【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

74 ?視点:全ては婚約破棄のために ①

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 誘拐作戦が失敗して6年。
 僕はようやくあの場所に来ていた。
 
 「ここがシエルノクターン学園………」

 目の前にあるのは王立シエルノクターン学園。
 乙女ゲー「Twin Flame」の舞台。

 やっとルーシーに会える場所。

 ゲーム通り、僕はこの学園に入学することになっていた。
 だから、今日は女子の格好。
 ひさしぶりのスカートだから、ちょっと違和感。

 アストレア王国とは違って、ここではちゃんと女の子として、過ごさないといけない。
 だから。

 「ついに、ついにここに来たのね、私」

 口調を変えて、行動も女の子らしく。

 「よしっ、行こう!」

 気合いを入れ、僕は大きなバッグとともに校舎へと力強く一歩を踏み出した。



 ★☽★☽★☽★☽



 学園に来るまでの間。
 結局ルーシーを誘拐することはできなかった。
 なぜかエドガーが僕のことを探しており、ムーンセイバー王国では自由に動けず。
 ルーシーをアストレアに転送させる計画は中止。

 そこで、僕は違う計画を立案。

 それはゲーム通りライアンとの婚約を破棄したルーシーにアストレア王国に来ないか誘うもの。
 ライアン大好きルーシーにとって、ライアンとの婚約破棄は辛いことかもしれない。この計画自体ルーシーを辛くさせないか、少し疑問に思っていた。
 だけど。

 『ルーシー、ライアンのところにはあんまり行ってないみたいだよー』

 とアース曰く、ルーシーはほとんどライアンの所には行っていないらしい。
 ワンチャン、ルーシーはライアンのことが好きじゃないかも? ないかも?
 まぁ、もし、ルーシーがライアンのことを好きじゃないのなら、ぜひとも婚約破棄をしてほしい。
 
 でも、立場上ルーシーから婚約破棄はできないだろうから、ライアンから婚約破棄ができるよう僕らは動く。

 計画の根幹とは逸れることだが、僕は個人的にライアンにはざまぁをしたい。

 …………だってさ。
 あいつ、めちゃくちゃかわいいルーシーとの婚約を破棄するんだよ?
 まじ意味分からなくなーい?

 ルーシーの婚約者ってことは世界一幸せ者ってことだよ?
 
 確かにステラへのいじめはダメだと思うよ?
 だとしても、婚約破棄までする必要なくなーい?

 …………あー。やばい。
 学園の敷地内に正気のルーシーがいると思うと、テンションが上がってしまう。

 ふぅー。深呼吸。深呼吸。

 話を戻すけど、ルーシーの可愛さを分かってもらうために、ライアンにはざまぁをする。
 こんなに可愛い子を捨てるな、ってね。
 ゲームのルーシーの復讐みたいな感じだね。

 でも、どんなざまぁしようか。
 ゲームのライアンルートでは、ルーシーはステラへのいじめに関して断罪され、その後、ライアンとの婚約を破棄され、ステラはライアンと結ばれる。
 これが本来のシナリオ。

 だーけーどー。

 僕はライアンが告白してきても振る。彼を罵倒する。
 そんでもって、僕はルーシーに婚約を申し込む。
 いや、結婚を申し込んじゃう!

 こんな感じでどうだろう? 
 え? めっちゃいいんじゃない?

 よし、ライアンざまぁをしよう! 
 そんでもってルーシーをアストレアに!
 そのためにはまず――――。
 
 「そういや、名前を言ってなかったね」

 入学式開始前、僕は中庭で彼と対面していた。
 彼というのは、あれだ。

 「僕の名前はライアン。君の名前は?」

 僕の宿敵、ライアン。
 彼はにこやかに聞いてきた。

 うーむ。
 こうして目の前にしてみてみると、こいつイケメンだ。
 くそぅ、腹立つ。
 僕と立場変われ。
 そんな煮えたぎる思いを隠し、挨拶をする。

 「私はステラ・マクティアと申します。よろしくお願いいたします、殿下」
 「なんだ、僕のことを知っていたのかい……ライアンでいいよ。ステラ」
 「え? いいのですか?」
 「ああ」
 「では、お言葉に甘えて。ライアン様、よろしくお願いいたします」

 僕は左手を差し出す。
 案の定、ライアンは少し戸惑っていた。

 「左手ですか。出会ってそうそう、僕のことを嫌いだなんて………」

 その通りだよ。
 本当はあんたにケンカを売りたいんだよ。
 即刻決闘をして、ルーシーとの婚約を破棄させたい。
 
 「はっ! 私左利きなもので……ついつい………すみません」

 だけど、僕はしぶしぶ右手を出し直す。

 「改めて、よろしく。ステラ」

 ルーシーの将来のためにもここは我慢。
 がんばれ、僕。
 営業スマイルだ。

 「よろしくお願いいたします、ライアン様」

 その瞬間、2階の通り廊下が見えた。
 ルーシーが僕らを見ていた。
 彼女の顔はとても悲しそうだった。



 ★☽★☽★☽★☽



 入学した次の日。
 僕はルーシーに会った。
 会えた。
 挨拶もできた。

 だけど――――。

 「なんで、あの犬がルーシーのペットになってんだ」
 「犬って白いワンちゃんのこと?」
 「そうだ。なんでなんだ?」
 「えー。僕になんでって言われてもー」

 僕がお昼のことを愚痴ると、アースは困ったようにそう言った。

 アストレア王国の王子であるアースもまたムーンセイバー王国に来ていた。
 どうやらムーンセイバーから、ルーシーを誘拐した代わりにこっちにこいと言われたらしく、アースも学園に入学。

 彼が学園長に研究をしたいと言うと、研究室をくれたらしい。
 なんて権力に甘い学園長なんだ。

 そんなアースの研究室には、基本誰も入ってこない。
 護衛も執事もいない。お手伝いさんもいない。

 「なんでワンちゃんがいけないんです? ルーシーさんがペット飼っていてもいいじゃないですか?」

 そう尋ねてきたのはアースの側近ジェシカ。
 隣にいた兄ジェイクもうんうんと頷く。
 アースの側近の双子もムーンセイバー王国に来ていた。当然、彼らもシエルノクターン学園に入学している。

 「確かに普通の犬だったらいいよ。それだったら僕は当然許す」
 「ステラのその言い方だと、ルーシーちゃんの犬が普通じゃないみたーい」
 「そうです。普通じゃないみたいですわ」
 
 ああ、普通じゃない。
 だからこそ、焦ってる。怒ってる。

 「あの犬はな――――本当は人間なんだよ」
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