【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

80 ?視点:全ては婚約破棄のために ⑦

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 退院し、学園へと戻って数日後。
 ルーシーが目を覚ましたという連絡が入った。
 連絡を受けて、僕はすぐにジェシカに命令。

 彼女に僕がいつも座る席に落書きをさせた。
 その落書き内容は僕を侮辱するようなもの。

 ジェシカには「ひどいことをしますね」と言われたけど、仕方ない。
 ルーシーが僕をいじめたと、周りにそう思わないといけないから。
 ルーシーは未だ僕をいじめることはしていない。むしろ少し距離を置かれているような節はある。

 ルーシーをそうさせたのはきっと攻略対象者やつらだろう。

 なので、このまま待っていてもルーシーはいじめてこず、ライアンとの婚約を破棄するきっかけを作れないため、わなを仕掛けることにしたのだ。

 本当は別の方法を考えていた。
 だけど、女神がやってきたことを利用したかったんだよな。
 
 この前の試合で、女神はルーシーを使って、僕に攻撃を仕掛けてきた。
 女神は僕らの計画を破綻させたくて、あんなことをしてきたんだろうが。

 僕はそれを利用させてもらう。

 試合のことは故意にやったわけじゃないから、きっとルーシーは明日の朝にでも僕の所に謝りにくるだろう。
 だが、僕は彼女に会わない。部屋に来ても返事はしない。

 アースの研究室にでもいて、ルーシーが僕らの教室に向かうまで待機。

 僕を探すルーシーが教室に入るとすぐに、ジェシカも入室。
 ルーシーと落書き現場を見つける。
 その後、友人やジェイクにルーシーが落書きをしたと思わせれるように誘導。

 ごめんね。ルーシー。
 罠にはめるなんて、つらい立場に立たせてしまうけど、これは全部君をライアンから離すためなんだよ。
 だから、僕を許してルーシー。

 心中ルーシーに謝りながら、作戦を実行。
 だが。

 「失敗した」

 研究室に戻るなり、僕はそう言った。
 アースは驚く様子もなく、かといって共感してくれる様子もない。

 「あの即席作戦がー?」
 「そうだ」

 ルーシーが落書きをしたと周りに思わせるところまではできた。
 ライアンにルーシーを追い詰めるようにも誘導できた。
 途中までは完璧だったと思う。
 でも。

 「ああ。カイルってやついるだろ」
 「うん、ルーシーに近くにいつもいる公爵家の子でしょ」
 「ああ、そいつ。そいつが今日キレてたんだよ」
 「キレてた……怒ってたの?」
 「違う。そういう意味じゃない。あいつの頭の回転が速かったってことだ」

 僕らが問い詰めている最中にやってきたカイル。
 彼は見た目に反してかなり強気で、ルーシーが犯人ではないことを主張。
 最終的には証明までしやがった。

 「あー、そいうことー……それでー?」
 「あいつ、ルーシーが犯人じゃないってことを1人で証明してルーシーを助けた」

 これだとあいつか救世主で、僕が悪人みたいじゃないか。
 本当の意味で助けるのは僕なのに。

 「……まぁ、今回は即席作戦だったし、仕方ないさー」
  
 アースは最初から期待なんてしてなかったみたいに、そう言った。
 悪役令嬢ものでは簡単に、落とし込むことができる。
 「え? そんな簡単に?」って思うぐらい簡単に。

 でも、あれはフィクションだもんな。
 僕らのいる世界はフィクションが元の世界だけど、今目の前に存在する現実の世界。
 物語みたいにそう上手くはいかない、か。

 …………仕方ない。計画通りに進めよう。

 「そういや、アース。頼んだものはもうできてるんだろうな?」
 「頼んだもの……ってこれのことー?」

 ポイっとアースが投げてきたのは1つの小さな小瓶。
 その中には禍々しい色をした液体が入っていた。

 「ああ、これだ。ありがとう」
 「どういたしまして。君がそれを使うってことはやっぱり計画通り進めるんだねー」
 「ああ。だから、アース頼むぞ」

 ここからはアースの力も必要となってくる。
 アースだけじゃない。ジェイクもジェシカもリアムも。
 みんなの力が必要だ。

 「折角だ。お前ら、円陣組もうぜ」
 「えー? 何、急にー?」
 「これから計画の最終段階に入るんだ。気合入れしといてもいいだろ」
 「熱血だねぇー」
 
 ルーシーのことに関しては、そうかもな。

 「まぁ、いいからこっち来いよ。双子、リアムも集まってくれ」

 集まると、僕ら5人は円陣を組む。
 右隣にアース、左隣にリアム。正面に、ジェシカとジェイク。
 僕らは中央に手を伸ばし、重ねた。

 「ルーシーには少し嫌な思いをさせるかもしれないけど……今からすることはすべてはルーシーと僕らの将来のため」
 「そう、僕らのアストレア王国のためー」
 「それもある」
 「俺の将来のためでもある?」
 「ああ、リアムの将来のためでもある」
 「ほんとっすか!? あざっす!」
 「冗談だ」
 「えー!」
 「うそだ」
 「どっちっすかっ!」

 僕はリアムで遊んでいたが、すぐに真剣な表情に切り替える。

 「この前の作戦は失敗した。簡単にルーシーをライアンから離すことがことができればと思ったが、失敗した。だから、まぁ僕はあれを練習と思ってる」
 「ステラ、ぽじてぃぶ」
 「失敗から学ぶこともありますものね」
 「ああ。だがしかし、今から始める計画は違う。本番だ、失敗は絶対にできない。だからこそ、チームが一丸となって動いていく必要がある」
 「チームね。僕らのチーム名って何?」

 そう聞いてきたのはジェイク。
 そう言えばこうして5人で動いてはいるけれど、チーム名なんて決めたことがなかったな。
 
 まぁ王子のアースがリーダーにはなると思うが、ここは……。

 「チーム・ステラ……」
 「えー。そこはチーム・アースじゃなーい?」
 「アース様。こここそ、チーム・アストレアでしょ」
 「チーム・リアムでもいいっすよ」
 「「「「それはない」」」」
 「えー、みんなして否定っすか。ひどいっすよ」
 
 「それで、ステラさん。チーム名はどうされるのですか?」

 みんなの視線が僕に集まる。
 これは僕が決めていいんだな。
 それなら……。

 「チーム・ルーシー、気合入れていくぞ!」
 「「「「おー!!」」」」

 そうして、僕らは最後の計画へと移行した。



 ★★★★★★★★



 「おい、アース」
 「何? そんな怖い顔して」
 「お前僕が作ったマカロン、勝手に食べただろ?」

 先日のこと。
 研究室に帰ってきたアースが大量のマカロンを持って帰ってきて。

 『このマカロンと同じものを作ってよー』

 となんというむちゃぶりオーダーを出してきた。
 僕は仕方なく作ったんだけど。
 今日作っておいたものを見たら、何個か減っていた。

 あいつ、5人で一緒に食べるとか言ってたのに。

 「なんだー。そのことー?」
 「なんだぁ、とはなんだよ。食べ物の恨みは怖いんだぞ?」
 「僕1人で食べたわけじゃないよー」
 「じゃあ、誰と食べたんだよ」
 「ルーシーとー」

 へ? ルーシーと?

 「…………なんて言った」
 「えー? だからー、ルーシーと食べ――」
 「そうじゃない。ルーシーは食べてなんて言ってた?」

 気になる。そこが一番気になる。

 「美味しいだってさー。よかったねー」

 ルーシーに食べてもらった。しかも美味しいって言ってもらえた。
 アースに背を向け、僕は静かにガッツポーズ。

 「なぁ、アース」
 「なーに? ……って、なに君ニヤニヤしてるのー?」
 「ニヤニヤなんてしてねぇーよ。お前さ、今日、何が食べたい?」
 「えー、そうだなぁー……あ、この前君が話していたカレーみたいなやつ。あれ、はやしらいすー? ってものを食べたーい」
 「いいよ。いっぱい作ってやる」
 「やったー!」

 アースは子どものように、両手を挙げて万歳。
 ハヤシライスで喜んでくれるのはいいな。
 一時して、アースの手は下に下がっていった。
 
 「そういやねー、僕会長に呼び出されちゃったよー」
 「は? なんで?」
 「この前、マカロン貰ってきたでしょー? その時に会長に呼ばれたんだけど、彼女なんか僕がしょっちゅうルーシーに接触していたことが気になったみたーい」
 「……それでか」

 あの会長、よく周りを見ているな。
 ゲーム通り、僕はライアンとともに生徒会に入っており、会長とも関わる機会がある。
 そこで見る限り、会長はおちゃらけタイプ。

 場を盛り上げるのもお手の物。

 だから、あんまり周りを見ているとは思っていなかったんだけど。
 さすが公爵令嬢。
 観察眼はすごいな。

 「それで、彼女君のことを把握しているようだったよー」
 「それはそうだろ。僕は生徒会役員なんだから」
 「“ステラ”だけじゃなくって、テラの方も知っているみたいだったんだよー」
 「え?」

 うそうそうそ。
 結構バレないように動いてたのに、会長にバレてたの?

 「ヤバいじゃん」
 「でも、直接は聞いてこなかったよー。彼女なら、『彼はなんなん? あんたの使いなんか?』とかストレートに聞いてきそうだったのになー」

 「……未来は見たのか?」
 「見たぁー」
 「違ったんだな」
 「うん。聞いてくる未来の方が強かったよー」

 まさか会長も転生者?
 思えば、キーランにルーシーのことを聞いているし、ルーシーのことを結構気に掛けるし……。
 ルーシー推しとか?

 え? マジ?

 でも、会長は攻略対象でも、サポートキャラでもないんだよな。
 ステラが生徒会関係で関わる時に若干の出番があったぐらい。
 
 「会長の未来は君たちみたいに見えないわけじゃないけど、かなりの頻度で違う動きを取るみたーい。だから、テラとして動く時は気をつけてねー。テラがこの学園にいることを気づかれないよーに」
 「はいはーい」

 できるだけ用心をしようか。
 あの会長の目がどこにあるのか分からないしな。

 「アース、ルーシーと会ったんだよな?」
 「うん。あったよーん」
 「その時、街に行ってって頼んだか?」
 
 アースにルーシーを誘導してもらわないと何にも始まらない。

 「もちろん、言ったさー。ボース」

 そう答えた王子様はニヤリと笑みを浮かべていた。
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