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第3章 学園編
79 ?視点:全ては婚約破棄のために ⑥
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見上げれば、雲一つない青空……ではなく、雲しか見えない空。
非常に天気が悪く、今にも雨が降りそうな空があった。
その空の下の訓練場には多くの学生が。
そして、その集団の中に僕、ステラ・マクティアはいた。
しかし、他の学生からは少し距離を置かれている。
それもそうだろう。
隣にはこの王国の王子ライアンがいるのだから。
本当はこいつの隣にはいたくないんだけどな。
なぜ屋外にいるのかというと、今日は魔法技術訓練があるため。
これまでにも訓練はあったのだが、今日はひと味違って学生相手に一対一で試合をする。
正直、試合なんてしたくないのだが、でも、出席した。
だって、ルーシーと一緒にいれるんだもん。
遠くの集団の中にいるルーシー。
相変わらず周りにはあの攻略対象者たちがいた。
いいなー。僕もあそこにいきたいなー。
しかも、今日のルーシー、いつもと格好違うじゃーん。
体操着姿のルーシー、めちゃくちゃ可愛い。
普段の服よりも布面積狭くて、セクシーだな。
…………はぁ、手元にカメラがあれば、100枚ぐらい写真を撮ってアルバムにしているのに。
残念ながら、ここには前世のようなスマートフォンはない。
だから、見て僕の頭の中に残すしかない。
……よぉし、あの姿のルーシーを覚えて、絵を描いて保存しよう。そうしよう。
と覚えるために、ルーシーをじっと見つめていると。
「ステラ、ぼっーとしてどうしたんだい?」
「え?」
突然ライアンから話しかけられた。
あまりにも集中していたため、僕は動揺。
えっと、えっと。
セクシーな体操着姿のルーシーに見とれていたとは言えないし。
でも、答えないと。
えっと、えっと。
「えっと! 少し緊張していまして!」
と言ってなんとか誤魔化す。
「そっか。ステラ、初めての試合だもんね」
「そうですね。初めて、かもです」
実際の戦闘なら、何度もしましたけど。
「なら、緊張するのも無理ないね。大丈夫、ステラなら勝てるよ」
ライアンは優しい声でそう言ってきた。
ライアン推しならきっと僕は奇絶していると思う。
だが、残念ながら、僕はルーシー推し。嬉しいともなんとも思わない。
とりあえず、僕は「ありがとうございます。頑張ります」と答えた。
一時して、先生がやってきて、集合がかかる。
そして、先生から説明が終わると、試合が始まった。
1回目の試合選手は、なんとなんと僕の同僚ジェイクくん。
しかも対戦相手は主人公サポートキャラ、リリー・スカイラー。
うーん。
ジェイク、勝てるかな……。
この世界線でのリリーは戦闘能力が非常に高いらしく、騎士団員である2年のゾーイ先輩と同等ぐらいの能力。ゾーイ先輩は騎士団の中でも能力のある人間と評価されているみたいだから、リリーもそのくらいのレベルと思っていいだろう。
一方、ジェイクは暗殺向きの人間。
不意打ちとかが得意なタイプだ。
真正面から戦うことはできないわけではないが、得意とはしていないだろう。
心配しながらも、ジェイクの試合を見守る。
ジェイクは騎士団の娘相手に、果敢に戦ったが、残念ながら敗北。
かなり悔しそうにしていた。
…………まぁ、あれはきっと演技だろうけど。
ジェイクは本来の態度と学園内での態度はまるっきり違う。
僕らに見せる態度はかなりのほほーんとしていてチャラいキャラ。
だが、学園では真面目君キャラで通している。
毎度そんなジェイクを見るたびに、よくやるな、と思う。
僕みたいに計画を実行するために偽るのなら分かる。だが、ジェイクにはそんな行動は計画されていない。
彼なりに考えあってやっているのかもしれない。
高校デビュー的なこととか。
そうして、ジェイクの試合が終わった後もすぐに他の生徒の試合が行われ、とんとん進んでいく。
が、僕の名前は一向に呼ばれない。
ルーシーも呼ばれていないみたいだけど。
もしかして、これは…………。
そして、最後の試合。
僕はそこでようやく名前を呼ばれた。
「よろしくお願いいたします、ルーシー様」
「こちらこそよろしく、ステラさん」
僕の対戦相手はなんと僕の愛しの人ルーシー。
対戦相手がルーシーとか……マジか。
ルーシーの一緒の空間いることは非常に嬉しい。僕、大興奮だ。
でも、対戦相手となると違う。
だって、ルーシーを傷つけてしまうんだよ?
対戦相手となった以上、戦わないといけない。
ルーシーが可愛くて攻撃できません、なんて理由は先生に通じない。
しかし、ルーシーはそこまで魔法技術はなく、戦闘も得意としていない。
リアムから聞いた話だと、ルーシーの魔法技術の評価は平均点より若干下の評価だ。普通に戦うと、僕が絶対に勝つ。
もちろん、負けるという手もある。
が、それだと僕が手を抜いたとバレてしまう。
でもなー。
ルーシーを傷つけるのは嫌だなー。
と思っていると、ルーシーの背後にある巨大魔石が目に入った。
確か、あれを壊しても、勝ちだったよな?
あれを壊すだけなら、ルーシーを傷つけずに済んで、かつ手を抜かなくてもいい。
…………よし!
あの魔法石をぶっ壊して勝つことにしよう。
「開始ッ!」
始まってすぐに、ルーシーは魔法石の前に氷の壁を作っていた。
そして、手元にも小さな氷塊を2つ作りあげていた。
僕も破壊を警戒して、魔法石の前にバリアを張る。
ルーシーあの氷どうするつもりだろう?
やっぱり魔石にぶつけるのだろうか?
すると、氷は魔石ではなく僕の方に向かって飛んできて、足にぶつかった。
「っつ!」
いったぁっ!
意外といったぁっ!
だが、僕はルーシーの氷の欠片を無視。
ひたすらに魔石に向かって、光線を放つ。
ルーシーはもう一度氷魔法と風魔法を使って、攻撃。
そして、4発目ぐらいだったろうか。
その氷が結構効いた。
10発ぐらいは余裕で耐えれると思ったんだけどな。
正直、これ以上足を攻撃されたくない。
僕は跪き、攻撃され続けたふくらはぎを隠す。
婚約破棄には直接は繋がらないけど、ここでの勝利はいつか関連してくる。
ルーシーが僕をいじめる要因になったのがこの試合とすれば、今後の計画もうまくいく。
だから、ルーシーには悪いけど、この試合は僕が勝つ。
そうして、魔法石を攻撃し始めて、数発目で防御壁を破壊。
壁壊しに意外と時間がかかったけど、あと一発当てれば、魔法石を壊せる!
これでラストだっ!
僕は魔力を杖先に集中させ、光魔法を魔石に向かって放った。
「え?」
が、光魔法はピュンと反射。
僕に向かって、跳ね返ってきていた。
嘘だろ、ルーシー。魔石に反射魔法を仕掛けていたのかよ。
僕は即座にバリア張りレジスト。
だが、攻撃を受けてしまう。
くそっ。自分の魔法を受けるなんて……。
力が入らず、僕は倒れ込む。
その瞬間、僕の体はバラの蔓に捕まった。
「っつ!」
その蔓の棘が突き刺さり、全身に痛みが走る。
ルーシー、ほんと容赦ないな!
めちゃくちゃ痛みつけてくるじゃないか。
こちらに近づいてきていたルーシーは僕の杖を奪いとり、ポイっと投げ捨てる。
「やったわ!」
勝って嬉しかったのか、ルーシーは僕の前でガッツポーズ。
そのルーシーの姿はめちゃくちゃ可愛かった。
嬉しそうなルーシーも可愛いのだけど。
でも、負けるわけにはいかない。
彼女が背を向けた瞬間、僕は手に炎をやどす。
そして、蔓を燃やした。
さっきの反射魔法には驚かされた。
ルーシーがあんな魔力コストの高い魔法を使えるとは思ってなかったから。
あと、僕は結構ルーシーをなめていたと思う。
ゲーム上のルーシーはそこまで魔法技術がなく、この世界のルーシーも同様に僕よりもずっと魔法能力は下だろうと思っていた。
だからこそ、彼女を傷つけず、完全勝利できると思っていた。
でも、この世界のルーシーは自分なりに工夫して、本気で僕に勝とうとした。
事実、僕をこうして捕まえた。
これは本気を出さないと勝てない。
僕は全身の魔力の流れに集中し、手の先に魔力を集める。
さっきの光魔法よりもずっと多い魔力を結集させる。
ゲーム上のステラ。
彼女は後半になるにつれて、自分が聖女であることを自覚する。
が、聖女の力を使いこなす姿はゲームでは描かれるのはラストの魔王討伐シーンだけ。
でも、僕は違う。
ステラがどういった人物でどんな能力を使えるのか知っている。
聖女の力も使いこなせるように練習してきた。
星の聖女の特有魔法――――星魔法。
今の僕にはそれが使える。
「ルーシー様、ごめんなさい」
これは計画のため。ルーシーのため。
「星魔法――星光柱」
そう小さく唱えた瞬間、指先から眩い光が放たれる。
周囲には星々が輝き、光線はルーシーに向かって真っすぐ伸びていく。
「ぬるいことをして、ごめんなさい」
そして、ルーシーの体に直撃。ルーシーはぱたりと倒れ込んだ。
油断することなく、僕は魔法で彼女の杖を奪い取る。
そして、彼女の元へ近づいた。
下を見ると、足元には倒れたルーシー。
彼女の瞳は揺らぎ、今にも奇絶しそうだ。
これでお終いかな。
そうして、勝利を確信し、帰ろうとした瞬間。
「アハハ……」
下から笑い声が聞こえた。
嬉しそうでも楽しそうでもない。
絶望したような、狂ったような笑い声。
「アハハ、アハハ」
ルーシーはまるで別人ように笑っていた。
「アハハ」
「え? ルーシー様?」
なんで、笑ってんの?
もしかして、ルーシー、負けて激おこ?
勝たせた方がよかった?
「アハハ!」
声をかけても、彼女は笑いをやめない。
驚きの状況に呆然としていると、さっとルーシーに杖を奪われた。
僕、ちゃんとやったはずだよな?
星魔法を受けて、立ち上がれるって。
どうなってんだ?
見上げると、広がっていたのは夜空。
星がキラキラと輝いている。大きな月も見えていた。
「アハハ、キレイ」
ルーシーはそう言って、空へと両手を伸ばす。
試合場には今までになかった大風が吹き、僕らの髪を荒らす。
「コロシテヤル」
最初はルーシーがなんて言ったのか理解できなかった。
「コロシテヤルッ!」
2回目でようやく何を言ってきたのか分かった。
こ、殺してやるなんて……ルーシー、激おこぷんぷん丸じゃん。
その時、1人の女が目に入った。
僕らの周囲で観戦している学生ではない。
もっと遠くにいる、あの校舎屋上に立っている女。
よく見たら、あの女…………。
即座に、僕は後方へ下がる。
もしかしたら、ルーシーは誘拐作戦の時のように、相当暴れるかもしれない。
なら、警戒しておかないと。
審判が試合を止めないことを確認し、僕は強力なバリアを張る。
そして、ルーシーは杖先をこちらに向け、そして、軽く振った。
すると、夜空に輝く星々と月から光が放たれる。
その光線はこっちに向かってきていた。
「くっ!」
光線を避けようと、横へと逃げる。
が、光線は僕を追いかけてきた。
くそっ! 受けるしかないか!
避けられないと分かった僕は、覚悟を決めて、光線を受ける。
光線は強く、衝撃で体が後ろに下がったが、一瞬でバリアが壊れることはない。
強力なものにしたから、ルーシーの魔力切れまで受けれるだろう。
と思っていたが、一時してパリンと割れ。
「っかぁ!!」
光線が直撃。
思いっきりフィールドの壁にぶつかり、背中に殴打された痛みがくる。
壁のおかげで一度は止まるが、その壁も壊していく。
まずい、まずい。
気づけば、光線は僕の体を貫いていた。
腕を余裕で通せるぐらいの穴ができていた。
光線が止まってくれたが、力が入らず、僕の体は地面にゴロゴロと転がる。
体が寒い。
目も開けられない。
「ステラさん?」
ルーシーの声が聞こえた。
だが、返答できない。
…………死にたくない。
このまま、死ぬとルーシーのせいで死ぬことになる。
それは嫌だ。
そのうちして、複数の足音が聞こえてきた。
その中の1人は僕の名前を呼んでいた。
ヒーラーもやってきたのか、さっきよりも痛みは少なくなる。
が、起きられない。
そうして、僕はルーシーに返事ができないまま、意識を失った。
★☽★☽★☽★☽
目を開けると、知らない天井があった。
「おはよー、ステラ」
起き上がると、ベッド横にいたのはライアンではなくアース。
彼がここにいるということは、きっとライアンたちは来ていないのだろう。
「僕、どのくらい寝ていた?」
「4日間だよー。1日目はちょっと危なかったねー」
にっこにこ笑顔で言ってきた。
4日間も寝ていたのか。
「ルーシーは? 僕の所に来た?」
ルーシーは自分のせいだと思って、謝りにきただろう。
本当は彼女のせいじゃないのに。
しかし、アースは横に首を振った。
「……彼女はまだ寝てる」
「寝てる?」
僕が首をかしげていると。
「ヒーラーの方がステラさんの処置をしている時に、ラザフォード公爵令嬢は倒れましたわ。それ以降、ずっと眠っていらっしゃるみたいです」
と、壁際に立っていたジェシカが説明してくれた。
彼女の隣には兄ジェイクもいる。
「ステラはさぁ、なんで勝とうとしたのー? あのまま負けてれば、こんなふうにならなかったじゃーん」
「そうだけど、保険で勝っておきたかったんだ」
「計画の?」
「そうだ…………それで試合の勝敗は?」
「分かんなーい。ジェシカ、分かる?」
「いえ、私も分かりません」
まぁ、勝敗どころじゃなかったもんな。
「アース……あの光線を受ける前に気づいたんだが、遠くでこっちを見るメイドがいた。あのメイド女神、わざとルーシーの力を暴走させて、僕に攻撃させやがった」
「僕も気づいたけど、その時には君はもう――」
「ああ。僕も気づいたときにはルーシーの魔法が直撃してた」
絶対にあの女神がルーシーを操ったんだ。
「あの女神、ルーシーを利用しやがって」
邪魔をするとは言っていた。
だが、ルーシーにあんなことをさせるのは許さない。
「あいつがやったこと、とことん利用してやる」
非常に天気が悪く、今にも雨が降りそうな空があった。
その空の下の訓練場には多くの学生が。
そして、その集団の中に僕、ステラ・マクティアはいた。
しかし、他の学生からは少し距離を置かれている。
それもそうだろう。
隣にはこの王国の王子ライアンがいるのだから。
本当はこいつの隣にはいたくないんだけどな。
なぜ屋外にいるのかというと、今日は魔法技術訓練があるため。
これまでにも訓練はあったのだが、今日はひと味違って学生相手に一対一で試合をする。
正直、試合なんてしたくないのだが、でも、出席した。
だって、ルーシーと一緒にいれるんだもん。
遠くの集団の中にいるルーシー。
相変わらず周りにはあの攻略対象者たちがいた。
いいなー。僕もあそこにいきたいなー。
しかも、今日のルーシー、いつもと格好違うじゃーん。
体操着姿のルーシー、めちゃくちゃ可愛い。
普段の服よりも布面積狭くて、セクシーだな。
…………はぁ、手元にカメラがあれば、100枚ぐらい写真を撮ってアルバムにしているのに。
残念ながら、ここには前世のようなスマートフォンはない。
だから、見て僕の頭の中に残すしかない。
……よぉし、あの姿のルーシーを覚えて、絵を描いて保存しよう。そうしよう。
と覚えるために、ルーシーをじっと見つめていると。
「ステラ、ぼっーとしてどうしたんだい?」
「え?」
突然ライアンから話しかけられた。
あまりにも集中していたため、僕は動揺。
えっと、えっと。
セクシーな体操着姿のルーシーに見とれていたとは言えないし。
でも、答えないと。
えっと、えっと。
「えっと! 少し緊張していまして!」
と言ってなんとか誤魔化す。
「そっか。ステラ、初めての試合だもんね」
「そうですね。初めて、かもです」
実際の戦闘なら、何度もしましたけど。
「なら、緊張するのも無理ないね。大丈夫、ステラなら勝てるよ」
ライアンは優しい声でそう言ってきた。
ライアン推しならきっと僕は奇絶していると思う。
だが、残念ながら、僕はルーシー推し。嬉しいともなんとも思わない。
とりあえず、僕は「ありがとうございます。頑張ります」と答えた。
一時して、先生がやってきて、集合がかかる。
そして、先生から説明が終わると、試合が始まった。
1回目の試合選手は、なんとなんと僕の同僚ジェイクくん。
しかも対戦相手は主人公サポートキャラ、リリー・スカイラー。
うーん。
ジェイク、勝てるかな……。
この世界線でのリリーは戦闘能力が非常に高いらしく、騎士団員である2年のゾーイ先輩と同等ぐらいの能力。ゾーイ先輩は騎士団の中でも能力のある人間と評価されているみたいだから、リリーもそのくらいのレベルと思っていいだろう。
一方、ジェイクは暗殺向きの人間。
不意打ちとかが得意なタイプだ。
真正面から戦うことはできないわけではないが、得意とはしていないだろう。
心配しながらも、ジェイクの試合を見守る。
ジェイクは騎士団の娘相手に、果敢に戦ったが、残念ながら敗北。
かなり悔しそうにしていた。
…………まぁ、あれはきっと演技だろうけど。
ジェイクは本来の態度と学園内での態度はまるっきり違う。
僕らに見せる態度はかなりのほほーんとしていてチャラいキャラ。
だが、学園では真面目君キャラで通している。
毎度そんなジェイクを見るたびに、よくやるな、と思う。
僕みたいに計画を実行するために偽るのなら分かる。だが、ジェイクにはそんな行動は計画されていない。
彼なりに考えあってやっているのかもしれない。
高校デビュー的なこととか。
そうして、ジェイクの試合が終わった後もすぐに他の生徒の試合が行われ、とんとん進んでいく。
が、僕の名前は一向に呼ばれない。
ルーシーも呼ばれていないみたいだけど。
もしかして、これは…………。
そして、最後の試合。
僕はそこでようやく名前を呼ばれた。
「よろしくお願いいたします、ルーシー様」
「こちらこそよろしく、ステラさん」
僕の対戦相手はなんと僕の愛しの人ルーシー。
対戦相手がルーシーとか……マジか。
ルーシーの一緒の空間いることは非常に嬉しい。僕、大興奮だ。
でも、対戦相手となると違う。
だって、ルーシーを傷つけてしまうんだよ?
対戦相手となった以上、戦わないといけない。
ルーシーが可愛くて攻撃できません、なんて理由は先生に通じない。
しかし、ルーシーはそこまで魔法技術はなく、戦闘も得意としていない。
リアムから聞いた話だと、ルーシーの魔法技術の評価は平均点より若干下の評価だ。普通に戦うと、僕が絶対に勝つ。
もちろん、負けるという手もある。
が、それだと僕が手を抜いたとバレてしまう。
でもなー。
ルーシーを傷つけるのは嫌だなー。
と思っていると、ルーシーの背後にある巨大魔石が目に入った。
確か、あれを壊しても、勝ちだったよな?
あれを壊すだけなら、ルーシーを傷つけずに済んで、かつ手を抜かなくてもいい。
…………よし!
あの魔法石をぶっ壊して勝つことにしよう。
「開始ッ!」
始まってすぐに、ルーシーは魔法石の前に氷の壁を作っていた。
そして、手元にも小さな氷塊を2つ作りあげていた。
僕も破壊を警戒して、魔法石の前にバリアを張る。
ルーシーあの氷どうするつもりだろう?
やっぱり魔石にぶつけるのだろうか?
すると、氷は魔石ではなく僕の方に向かって飛んできて、足にぶつかった。
「っつ!」
いったぁっ!
意外といったぁっ!
だが、僕はルーシーの氷の欠片を無視。
ひたすらに魔石に向かって、光線を放つ。
ルーシーはもう一度氷魔法と風魔法を使って、攻撃。
そして、4発目ぐらいだったろうか。
その氷が結構効いた。
10発ぐらいは余裕で耐えれると思ったんだけどな。
正直、これ以上足を攻撃されたくない。
僕は跪き、攻撃され続けたふくらはぎを隠す。
婚約破棄には直接は繋がらないけど、ここでの勝利はいつか関連してくる。
ルーシーが僕をいじめる要因になったのがこの試合とすれば、今後の計画もうまくいく。
だから、ルーシーには悪いけど、この試合は僕が勝つ。
そうして、魔法石を攻撃し始めて、数発目で防御壁を破壊。
壁壊しに意外と時間がかかったけど、あと一発当てれば、魔法石を壊せる!
これでラストだっ!
僕は魔力を杖先に集中させ、光魔法を魔石に向かって放った。
「え?」
が、光魔法はピュンと反射。
僕に向かって、跳ね返ってきていた。
嘘だろ、ルーシー。魔石に反射魔法を仕掛けていたのかよ。
僕は即座にバリア張りレジスト。
だが、攻撃を受けてしまう。
くそっ。自分の魔法を受けるなんて……。
力が入らず、僕は倒れ込む。
その瞬間、僕の体はバラの蔓に捕まった。
「っつ!」
その蔓の棘が突き刺さり、全身に痛みが走る。
ルーシー、ほんと容赦ないな!
めちゃくちゃ痛みつけてくるじゃないか。
こちらに近づいてきていたルーシーは僕の杖を奪いとり、ポイっと投げ捨てる。
「やったわ!」
勝って嬉しかったのか、ルーシーは僕の前でガッツポーズ。
そのルーシーの姿はめちゃくちゃ可愛かった。
嬉しそうなルーシーも可愛いのだけど。
でも、負けるわけにはいかない。
彼女が背を向けた瞬間、僕は手に炎をやどす。
そして、蔓を燃やした。
さっきの反射魔法には驚かされた。
ルーシーがあんな魔力コストの高い魔法を使えるとは思ってなかったから。
あと、僕は結構ルーシーをなめていたと思う。
ゲーム上のルーシーはそこまで魔法技術がなく、この世界のルーシーも同様に僕よりもずっと魔法能力は下だろうと思っていた。
だからこそ、彼女を傷つけず、完全勝利できると思っていた。
でも、この世界のルーシーは自分なりに工夫して、本気で僕に勝とうとした。
事実、僕をこうして捕まえた。
これは本気を出さないと勝てない。
僕は全身の魔力の流れに集中し、手の先に魔力を集める。
さっきの光魔法よりもずっと多い魔力を結集させる。
ゲーム上のステラ。
彼女は後半になるにつれて、自分が聖女であることを自覚する。
が、聖女の力を使いこなす姿はゲームでは描かれるのはラストの魔王討伐シーンだけ。
でも、僕は違う。
ステラがどういった人物でどんな能力を使えるのか知っている。
聖女の力も使いこなせるように練習してきた。
星の聖女の特有魔法――――星魔法。
今の僕にはそれが使える。
「ルーシー様、ごめんなさい」
これは計画のため。ルーシーのため。
「星魔法――星光柱」
そう小さく唱えた瞬間、指先から眩い光が放たれる。
周囲には星々が輝き、光線はルーシーに向かって真っすぐ伸びていく。
「ぬるいことをして、ごめんなさい」
そして、ルーシーの体に直撃。ルーシーはぱたりと倒れ込んだ。
油断することなく、僕は魔法で彼女の杖を奪い取る。
そして、彼女の元へ近づいた。
下を見ると、足元には倒れたルーシー。
彼女の瞳は揺らぎ、今にも奇絶しそうだ。
これでお終いかな。
そうして、勝利を確信し、帰ろうとした瞬間。
「アハハ……」
下から笑い声が聞こえた。
嬉しそうでも楽しそうでもない。
絶望したような、狂ったような笑い声。
「アハハ、アハハ」
ルーシーはまるで別人ように笑っていた。
「アハハ」
「え? ルーシー様?」
なんで、笑ってんの?
もしかして、ルーシー、負けて激おこ?
勝たせた方がよかった?
「アハハ!」
声をかけても、彼女は笑いをやめない。
驚きの状況に呆然としていると、さっとルーシーに杖を奪われた。
僕、ちゃんとやったはずだよな?
星魔法を受けて、立ち上がれるって。
どうなってんだ?
見上げると、広がっていたのは夜空。
星がキラキラと輝いている。大きな月も見えていた。
「アハハ、キレイ」
ルーシーはそう言って、空へと両手を伸ばす。
試合場には今までになかった大風が吹き、僕らの髪を荒らす。
「コロシテヤル」
最初はルーシーがなんて言ったのか理解できなかった。
「コロシテヤルッ!」
2回目でようやく何を言ってきたのか分かった。
こ、殺してやるなんて……ルーシー、激おこぷんぷん丸じゃん。
その時、1人の女が目に入った。
僕らの周囲で観戦している学生ではない。
もっと遠くにいる、あの校舎屋上に立っている女。
よく見たら、あの女…………。
即座に、僕は後方へ下がる。
もしかしたら、ルーシーは誘拐作戦の時のように、相当暴れるかもしれない。
なら、警戒しておかないと。
審判が試合を止めないことを確認し、僕は強力なバリアを張る。
そして、ルーシーは杖先をこちらに向け、そして、軽く振った。
すると、夜空に輝く星々と月から光が放たれる。
その光線はこっちに向かってきていた。
「くっ!」
光線を避けようと、横へと逃げる。
が、光線は僕を追いかけてきた。
くそっ! 受けるしかないか!
避けられないと分かった僕は、覚悟を決めて、光線を受ける。
光線は強く、衝撃で体が後ろに下がったが、一瞬でバリアが壊れることはない。
強力なものにしたから、ルーシーの魔力切れまで受けれるだろう。
と思っていたが、一時してパリンと割れ。
「っかぁ!!」
光線が直撃。
思いっきりフィールドの壁にぶつかり、背中に殴打された痛みがくる。
壁のおかげで一度は止まるが、その壁も壊していく。
まずい、まずい。
気づけば、光線は僕の体を貫いていた。
腕を余裕で通せるぐらいの穴ができていた。
光線が止まってくれたが、力が入らず、僕の体は地面にゴロゴロと転がる。
体が寒い。
目も開けられない。
「ステラさん?」
ルーシーの声が聞こえた。
だが、返答できない。
…………死にたくない。
このまま、死ぬとルーシーのせいで死ぬことになる。
それは嫌だ。
そのうちして、複数の足音が聞こえてきた。
その中の1人は僕の名前を呼んでいた。
ヒーラーもやってきたのか、さっきよりも痛みは少なくなる。
が、起きられない。
そうして、僕はルーシーに返事ができないまま、意識を失った。
★☽★☽★☽★☽
目を開けると、知らない天井があった。
「おはよー、ステラ」
起き上がると、ベッド横にいたのはライアンではなくアース。
彼がここにいるということは、きっとライアンたちは来ていないのだろう。
「僕、どのくらい寝ていた?」
「4日間だよー。1日目はちょっと危なかったねー」
にっこにこ笑顔で言ってきた。
4日間も寝ていたのか。
「ルーシーは? 僕の所に来た?」
ルーシーは自分のせいだと思って、謝りにきただろう。
本当は彼女のせいじゃないのに。
しかし、アースは横に首を振った。
「……彼女はまだ寝てる」
「寝てる?」
僕が首をかしげていると。
「ヒーラーの方がステラさんの処置をしている時に、ラザフォード公爵令嬢は倒れましたわ。それ以降、ずっと眠っていらっしゃるみたいです」
と、壁際に立っていたジェシカが説明してくれた。
彼女の隣には兄ジェイクもいる。
「ステラはさぁ、なんで勝とうとしたのー? あのまま負けてれば、こんなふうにならなかったじゃーん」
「そうだけど、保険で勝っておきたかったんだ」
「計画の?」
「そうだ…………それで試合の勝敗は?」
「分かんなーい。ジェシカ、分かる?」
「いえ、私も分かりません」
まぁ、勝敗どころじゃなかったもんな。
「アース……あの光線を受ける前に気づいたんだが、遠くでこっちを見るメイドがいた。あのメイド女神、わざとルーシーの力を暴走させて、僕に攻撃させやがった」
「僕も気づいたけど、その時には君はもう――」
「ああ。僕も気づいたときにはルーシーの魔法が直撃してた」
絶対にあの女神がルーシーを操ったんだ。
「あの女神、ルーシーを利用しやがって」
邪魔をするとは言っていた。
だが、ルーシーにあんなことをさせるのは許さない。
「あいつがやったこと、とことん利用してやる」
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悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
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