【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

77 ?視点:全ては婚約破棄のために ④

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 数日経った選択授業の日。
 この日の僕は朝からとってもウキウキ気分でいた。
 
 だって、今日は僕の女神様と一緒に授業を受けれる日。
 あの変人女神ティファニーじゃない。ルーシーのことだ。

 学生が自由に選べる選択授業だが、僕は当然ルーシーと同じ授業していた。
 どうやってルーシーと同じ授業にしたかというと。
 裏方人間リアムに職員室に侵入してもらい、調べさせた。
 
 え? 
 これ犯罪だって?
 …………アハハ、失礼だな。
 これは犯罪なんかじゃないよ。
 純愛だよ。ルーシーに対する僕の愛の行動。
 
 まぁ、そんなこんなで、僕はルーシーと同じ授業を選び。

 「ごきげんよう、ルーシー様」
 「ごきげんよ……あ、どうもステラさん」

 選択授業の部屋に行くなり、ルーシーを発見した僕はさっそく彼女に声をかけていた。
 ルーシーの周囲を見る限り、他の攻略対象者連中もいない。

 これはルーシーを独り占めできるチャンスか!?
 心中テンションが上がりっぱなしの僕は、感情を抑え、ルーシーに笑顔を見せる。

 「ステラさんもこの授業を選択したんですか?」
 「はい。神話学に少々興味がありまして」
 
 本当は全然興味ないよー。
 ルーシーが選んでたから、僕も選んだだけだよー。

 「ライアン様もお誘いしたのですが、神話学にお詳しいようでして」
 「そうなの」

 本当はライアンなんて誘ってないよー。
 なんなら、ライアンが僕とは違う授業を選ぶように誘導したよー。

 「それで、私、1人ぼっちかなと思っていたんですけど、ルーシー様がいらっしゃったので、少しほっとしてます」
 「それはよかったわ」
 「あの……隣、失礼してもよろしいですか?」
 「え? ああ……ええ、大丈夫よ」
 「それでは失礼します」

 自然な流れで許可をもらうと、すぐさまルーシーの隣に座った。
 キャー! ルーシーの隣に座っちゃった!
 やばい、やばい、やばい!

 この興奮を抑えないと、僕授業中に失神しちゃう。
 と感情の暴走を抑えようとしていた時、ルーシーがこっちをじっーと見ていることに気が付いた。

 「あの……どうかされました?」
 「……いや、授業の準備しないのかなと思いまして」
 「あ、そうでした。ありがとうございます」
 「いえいえ」

 僕よ、冷静になれ。
 こっからが本番だ。計画通りにするぞ。
 僕は持ってきたバッグの中を探り、そして。

 「ハッ!」

 ルーシーに聞こえるよう、大げさにハッと息を飲んだ。
 案の定、ルーシーは。

 「………ステラさん、どうかしましたか?」

 と声をかけてきてくれた。
 えっへっへっ……計画通りの反応だぜ。

 「え? あ、いえ……ちょっと教室に筆箱を忘れたみたいで」
 「あの……よかったら、私のをお貸ししましょうか?」
 「え! いいんですか!?」

 ぜひ貸して!

 「いいですよ、ええと………これでいいですか?」

 そう言って、彼女は1本のボールペンを渡してきた。
 他の人からすればただのボールペン。
 だが、僕には眩しいほどに輝きを放つ国宝級のボールペンに見えていた。

 キャー!
 ルーシーのものに触れるなんて!
 この世界最高! 転生万歳!

 「はい、ありがとうございます。大切に使わせていただきます!」

 そうして、僕は推しのボールペンを受け取った。



 ★☽★☽★☽★☽
 

 
 そして、その日の夜。
 ボールペンを返しそびれた僕は、ルーシーの部屋に来ていた。
 ルーシーの部屋は入学の日に確認していたので、迷うことはなく。

 そして、部屋を訪ねると、出てきたのはいつもと姿が違うルーシー。
 彼女は寝間着姿で出迎えてくれた。
 
 あ゛ぁ――!!  
 めぅっちゃかわいい!
 ゲームではこんな姿のルーシー見れないから、めっちゃレア!
 この世界最高! FOOO!!

 僕はまた感情暴走してしまいそうだったが、落ち着きを必死に取り戻し。

 「夜遅くにすみません。ルーシー様にお借りしたものを返し忘れていたので、お返ししにまいりました」

 借りたボールペンを返す。

 「わざわざありがとう」
 「本当にお返しするのが遅くなってすみません」

 だが、このボールペン、彼女に借りたものではない。
 同じ商品ではあるが、借りた物とは全くの別物。昼間に購買で買った新品のボールペンだ。
 しかし、ルーシーは気にすることなく、そのボールペンを取っていた。

 「いえ、私も忘れていたし、大丈夫ですよ。気にしないでください」
 「ありがとうございます。それではルーシー様、おやすみさない」
 「おやすみなさい」

 その瞬間、後ろにいたメイドを見る。
 そして、僕はそっとドアを閉めた。

 これで、ルーシーにボールペンを返したわけだけど。
 本当はもっとルーシーと話したい。

 だが、もう用はない。
 
 しかし、僕は帰ることなく、ルーシーの部屋の前で待機。
 一時すると、ドアが開く。

 「私を呼び出すなんてどういうつもり?」

 出てきたのはルーシーの侍女、イザベラ。
 眉間にしわを寄せ、こちらをぎらりと睨んできた。

 「まぁ、ちょっとあんたと話したくってよ、女神様」
 
 僕は笑って、そう答えていた。



 ★☽★☽★☽★☽


 
 すっかり暗くなり、空には星々輝く下。
 街には音楽と人々の笑い声が響いている。
 酒屋から出てくる人たちは頬を赤らめていた。

 そんな街を僕は歩いていた。メイド女神とともに。
 もちろん、制服でいれば連行される可能性もあるので、私服を着て。

 一方、メイド女神はというと、大きなバスケット持っていた。
 普通にみれば本当に侍女なんだよな。
 
 実際の姿は変な願望がある女神だ。
 だが、普通の人ならただの女性。だーれも女神だとは思わないだろう。

 「それで、何を話したいの?」

 にこりと優しい笑みを浮かべる女神。
 しかし、彼女の声はいら立ちが混じっていた。

 「なんであんたがルーシーのメイドをしているのか気になってな」 

 すっかり天で、僕らを見ていると思ったのだが。
 なぜかルーシーの近くにいる。
 正直言って、腹立たしい。
 
 立場変わってほしい。
 なんなら、イザベラに転生させてほしかった。
 僕なら、全力でルーシーの御世話をするのに。

 「うーん、気分かしら。これまでに一度もメイドなんて仕事したことないから、やってみたかったのよ」
 
 まぁ女神がメイドなんてすることはないだろうな。
 
 「だからって、ルーシーの侍女をする必要はないだろ……それともお前は僕の邪魔をしたくて、イザベラという人間に憑依したのか」

 すると、女神ははぁとため息をつく。

 「そんなわけないじゃない。イザベラは私のこの世界での姿の1つ。憑依なんてしてないわ」
 「1つね……何個もあるみたいないい方だな」

 そう言うと、女神はふんと鼻で笑った。

 「あなたたちは大きな計画を立てているみたいね」
 「…………」
 「分かっているとは思うけど、私の存在忘れないでちょうだい。あなたたちが欲しがっているルーシーは私の手元にあるのだから」
 「……殺さないんじゃなかったのか」

 その言い方は人質を取っているみたいだぞ。

 「殺すとは言ってないけど、苦しみを与えないとは言ってないわ」
 「ルーシーを少しでも傷つけたら、お前を絶対に許さない」

 身体的にも、精神的にも、どのような苦痛を与えることも許さない。

 「なら、せいぜい頑張ることね」
 「そうさせてもらうよ」

 僕は足を止めたが、メイド女神は歩いていく。
 計画ではもしかしたら、ルーシーに若干苦痛を与えるかもしれない。
 でも、今のままだとルーシーが苦しむ将来しかない。
 
 だから、僕はあの計画を進める。
 だけど、意味もなくルーシーを苦しめるのは絶対に許さない。
 ライアンも、女神も……ゲーム上のステラも。

 女神の背中は徐々に離れていく。
 しかし、途中で女神はくるりと翻り。

 「……ああ、無理になったら、私を殺しにきても構わないのよ」
 
 そう言って、メイド女神は1人夜の街へと消えていった。



 ★☽★☽★☽★☽



 次の日の昼休み。
 僕はアースの研究室にいた。
 そこで、僕は愛しのルーシーのボールペンをじっと眺めていた。

 このボールペンはルーシーが実際に使っていた物。
 推しが使っていたペンを、今手元にあるなんて。

 普通に考えて……やばくね?
 だって、推しが使っていたボールペンだよ? 最高じゃん。

 「あの人、ずっとボールペン眺めてますけど…………あれなんなんすか」

 リアムがなんか言ってるけど、無視無視。
 このボールペンのよさを、彼が分かるまい。

 「ルーシーからボールペンを盗んだらしい」

 僕の代わりにか、リアムの問いにアースが答えていた。
 …………なんか聞き捨てならないこと言ってるけど。
 アースの返答に、リアムは「え?!」と声を上げる。

 「盗んだ!? ルーシー嬢のものを!?」
 「…………違う。等価交換したんだ」
 「それ、盗んだと同じようなもんじゃないすか」

 ルーシーは気づいていないし、逆に新品で喜んでいたみたいだから、結果オーライなんだよ。

 そう説明して、リアムたちを黙らせると、僕は再度ボールペンに目を向ける。
 
 若干の傷があって綺麗とはいえないのかもしれない。
 でも、それだけルーシーがこのボールペンを使って勉強としたという証拠。

 ゲームではあまり感じなかったけど、ルーシーって勤勉なんだな。
 
 …………よし。このボールペンを僕の宝としよう。
 いっそのことアストレア王国の国宝にしてもいい。
 いや、僕の宝物だから、国宝にされたら困るか。

 うん。絶対に無くさないためにも、金庫買って保管しよう。
 そうして、ボールペンを見て考えていると。

 「……なんだよ、リアム」

 またリアムがじっとこっちを見てきていた。
 しかし、関心の目ではない。
 なんか呆れられてる目をしていた。
 
 「いやー。ステラさんそんなにルーシー嬢のことが好きなんだなーって思って」
 「そりゃ……そうに決まってるだろ。だって、あんなに可愛いんだぞ?」

 しかし、リアムは「えー」と不満の声を漏らした。

 「そうっすかね? ステラさんの方が美人さんだと思うんすっけど」
 「……なに? リアム? 今なんて言った?」
 「すみません、ルーシー嬢の方が美人っす」
 「だよね。僕もそう思う」

 リアムの発言に僕は大きくうなずく。
 彼は「こっわ。この人こっわ」と小さな声で呟いたが、そんなことは無視。

 「リアム、この気持ちは理解してもらえないかもしれないけど、僕はルーシーが好きなんだ」
 「はい、分かってるっす」
 「分かってない。めちゃくちゃ大好きなんだよ。愛してる」
 「……はい」
 「本当は今すぐにでも結婚したい。いらない虫は全部殲滅して、僕だけのものにしたい」
 「…………一歩でも間違えば犯罪者っすね。俺、ステラさんの将来が怖いっす」
 「リアム、それは違うよ。もうステラは犯罪者だよー」
 「誰が犯罪者だ」

 犯罪者呼ばわりしてきたアースをきっと睨む。
 あいつ、くすくすと笑いやがって。

 「僕が犯罪者というのなら、お前らも犯罪者だ。僕の協力者なんだからな」
 「分かってるよー。でも、君は犯罪まがいなことをしてでも、ルーシーを僕らの国に連れていくんでしょ?」

 僕の考えなんて分かっているくせに、そう聞いてくるアース。
 ライアンなんかと一緒にいたら、ルーシーはきっと幸せになれない。
 だから、僕がルーシーを幸せにする。

 「もちろんだよ」

 一緒に幸せになるんだ。
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