上 下
83 / 89
第3章 学園編

83 壊れた王子様

しおりを挟む
 どうも、皆様。
 私はルーシー・ラザフォード。悪役令嬢です。
 先ほど冤罪をかけられて婚約破棄をされた私ですが。

 なんと、なんと。
 乙ゲー主人公ステラから突然の告白プロポーズされて、アストレアに行こうと誘われて。
 
 さらに、攻略対象者の4人とステラが転生者であることを知って。
 そして、今。

 「アハハ! アハハ!」

 元婚約者が狂い笑っています。
 はて? どういうことなのでしょう?
 正直もう私の頭はパンクです。
 
 情報量があまりにも多すぎる。
 何がおかしいのか笑い続けているライアンは笑い過ぎて涙を出ているようだった。
 
 「アハハ! アハハ!」

 あんなライアン見たことがない……なんかちょっと怖い。
 一時笑い続けた後。

 「もうどうなってもいいや」

 と言ってライアンは立ち上がり、ゆっくりとあたりを見渡す。
 そして、彼に話しかけた。

 「ねぇ、アース」
 「なんだーい?」
 「君はルーシーを殺さない?」

 ライアンの質問に、アースは一瞬目を丸くさせたが、フフと笑みをこぼす。

 「殺すわけないじゃーん。なんでそんなこと聞くのさー」
 「一応だよ。ステラ、君もルーシーを殺さない?」
 「……何言ってんだ。当たり前だろ」
 「君、転生者って言ってたけど、ホント?」
 「ああ、本当だ。証明してやる」

 証明って。
 すると、ステラは私に目を向けてきた。

 「ごめん、ルーシー。ミュトス出してくれる?」
 「え、あ、はい」

 服の下にしまっていたペンダントを取り出し、ミュトスを呼び出す。
 ミュトスは相変わらず元気で、私の足にすりついてきた。
 出したのはいいけど、ステラは一体何をするつもりなのだろう。

 「ルーシー、ミュトスに『人間になって』って言ってみて」
 「え?」
 「ミュトスは何にだって変幻できるんでしょ? 大丈夫、ミュトスなら人間になってくれる」
 
 美しい顔でにこりと笑いかけてくるステラ。
 ミュトスにそんなお願いしたことがないけど、ステラがそう言うのなら。
 私は言われるままに、ミュトスに命令。

 「ミュトス、人間になって!」

 その瞬間、ミュトスから大きな光が放たれる。
 その光は強く眩しいあまりに目を瞑る。
 ちょっとすると、光は収まってくれた。

 「ふぅー!」
 「え?」
 「なっ!?」

 目の前にいたのは小さな男の子。
 輝かしい白髪を持つ美少年。
 幸い裸ではなく、彼はアラビアン的な白い服を着ていた。

 「やっーと元の姿に戻れたよ!」

 とっても嬉しそうな美少年くんは自分の身なりを確認。
 その後、黄緑色の瞳でこちらをじっと見つめてきた。

 ……な、なぜこちらを見つめる。

 ま、まぁ?
 私がミュトスを呼び出したから、当たり前と言えば当たり前か。
 え? もしかして、私のことが誰か分からない?
 それはちょっと悲しいかも。

 なんて考えていると、美少年くんは満面の笑みで私に抱き着いてきた。

 「やっーとお会いできました! 姉様!」
 「え?」

 ね、姉様ですと? 
 誰が?
 私が!?

 困惑していると、ミュトスを人間にさせたステラも「こ、子どもだって?」と驚いていた。
 
 「こ、この子は妖精族グラスペディア族の王子、ギルバート・グラスペディアだ」
 「そうだよ! 姉様、ボクのことはギルって呼んで! お願い!」
 「え、ええ……」
 「ありがとう! 姉様! 姉様、大好き!」
 「……ちょっと、ギルバート王子、それ以上ルーシーに近づかないでくれる?」

 ステラがそう言うと、瞬時にギルは目を変える。
 まるで鷹の目。可愛らしい少年なのに、その目には威圧感があった。

 「え? なぜ? ボクの姉様なのに」
 「実際の姉様じゃないだろう」
 「血は繋がっていないけど、姉様はボクの姉様だよ。だよね、姉様?」

 うーん。
 自分のペットが途端に人間に変わって、その子から『姉様』と言われてもね。
 美少年ギルは驚くほど、押しが強く、私はつい「ええ」と返答してしまった。

 隣のステラもはぁとため息をついた。

 「それで、ライアン王子。あんたも転生者なのなら、僕のやったことの意味分かるだろう」
 「ああ、君が転生者であることは分かったよ」
 「じゃあ、もう用はないよね? ルーシー、行こうか」
 「姉様、ボクもついていきますね!」
 「ちょっとギルバート王子。君はついて来ないでよ」
 「えー? アストレアに行くのでしょう? ボクの故郷はアストレアにありますし、ルーシー姉様はボクの姉様ですから、もちろんついていきますよ。星の聖女様?」

 と言って、ギルは私の左手を離さない。
 ……な、なんと押しの強い子。

 「厄介な子だな。君を人間の姿にするんじゃなかったよ」

 苛立っているのか、ステラは口角をぴくぴく上げる。
 そうして、私はステラに引っ張られ、食堂の出口へを向かう。

 ど、どうしよう。
 このままアストレアに行くのかしら。
 確かに私は1人アストレアに行こうとしていた。
 けど、ステラと行くなんて考えていなかったし、あまりにも急すぎて、頭が追い付いていない。

 しかし、ステラに言い出せず悩んでいると。
 目の前の景色がガラリと変わった。ステラとギルの手が一瞬にして離れる。

 「ルーシー!?」「姉様!?」

 私を呼ぶステラとギルの声。
 彼らの声は遠くなり、視界は暗くなった。
 
 ……なんだか温かい。花の香りもする。

 ――――この香り、知ってる。

 顔を上げると、天井窓から差し掛かってくる光が目に入った。
 同時に暗い影も見えた。逆光で顔が見えない。
 
 ――――誰?
 
 「え?」

 そこにはライアンの顔があった。彼は優しい柔らかな笑みを浮かべている。
 気づけば、私はライアンの中にいた。
 抱きしめられていた。

 「え? え? え?」

 転移させられた?
 今ライアンにハグされてる?
 なんで? なんで? なんで?

 ライアンの魔法によってか、浮いていた私たちは静かに地面に着地する。
 みんなの目線が私たちに集中していたけど、そんなのどうでもよかった。

 「ルーシー。本当にごめん。今までごめん」

 彼はなぜか謝った。小さな声だけど、何度も何度も謝ってくる。
 正直、意味が分からなかった。

 「ちょっ! お前! ルーシーとの婚約、解消したんだろ! とっとと、ルーシーから離れろ!」

 ステラは私とライアンを引き離そうとする。
 しかし、ライアンはそれを舞うように避けられた。
 彼に連れられて、私もくるりと回転。

 そんな状況でも、ライアンは気にすることなく、真っすぐにこちらを見てくる。微笑んでくる。
 
 こ、この人誰?
 今までに見たことない美しい笑顔が目の前にあるんだけど?
 
 「ずっと君と話したかったよ」

 優しい声でそう言ってくるライアン。

 「ずっと君が好きだったよ」

 だけど、彼の水色の瞳には涙があった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢とおねぇ執事

As-me.com
恋愛
完結しました。 セリィナは幼いときに暴漢に襲われたショックで、前世の記憶を思い出す。 なんとセリィナは乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたのだ! ヒロインが現れる未来では、回りの人間は家族すらも全部がセリィナの敵!このままでは信じていた家族に見捨てられ殺されてしまう……。セリィナは人間不信になってしまった。 唯一平気なのはセリィナの専属執事ライルだけ……。ゲームには存在しないはずのライルは、おねぇだけどセリィナにとっては大切な人になっていく。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...