【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

文字の大きさ
上 下
74 / 89
第3章 学園編

74 ?視点:全ては婚約破棄のために ①

しおりを挟む
 誘拐作戦が失敗して6年。
 僕はようやくあの場所に来ていた。
 
 「ここがシエルノクターン学園………」

 目の前にあるのは王立シエルノクターン学園。
 乙女ゲー「Twin Flame」の舞台。

 やっとルーシーに会える場所。

 ゲーム通り、僕はこの学園に入学することになっていた。
 だから、今日は女子の格好。
 ひさしぶりのスカートだから、ちょっと違和感。

 アストレア王国とは違って、ここではちゃんと女の子として、過ごさないといけない。
 だから。

 「ついに、ついにここに来たのね、私」

 口調を変えて、行動も女の子らしく。

 「よしっ、行こう!」

 気合いを入れ、僕は大きなバッグとともに校舎へと力強く一歩を踏み出した。



 ★☽★☽★☽★☽



 学園に来るまでの間。
 結局ルーシーを誘拐することはできなかった。
 なぜかエドガーが僕のことを探しており、ムーンセイバー王国では自由に動けず。
 ルーシーをアストレアに転送させる計画は中止。

 そこで、僕は違う計画を立案。

 それはゲーム通りライアンとの婚約を破棄したルーシーにアストレア王国に来ないか誘うもの。
 ライアン大好きルーシーにとって、ライアンとの婚約破棄は辛いことかもしれない。この計画自体ルーシーを辛くさせないか、少し疑問に思っていた。
 だけど。

 『ルーシー、ライアンのところにはあんまり行ってないみたいだよー』

 とアース曰く、ルーシーはほとんどライアンの所には行っていないらしい。
 ワンチャン、ルーシーはライアンのことが好きじゃないかも? ないかも?
 まぁ、もし、ルーシーがライアンのことを好きじゃないのなら、ぜひとも婚約破棄をしてほしい。
 
 でも、立場上ルーシーから婚約破棄はできないだろうから、ライアンから婚約破棄ができるよう僕らは動く。

 計画の根幹とは逸れることだが、僕は個人的にライアンにはざまぁをしたい。

 …………だってさ。
 あいつ、めちゃくちゃかわいいルーシーとの婚約を破棄するんだよ?
 まじ意味分からなくなーい?

 ルーシーの婚約者ってことは世界一幸せ者ってことだよ?
 
 確かにステラへのいじめはダメだと思うよ?
 だとしても、婚約破棄までする必要なくなーい?

 …………あー。やばい。
 学園の敷地内に正気のルーシーがいると思うと、テンションが上がってしまう。

 ふぅー。深呼吸。深呼吸。

 話を戻すけど、ルーシーの可愛さを分かってもらうために、ライアンにはざまぁをする。
 こんなに可愛い子を捨てるな、ってね。
 ゲームのルーシーの復讐みたいな感じだね。

 でも、どんなざまぁしようか。
 ゲームのライアンルートでは、ルーシーはステラへのいじめに関して断罪され、その後、ライアンとの婚約を破棄され、ステラはライアンと結ばれる。
 これが本来のシナリオ。

 だーけーどー。

 僕はライアンが告白してきても振る。彼を罵倒する。
 そんでもって、僕はルーシーに婚約を申し込む。
 いや、結婚を申し込んじゃう!

 こんな感じでどうだろう? 
 え? めっちゃいいんじゃない?

 よし、ライアンざまぁをしよう! 
 そんでもってルーシーをアストレアに!
 そのためにはまず――――。
 
 「そういや、名前を言ってなかったね」

 入学式開始前、僕は中庭で彼と対面していた。
 彼というのは、あれだ。

 「僕の名前はライアン。君の名前は?」

 僕の宿敵、ライアン。
 彼はにこやかに聞いてきた。

 うーむ。
 こうして目の前にしてみてみると、こいつイケメンだ。
 くそぅ、腹立つ。
 僕と立場変われ。
 そんな煮えたぎる思いを隠し、挨拶をする。

 「私はステラ・マクティアと申します。よろしくお願いいたします、殿下」
 「なんだ、僕のことを知っていたのかい……ライアンでいいよ。ステラ」
 「え? いいのですか?」
 「ああ」
 「では、お言葉に甘えて。ライアン様、よろしくお願いいたします」

 僕は左手を差し出す。
 案の定、ライアンは少し戸惑っていた。

 「左手ですか。出会ってそうそう、僕のことを嫌いだなんて………」

 その通りだよ。
 本当はあんたにケンカを売りたいんだよ。
 即刻決闘をして、ルーシーとの婚約を破棄させたい。
 
 「はっ! 私左利きなもので……ついつい………すみません」

 だけど、僕はしぶしぶ右手を出し直す。

 「改めて、よろしく。ステラ」

 ルーシーの将来のためにもここは我慢。
 がんばれ、僕。
 営業スマイルだ。

 「よろしくお願いいたします、ライアン様」

 その瞬間、2階の通り廊下が見えた。
 ルーシーが僕らを見ていた。
 彼女の顔はとても悲しそうだった。



 ★☽★☽★☽★☽



 入学した次の日。
 僕はルーシーに会った。
 会えた。
 挨拶もできた。

 だけど――――。

 「なんで、あの犬がルーシーのペットになってんだ」
 「犬って白いワンちゃんのこと?」
 「そうだ。なんでなんだ?」
 「えー。僕になんでって言われてもー」

 僕がお昼のことを愚痴ると、アースは困ったようにそう言った。

 アストレア王国の王子であるアースもまたムーンセイバー王国に来ていた。
 どうやらムーンセイバーから、ルーシーを誘拐した代わりにこっちにこいと言われたらしく、アースも学園に入学。

 彼が学園長に研究をしたいと言うと、研究室をくれたらしい。
 なんて権力に甘い学園長なんだ。

 そんなアースの研究室には、基本誰も入ってこない。
 護衛も執事もいない。お手伝いさんもいない。

 「なんでワンちゃんがいけないんです? ルーシーさんがペット飼っていてもいいじゃないですか?」

 そう尋ねてきたのはアースの側近ジェシカ。
 隣にいた兄ジェイクもうんうんと頷く。
 アースの側近の双子もムーンセイバー王国に来ていた。当然、彼らもシエルノクターン学園に入学している。

 「確かに普通の犬だったらいいよ。それだったら僕は当然許す」
 「ステラのその言い方だと、ルーシーちゃんの犬が普通じゃないみたーい」
 「そうです。普通じゃないみたいですわ」
 
 ああ、普通じゃない。
 だからこそ、焦ってる。怒ってる。

 「あの犬はな――――本当は人間なんだよ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...