【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

81 ?視点:全ては婚約破棄のために ⑧

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 前回の落書き騒動があって以降。
 僕はルーシーから距離を置かれていた。
 出会った時から少し距離を置かれている節があったけど、今回はかなり明白だった。

 それもそうだろう。あんなことがあれば誰でも距離を置くに決まっている。

 でも、僕としてはルーシーから距離を置かれるのは嫌だ。自業自得だけど、嫌だ。
 そう思った僕は。

 「ルーシー様、少しお茶にお付き合い頂けませんでしょうか」

 ルーシーが断りづらい状況下で、そう誘った。
 大勢の前で誘うのは卑怯だとは思う。
 逆にこの状況で断ったら、相当度胸がある。

 でも、どうか断らないでくれ。

 なんて心配をしていたが、ルーシーはすんなりと誘いを受けてくれた。

 まぁ、あの状況だったら、断れないから当然といえば当然か。
 それに、今日、もしかしたらルーシーは街に行っていたかもしれなかった。

 結果、誘ってよかったと思う。
 
 だって、今、街に行かれても何も起こらない・・・・・・・から。

 そうして、僕はルーシーとともにサロンに移動すると、お茶をさっさと用意。

 公爵令嬢であるルーシーに、お茶を用意させるわけにはいかないしね。

 お茶を用意するなり、僕はルーシーの所を向かう。
 彼女はまだ怪訝な表情を浮かべていた。
 
 「あのステラさん」
 「はい、なんでしょう?」
 「その……私に何用でしょうか?」
 
 用?
 ……そっか。
 用がないと平民の人間が公爵令嬢を呼ぶわけないもんな。
 そんな心配そうな顔をして……この前のこと責められるとでも思っているのかな。

 「えっと、その、用とかは特にないんです」
 「え?」
 「その……ルーシー様とお話したくって、それでお誘いしました。あの落書きのことがあってから、ちゃんと話ができていなかったので。あの時は本当にすみません。私が騒いでしまったばかりに」
 「あなたは騒いではいないわ。ただ……殿下が少し誤解していただけよ」

 にこやかに笑うルーシー。
 ああ……ルーシーは僕の天使だ。いや、女神様か。
 あの偽物女神とどうか変わってほしい。どうみてもこっちが女神様だろ。

 ルーシーの笑顔にやられていると、彼女から話を切り出してきた。

 「私もちょっとステラさんに聞きたいことがあったの」
 「聞きたいこと、ですか?」

 え? なんだろ?

 「ええ、ステラさんは殿下のことをどう思っていらっしゃるのかと思いまして」

 おっと。
 そのことを聞いてくるのか。
 ゲームでは絶対にこんなに穏やかに聞いてくることないぞ。
 僕は動揺を隠し、質問を返す。

 「……どうとは?」
 「すみません、質問を変えます。率直にお聞きします。ステラさんは殿下のことが好きですか?」
 「もちろん好きですよ。ライアン様は友人ですから」

 本当はなーんとも思ってないよ。
 むしろ、ルーシーと婚約していることに嫉妬しているな。
 しかし、ルーシーは僕の答えが気に入らなかったのか、もじもじとし始める。
 
 「ステラさんはその……恋愛的な『好き』という思いはないのですか?」

 ライアンが恋愛的な意味で好き?
 …………アハハ。
 そんなのあるわけない。
 当然、僕は首を横に振る。

 「いいえ! そんなことはありえません。ライアン様はルーシー様の婚約者ですし、私がライアン様に好意を抱いているなんて……なぜそのようなことを聞かれるのですか?」
 「そ、それはステラさんが殿下と親しげに見えましたので、ついそのように考えてしまいました。すみません。今の質問は忘れてください」

 そう言って、あたふたするルーシー。

 「…………」

 あーやばい。
 慌てるルーシーも可愛い。
 笑ったところも可愛いけど、このルーシーも可愛い。
 なんでここにスマホがないんだ。全く。

 ……そういや、僕もルーシーに聞きたいことがあったんだった。
 
 「ルーシー様……もしですよ。もし、私がライアン様に対して好意を持っていたら……ルーシー様はどう思いますか? お怒りになられますか?」

 ずっと聞きたかったこと。
 それはルーシーのライアンに対する思い。
 大切なことなのに、ずっと聞いていなかった。

 会った時に聞いておけばよかったと後悔してる。

 僕の問いに対し、ルーシーは。
 
 「いいえ。きっとなんとも思わない」

 真っすぐそう答えた。
 嘘はなく、素直に答えたように思えた。

 マジか。
 ルーシー、ライアンのこと好きじゃないのか。
 てっきり『ライアン大好き!』なのかと。
 ステラに遠慮して、ライアンに関わっていないのだろうと思っていたのだけど。

 …………よかった。これで心置きなく計画を進めれる。

 僕は冷静に「そうですか」と呟く。

 「ルーシー様、よかったら、また今度一緒にお茶しませんか?」
 「もちろん、いいですよ」
 「あと……勉強を一緒にしていただけませんか? 勉強で分からないことがあって」

 アストレアに行っても一緒に過ごせるとはいえ、ここでもできる限りルーシーと過ごしていたい。
 そんな私欲まみれの提案に、ルーシーはキョトン。

 「すみません。いっぱい頼んでしまって。ルーシー様と過ごす時間がとても楽しくって」
 「うふふ。もちろん、いいですよ」
 「ありがとうございます」

 ルーシーは本当に可愛いし、優しい。
 なんで乙女ゲームではあんなことになってんのやら。
 でも、今日会えてよかった。

 ルーシーの本心を知ることができたから。



 ★☽★☽★☽★☽


 
 「確認できた」
 「何がー?」

 次の日。
 休日だったが、僕は校舎、いや研究棟にいた。厳密にはアースの研究室に。

 「ルーシーはライアンが好きじゃないことだ」
 「えー? そんなの傍から見てれば分かるじゃなーい?」
 「僕は言質が欲しかったんだよ」

 直接聞かないと、彼女の思いを確認できなかった。
 ゲームのようにルーシーはライアンに猛アタックしているわけじゃなかったし、ライアンもルーシーを気にしている様子はなかった。
 でも、心の奥ではライアンのことを愛しているんじゃないかって不安だった。

 「そっかぁー。ライアンが好きじゃないことは明白だと思うけどー、まぁ君が満足したのならいいやー……今日の予定のことだけど、もうジェイクたちは街に行ったよー」
 「計画通りに進んでいるんだな?」
 「連絡は来ていないから、そういうことだと思うー」

 ジェシカは何かあれば絶対に連絡をするから、順調っぽいな。

 最終計画。
 それはルーシーをゲームのような展開――――つまり、断罪へと追い込むこと。 

 そして、今日は最終計画の2段階目。
 この前、アースがルーシーに街に行ってもらえるように促してくれたので、今日はルーシーにあの例の店に行ってもらう。

 例の店って言うのはゲームでルーシーが毒を買う闇商売をしている店。
 その店はもう僕らの手中にあって――。
 
 「ていうか、ステラ。君、あの店って僕の名前を使って買収したでしょー?」

 と不機嫌そうにアースは聞いてきた。

 「仕方ないじゃないか。僕の名前を使っても、向こうには分からないだろ? アストレアの王子様って言えば一発だったよ」
 「げっー。闇商売人とつるむのは嫌なんだけどー。僕に汚点がつくじゃなーい」
 「もうお前には汚点だらけだろ」
 「えー? そんなことないよーん。ほら、僕の綺麗な顔を見てよー。美少年でしょー? 汚点なんてどこにも――」
 「ただまー!」「お疲れ様です」

 ドアから声が聞こえ、振り向くと双子が戻ってきていた。

 「ジェシカ、ジェイク。おかえり。どうだった? 成功した?」
 「成功はしました……ですが、ちょっと危なかったです」
 「危なかった?」

 まさか商人のおじさんに口説かれたとかか? 
 と聞くと、ジェシカは横に首を振る。

 「いいえ、違います。そんなことじゃないんです」
 「?」
 「ルーシー様にバレかけたのです。『あなたの声、どこかで聞いたことがある』なんて言われましたの。あの時は冷や冷やしましたわ」
 「え? ジェシカ、変声器使ってなかったの?」

 ジェシカはルーシーとの接触が少ないとはいえ、学園の生徒。
 ルーシーの勘がよかったら、声でバレてしまう可能性があった。
 だから、アース特製のボイスチェンジャーのような魔法具を渡していたんだが。

 「はい、使いませんでした」
 「なんで? 使えばよかったのに」

 すると、ジェシカは困ったように頬をかく。

 「そうですね、最初は使う予定でしたわ。ですが、ジェイクが……」
 「ジェイク?」
 
 さっとジェイクの方に目をやる。
 すると、ジェイクは瞬時に両手を合わせ。

 「ごめん! ステラ、あれ壊しちゃった」

 と謝ってきた。
 え? こわしちゃっただって?

 「そのさ、待ち合わせ時間まで暇でさ、ちょっと遊んでいたらさ……なんか変な声しかでなくなっちゃって」
 「ジェイク……お前なぁ。それなら連絡してよ」
 「いやぁ、ジェシカ、ルーシー嬢とそんなに関わってないし、ワンチャンバレないかなと思ってんだよ」
 「でも、バレかけましたわ。危なかったですの」
 「まぁ、いいじゃないのー。ルーシーは無事あのお店に行ってくれたんでしょー? ジェイクの友人も目撃したみたいだしー」

 そう言ってきたアースの目はいつもの綺麗な青色ではなく、黄色。瞳が光っていた。
 ほう。さてはジェイクの友達の未来を見たんだな。

 「計画通りに進めそうか?」
 「ジェイクと友人の未来を見た限りでは大丈夫そー。邪魔は入ってないみたいだよー」

 よし。
 計画通りに進めるようだし、問題はない。
 今回のジェイクのお遊びには目を瞑ろう。

 「ところでジェシカ。ルーシーは何を買っていった? 毒を買った?」
 「いいえ、残念ながら。ルーシー様はブレスレッドを買っていらっしゃいましたわ」
 「そう」

 まぁゲームのようないじめをしていないし、ルーシーに毒を買う理由もないから、当たり前と言えば当たり前か。
 なら。

 「アース。週末明けにルーシーの部屋にあの毒を置いてきてくれるか?」
 「りょーかい」



 ★☽★☽★☽★☽


 
 平日の夜。
 僕は誰もいない静かな研究室で勉強をしていた。
 アースはもう切り上げたのかおらず、机のランプが静かに灯っているだけ。

 自分の部屋で勉強してもいいんだけど、ちょっと隣の子の声がうるさくて集中しずらい。
 注意しようにも、就寝時間にはきっかり静かになるので、注意にも行きづらい。

 という理由で、1人アースの研究室で一時勉強していたのだが。

 「ルーシーの所に行って、毒瓶置いてきたよー」
 
 ドアからそんな声が聞こえてきた。
 ドアの方にいたのはニコニコ笑顔のアース。

 「お前、今行ってきたの?」

 確かにアースにルーシーの部屋に毒瓶を置いてくるように頼んだ。
 ルーシーがあたかも毒瓶を買っていたように思わせるために。

 だが、今はもう暗い。早い人は眠っている時間だろう。
 
 僕の問の意味が分からないのか、アースは首を傾げていた。

 「えー? ダメだったー?」
 「いや、夜中だから失礼じゃないかと思って」
 「そうなんだけどー……他の時間だとルーシーが部屋にいない可能性があったしー、勝手に入ったらあの女神が邪魔してくるだろうと思ってさー」
 「なるほど」

 メイド女神のことだ。アースが勝手に部屋に侵入すれば、ルーシーにちくっていただろう。

 「でも、あのメイド女神。ルーシーの前でも僕の邪魔をしようとしてきたねー。ルーシーにかばってもらったから、直接的な邪魔はしてこなかったけどー、でも、ずっと僕のこと睨んでたねー」

 と言って、アースはあっはっはーと豪快に笑う。

 「それは滑稽だな」
 「ほんと笑いをこらえるのに必死だったよー。あんな女神、そう滅多にみれなーい」

 それは見たかったかも。
 
 「ともかく僕の役目は果たしたからー、安心してー」
 「了解。じゃあ、僕は数日間ルーシーをお茶に誘って、その後、計画の3段階目に入るから準備よろしく」
 「はーい」
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