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第3章 学園編
85 ??視点:希望 && 絶望 前編
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人生をやり直しても、ルーシーとの幸せな結婚生活は送れない。
すぐに君の命は散る。
僕はルーシーと一緒に生きられない。
人生を繰り返す中、そのことに気づいた僕は、2人で生きるのを諦めた。
本当は惜しい。諦めたくない。
だけど、これ以上ルーシーが死ぬのを見たくなかった。
おかしくなりそうだった。
だから、人生を一緒にできないのなら、せめて近くでルーシーが幸せに生きていてほしい。
そう願った僕は、ルーシーが弟のエドガーと結ばれるよう、誘導した。
ルーシーの婚約者とならないよう、陛下にエドガーの方に婚約の話を進めさせ。
「ルーシー、エドガー、婚約おめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
「兄さん、ありがとう」
2人は婚約した。
好きなのに、一番近くにはいられない。
正直、つらかった。
しかも、ルーシーの婚約者は自分の弟。
僕は本当はルーシーを愛してるのに。
その自分の感情を抑え込むので必死だった。苦しかった。
――――でも、ある日。
王城の庭で、ルーシーを見かけた。
エドガーといた。
笑顔だった。幸せそうだった。
その瞬間、僕はこれでよかったんだと思った。
ルーシーの隣は僕じゃない。
だとしても、君が生きてくれるのなら、幸せでいてくれるのなら。
僕はそれで――――。
ダメだった。
ルーシーは死んだ。
エドガーとともに殺されていた。
今日が結婚式だった。
エドガーの部屋には血だらけの2人の死体。
真っ白なウエディングドレスとタキシードは赤く染まっていた。
そして、その近くには。
「やぁ、兄さん」
「…………お前がやったのか」
弟のアースがいた。
またあの大鎌を持っていた。
死神のようだった。
「そうだよ。これを見て、他に誰がいるのさー」
彼はにひっと口角を上げる。
「兄さんはなぜそんなに悲しそうなのー?」
「…………」
「ふーん。答えてくれない、か。まぁいいや。とりあえず、僕は兄さんに神様からの伝言を言っておかなきゃねー」
「?」
「ええと――」
いくらあがいたって無駄だよ――だってさ。アハハ。
「僕にはさっぱり意味が分からないけど」
「…………」
「兄さんには分かるのでしょう?」
あがいたって無駄……つまり何もかも諦めてステラを選べと。
でも、選んでどうなる?
その先は、ルーシーを国外追放するじゃないか。
…………嫌だ。
ルーシーが遠くに行くのは嫌だ。
一緒に生きていけないとしても、僕の近くにいてほしい。
「もう一度」
僕はまた自分の首を切った。
☀☽☀☽☀☽☀☽
何度かルーシーとエドガーが結ばれるようにした。
だが、彼女は死ぬ。酷い時には2人とも死ぬ。
別の人ならどうかと思って、友人だったカイルと結ばれるよう、誘導。
なかなか難しかったけど、上手く立ち回って、ルーシーをカイルと婚約するようにした。
幸運なことにエドガーの時とは違って、2人は結婚できた。
「2人ともおめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
結婚式でのルーシーはとても幸せそうだった。
世界で一番綺麗な花嫁だった。
ああ……これでもうルーシーは生きて――。
ルーシーが死んだ。
だが、今回は殺されてはいなかった。
2人は事故死した。
新婚旅行に行く途中だったらしい。
2人が乗った馬車が崖から転落した。
「アハハ……運命すら僕の味方をしないのか」
それを聞いた僕は笑いながら、ベランダに出た。
「もう一度」
そして、飛び降りて、死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーとカイルには家の外に出ないように忠告した。
新婚旅行に行きたいのは分かるが、なんとか家にとどまってもらった。
これで大丈夫。
事故死なんてしない。
――――ダメだった。
殺された。
アースはずっと監視していたため、今回の犯人は彼じゃない。
一体、誰がルーシーを殺したんだ?
見当がつかなかった。
その後事件現場を調べたが、犯人の手掛かりになるようなものは出なかった。
ただ――――。
『そんなことをしても無駄だよ、王子様』
と2人の死体の近くに、血で書かれていた。
アースのような神の使者がやったのは分かった。
エドガーやカイルと一緒になってもらっても、ルーシーは死ぬのかもしれない。意味がないのかもしれない。
「もう一度」
僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーが生きた。
死ななかった。
だけど…………。
「国外追放とする!」
その人生は初めの人生を同じものだった。
ステラと僕が結ばれ、ルーシーは国外追放。
唯一といっていい、ルーシーが生きてくれる道だった。
だから、神様は僕に諦めろと言っていたのだろうか。
…………もうこれでいいんじゃないか。
どこかでルーシーは生きてくれているのだから。
――――数ヶ月後。
「なぜ、君が……」
魔王との大戦争時に、ルーシーが敵となって現れた。
月の聖女の素質があったらしく、彼女は黒月の魔女の下で動いていた。
ルーシーは魔女と同じような黒のローブをまとい、宙に浮いていた。
僕らを見下ろしていた。
「なぜって……」
彼女は首を傾げ、フッと鼻で笑う。
「それは当たり前でしょう? だって、あなたたちが呼ぶ“黒月の魔女”って私の大叔母様だもの」
「え?」
黒月の魔女がルーシーの大叔母?
まさか黒月の魔女がルーシーの親族だというのか?
だとしたら、陛下から聞いてるはずだ。
そんな大切なこと。
一度も聞いたことがない。
すると、ルーシーははぁと大きなため息をつく。
「みんな、私を裏切った……あなたもお父様もお母様もキーランも私を捨てた。だけど、大叔母様だけは違ったわ! 私の苦しみを理解してくれた!」
彼女はバッと手を広げ、魔法展開をしていく。空に魔法陣が浮かび上がった。
あれが月の聖女の力――――。
「さぁ、裏切者。あなたたちは全てここで死せるがいい」
「ライアン様! 逃げて!」
ステラの叫び声が聞こえるが、もう僕の体は動かなかった。
涙が止まらなかった。
ルーシーの苦しみはよく分かるから。
自分が裏切者なのは全くその通りだから。
ごめんね、ルーシー。
僕が近くにいてあげれなくて、ごめん。
「さようなら、僕の愛する人」
彼女が生きて、僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーは月の聖女の素質があった。
だが、前回の彼女は魔王側についた。あの魔女に取り込まれてしまった。
でも、先にルーシーが月の聖女であることを知っておけば、違ったのかもしれない。
魔王側につくこともなかったのかもしれない。
そう考えた僕は、出会った瞬間、ルーシー自身に月の聖女の力があることを伝えた。
初めは半信半疑だったルーシー。
だか、僕は何度も訴えるうちに、彼女は聖女の力を自覚。
徐々に月の聖女を使えるようになり、国内で聖女として認められるようになった。
これなら、ルーシーは魔王側につくこともない。
それに、もし、誰かが殺しにこようとしても、聖女の力を使って対抗できる。
と思っていたが――――。
「まーさか、私以外に月の聖女がいるなんてねぇ?」
突然王城にやってきた黒月の魔女。
彼女はルーシーを見るなり、襲ってきた。
だが、ルーシーは力が使えるようになっていたため、対抗。
「くっ!」
「アハハ、あなたまだ弱いわね!」
誰も手出しはできなかった。
ルーシーの魔法展開もそれなりに早いのだが、魔女も早く、目が追い付かない。
僕らが手を出したら、それこそルーシーの邪魔になる。
でも、助けないと……。
と葛藤していると、突然魔女が魔法攻撃を止めた。
ルーシーは攻撃を止めないが、ひらりひらりと交わす彼女は「うーん」と声を漏らし、悩み始めて、そして。
「ねぇ、あなた、私の弟子にならなくて?」
とルーシーを誘ってきた。
「お断りいたします。魔王側につくなんて、嫌なので」
「そう……私の誘いを断るというのね…………なら、死になさいっ! テーネブラモルス!」
魔女が即死魔法を放ってきたが、ルーシーはうまくレジスト。
上手くいかなかったのにいらついたのか、魔女はチッと舌打ちする。
「小賢しい小娘ね。なら、先に未来の王様から殺しておきましょう! テーネブラモルス!」
先ほどよりも威力の強い即死魔法。
「え?」
それがこちらにまっすぐ向かって来ていた。
だが、僕がそれを受けることはなく、目の前にきたルーシーが受けた。
即死魔法をバリアで受け止めていた。
「ルーシー?」
「ライアン様、今のうちにお逃げください!」
「でも……」
「早く!」
魔法に耐えながら、そう叫んでくるルーシー。
そうか。
よけると僕にあたって、邪魔になるから、逃げろって言ってるのか。
と考え走ったが、僕が離れた瞬間、パリンっとバリアが割れた。
「ルーシー!」
その即死魔法はルーシーに直撃。
そして、彼女の体は地面にぱたりと倒れた。
僕は急いで彼女のところに向かい、体を抱きかかえる。
僕をかばわなかったらこんなことにはならなかったのに……。
ルーシーはもう息をしていなかった。
髪も顔もボロボロだった。
カツ、カツとヒールの音が響く。近づいてくる。
顔を上げると、魔女がいた。
黒のフードの中にはルーシーと同じ銀髪があった。
「安心しなさい。あなたもこの子と同じところに送ってあげるわ」
「……そうしてくれ」
僕は魔女に殺された。
☀☽☀☽☀☽☀☽
婚約を破棄する前に僕は何度かルーシーに月の聖女であることを伝えた。
しかし、全部ダメ。
黒月の魔女が僕らを殺しに来た。
また、婚約破棄をした後に伝えてみた。
だが、それもダメだった。
なぜかルーシーが暴走して、国が滅ぼされた。
僕は何とか逃げ切ったが、国民の多くは殺され、陛下も殺された。
それでも、僕の声は届くのかもしれない。
僕ならルーシーを止められるかもしれない。
そんな愚かな期待を抱いて、炎に包まれた王城をかけて、彼女の所に向かう。
彼女は城の上空であたり一帯を見渡していた。
ルーシーの瞳は黒く、聖女というより怪物と化していた。
「…………ルーシー?」
城を、人々を、街を光線で壊していくルーシー。
声をかけると、彼女の手は止まり、僕の方を向いてくれた。
「ルーシー? 僕だよ? ライアンだよ?」
彼女ははぁとため息をつき、黒い息を吐いた。
「私を裏切った愚かな王子か」
「……それはごめんなさい。本当は君が好きだった」
「なら、なぜ私ではなく彼女を選んだ」
「それは…………」
君に生きていて欲しかったから。
死んでほしくなかったから。
でも、それが答えられずに黙っていると、空から一雫落ちてきた。
それはルーシーの涙だった。
彼女は泣いていた。静かに涙を流していた。
ルーシーにはまだちゃんと意識が――――。
「散れ――」
その瞬間、ルーシーの光線で、僕は殺された。
☀☽☀☽☀☽☀☽
その後、何度か始めのような人生を繰り返した。
神様が言ってきたように、僕がステラと一緒になる道を選ぶ、そして、ルーシーを国外追放させると、彼女は生きてくれた。
「私の裏切者、死せろ」
でも、その後、かなりの頻度でルーシーとは敵対。
彼女は黒月の魔女の手下となった。
ルーシーを殺す道しかないのだろうか。
ただ僕は彼女が生きていてほしいだけなのに。
そして、前回の人生で僕はまたルーシーに殺された。
正直、死に慣れすぎて何も思わなかった。
そして、今。
また、あの庭に向かっていた。
今日は今回の人生において初めてルーシーと出会う日。
彼女はまた笑顔で僕を待っているのだろうか?
また僕は彼女の笑顔を見て苦しくなってしまうのだろうか?
なんてことを考えながら、僕は彼女の所に向かった。
「あの……ルーシー?」
だけど、彼女は僕に挨拶してこない。
僕をじっと見ていた。笑顔はない。
いつもなら、元気に挨拶してくるところなのに……。
一時して、ルーシーは立ち上がり、僕の所に近づいてきて。
「え?」
抱き着いてきた。
突然のことにどうしていいか分からず、僕はルーシーを受け止める。
だが、彼女は嬉しそうではなく。
「ライアン様……ごめんなさい……あんなことをしてごめんなさい」
嗚咽を漏らしながら、謝ってきた。
何が何やら分からず、僕はルーシーをぎゅっと抱きしめる。
彼女を抱きしめるなんて、いつぶりだろう。
一時して、ルーシーはこちらに顔を向けてくれた。
紫の瞳には涙で溢れていた。
「私、本当はあんなことを……したくなかったのに! なのに、私はライアン様を殺すなんて…………」
ルーシーが僕を殺す……。
前回の人生のことを話しているのか?
え? うそ?
僕はてっきり自分だけがループしているのだと思っていた。
「君もループしているの?」
そう尋ねると、ルーシーの泣き声は止まった。
驚いた顔でこちらを見る。
「ループというものが……転生のようなものだとしたら、はい。しています。前のことも覚えています……」
「ルーシー!」
その瞬間、僕はぎゅっとルーシーを抱きしめた。
さっきよりも強く抱きしめる。
彼女は「わわっ!」と声を上げたが、僕は嬉しくてたまらず、涙が溢れてくる。
「ルーシーも前のことを覚えているんだね!」
「はい! 覚えています!」
繰り返す人生の中、僕はずっと1人だった。
ルーシーが死んでいく絶望感もあったが、同時に寂しさもあった。
でも、もう1人じゃない。
そのルーシーのループは僕にとっての希望だった。
すぐに君の命は散る。
僕はルーシーと一緒に生きられない。
人生を繰り返す中、そのことに気づいた僕は、2人で生きるのを諦めた。
本当は惜しい。諦めたくない。
だけど、これ以上ルーシーが死ぬのを見たくなかった。
おかしくなりそうだった。
だから、人生を一緒にできないのなら、せめて近くでルーシーが幸せに生きていてほしい。
そう願った僕は、ルーシーが弟のエドガーと結ばれるよう、誘導した。
ルーシーの婚約者とならないよう、陛下にエドガーの方に婚約の話を進めさせ。
「ルーシー、エドガー、婚約おめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
「兄さん、ありがとう」
2人は婚約した。
好きなのに、一番近くにはいられない。
正直、つらかった。
しかも、ルーシーの婚約者は自分の弟。
僕は本当はルーシーを愛してるのに。
その自分の感情を抑え込むので必死だった。苦しかった。
――――でも、ある日。
王城の庭で、ルーシーを見かけた。
エドガーといた。
笑顔だった。幸せそうだった。
その瞬間、僕はこれでよかったんだと思った。
ルーシーの隣は僕じゃない。
だとしても、君が生きてくれるのなら、幸せでいてくれるのなら。
僕はそれで――――。
ダメだった。
ルーシーは死んだ。
エドガーとともに殺されていた。
今日が結婚式だった。
エドガーの部屋には血だらけの2人の死体。
真っ白なウエディングドレスとタキシードは赤く染まっていた。
そして、その近くには。
「やぁ、兄さん」
「…………お前がやったのか」
弟のアースがいた。
またあの大鎌を持っていた。
死神のようだった。
「そうだよ。これを見て、他に誰がいるのさー」
彼はにひっと口角を上げる。
「兄さんはなぜそんなに悲しそうなのー?」
「…………」
「ふーん。答えてくれない、か。まぁいいや。とりあえず、僕は兄さんに神様からの伝言を言っておかなきゃねー」
「?」
「ええと――」
いくらあがいたって無駄だよ――だってさ。アハハ。
「僕にはさっぱり意味が分からないけど」
「…………」
「兄さんには分かるのでしょう?」
あがいたって無駄……つまり何もかも諦めてステラを選べと。
でも、選んでどうなる?
その先は、ルーシーを国外追放するじゃないか。
…………嫌だ。
ルーシーが遠くに行くのは嫌だ。
一緒に生きていけないとしても、僕の近くにいてほしい。
「もう一度」
僕はまた自分の首を切った。
☀☽☀☽☀☽☀☽
何度かルーシーとエドガーが結ばれるようにした。
だが、彼女は死ぬ。酷い時には2人とも死ぬ。
別の人ならどうかと思って、友人だったカイルと結ばれるよう、誘導。
なかなか難しかったけど、上手く立ち回って、ルーシーをカイルと婚約するようにした。
幸運なことにエドガーの時とは違って、2人は結婚できた。
「2人ともおめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
結婚式でのルーシーはとても幸せそうだった。
世界で一番綺麗な花嫁だった。
ああ……これでもうルーシーは生きて――。
ルーシーが死んだ。
だが、今回は殺されてはいなかった。
2人は事故死した。
新婚旅行に行く途中だったらしい。
2人が乗った馬車が崖から転落した。
「アハハ……運命すら僕の味方をしないのか」
それを聞いた僕は笑いながら、ベランダに出た。
「もう一度」
そして、飛び降りて、死んだ。
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ルーシーとカイルには家の外に出ないように忠告した。
新婚旅行に行きたいのは分かるが、なんとか家にとどまってもらった。
これで大丈夫。
事故死なんてしない。
――――ダメだった。
殺された。
アースはずっと監視していたため、今回の犯人は彼じゃない。
一体、誰がルーシーを殺したんだ?
見当がつかなかった。
その後事件現場を調べたが、犯人の手掛かりになるようなものは出なかった。
ただ――――。
『そんなことをしても無駄だよ、王子様』
と2人の死体の近くに、血で書かれていた。
アースのような神の使者がやったのは分かった。
エドガーやカイルと一緒になってもらっても、ルーシーは死ぬのかもしれない。意味がないのかもしれない。
「もう一度」
僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーが生きた。
死ななかった。
だけど…………。
「国外追放とする!」
その人生は初めの人生を同じものだった。
ステラと僕が結ばれ、ルーシーは国外追放。
唯一といっていい、ルーシーが生きてくれる道だった。
だから、神様は僕に諦めろと言っていたのだろうか。
…………もうこれでいいんじゃないか。
どこかでルーシーは生きてくれているのだから。
――――数ヶ月後。
「なぜ、君が……」
魔王との大戦争時に、ルーシーが敵となって現れた。
月の聖女の素質があったらしく、彼女は黒月の魔女の下で動いていた。
ルーシーは魔女と同じような黒のローブをまとい、宙に浮いていた。
僕らを見下ろしていた。
「なぜって……」
彼女は首を傾げ、フッと鼻で笑う。
「それは当たり前でしょう? だって、あなたたちが呼ぶ“黒月の魔女”って私の大叔母様だもの」
「え?」
黒月の魔女がルーシーの大叔母?
まさか黒月の魔女がルーシーの親族だというのか?
だとしたら、陛下から聞いてるはずだ。
そんな大切なこと。
一度も聞いたことがない。
すると、ルーシーははぁと大きなため息をつく。
「みんな、私を裏切った……あなたもお父様もお母様もキーランも私を捨てた。だけど、大叔母様だけは違ったわ! 私の苦しみを理解してくれた!」
彼女はバッと手を広げ、魔法展開をしていく。空に魔法陣が浮かび上がった。
あれが月の聖女の力――――。
「さぁ、裏切者。あなたたちは全てここで死せるがいい」
「ライアン様! 逃げて!」
ステラの叫び声が聞こえるが、もう僕の体は動かなかった。
涙が止まらなかった。
ルーシーの苦しみはよく分かるから。
自分が裏切者なのは全くその通りだから。
ごめんね、ルーシー。
僕が近くにいてあげれなくて、ごめん。
「さようなら、僕の愛する人」
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だが、前回の彼女は魔王側についた。あの魔女に取り込まれてしまった。
でも、先にルーシーが月の聖女であることを知っておけば、違ったのかもしれない。
魔王側につくこともなかったのかもしれない。
そう考えた僕は、出会った瞬間、ルーシー自身に月の聖女の力があることを伝えた。
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だか、僕は何度も訴えるうちに、彼女は聖女の力を自覚。
徐々に月の聖女を使えるようになり、国内で聖女として認められるようになった。
これなら、ルーシーは魔王側につくこともない。
それに、もし、誰かが殺しにこようとしても、聖女の力を使って対抗できる。
と思っていたが――――。
「まーさか、私以外に月の聖女がいるなんてねぇ?」
突然王城にやってきた黒月の魔女。
彼女はルーシーを見るなり、襲ってきた。
だが、ルーシーは力が使えるようになっていたため、対抗。
「くっ!」
「アハハ、あなたまだ弱いわね!」
誰も手出しはできなかった。
ルーシーの魔法展開もそれなりに早いのだが、魔女も早く、目が追い付かない。
僕らが手を出したら、それこそルーシーの邪魔になる。
でも、助けないと……。
と葛藤していると、突然魔女が魔法攻撃を止めた。
ルーシーは攻撃を止めないが、ひらりひらりと交わす彼女は「うーん」と声を漏らし、悩み始めて、そして。
「ねぇ、あなた、私の弟子にならなくて?」
とルーシーを誘ってきた。
「お断りいたします。魔王側につくなんて、嫌なので」
「そう……私の誘いを断るというのね…………なら、死になさいっ! テーネブラモルス!」
魔女が即死魔法を放ってきたが、ルーシーはうまくレジスト。
上手くいかなかったのにいらついたのか、魔女はチッと舌打ちする。
「小賢しい小娘ね。なら、先に未来の王様から殺しておきましょう! テーネブラモルス!」
先ほどよりも威力の強い即死魔法。
「え?」
それがこちらにまっすぐ向かって来ていた。
だが、僕がそれを受けることはなく、目の前にきたルーシーが受けた。
即死魔法をバリアで受け止めていた。
「ルーシー?」
「ライアン様、今のうちにお逃げください!」
「でも……」
「早く!」
魔法に耐えながら、そう叫んでくるルーシー。
そうか。
よけると僕にあたって、邪魔になるから、逃げろって言ってるのか。
と考え走ったが、僕が離れた瞬間、パリンっとバリアが割れた。
「ルーシー!」
その即死魔法はルーシーに直撃。
そして、彼女の体は地面にぱたりと倒れた。
僕は急いで彼女のところに向かい、体を抱きかかえる。
僕をかばわなかったらこんなことにはならなかったのに……。
ルーシーはもう息をしていなかった。
髪も顔もボロボロだった。
カツ、カツとヒールの音が響く。近づいてくる。
顔を上げると、魔女がいた。
黒のフードの中にはルーシーと同じ銀髪があった。
「安心しなさい。あなたもこの子と同じところに送ってあげるわ」
「……そうしてくれ」
僕は魔女に殺された。
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婚約を破棄する前に僕は何度かルーシーに月の聖女であることを伝えた。
しかし、全部ダメ。
黒月の魔女が僕らを殺しに来た。
また、婚約破棄をした後に伝えてみた。
だが、それもダメだった。
なぜかルーシーが暴走して、国が滅ぼされた。
僕は何とか逃げ切ったが、国民の多くは殺され、陛下も殺された。
それでも、僕の声は届くのかもしれない。
僕ならルーシーを止められるかもしれない。
そんな愚かな期待を抱いて、炎に包まれた王城をかけて、彼女の所に向かう。
彼女は城の上空であたり一帯を見渡していた。
ルーシーの瞳は黒く、聖女というより怪物と化していた。
「…………ルーシー?」
城を、人々を、街を光線で壊していくルーシー。
声をかけると、彼女の手は止まり、僕の方を向いてくれた。
「ルーシー? 僕だよ? ライアンだよ?」
彼女ははぁとため息をつき、黒い息を吐いた。
「私を裏切った愚かな王子か」
「……それはごめんなさい。本当は君が好きだった」
「なら、なぜ私ではなく彼女を選んだ」
「それは…………」
君に生きていて欲しかったから。
死んでほしくなかったから。
でも、それが答えられずに黙っていると、空から一雫落ちてきた。
それはルーシーの涙だった。
彼女は泣いていた。静かに涙を流していた。
ルーシーにはまだちゃんと意識が――――。
「散れ――」
その瞬間、ルーシーの光線で、僕は殺された。
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その後、何度か始めのような人生を繰り返した。
神様が言ってきたように、僕がステラと一緒になる道を選ぶ、そして、ルーシーを国外追放させると、彼女は生きてくれた。
「私の裏切者、死せろ」
でも、その後、かなりの頻度でルーシーとは敵対。
彼女は黒月の魔女の手下となった。
ルーシーを殺す道しかないのだろうか。
ただ僕は彼女が生きていてほしいだけなのに。
そして、前回の人生で僕はまたルーシーに殺された。
正直、死に慣れすぎて何も思わなかった。
そして、今。
また、あの庭に向かっていた。
今日は今回の人生において初めてルーシーと出会う日。
彼女はまた笑顔で僕を待っているのだろうか?
また僕は彼女の笑顔を見て苦しくなってしまうのだろうか?
なんてことを考えながら、僕は彼女の所に向かった。
「あの……ルーシー?」
だけど、彼女は僕に挨拶してこない。
僕をじっと見ていた。笑顔はない。
いつもなら、元気に挨拶してくるところなのに……。
一時して、ルーシーは立ち上がり、僕の所に近づいてきて。
「え?」
抱き着いてきた。
突然のことにどうしていいか分からず、僕はルーシーを受け止める。
だが、彼女は嬉しそうではなく。
「ライアン様……ごめんなさい……あんなことをしてごめんなさい」
嗚咽を漏らしながら、謝ってきた。
何が何やら分からず、僕はルーシーをぎゅっと抱きしめる。
彼女を抱きしめるなんて、いつぶりだろう。
一時して、ルーシーはこちらに顔を向けてくれた。
紫の瞳には涙で溢れていた。
「私、本当はあんなことを……したくなかったのに! なのに、私はライアン様を殺すなんて…………」
ルーシーが僕を殺す……。
前回の人生のことを話しているのか?
え? うそ?
僕はてっきり自分だけがループしているのだと思っていた。
「君もループしているの?」
そう尋ねると、ルーシーの泣き声は止まった。
驚いた顔でこちらを見る。
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「ルーシー!」
その瞬間、僕はぎゅっとルーシーを抱きしめた。
さっきよりも強く抱きしめる。
彼女は「わわっ!」と声を上げたが、僕は嬉しくてたまらず、涙が溢れてくる。
「ルーシーも前のことを覚えているんだね!」
「はい! 覚えています!」
繰り返す人生の中、僕はずっと1人だった。
ルーシーが死んでいく絶望感もあったが、同時に寂しさもあった。
でも、もう1人じゃない。
そのルーシーのループは僕にとっての希望だった。
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