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第3章 学園編

75 ?視点:全ては婚約破棄のために ②

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 「Twin Flame」の続編の「Twin Flame 2」。
 そこにはアースの他に登場する新キャラがいる。
 それはわんこ。
 現在ルーシーが飼っているという、あのシューニャもどきだ。
  
 あいつは続編で初めて登場するのだが。
 他のキャラとは違い、主人公との出会いは学園外。

 続編のストーリーは、無印でステラが誰とも結ばれないことが前提となっている。
 そのため、続編のステラは王子たちやカイル、キーランたちとは友人関係。
 
 「Twin Flame2」では、そのメンツで学外でお出かけというイベントがある。
 行き先はキーランの実家であるラザフォード家が所有しているコテージ。
 そこの近くには大きな湖があり、ステラはそこでシューニャもどきと出会う。

 ステラはもともとミュトスを連れて帰ろうとする気はなかったのだが。
 彼女はミュトスになつかれ、帰ろうと離してもついてくる。
 結局、ステラは折れて、もどきを飼うことに。

 でも、そのミュトスの本当の姿は人間。
 しかも男。

 それを知るのはミュトスを飼い始めて、一時経ってから。
 ステラはミュトスと過ごすうちに、ミュトスが様々なものに変身できることを知る。

 でも、ある日。

 彼女が冗談で「人間になって」って言うと、ミュトスは大きな光を放ち、イケメンさんに変身。

 …………ああ、イケメンなんだよ。めちゃくちゃイケメン。
 だから、彼もまた攻略対象者の1人。
 続編の攻略対象者だ。しかもシークレット。
 そのことを説明すると、ジェシカたちから疑問の声があがった。

 「わんちゃんが人間? それってどういう意味ですの?」
 「そのまんまの意味。人間が犬に化けているんだ」
 「え? それってやばくない? ルーシーちゃんが飼ってるんでしょ?」
 「ああ、まずいよ」
 
 ミュトスあれがルーシーの近くにいると思うと、不安。超不安。
 だって、お昼の様子からするに、とても仲良さそうだった。
 スキンシップも多かった。
 あんな可愛い犬だけど、本当の姿は男。
 
 ルーシーが男とイチャイチャなんて…………。

 「かぁ――――!!」
 「ステラさん!?」

 嫌な想像をしてしまい、僕は頭を抱え発狂。
 周りはドン引き。ジェシカは「なんだこいつ。ついに狂ったか?」とでも言いたげな目でこっちを見ている。
 でも、そんなことはどうでもいい。

 そ! れ! よ! り! も!

 最悪だよ!
 ルーシーと男がイチャイチャしているところを想像してしまったじゃん!
 絶対嫌だ! そんなの見たくない!

 ルーシーが幸せならいいのかもしれないけど……いや、それでも! 
 わんちゃん姿でルーシーといちゃつくのは反則! レッドカード!

 「くそぅ――!! あの犬、僕とポジション変われっ――!! あぁ――!!」

 あ゛ぁ――!!
 ミュトスを今すぐにでも引き離したい!

 もし人間の姿に戻った日には本当に本当にまずいことになる。
 だから、早くあのミュトスをルーシーから奪わないと。



 ★☽★☽★☽★☽



 数日後。
 僕は図書館にいた。

 「ルーシー様はどの本をお探しなのですか?」

 ルーシーに話しかけていた。
 最近、観察していて(厳密にはリアムに監視をさせていて)分かったことなのだが、ルーシーは頻繁に図書館に足を運んでいた。
 教室でも読書している姿をよくきっと本が好きなのだろう。

 それを知った僕は図書館で待ち伏せ。
 ストーカーみたいだけど、こうでもしないと彼女と話せない。
 一日中図書館で張り込んでいた。
 そして、真夜中になってようやく。

 「ルーシー様、突然声をおかけしてすみません。お邪魔でしたか?」

 こうして、やってきたルーシーに話しかけれた。
 いつになったら来るのかと思ってたけど、真夜中に来るなんて。
 よほど本が好きなんだな。

 しかし、急に話しかけたせいか、ルーシーは困惑気味。
 ほけっーとしている。

 あらー。
 もうちょっと挨拶の言葉とかいえばよかったかな? 
 ああ、そうだった。
 ルーシーはゲームのキャラクターのまえに、彼女はお貴族様。
 礼儀を持って関わるべきだったかも。
 もう少し丁寧に声をかけるんだった。

 心中自分の行動に反省していたが、優しいルーシーは返答してくれた。

 「あ、いえ、邪魔とかじゃなくて、少し驚いてしまって」
 「ああ…すみません。驚かせてしまって」
 「いえいえ」
 「それで……ルーシー様はどの本をお探しになっておられたのですか?」
 「え? ちょっとミュトスのことを調べたいなーと思っていまして」
 「ミュトス………というのは、以前の魔獣さんですか?」
 「うん、あのでっかい犬」

 ルーシーがミュトスについて調べる、か。
 ちょっと意外だな。
 ルーシーは興味なさそうだなと思っていたけど。
 シューニャもどきのことなら、聖女や神話関連の本にのっているだろう。
 
 「なるほど。ライアン様がシューニャもどきとおっしゃられていた魔獣さんですね。それなら、あちらの方に関連の本があるかもしれません」

 本来シューニャもどきは聖女になつく大精霊。
 アースからその話は聞いていたし、神話に関する本によく記載されていた。
 
 しかし、ステラになついたミュトスは例外。
 大精霊なんかじゃない。
 魔女に呪いをかけられた妖精族の王子様だ。

 魔女というのは、あの黒月の魔女。
 あのキャラが殺しをせず、呪いをかけるなんてめずらしいけど。

 「でも、あそこには大量に本がありますので、1人で探すのは大変かもしれません。ですので、よろしかったら、私もお手伝いしてもよろしいでしょうか?」
 「え、いいの?」
 「はい、もちろんです!」
 
 もちのもちだよ、ルーシー。
 君のためならなんだってするからね!

 そうして、ルーシーとともに本棚の片っ端から読んで探していった。
 本当はどの本か知っている。
 が、僕はあえて知らない振りをした。
 
 「あの参考として、その………よかったらでいいんですけど、見せていただけませんか?」

 ミュトスを今どこにおいているか知っておきたい。
 いつかミュトスをルーシーから離すためにも。

 「ミュトスのこと?」
 「ええ、そのミュトスさんを」
 
 僕は直接見たいです。
 なんだったら、そのミュトスさん、僕に渡してほしいです。
 あいつ、本当は男なんで。

 目で必死に訴えると、ルーシーはコクリとうなずいてくれた。

 「わ、分かったわ」
 「ありがとうございます!」

 やった! 
 これでミュトス強奪計画を立てれる!
 さて、あいつはどこにいるのだろう?

 しかし、ルーシーは他の場所に行く様子もなく、首にかけていたペンダントを手に取った。
 そして。

 「ミュトス、出ておいで」

 と、そっと声を掛ける。
 すると。

 「わぁ————!!」

 ルーシーのペンダントが光を放つ。白、赤、黄色、緑、水色などカラフルな光。
 まぶしくて、僕は目をつぶった。
 一時して、輝きがおさまると、私の前には1匹の犬がいた。

 「これがミュトスさんですか」
 
 この前見たけど、こうしてみると。

 「ガルルルゥ……」

 ブサイクだな。
 なんだよ。僕にめっちゃ警戒しているじゃん。

 「ルーシー様はその………ミュトスさんをいつも近くにおいているのですか?」
 「うん、そうだけど?」
 「そうですか……」 

 最悪だ。
 僕ではなく、獣の姿をした男が彼女の近くにいるだなんて。

 警戒してか僕をずっと睨んでいるミュトス。
 睨まれていることは気に食わないけど、でも、でも……こいつの毛並みよさそう。

 サラサラしてそう。
 …………。
 …………ちょっとだけ触りたいな。
 
 「あの……触ってもいいですか?」
 「うん、いいけど……」
 
 撫でようとした瞬間。
 
 「っ!」

 ミュトスが思いっきり僕の手を噛んてきた。
 こいつっ?!
 初対面の奴の手を噛むなんて!
 なんて男だ!

 光魔法での攻撃が一瞬脳裏によぎるが、僕はその衝動を抑えた。

 こいつがいくら警戒して僕を嫌っていたとしても、仲良くしておかないと。
 ルーシーに『噛むと思うから、会わせられない』なんて言われたらいけない。
 ミュトスを奪える機会がなくなる。

 だから、噛まれても、僕はじっとしていた。
 痛みを我慢して、どこかの風の谷の姫さんみたくミュトスに微笑みかける。
 
 「ステラさん、大丈夫?」
 「ええ。全然痛くないですよ」

 うそですよ。
 ほんとは痛いよ。
 正直、ミュトスこいつを殴りたいよ。
 そんな本音は言わず、僕はへへへと笑う。

 そして、僕は噛まれたまま、撫で始めた。
 ああ、やっぱりサラサラじゃん。
 男を撫でていると思うと、気分が悪くなるけど……いや、この毛はたまらん。
 気持ちいい。一生触ってたい。

 一方、ミュトスはいたたまれなくなったのか、噛むのをやめていた。
 
 「ルーシー様はミュトスさんをどこで見つけられたのですか?」
 「別荘近くの湖。そこでミュトスを見つけたのよ」
 「そこで………ですか?」
 「うん。そこで見つけたのよ。見つけた時のミュトスはシューニャって怪物の姿をしていたんだけど、お願いしたら、小さな姿になってくれたの」
 「そうなんですか」

 別荘近くの湖で出会ったとなると、ルーシーはゲームのステラと同じ出会い方をしているんだな。
 それで、ミュトスはルーシーのペットになってるのか。

 「…………なるほど。それで、このミュトスさんはルーシーが命じれば、何にでもなれるのですか?」
 「うん。まぁ、生き物ならなんでもなってくれたわ」
 「な、なるほど……」
 
 マジか。
 これはまずいな。
 ルーシー、いつか『人間になって』っていうじゃん。
 
 「あの……マクティアさん、ミュトスに関連する本は見つかりそう? 難しいそう?」
 「いえ、大丈夫だと思います。思い当たる本があるので」
 「ほんとっ!?」
 「はい。きっとこれだと思うのですけど……」

 僕はそう言って、とある1冊の本を取り出す。
 その本は随分古びているが、豪華な装飾がつけれられたもの。
 ルーシーは意外だったのか、驚いていた。
 
 「え? これに書かれているの?」
 「確証はないですが、もしかしたらと思いまして」

 本のタイトルは『星の聖女』。
 タイトル通り星の聖女について書かれている本だ。
 星の聖女と関連のあるシューニャもどきについても書かれていたはず。

 「ねぇ、マクティアさん」
 「なんでしょう?」
 「よかったら、なんでこの本に思い至ったのか教えてくれる?」

 えっと。どう答えようか。
 前世の乙女ゲームで知ったというわけにもいかないし。

 「その……ミュトスさんはその本に記述されている伝説に登場する精霊さんかなと思ったんです」
 「精霊?」
 「はい。伝承されている星の聖女様はご存じですよね?」
 「ええ。勇者様とともに魔王を倒しに行く星の聖女様のことでしょ?」
 「はい。その聖女様は精霊と契約していらっしゃったらしいのです」
 「らしい、ね。なんともあいまいね」
 「ええ、まぁ伝説ですから。それで、その精霊さんなのですが、シューニャのような姿をしていたらしいのです。また、自在に姿も変化させることができたようでして」
 「……それでミュトスがその精霊だと思ったと」
 「はい」
 
 ルーシーにミュトスの正体について説明すると、彼女はうーんと考え込む。
 その間もミュトスは僕に近づくことなく、ルーシーの足にすり寄っていた。

 なんだよ、ミュトス。
 僕を威嚇して。
 こっちはお前の正体を知ってるんだぞ。

 「ま、まぁ、一回この本を読んでみることにするわ。今日はありがとう、ステラさん」
 「いえいえ。目的の本じゃない可能性もありますので、違うようであればまた声をかけください。私はいつでもルーシー様のお手伝いしますので」

 何を頼まれても、絶対にするよ。
 だって、お手伝いをするってことはルーシーに会えるってことだもん。
 僕がにこやかに言うと、ルーシーもにっこりと笑ってくれた。

 「わかった。その時はお願いするわ………じゃあね、ステラさん。おやすみなさい」
 「おやすみなさい」
 
 おやすみの挨拶をすると、ルーシーはミュトスをペンダントへと戻し、その場を去っていく。

 ミュトスがあのペンダントにいる。それはあいつがいつもルーシーの近くにはいるってことをさす。
 この前までルーシーはペンダントなんて着けていなかったから、最近買ったのだろうけど。

 ミュトスが入った状態でペンダントを奪えば、ルーシーから離すことができるが。
 どうやって奪おうか。
 …………ルーシーが寝ている間にでも盗もうか。

 そんなことを考えながら、彼女の姿が見えなくなるまで、僕はルーシーの首に掛けられたペンダントを見つめていた。
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