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第3章 学園編
72 ?視点:誘拐作戦 前編
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お茶会に行って数日後。
僕は数日間、もしもあの攻略対象者の4人が転生者、かつルーシー推しであるという最悪のパターンから、どうすべきか考えていた。
そして、出た結論。
「えー? ルーシーを誘拐ぃー?」
「ああ、そうだ」
それは「ルーシーを誘拐すること」。
誘拐なんて、とんでもないことなのは分かってる。
でも、さっさとライアンやキーランから、ルーシーを離したい。
そう考えると、この方法が一番だ。
そのことをアースに話すと、彼は不満そうな顔をした。
「えー。誘拐したら、僕、怒られなーい? 姉上たちに怒られるのは勘弁なんだけどー」
「大丈夫だろ。お前はすでにに怒られそうなことはいっぱいしてるじゃないか」
「僕はやってないよー。君たちがやってるんだよー」
「やらせてんだろうが」
「お疲れ様です」「2人ともおっつー!」
アースと話していると、ドアの方から元気な声が聞こえてきた。
振り向くと、いたのは2人の少年少女。
1人はポニーテールの女の子、もう1人は短髪の男の子。
彼らは僕と似たようなデザインの服を着ている。
この2人、結構外見が似ているんだけど、性格は全然違うんだよな。
そう。
彼らは僕の同僚。
女の子はジェシカ・スピカ、男の子はジェイク・スピカ。
幼少期からアースについている双子だ。
僕は、もう何度か仕事を彼らと一緒にしており、どんな人物かは把握済み。
双子の片方、妹ジェシカは、真面目ちゃんで厳格。
ポニーテールの髪をなびかせ歩くその姿はまさに貴公子。
9歳なのに、めちゃくちゃ男前。
正直、令嬢というより騎士と言った方がしっくりくる。
そんな彼女は、主人であるアースにも厳しい。
命令や法令は絶対であり、前世の世界なら公務員をやっていそうな子。
そんな真面目な妹に対し、兄ジェイクは結構やんちゃ。
主人であるアースにはため口で話し、誰に対しても非常に馴れ馴れしい。
だが、仕事の時の彼はがらりと変わる。
命令されたことはたとえどんなに難しそうなことであっても、簡単にやってのける。
まぁ、たまにミスはすることはあるが、その後即座に臨機応変に対応。
また、彼は一瞬でがらりと振る舞いを変えれる観察眼と演技力があった。
貴族の子、スラム街の子、女の子、おじさん、おばさん。
変装次第ではどんな人物にもなれ、潜入するときの彼は非常に頼もしい。
チャラいジェイクだが、やはり彼も妹同様有能。
そんな有能双子ちゃんに、駄目主人アースは手招きしていた。
「ねぇー。2人とも聞いてー。ステラがさ、隣の国の令嬢を誘拐しようって僕を誘ってるのー」
「え、マジ。それ、犯罪じゃん」
「ステラさん、それ本当ですか?」
「あ、うん。ルーシーと一緒に幸せになるためなら、なんでもするつもりなんだ」
「ステラさん……あなたって人は」
「えー。やばー」
「ねー。この人、本気で言ってんだよー。ヤバいでしょー?」
すると、ジェシカがはぁとため息をつく。
「まぁ、でも、アース様も変わらないと思いますの。私たちに命令にしていることって」
「へー? そー?」
「うん、俺も変わらないと思う」
確かに、アースが命令してくることは結構重い。
貴族の監視が主ではあるが、たまにむちゃくちゃな命令をする時がある。
たとえば、貴族派の連中の弱みとなる情報を盗んでこい、とか。
「えー。いやー、あれは法王から頼まれたことだしー? おとがめなしだからー」
「だからって私たちに頼むことありません? 法王猊下のお近くにも工作員はいらっしゃるでしょうに」
「そうだけどー」
「……話を戻すぞ。ルーシー誘拐作戦についてだが、アース、お前にはかなりのメリットがある」
そう話し始めた瞬間、アースは真剣な顔に切り替わる。
「ふーん。どんなメリットー?」
「それは今以上にお前の仕事が激減するってことだ」
すると、ジェシカとジェイクが「は?」と訝し気な表情を浮かべる。
「え? 激減? 今のアース様、そんなに仕事していないよ。書類仕事はリアムがしてるし」
「ジェイクの言う通りですの。アース様は何にもしてないですわ」
「えー? ジェイク、ジェシカー? そんなことないでしょー? 君たちに命令してるでしょー?」
「命令だけじゃないですか」
「命令も結構頭を使うんだよー」
「うそだね。アース様、さっき法王から頼まれているって言ってたもん」
「…………はい。3人とも僕の話を聞いて」
「「「ごめんなさい」」」
仕切り直し、仕切り直し。
僕はコホンと咳払いをし話を続けた。
「もしルーシーの誘拐が成功すれば、アースは星の聖女じゃなく、月の聖女も手に入れることができる。そうすれば、アースが法王から任されている儀式等の仕事を彼女に任せることができるわけだ。これは、お前に初めて会った時に話した」
「確かにそんなことを言われたねー」
「だが、今のルーシーはムーンセイバー王国の第2王子ライアンと婚約中」
「婚約ですか……ああ、なるほど。だから、ルーシーさん?という方を誘拐するのですか?」
「ああ」
本当はその婚約を解消させてから、ルーシーをアストレア王国につれてきたいところ。
つれてきたいところ…………?
あれ…………?
「ちょっと待てよ」
「え、どうしたのー? さっきまで意気揚々に説明していたのにー」
「なぁ、アース。お前ライアンと会うことできるか?」
「できるけど、どうしたのさー?」
もしかしたら、この方法なら、ルーシーとライアンの婚約を破棄できるかもしれない。
「ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」
★☽★☽★☽★☽
「あっはー。ダメだったよ」
アースは帰ってくるなり、笑顔でそう言った。
「いやーねー。君の言う通り、ライアンにルーシーとの婚約を破棄して、僕にルーシーを頂戴って言ったさー」
先日頼んだこと。
それはアースが言っているように、ライアンにルーシーとの婚約を破棄してもらえるよう、直接頼むこと。
何者かも分からない僕が頼みに行くわけにもいかず、ライアンと立場が同じアースに交渉してもらった。
もらったのだが。
「そしたら、彼めちゃくちゃキレてね」
「は? キレた?」
ライアンが?
ルーシーのことなんて微塵も思っていないあの王子が?
「冗談だろ?」
「冗談じゃないよー。あんなライアン初めて見たよー。ちょっと僕、怖かったー」
「ハッ、お前に怖いものなんてあるんだな」
「えー? 僕だって怖いものあるよー」
アースは「最近みる悪夢とかめちゃくちゃ怖いもーん」とぶりっ子口調で言ってくる。
「でも、まさか断られるとはな」
ルーシーのことを全くと言っていいほど好いていないライアン。
彼なら、提案を即OKすると思っていたが。
公爵家の顔を窺って断ったのか?
「まぁ、僕にはこうなることは分かっていたんだけどさー」
そう言って、あはっと笑うアース。
あ、そうだ。
コイツ、僕以外の人の未来は見えるんだった。
忘れてた。
「……お前、見えていたのなら、さっさと言ってよ」
「いやー。未来の見えない君が指示したことだから、ちょっと違う未来が起こるかなーって期待したんだけどねー。ざんねーん」
「……まぁいいや。それで、頼んだこと以外で、何か収穫あった?」
すると、アースはコクリと頷く。
「この前、君が話していた3人?がかなりの頻度でラザフォード家に行っているらしいよー」
「!?」
あり得ない。あり得ない。
カイルとリリー、エドガーがルーシーの所に行く?
そんなの、ゲームでは絶対にありえない。
やっぱり彼らも転生者でルーシー推しなのか?
もしそうなのなら、急がないと。
彼らにルーシーを取られてしまうかもしれない。
「アース、ルーシーは王城には来てなかった?」
「来てなかったよ」
来ていない、ね。
ゲームのルーシーはライアン大好きちゃんだったから、てっきり王城通いしているかと思ったけど。
転生者のやつが来るから、ライアンよりも彼らに目が向いているのかもしれない。
「じゃあ、一刻もはやくルーシーをアストレアに連れてくるぞ」
「やっぱり誘拐するんだねー」
「ああ、そうだ」
僕はリアム、ジェイク、ジェシカに集合をかけ、元々考えていた誘拐作戦について、4人に説明。
誘拐実行者はリアムと、彼の部下。
ルーシーを誘拐し、街外れでアストレア王国に転送させる役だ。
一方、僕らは王城で待機。ルーシーが転送されるのを待つ。
でも、実行する前に。
「まずはルーシーの動きを把握する。明日、僕とジェイクとジェシカでラザフォード家周辺を偵察に行くぞ」
「「「「ラジャー」」」」
★☽★☽★☽★☽
そうして、僕らはラザフォード家周辺に行き、ルーシーの動向を窺った。
観察していて分かったことだが、基本ルーシーはずっと家の中にいた。
だが、たまに彼女が外に姿を現すこともあって。
僕が他の仕事をしている時に、外に出ていたそう。
しかし、1人ではなく例の4人と一緒にいたとか。
はぁ、攻略対象者たちが全く羨ましすぎる。
一緒にルーシーと過ごせるなんて。
そうして、攻略対象者、特にキーランをねたみながら、ルーシーを観察し始めて3日後。
ようやくルーシーの誘拐できるタイミングを見つけた。
どうやらルーシーは赤い髪のかつらを被って、街に出かけているよう。
しかも護衛もつけず1人で歩き回っていた。
危ないのに1人街を歩いているのか理由は分からないけど。
でも、その街に出た時にルーシーを誘拐できる。
そうして、誘拐のタイミングを把握したところで。
「いいか、リアム。誘拐する際には、誰にも顔を見られないように。あと、もし、護衛がいればそいつらも拘束して連れてきて」
「了解っす」
作戦を実行。
ルーシーの特徴を再確認し、リアムたちには街へ行ってもらった。
――――数分後。
『男の子が一緒にいるんっすけど、どうしましょ?』
リアムからテレパシー魔法でそんな連絡がきた。
はて、男の子?
ルーシーと一緒にいるってことはキーランか?
今まで1人で動いていたはずなのに。
「その子の見た目は?」
『黒髪の子っすね』
黒髪……カイルかな。
ルーシーのところに頻繁に通っている彼ならあり得る。
「なら、その子も一緒につれてきて。3人がかりならいけるでしょ?」
『了解っす』
★☽★☽★☽★☽
30分後。
リアムたちがルーシーを街はずれにある地下の部屋に連れてきた、という報告を受けた。
その報告で分かったことだが、ルーシーと一緒にいたのはやはりカイル。
彼は捕まえる瞬間、ルーシーに何か訴えていたらしい。
まさか告白をしていたんじゃ、と嫌なことを想像してしまう。
でも、もうルーシーは誘拐しちゃったので、カイルの告白なんて関係ない。
リアムたちに転送してもらえれば、ルーシーをライアンからも例の4人からも離すことができる。
うん。
順調、順調!
一応、カイルは魔法がかなり使えることが予測されるため、魔法を封じておいてもらうことにした。
「ルーシーと一緒にいた男の子には魔法制限のロープを使って拘束しておいて」
『了解っす』
「あとルーシーはバイタルチェックしておいて」
『ラジャーっす』
通信機でリアムに指示をすると、僕はアースの部屋に向かった。
アースは相変わらずソファに座って、くつろいでいる。
「やー、ステラ。リアムはどうだった? ちゃんとルーシー捕まえれたー?」
「ああ。計画にはなかったが、ルーシーと一緒にいたカイルってやつも一緒に捕まえた」
「そうなんだー。よかったー。君の方はどうなのー? 部屋の準備できてるー?」
部屋の準備――――それはルーシーの部屋のこと。
アストレア王国に転送後、ルーシーが過ごす場所を用意しておかなければならないということで、アースが所有している館に用意していた。
彼の館は人の出入りが少ないため、他の人に見られる心配もない。
だが、一時使っていなかった部屋だったので片付けたり、新しい家具を用意したりしなければならなかった。
まぁ、ルーシーのためだから、苦でもなんでもなかったけど。
また、ルーシーには快適に過ごしてほしいので、彼女が好きなものを用意した。
可愛い紫のクッションや家具に、ルーシーに合いそうな派手目の服。
うん、きっと喜んでくれる。
「アース。一応確認だが、あの魔法石使えるんだろうな?」
「たぶんねー。まだ使ったことないから失敗するかもしれなーい」
「えー」
…………そんなことを言うのはやめてほしいんだが。
適当なところに飛ばされたりしたら困る。非常に困る。
「じゃあ、それは成功することを祈って。ルーシーが起きたら、彼女に一旦説明をして、転送するから」
「はーい」
あとはルーシーが起きるまで待つだけ。
でも、カイルの対応をどうしようか。
彼も一緒にアストレア王国に連れていくわけにもいかない。
なら、昏睡させた状態で街に戻す?
家の前まで戻す?
そうして、カイルの対応をどうしようかと悩んでいると、くつろいでいたアースが急にバッと立ち上がった。
「突然どうしたんだよ? 急に立ち上がったりなんかして」
「…………」
返答しないアース。
彼の目は完全に見開きっており、なぜか不気味な笑みを浮かべていた。
「まずいよ、ステラ。ババアが動いた」
僕は数日間、もしもあの攻略対象者の4人が転生者、かつルーシー推しであるという最悪のパターンから、どうすべきか考えていた。
そして、出た結論。
「えー? ルーシーを誘拐ぃー?」
「ああ、そうだ」
それは「ルーシーを誘拐すること」。
誘拐なんて、とんでもないことなのは分かってる。
でも、さっさとライアンやキーランから、ルーシーを離したい。
そう考えると、この方法が一番だ。
そのことをアースに話すと、彼は不満そうな顔をした。
「えー。誘拐したら、僕、怒られなーい? 姉上たちに怒られるのは勘弁なんだけどー」
「大丈夫だろ。お前はすでにに怒られそうなことはいっぱいしてるじゃないか」
「僕はやってないよー。君たちがやってるんだよー」
「やらせてんだろうが」
「お疲れ様です」「2人ともおっつー!」
アースと話していると、ドアの方から元気な声が聞こえてきた。
振り向くと、いたのは2人の少年少女。
1人はポニーテールの女の子、もう1人は短髪の男の子。
彼らは僕と似たようなデザインの服を着ている。
この2人、結構外見が似ているんだけど、性格は全然違うんだよな。
そう。
彼らは僕の同僚。
女の子はジェシカ・スピカ、男の子はジェイク・スピカ。
幼少期からアースについている双子だ。
僕は、もう何度か仕事を彼らと一緒にしており、どんな人物かは把握済み。
双子の片方、妹ジェシカは、真面目ちゃんで厳格。
ポニーテールの髪をなびかせ歩くその姿はまさに貴公子。
9歳なのに、めちゃくちゃ男前。
正直、令嬢というより騎士と言った方がしっくりくる。
そんな彼女は、主人であるアースにも厳しい。
命令や法令は絶対であり、前世の世界なら公務員をやっていそうな子。
そんな真面目な妹に対し、兄ジェイクは結構やんちゃ。
主人であるアースにはため口で話し、誰に対しても非常に馴れ馴れしい。
だが、仕事の時の彼はがらりと変わる。
命令されたことはたとえどんなに難しそうなことであっても、簡単にやってのける。
まぁ、たまにミスはすることはあるが、その後即座に臨機応変に対応。
また、彼は一瞬でがらりと振る舞いを変えれる観察眼と演技力があった。
貴族の子、スラム街の子、女の子、おじさん、おばさん。
変装次第ではどんな人物にもなれ、潜入するときの彼は非常に頼もしい。
チャラいジェイクだが、やはり彼も妹同様有能。
そんな有能双子ちゃんに、駄目主人アースは手招きしていた。
「ねぇー。2人とも聞いてー。ステラがさ、隣の国の令嬢を誘拐しようって僕を誘ってるのー」
「え、マジ。それ、犯罪じゃん」
「ステラさん、それ本当ですか?」
「あ、うん。ルーシーと一緒に幸せになるためなら、なんでもするつもりなんだ」
「ステラさん……あなたって人は」
「えー。やばー」
「ねー。この人、本気で言ってんだよー。ヤバいでしょー?」
すると、ジェシカがはぁとため息をつく。
「まぁ、でも、アース様も変わらないと思いますの。私たちに命令にしていることって」
「へー? そー?」
「うん、俺も変わらないと思う」
確かに、アースが命令してくることは結構重い。
貴族の監視が主ではあるが、たまにむちゃくちゃな命令をする時がある。
たとえば、貴族派の連中の弱みとなる情報を盗んでこい、とか。
「えー。いやー、あれは法王から頼まれたことだしー? おとがめなしだからー」
「だからって私たちに頼むことありません? 法王猊下のお近くにも工作員はいらっしゃるでしょうに」
「そうだけどー」
「……話を戻すぞ。ルーシー誘拐作戦についてだが、アース、お前にはかなりのメリットがある」
そう話し始めた瞬間、アースは真剣な顔に切り替わる。
「ふーん。どんなメリットー?」
「それは今以上にお前の仕事が激減するってことだ」
すると、ジェシカとジェイクが「は?」と訝し気な表情を浮かべる。
「え? 激減? 今のアース様、そんなに仕事していないよ。書類仕事はリアムがしてるし」
「ジェイクの言う通りですの。アース様は何にもしてないですわ」
「えー? ジェイク、ジェシカー? そんなことないでしょー? 君たちに命令してるでしょー?」
「命令だけじゃないですか」
「命令も結構頭を使うんだよー」
「うそだね。アース様、さっき法王から頼まれているって言ってたもん」
「…………はい。3人とも僕の話を聞いて」
「「「ごめんなさい」」」
仕切り直し、仕切り直し。
僕はコホンと咳払いをし話を続けた。
「もしルーシーの誘拐が成功すれば、アースは星の聖女じゃなく、月の聖女も手に入れることができる。そうすれば、アースが法王から任されている儀式等の仕事を彼女に任せることができるわけだ。これは、お前に初めて会った時に話した」
「確かにそんなことを言われたねー」
「だが、今のルーシーはムーンセイバー王国の第2王子ライアンと婚約中」
「婚約ですか……ああ、なるほど。だから、ルーシーさん?という方を誘拐するのですか?」
「ああ」
本当はその婚約を解消させてから、ルーシーをアストレア王国につれてきたいところ。
つれてきたいところ…………?
あれ…………?
「ちょっと待てよ」
「え、どうしたのー? さっきまで意気揚々に説明していたのにー」
「なぁ、アース。お前ライアンと会うことできるか?」
「できるけど、どうしたのさー?」
もしかしたら、この方法なら、ルーシーとライアンの婚約を破棄できるかもしれない。
「ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」
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「あっはー。ダメだったよ」
アースは帰ってくるなり、笑顔でそう言った。
「いやーねー。君の言う通り、ライアンにルーシーとの婚約を破棄して、僕にルーシーを頂戴って言ったさー」
先日頼んだこと。
それはアースが言っているように、ライアンにルーシーとの婚約を破棄してもらえるよう、直接頼むこと。
何者かも分からない僕が頼みに行くわけにもいかず、ライアンと立場が同じアースに交渉してもらった。
もらったのだが。
「そしたら、彼めちゃくちゃキレてね」
「は? キレた?」
ライアンが?
ルーシーのことなんて微塵も思っていないあの王子が?
「冗談だろ?」
「冗談じゃないよー。あんなライアン初めて見たよー。ちょっと僕、怖かったー」
「ハッ、お前に怖いものなんてあるんだな」
「えー? 僕だって怖いものあるよー」
アースは「最近みる悪夢とかめちゃくちゃ怖いもーん」とぶりっ子口調で言ってくる。
「でも、まさか断られるとはな」
ルーシーのことを全くと言っていいほど好いていないライアン。
彼なら、提案を即OKすると思っていたが。
公爵家の顔を窺って断ったのか?
「まぁ、僕にはこうなることは分かっていたんだけどさー」
そう言って、あはっと笑うアース。
あ、そうだ。
コイツ、僕以外の人の未来は見えるんだった。
忘れてた。
「……お前、見えていたのなら、さっさと言ってよ」
「いやー。未来の見えない君が指示したことだから、ちょっと違う未来が起こるかなーって期待したんだけどねー。ざんねーん」
「……まぁいいや。それで、頼んだこと以外で、何か収穫あった?」
すると、アースはコクリと頷く。
「この前、君が話していた3人?がかなりの頻度でラザフォード家に行っているらしいよー」
「!?」
あり得ない。あり得ない。
カイルとリリー、エドガーがルーシーの所に行く?
そんなの、ゲームでは絶対にありえない。
やっぱり彼らも転生者でルーシー推しなのか?
もしそうなのなら、急がないと。
彼らにルーシーを取られてしまうかもしれない。
「アース、ルーシーは王城には来てなかった?」
「来てなかったよ」
来ていない、ね。
ゲームのルーシーはライアン大好きちゃんだったから、てっきり王城通いしているかと思ったけど。
転生者のやつが来るから、ライアンよりも彼らに目が向いているのかもしれない。
「じゃあ、一刻もはやくルーシーをアストレアに連れてくるぞ」
「やっぱり誘拐するんだねー」
「ああ、そうだ」
僕はリアム、ジェイク、ジェシカに集合をかけ、元々考えていた誘拐作戦について、4人に説明。
誘拐実行者はリアムと、彼の部下。
ルーシーを誘拐し、街外れでアストレア王国に転送させる役だ。
一方、僕らは王城で待機。ルーシーが転送されるのを待つ。
でも、実行する前に。
「まずはルーシーの動きを把握する。明日、僕とジェイクとジェシカでラザフォード家周辺を偵察に行くぞ」
「「「「ラジャー」」」」
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そうして、僕らはラザフォード家周辺に行き、ルーシーの動向を窺った。
観察していて分かったことだが、基本ルーシーはずっと家の中にいた。
だが、たまに彼女が外に姿を現すこともあって。
僕が他の仕事をしている時に、外に出ていたそう。
しかし、1人ではなく例の4人と一緒にいたとか。
はぁ、攻略対象者たちが全く羨ましすぎる。
一緒にルーシーと過ごせるなんて。
そうして、攻略対象者、特にキーランをねたみながら、ルーシーを観察し始めて3日後。
ようやくルーシーの誘拐できるタイミングを見つけた。
どうやらルーシーは赤い髪のかつらを被って、街に出かけているよう。
しかも護衛もつけず1人で歩き回っていた。
危ないのに1人街を歩いているのか理由は分からないけど。
でも、その街に出た時にルーシーを誘拐できる。
そうして、誘拐のタイミングを把握したところで。
「いいか、リアム。誘拐する際には、誰にも顔を見られないように。あと、もし、護衛がいればそいつらも拘束して連れてきて」
「了解っす」
作戦を実行。
ルーシーの特徴を再確認し、リアムたちには街へ行ってもらった。
――――数分後。
『男の子が一緒にいるんっすけど、どうしましょ?』
リアムからテレパシー魔法でそんな連絡がきた。
はて、男の子?
ルーシーと一緒にいるってことはキーランか?
今まで1人で動いていたはずなのに。
「その子の見た目は?」
『黒髪の子っすね』
黒髪……カイルかな。
ルーシーのところに頻繁に通っている彼ならあり得る。
「なら、その子も一緒につれてきて。3人がかりならいけるでしょ?」
『了解っす』
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30分後。
リアムたちがルーシーを街はずれにある地下の部屋に連れてきた、という報告を受けた。
その報告で分かったことだが、ルーシーと一緒にいたのはやはりカイル。
彼は捕まえる瞬間、ルーシーに何か訴えていたらしい。
まさか告白をしていたんじゃ、と嫌なことを想像してしまう。
でも、もうルーシーは誘拐しちゃったので、カイルの告白なんて関係ない。
リアムたちに転送してもらえれば、ルーシーをライアンからも例の4人からも離すことができる。
うん。
順調、順調!
一応、カイルは魔法がかなり使えることが予測されるため、魔法を封じておいてもらうことにした。
「ルーシーと一緒にいた男の子には魔法制限のロープを使って拘束しておいて」
『了解っす』
「あとルーシーはバイタルチェックしておいて」
『ラジャーっす』
通信機でリアムに指示をすると、僕はアースの部屋に向かった。
アースは相変わらずソファに座って、くつろいでいる。
「やー、ステラ。リアムはどうだった? ちゃんとルーシー捕まえれたー?」
「ああ。計画にはなかったが、ルーシーと一緒にいたカイルってやつも一緒に捕まえた」
「そうなんだー。よかったー。君の方はどうなのー? 部屋の準備できてるー?」
部屋の準備――――それはルーシーの部屋のこと。
アストレア王国に転送後、ルーシーが過ごす場所を用意しておかなければならないということで、アースが所有している館に用意していた。
彼の館は人の出入りが少ないため、他の人に見られる心配もない。
だが、一時使っていなかった部屋だったので片付けたり、新しい家具を用意したりしなければならなかった。
まぁ、ルーシーのためだから、苦でもなんでもなかったけど。
また、ルーシーには快適に過ごしてほしいので、彼女が好きなものを用意した。
可愛い紫のクッションや家具に、ルーシーに合いそうな派手目の服。
うん、きっと喜んでくれる。
「アース。一応確認だが、あの魔法石使えるんだろうな?」
「たぶんねー。まだ使ったことないから失敗するかもしれなーい」
「えー」
…………そんなことを言うのはやめてほしいんだが。
適当なところに飛ばされたりしたら困る。非常に困る。
「じゃあ、それは成功することを祈って。ルーシーが起きたら、彼女に一旦説明をして、転送するから」
「はーい」
あとはルーシーが起きるまで待つだけ。
でも、カイルの対応をどうしようか。
彼も一緒にアストレア王国に連れていくわけにもいかない。
なら、昏睡させた状態で街に戻す?
家の前まで戻す?
そうして、カイルの対応をどうしようかと悩んでいると、くつろいでいたアースが急にバッと立ち上がった。
「突然どうしたんだよ? 急に立ち上がったりなんかして」
「…………」
返答しないアース。
彼の目は完全に見開きっており、なぜか不気味な笑みを浮かべていた。
「まずいよ、ステラ。ババアが動いた」
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