ、から…………」
「生きて……お願い……」
次なんて嫌だ。
もう一度なんて、嫌だ。
しかし、彼女の体が徐々に冷たくなっていく。
「ルーシー」
やっとアースを捕まえれたのに。
「ルーシー……起きて。目を覚まして」
ギルバートが僕らを助けてくれたのに。
やっと一緒に暮らしていけると思ったのに。
今回はもう大丈夫だと思ったのに。
ぽたりぽたりと、僕の涙が、ルーシーの顔に落ちてゆく。
「ねぇ……お願いだから。死なないで……一緒に生きて……」
もう彼女は息をしていなかった。
その後、僕も魔王に殺され、死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「また、だね」
「……はい」
その後も、何度も、何度も、何度も、僕らは死んだ。
ステラを選ぶ道しかないように思えた。
それでも、僕らは頑張った。
アースを捕まえて、ステラを捕まえて、ギルバートを仲間にして、黒月の魔女を倒して、魔王を倒して。
僕らの死の原因となるものを除いていった。
でも、いつもどこかで殺される。
酷い時にはいつの間にか死ぬ、なんてこともあった。
抗わなかったら、僕らは静かに死ねるのだろうか?
――――そして、ある人生の時。
「僕らの運命を変えることなんて無理なんだよ、ルーシー」
もう疲れ果てていたんだと思う。
気づけば、そう呟いていた。
「でも、いつかは一緒に……」
「いつか、ね……何度死んだら、君と一緒になれる?」
もうルーシーが死ぬところを見たくなかった。
限界だった。
「これまで100回以上ループをしてきた……でも、君と結婚できたのはいつ? 君と最後まで生きれたのはいつ?」
「…………」
「そんなの1回もなかった。絶対に僕らは殺された」
「…………」
「もう諦めよう、ルーシー。僕らはきっと――」
僕はそこで言葉を止めた。
止めざるを得なかった。
だって、ルーシーが泣いていたのだから。
ループと分かって以降、彼女は泣くことはなかった。
何度酷い目にあっても、何度殺されても。
静かに涙を流すルーシー。
彼女は同時に怒っているようにも見えた。
「わ、私はいつか……ライアン様と一緒に生きていけると思ってた!」
「…………」
「何度死んでも、いつかは神様が私たちに味方してくれるって思ってた!」
「…………」
「でも、ライアン様が……殿下がそうおっしゃるのなら! 諦めましょう! ええ! 諦めましょう!」
ルーシーはバッと立ち上がる。
「さようなら、殿下。また会う時は天国で」
そう言って、彼女は去っていった。
僕は彼女を追いかけなかった。
去っていく彼女を見なかった。
…………これでいい。
こうすればルーシーは生きてくれる。
もう彼女が死ぬところは見なくてすむ。
「僕らはこういう運命にあるんだ……」
その後、僕らはちゃんと話をすることはなかった。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーは毒を使って、ステラを殺そうとした。
また、僕は彼女を国外追放にした。
彼女が笑顔を見せることはなく、姿を消した。
数年後、僕はステラと結婚した。
ステラと結婚しないと、ルーシーが殺される可能性があったから、一応ね。
でも、結婚した後はどうでもよかった。
ただただ幸せだった。
魔王と戦って、子どもを育てて、孫と出会えて。
苦難もあったが、ルーシーと生きようとしていた頃よりもずっと平和だった。
ルーシーとの出来事は単なる幻。
今までのことを全部忘れる。
そして、僕は幸せになる。
だから、ルーシーのことなんて……。
☀☽☀☽☀☽☀☽
――――数十年後。
年を取った僕はもう歩けなくなっていた。
王座にも座れなかった。
目が覚めてもベッドの上。起き上がることはない。
こうなったら、もうそろそろ死ぬのだろう。
そう思いながら、今回の人生を振り返る。
今回の人生ではルーシーと戦うことはなかった。
いつもなら、黒月の魔女の手下となって現れていたのだが、僕らの前に姿を現さなかった。
彼女はどこかで生きているのだろうか?
死んでしまったのだろうか?
「ライアン様」
眠っていると、聞こえてきた僕の名前を呼ぶ声。
それはとてもしわがれていて、小さかった。
だけど、どこか優しい声。
「あ、あ…………」
目の前にはルーシーがいた。
顔にはしわが多くなって、すっかりおばあちゃんになっていたが、確かに彼女はルーシー。
……なぜこんなところに彼女が?
死に際だから夢でも見ているのか?
それとも、僕がもう天国にいて……。
「あの時怒って、あなたの前から去ってごめんなさい」
涙がぽたぽたと落ちてくる。
だが、その涙は僕のじゃない。ルーシーのだった。
「ずっとあなたを愛してた。ずっとあなたのことを思っていた。なのに、私は……ごめんなさい」
ルーシーは謝ってくるが、僕も謝るべきだろう。
あんなことを言って、君は諦めていないのに、僕は勝手に諦めて。
僕の方が圧倒的に悪い。
「僕こそごめん。僕もずっと君をあいし――」
気持ちを伝えようとした瞬間。
「え?」
刺さる音がした。
胸が痛い。
「るぅっ、しぃ……」
槍がルーシーの胸を、僕の胸を突き通っていた。
「アハハ! アハハ!」
ルーシーの背後にいたのはステラ。
赤い瞳をぎらりと光らせる彼女は、僕らを刺す槍を掴んでいた。
ステラが……僕らを…………。
すると、ステラは槍を抜くことなく、悪魔のような笑みを浮かべる。
そして、拍手しながら歌い始めた。
「死んだぁー♪ 死んだぁー♪ 王様死んだぁー♪ 一緒に魔女も死んじゃったっ! アハハ! アハハ!」
ステラの笑い声が響き渡る。
悪魔のような笑い声が痛みとともに響く。
まただ。
きっと、また、最初から…………。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「また始まったね」
新たな人生が始まった。
僕はまたルーシーと出会った。
「また始まった?」
「ほら、また始まったじゃないか。僕らの人生」
ループのことをいつものように話しかけたのだが、彼女はなぜかキョトンとして、首をかしげていた。
まるで何も分からないと言っているように。
「すみません。何の事でしょうか?」
「え、ルーシー。ループのことだよ?」
そう訴えるが、彼女は困ったように、苦笑するだけ。
「ループ……わっかですか?」
「…………」
「違う……輪……それはもしかして魔術の専門用語か何かですか?」
「…………」
「すみません。なんのことだか、私にはちょっと……」
僕はその事実を信じたくなかった。嫌だった。
てっきり今回もルーシーはループしているのかと思っていた。
だけど、違う。
今回のルーシーはループしていない。
これまでのことを全部忘れている。
「僕はまた1人……」
その瞬間、心の奥で、ぷつりと糸が切れる音がした。
「私もびっくりです」
お互いにループしていることに気づいた僕らは、これまでのループのことを話した。
ルーシーと一緒に生きようとしたが、殺されてしまったこと。
ルーシーを生かそうとしても、死んでしまうこと。
やっとルーシーが生きてくれると思ったら、敵対してしまうこと。
ルーシーは涙を流しながらも、最後まで聞いてくれた。
「あんな普通になってしまったけど、僕はずっと好きだった」
「ステラさんをいじめたのに、ですか?」
「そこは……確かに許せないよ」
いじめは許せない。絶対に許せない。
だけど。
「僕も非があったんじゃないかって思う。君に対する態度とか」
「…………」
「今、謝ってすべてが許されるわけじゃないけど……ルーシー、今までごめん」
「私こそ、ライアン様の思いをちゃんと確認せずに、勝手なことをしてごめんなさい」
そうして、謝り合うと、僕らはなぜか笑ってしまった。
ああ……ルーシーと笑い合うなんていつぶりだろう。
「今後はどうしましょう? ライアン様の話からするに、私たちが……その親密にしていると、アース様が急に現れて……」
「えー? 僕がどうしたのー?」
「「!?」」
気づくと、僕の隣にアースがいた。
彼は目を輝かせて、僕らを交互に見てくる。
「ねぇー。なぁーに話してたのー? 僕にも教えてよー」
「……アース、なんでこんなところにいる? 勉強の時間じゃなかったの?」
「あー、抜け出してきちゃったぁー。それよりも兄さんたちが話していたことが知りたーい。教えてよー」
「……それは無理だ」
「なんでー? 話してたのは僕のことでしょー?」
「悪いんだけど言えないんだ」
「…………」
「……そろそろルーシーも帰らないとね。遅くなると、ご両親が心配するし」
ルーシーに視線を送る。
彼女は僕の意図を察してくれて。
「そ、そうですね! では、ライアン様、アース様。私はこれでおいとまさせていただきます……」
と帰ろうとした。
だが。
「え?」
体は動かなかった。
僕もルーシーも。
「な、んで?」
と頑張って立とうとするが、体は動かない。
まるで何かで押さえつけられているよう。
「おい、無理に動くなよ」
少年とは思えない低い声。
その声の主であるアースの瞳は水色から赤に変わって、ぎらりと光っていた。
「動いたら、死ぬよ?」
そう言って、アースは右手をきゅっと絞る。
その手先についていたのは透明な糸。
気づけば、糸は僕らの体を縛っていた。
「アース様、なぜ私たちにこんなことを……」
「ルーシーは意外と冷静だね……その様子だと、君もループしているのか。ふーん」
「……アースもループをしているのか?」
「僕? 僕は残念ながらしていないよー? 前の記憶なんてないねー」
と言って、あっはっはと1人笑うアース。
「この感じだと言う通りにしてもらえなさそうだから、君たちには死んでもらうね!」
アースはぱちんと指を鳴らす。
その瞬間、ルーシーの首がスパッと切れた。
「ルーシー!」
ルーシーの頭がごろんと床に転がる。
そ、そんな……出会って一日目だぞ?
今まで1日目で殺されるなんてことはなかったのに。
動揺が隠せず、かといって何もできず、僕はアースを睨む。
「そんなに睨まなくても、兄さんもルーシーと同じところに送ってあげる!」
「…………」
「じゃあね、兄さん。さようなら!」
その瞬間、糸で首をガッと切られ、視界が横になる。
首から、自分の血が噴き出ているのが見えた。
「全くぅ、あの女神もよくあがくもんだねー」
ああ……。
ルーシーもループしているのが分かったのに。
また、死ぬのか……。
「ねぇ、エフェメリス様?」
そのアースの一言を聞いて、僕は死んだ。
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アースに糸で殺された次の人生。
その人生では僕らは殺されず、アースを捕えることができた。
僕らを殺そうとしていたアースを、ヘルメスに助けてもらい、捕らえたのだ。
これで、僕らを殺す人間はいなくなった。
だが、その後、僕は地下深くの牢屋に足を運んでいた。
「やぁ、兄さん。こんなところに来て、どうしたんだーい?」
アースは牢屋の中でも結構くつろいでいた。
魔法結界があるため、決して外にでることはできないのだが、その狭い牢屋の中でも彼は生き生きとしている。
物がいっぱいあるし……随分とくつろいでいるみたいだな。
自分の魔法で作ったであろうソファに、アースは寝転がっていた。
「兄さんは何も用なしに、僕の顔を見に来たってわけじゃないでしょー?」
「まぁね」
何も用がないのに、殺人者の前に来るわけがない。
僕は単刀直入に聞いた。
「エフェメリスって誰だ?」
前回の人生でのアースの呟き。
それは、まるで誰かに話しかけているかのようだった。
「それは僕らの神様だよ、兄さん」
「……神?」
「そうだよ、兄さん。この王国はあの女神を主神としているけど、僕らの神エフェメリス様は全てが見える神様。あの女神よりも偉大な神様だよ」
「その神がお前に『僕らを殺せ』と言っているのか?」
と問うと、アースは首を横に振った。
「そんな命令、エフェメリス様が出すはずがないじゃーん」
「ではなんと?」
「『正しき道へと修正しなさい』かなぁー? まぁ、兄さんはつくづく正しい道を歩んでくれないみたいだけどね。神はいつも溜息をついているよー」
正しい道というのは、まさかステラを選ぶ道か?
なぜそんなにステラを選ばせようとするんだ?
「それにしても、兄さんたち、最近随分楽しそうにしているんじゃなーい? でも、気を付けた方がいいよー。たとえ、僕を捕えたからといって、油断はしない方がいいかもねー」
アースは悪魔のように、にひっと笑い。
「僕以外にも神の使いはいるんだからさー」
そう僕に忠告してきた。
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「ライアン様、見てください! お魚さんがたくさんいます!」
嬉しそうに声を上げるルーシー。
ラザフォード家が所有している別荘地。
その近くにある湖、僕らはそこに来ていた。
今日はいつもの服装と違い、水着姿。
ルーシーの水着姿はとても綺麗だった。
まぁ、ちょっと目のやり場に困ってしまうことは……あったけど。
殺されるストレスが常にあった僕とルーシー。
だが、アースが捕らえられてからはすっかり安心していた。
もちろん、完全にというわけではない。
アースが以前忠告してくれたように、彼以外にも僕らを殺しにくるキラーが現れるかもしれない。
だから、今回はヘルメスに同行してもらっている。
警戒態勢を維持しつつも、僕らはバカンスを楽しんでいたのだが……。
「ライアン様! これ見てください!」
「わっ!? ルーシー!? そいつをどこで捕まえたの!?」
「え? この子はそこでプカプカと浮かんでいました!」
こ、こいつはステラが捕まえていたものじゃないか。
確か、ステラはミュトスと名付けて、飼い始めて、一時して命令したらその姿に変わることに気づいて「不思議だねー」って話をして。
ある日、冗談で「人間になって」って言ったら、妖精族の王子が現れて……。
「ってこいつ、ギルバートじゃないか!」
「ギルバート? この子の種類の名前はギルバートというのですか? ライアン様は博識ですね!」
「いや、違うよ……そいつはシューニャみたいな感じのものだと思うよ」
「シューニャ、ですか? それは聞いたことのない生き物ですね……」
ルーシーはそのシューニャをつんつんとつつき、そして、抱っこ。
満面の笑みを浮かべて、シューニャを撫でていた。
「……ルーシー、その子をどうするつもり?」
「この子ですか? もちろん、連れて帰ります!」
「つ、つれて帰るの?」
「はい!」
元気よく返答するルーシー。
一緒に返事をするように、シューニャもぴぃーと鳴いた。
連れて帰りたい、か。
かわいいからそうしたい気持ちはわかるんだけど、そのシューニャの中身は男なんだよな。
「それは……やめた方がいいんじゃないかな?」
というと、ルーシーは分かりやすくしょぼんとする。
ああ……がっかりするルーシーも可愛い。
うーむ。仕方ない。
「そ、そのシューニャは狂暴と聞くから、僕が飼うよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
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僕はシューニャを飼い始めた。
正直な感想……ルーシーや以前のステラが引かれるのも分かる。
ミュトスは僕にかなりなついてくれた。
ブラシで撫でると、気持ちよさそうにしていた。
おい、この子の中身は本当に男なのか?
と最初は疑っていたが、一時してからはどうでも良くなっていた。
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「我が名はステラ・マクティア! 魔王に使える闇の支配者!」
――――なぜこうなった。
城下町はすでに炎はつつまれ、王城は崩壊。
空は紫へと変わり、以前の世界とは全く異なっていた。
ムーンセイバー王国はもう国としての形がない。
きっと国民の多くは死んだであろう。
見上げれば、空には魔王に魂を売ったステラと。
「なぜですか!? ステラ・マクティア! なぜあなたのような人が魔王の配下に!」
ルーシーがいた。
「それは当然であろう! 月の聖女よ!」
「当然……?」
「そうだ! あのお方は迷える私に導きをくださった! 当然あの方に使えるのは当たり前であろう!」
「でも、あなたに使えているのは人類の敵、魔王です!」
「魔王ではない! 我が王はミサキ様だ! 間違えるでない!」
ああ……ステラはもう魔王しか眼中にないな。
まるで狂信的な信者のよう。
「月の聖女よ! 我が王の願いのため、国とともに滅びよ!」
まさかステラが敵対すると思っていなかったな。
ステラが魔王につくなんて。
「まずは貴様の王子を殺しておこう!」
ステラは僕を見るなり、手を伸ばしてくる。
「ライアン様! 逃げて!」
ルーシーの叫び声が聞こえるが、動けない。動かなかった。
だが、ステラは手に魔力をため込み、光の玉を作っていき、そして、放った。
「ピィ——!!」
だが、僕は死ななかった。
目の前には白い獣がいた。
「ミュトス!?」
ミュトスが結界を張っていた。
いや、あれはミュトスじゃない――――。
目の前の獣は光を放ち、姿を変えていく。
「ムーンセイバーの王子、僕は男が嫌いなんだけどね」
気づくと僕の前には1人の白髪の少年が立っていた。
「だけど、君は嫌いじゃなかったよ。ライアン」
「君は……」
「僕の名前はギルバート! ギルバート・グラスペディアだ!」
小さな彼だが、ステラの攻撃を結界で押さえていた。
まさか彼が僕らの味方をしてくれるなんて。
妖精族の王子の突然の登場に驚いていた僕だが、やってきたルーシーに逃げようと促された。
「ライアン様、今は逃げましょう!」
「でも、ギルバートが……」
「大丈夫だ! ライアン! ここは任してくれ! ライアン!」
ちらりとこちらを向き、笑うギルバート。
小さな体の彼だが、背中は大きく見えた。
「じゃあね、ライアン! どうか君たちは生きてくれ!」
1人戦うギルバートを置いて、僕とルーシーはその場から逃げた。
☀☽☀☽☀☽☀☽
僕らは逃げた。
でも、魔王は攻撃してきた。
ルーシーは頑張った。
だけど…………。
「でんか、また、ですね」
「…………」
「また、わたしたち……しぬの、ですね」
「きみは死なないよ」
僕らは生きるんだ。
今は魔王のせいで壊された世界だけど、この世界で生きる。
妖精族の王子ギルバートに願われたんだ。生きてくれと。
それにもう……2度目なんて嫌だ。
ルーシーが死ぬところをこれ以上見たくない。
「そんなかおを……なさらないで、ください。つぎはきっと……だいじょうぶ、です」
「ルーシー、死なないで」
「あんしんして……きっと、だいじょう、ぶですから……だ、から…………」
「生きて……お願い……」
次なんて嫌だ。
もう一度なんて、嫌だ。
しかし、彼女の体が徐々に冷たくなっていく。
「ルーシー」
やっとアースを捕まえれたのに。
「ルーシー……起きて。目を覚まして」
ギルバートが僕らを助けてくれたのに。
やっと一緒に暮らしていけると思ったのに。
今回はもう大丈夫だと思ったのに。
ぽたりぽたりと、僕の涙が、ルーシーの顔に落ちてゆく。
「ねぇ……お願いだから。死なないで……一緒に生きて……」
もう彼女は息をしていなかった。
その後、僕も魔王に殺され、死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「また、だね」
「……はい」
その後も、何度も、何度も、何度も、僕らは死んだ。
ステラを選ぶ道しかないように思えた。
それでも、僕らは頑張った。
アースを捕まえて、ステラを捕まえて、ギルバートを仲間にして、黒月の魔女を倒して、魔王を倒して。
僕らの死の原因となるものを除いていった。
でも、いつもどこかで殺される。
酷い時にはいつの間にか死ぬ、なんてこともあった。
抗わなかったら、僕らは静かに死ねるのだろうか?
――――そして、ある人生の時。
「僕らの運命を変えることなんて無理なんだよ、ルーシー」
もう疲れ果てていたんだと思う。
気づけば、そう呟いていた。
「でも、いつかは一緒に……」
「いつか、ね……何度死んだら、君と一緒になれる?」
もうルーシーが死ぬところを見たくなかった。
限界だった。
「これまで100回以上ループをしてきた……でも、君と結婚できたのはいつ? 君と最後まで生きれたのはいつ?」
「…………」
「そんなの1回もなかった。絶対に僕らは殺された」
「…………」
「もう諦めよう、ルーシー。僕らはきっと――」
僕はそこで言葉を止めた。
止めざるを得なかった。
だって、ルーシーが泣いていたのだから。
ループと分かって以降、彼女は泣くことはなかった。
何度酷い目にあっても、何度殺されても。
静かに涙を流すルーシー。
彼女は同時に怒っているようにも見えた。
「わ、私はいつか……ライアン様と一緒に生きていけると思ってた!」
「…………」
「何度死んでも、いつかは神様が私たちに味方してくれるって思ってた!」
「…………」
「でも、ライアン様が……殿下がそうおっしゃるのなら! 諦めましょう! ええ! 諦めましょう!」
ルーシーはバッと立ち上がる。
「さようなら、殿下。また会う時は天国で」
そう言って、彼女は去っていった。
僕は彼女を追いかけなかった。
去っていく彼女を見なかった。
…………これでいい。
こうすればルーシーは生きてくれる。
もう彼女が死ぬところは見なくてすむ。
「僕らはこういう運命にあるんだ……」
その後、僕らはちゃんと話をすることはなかった。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーは毒を使って、ステラを殺そうとした。
また、僕は彼女を国外追放にした。
彼女が笑顔を見せることはなく、姿を消した。
数年後、僕はステラと結婚した。
ステラと結婚しないと、ルーシーが殺される可能性があったから、一応ね。
でも、結婚した後はどうでもよかった。
ただただ幸せだった。
魔王と戦って、子どもを育てて、孫と出会えて。
苦難もあったが、ルーシーと生きようとしていた頃よりもずっと平和だった。
ルーシーとの出来事は単なる幻。
今までのことを全部忘れる。
そして、僕は幸せになる。
だから、ルーシーのことなんて……。
☀☽☀☽☀☽☀☽
――――数十年後。
年を取った僕はもう歩けなくなっていた。
王座にも座れなかった。
目が覚めてもベッドの上。起き上がることはない。
こうなったら、もうそろそろ死ぬのだろう。
そう思いながら、今回の人生を振り返る。
今回の人生ではルーシーと戦うことはなかった。
いつもなら、黒月の魔女の手下となって現れていたのだが、僕らの前に姿を現さなかった。
彼女はどこかで生きているのだろうか?
死んでしまったのだろうか?
「ライアン様」
眠っていると、聞こえてきた僕の名前を呼ぶ声。
それはとてもしわがれていて、小さかった。
だけど、どこか優しい声。
「あ、あ…………」
目の前にはルーシーがいた。
顔にはしわが多くなって、すっかりおばあちゃんになっていたが、確かに彼女はルーシー。
……なぜこんなところに彼女が?
死に際だから夢でも見ているのか?
それとも、僕がもう天国にいて……。
「あの時怒って、あなたの前から去ってごめんなさい」
涙がぽたぽたと落ちてくる。
だが、その涙は僕のじゃない。ルーシーのだった。
「ずっとあなたを愛してた。ずっとあなたのことを思っていた。なのに、私は……ごめんなさい」
ルーシーは謝ってくるが、僕も謝るべきだろう。
あんなことを言って、君は諦めていないのに、僕は勝手に諦めて。
僕の方が圧倒的に悪い。
「僕こそごめん。僕もずっと君をあいし――」
気持ちを伝えようとした瞬間。
「え?」
刺さる音がした。
胸が痛い。
「るぅっ、しぃ……」
槍がルーシーの胸を、僕の胸を突き通っていた。
「アハハ! アハハ!」
ルーシーの背後にいたのはステラ。
赤い瞳をぎらりと光らせる彼女は、僕らを刺す槍を掴んでいた。
ステラが……僕らを…………。
すると、ステラは槍を抜くことなく、悪魔のような笑みを浮かべる。
そして、拍手しながら歌い始めた。
「死んだぁー♪ 死んだぁー♪ 王様死んだぁー♪ 一緒に魔女も死んじゃったっ! アハハ! アハハ!」
ステラの笑い声が響き渡る。
悪魔のような笑い声が痛みとともに響く。
まただ。
きっと、また、最初から…………。
☀☽☀☽☀☽☀☽
「また始まったね」
新たな人生が始まった。
僕はまたルーシーと出会った。
「また始まった?」
「ほら、また始まったじゃないか。僕らの人生」
ループのことをいつものように話しかけたのだが、彼女はなぜかキョトンとして、首をかしげていた。
まるで何も分からないと言っているように。
「すみません。何の事でしょうか?」
「え、ルーシー。ループのことだよ?」
そう訴えるが、彼女は困ったように、苦笑するだけ。
「ループ……わっかですか?」
「…………」
「違う……輪……それはもしかして魔術の専門用語か何かですか?」
「…………」
「すみません。なんのことだか、私にはちょっと……」
僕はその事実を信じたくなかった。嫌だった。
てっきり今回もルーシーはループしているのかと思っていた。
だけど、違う。
今回のルーシーはループしていない。
これまでのことを全部忘れている。
「僕はまた1人……」
その瞬間、心の奥で、ぷつりと糸が切れる音がした。
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