69 / 89
第3章 学園編
69 ?視点:一目惚れ
しおりを挟む
僕の名前は小夜一星。
見ての通り、苗字も名前も全て夜に関連するもの。
『一星』という名は、親曰く、一番星のように輝いてほしいみたいな意味らしい。
その名前のせいかな?
あのキャラに転生したのかもしれない。
小夜一星。
これは前世での名前。
そう。
僕ってさ、転生したんだよね。
え?
じゃあ、今の名前は何かって?
今の名前は―――――ステラ・マクティア。
あは、ステラとか、女の子みたいな名前だろう。
まぁ、実際女の子なんだけどさ。
Mctearとか嫌味かよ、って思った。
はぁ……全くなんで彼女に転生しちゃったんだろうね?
僕は本当は男の子に転生したかったのに。
そんな僕の前世はこんな感じだった。
★☽★☽★☽★☽★☽
前世での僕には、仲のいい女友達がいた。
その子の名前は初姫。
彼女はポップで元気な女の子って感じで、みんなからは好かれていた。
僕も彼女が普通に好きだったね。
まぁ、恋愛対象にはならなかったけど。
そんな彼女にはある特徴が。
それはもうとんでもない乙ゲー好きってこと。
学校行っては乙ゲー。
バイト行っては乙ゲー。
僕と遊んでは乙ゲー。
怖いぐらいの乙ゲー三昧。
それでも初姫は成績をトップで維持。
なぜそんなに好成績を収めるのか、聞いてみたところ、彼女は。
「推したちが頭がいいから、私も頭良くなろうと思っただけよ!」
と、即座に返答。
その時の僕は、推しのためになぜそこまでできるのだろうと思っていた。
全く想像がつかなかったね。
そして、時が過ぎて、高校1年生が終わろうとしていた春。
突然、初姫から。
「やってみてよ! 一星もきっとはまるから!」
と乙女ゲームを勧められた。
「え? 僕、男なんだけど?」
「それがなによ! 男でも乙ゲーをプレイしちゃいけないの!?」
「いや、別にそんなことは言ってないけど……」
「じゃあ、やってみなさい! きっとはまるから! はいっ!」
最初は全然乗り気じゃなかった。
乙ゲーするぐらいなら、他のゲームをしたい。
だって、乙女ゲームって女の子を対象とした恋愛ゲームでしょ?
はっ、僕が二次元の男を好きなるわけない。
だが、いざやってみると。
「は? ……めちゃくちゃ面白いじゃん」
その考えは間違いだって分かった。
次の日には、初姫に会うなり、土下座をした。
「ごめんなさい、乙女ゲームなめてました」
「あはは! 一星もはまったのね! いいわ! 許してあげる!」
「ありがとうございます、師匠」
初姫は自分のカバンをがざごぞ。
バッグの中から何かを取り出した。
「じゃあ、次! これしてみて!」
差し出されたのは違う乙女ゲーム。
「ははぁ~、ありがたき幸せ」
僕はそれをありがたく受け取った。
――――――――数ヶ月後。
「一星! このゲームしてみて!」
また、初姫からゲームを紹介された。
渡されたボックスのタイトルには「Twin Flame」。
「…………ん?」
そのゲームの名前には非常に見覚えがあった。
あ、これ、知ってるぞ。
乙ゲー界隈で流行ってるやつだ。
「うーん」
だが、このゲームは王道だったはず。
僕の中では王道乙ゲーはあんまり。
悪くはないんだが、もう少しシリアス展開や驚きの展開がほしい。
そう思って、渋っていると。
「まぁ、やってみなさい! やってみないことには面白いか分からないでしょ!」
と押されたので、とりあえずやってみた。
最初の方はまぁありきたりな乙女ゲームだなと思った。
絵もよし、ボイスもよし、シナリオは普通という評価。
だが、彼女が目の前に現れた瞬間、その評価はガラリと変わる。
「…………へ?」
綺麗な銀色の髪をもつ少女。
彼女はめちゃくちゃ怒っていて、主人公を見下げていた。
ゴミを見るような目だった。
そんな彼女――――ルーシー・ラザフォードに、僕は惚れた。一目惚れだった。
彼女が多く登場するライアンルートを何周かして、ルーシーが好きであることを確認。
ゲームを紹介してくれた初姫には涙をしながら土下座し大感謝。
「え!? あの悪役令嬢が好きになったの!?」
「はい、師匠」
ルーシーに恋したことを話すと、初姫は珍しく「うーん」と唸っていた。
だが、一時して。
「それもいいわね! 一星らしい乙女ゲームの楽しみだわ!」
と言ってくれた。
さすが乙ゲーの師匠。最高の師匠だ。
それからは、ルーシー中心の生活に変化。
勉強しては、ルーシーに会いに行き。
生徒会の仕事をしては、ルーシーに会いに行く。
そんな日々を繰り返した。
最終的には等身大のルーシーパネルを自作。
それを初姫に見せた時には、「いいわね! あんたらしいわ!」と褒められた。
★☽★☽★☽★☽
高校2年の秋。
僕は生徒会長になった。
初姫は副会長。他のメンバーは知っている子たちばかり。
身内だらけの生徒会が発足した。
その生徒会の仕事だが、勉強や部活があったので、それなりには忙しかった。
だけど、1年生の時にも生徒会に入ってたしな。
去年ほどきつくはなく、楽しくできた。
平穏な学校生活を満喫していたある日。
僕はこんな噂を耳にする。
それは他校には全員が「Twin Flame」が好きなクラスがあるというもの。
どうやら、クラス全員をツイフレ民にさせた女の子がいるらしい。
(「ツイフレ民」とは「Twin Flame」のプレイヤーのこと、またはそのオタク)
会ってみたいんだが、学校遠いしな。
それに、急に「はい! 君もツイフレが好き! 僕も好きなんだ! 仲良くしよう!」と話しに行くわけにもいかない。
と、僕はその女の子に会いに行くのを諦めた。
せっかくなので、初姫師匠にもこの噂を知ってほしいと話してみた。
すると、師匠は。
「ちょっと遠いから、会うのは無理そうね! 残念! 私もその子と友達になってみたかったわ!」
元気よくそう言ってきた。
全く同感だった。
――――――数ヶ月後。
文化祭開催が近づき、僕は初姫と文化祭の準備をしていると、
「最近、〇×をしめていた不良が大人しくなったらしいわよ!」
彼女がそんなことを話してきた。
「へぇ、よかったじゃん」
不良が更生をすることはいいことだ。
「どうやら、彼の付き合いが悪くなったみたいね!」
「…………なんでお前、そんなことを知ってんだよ」
「ちょっと耳にしたのよ! もしかしたら、彼も一星みたいに、乙ゲーにハマっていたりして、不良やめたのかもね!」
「そんなのあるわけ…………その話が本当なら、僕は今すぐにでもそいつと友達になりたいね」
僕も笑いながら冗談を言った。
不良と友達…………そんなことはきっとありえないだろうけど。
「私もよ!」
初姫もにっこり笑って、答えていた。
★☽★☽★☽★☽
――――――――数日後。
結論から話す。
僕は事故にあった。
運転手が居眠りしていたのか、それとも気が狂っていたのかは分からないが。
その車は見るからに暴走していた。
しかし、初姫は楽しそうに僕に話しかけていた。気づいていなかった。
だから、初姫の体を押した。
車に衝突後、僕の体はぽーんと飛ばされ、コンクリートにゴロゴロと転ぶ。
痛い、痛い、痛い。
全身には痛みが走り、手足末端に至っては感覚なし。
視界もぼやけている。
そんな状況でも、なぜか僕は意識があった。話せた。
「バッカじゃないの! なんで私をかばったのよ!」
初姫は僕を抱きかかえ、叫んでくる。
なんでって。
「それは……師匠が引かれそうだった、から」
「ばっかじゃないの! それならあんたも側転して避ければよかったじゃない!」
…………いや。そんなアクロバティックなことできないよ。
「あんたが私をかばう必要なんてなかったでしょ!」
いや、あったよ。
師匠には死んでほしくなかった。
最近、師匠には彼氏ができてたし、2人は幸せそうにしているのを何度か見かけた。
だから、きっと師匠に何かあったら、彼氏さんが哀しむだろうと思った。
――――――――でも、僕は?
彼女はいないし、ぶっちゃけルーシーにしか興味がない。
だから、僕はきっと一生独り身。
ルーシーとぐらい魅力的な人と結婚したい願望はあるけど、そんな人は現れるはずがない。
結婚が全てじゃないのは分かってる。
でも、師匠には死んで哀しむ人がいっぱいいるから。
師匠には将来幸せになる未来が見えているから。
だから、師匠には生きてほしかった。
「誰か! 救急車を! 誰か! 助けて!」
初姫の声が遠のいていく。
ああ……助かりそうにないな。
死ぬのなら……そうだな。
ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな。
できればルーシーの世界へ行きたい。
ルーシーに会いたい。
…………あは。まぁ、そんなの無理だろうけど。
初姫はらしくなく、泣いていた。
彼女の涙が、ぽたぽたと僕の顔に落ちてくる。
「あんたは最高のゲーム仲間なの! 趣味仲間なの!」
僕もだよ、師匠。
「…………大切な親友なの!」
僕もだよ、初姫。
「だから、お願い! 死なないで! こんなところで死なないで!」
「…………ご、めん」
「ダメ! 一星! 目を閉じないで! 死なないで!」
初姫は僕をぎゅっと抱き着く。
――――――――じゃあな、相棒。お前と過ごせて、本当に楽しかったよ。
そうして、僕は目を閉じた。
★☽★☽★☽★☽★☽
気づけば、部屋にいた。
――――――――病院?
いや、違う。
木造の家にいた。
一体ここはどこだ?
そう思って、体を動かそうとする。
だが、上手く動かせない。
なんなんだ、この体。
刺されて動けなくなったのか? 神経が麻痺したのか?
自分の手を見てみる。
…………え?
自分の手は小さかった。赤ちゃんみたいだった。
え?
うそ?
え?
なにこれ?
手以外にも頑張って、見る。
自分の体は赤ちゃんみたいだった。
僕は、ふと死ぬ間際に考えていたことを思い出す。
『ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな』
…………え?
あれ、冗談だったのに?
本当に、僕、転生したの?
うそでしょ?
「うぅあ――!!」
うまく言葉を発せず唸っていると、視界に女性の顔が入ってくる。
「そんな顔して、どうしたのー?」
どうしたもこうしたもありませんよ、奥さん。
僕、転生したみたいなんですよ!
すごくないですか!?
なんてことは伝わることはなく。
金髪の女性はこちらにニコリと笑うだけ。
でも、この女の人。
どこかで見たことがあるような………。
思い出そうと、その女性を凝視していると。
「あれー? ステラちゃーん? そんなにこっちみてどうしたのー? うーん?」
と言ってきた。
え?
ステラちゃん…………だって?
もう一度、その女性の顔をみる。
赤ん坊の視力のせいかよく見えないけど。
でも、この人見たことがある。絶対にある。
…………ああ。
Twin Flameのサイドストーリーで出てきた主人公のお母さんだ。
となると、僕は――――――――ステラ・マクティア?
え? うそでしょ?
まさかの乙ゲー主人公に転生?
しかも女に転生?
はー、もう最悪じゃん。
そういうのはフィクションだけにしてよ。
僕、女の子として生きるとか嫌なんだけどー。
と初めはがっかりした。
―――――――だけど、冷静になってあることに気づいた。
僕がステラ・マクティアってことは、この世界は「Twin Flame」?
じゃあ、じゃあ。
ここがあの乙女ゲームの世界だというのなら、この世界にはあのルーシーがいるってこと!?
ふぉっ!? 僕の推しがいるってこと!?
「あぎゃ――――――――!!」
「ス、ステラちゃん? 急にどうしたの?」
よぉっしゃあ――!!
僕の大好きなルーシーに会えるぞぉ――!
僕を転生させてくれた神様、マジありがとう――!
最高だぜっ!
「あぅぎゃ――――――!!」
「……え? どうしたの? ステラちゃん?」
突然、奇声を発し始めた赤ちゃんに驚くお母さん。
僕はそんなお母さんを無視して、体をめいいっぱい動かし、叫けぶ。
そして、神様に赤ちゃん風に大感謝していた。
★★★★★★★★
余談:初姫師匠、始めは男の子設定でした。
見ての通り、苗字も名前も全て夜に関連するもの。
『一星』という名は、親曰く、一番星のように輝いてほしいみたいな意味らしい。
その名前のせいかな?
あのキャラに転生したのかもしれない。
小夜一星。
これは前世での名前。
そう。
僕ってさ、転生したんだよね。
え?
じゃあ、今の名前は何かって?
今の名前は―――――ステラ・マクティア。
あは、ステラとか、女の子みたいな名前だろう。
まぁ、実際女の子なんだけどさ。
Mctearとか嫌味かよ、って思った。
はぁ……全くなんで彼女に転生しちゃったんだろうね?
僕は本当は男の子に転生したかったのに。
そんな僕の前世はこんな感じだった。
★☽★☽★☽★☽★☽
前世での僕には、仲のいい女友達がいた。
その子の名前は初姫。
彼女はポップで元気な女の子って感じで、みんなからは好かれていた。
僕も彼女が普通に好きだったね。
まぁ、恋愛対象にはならなかったけど。
そんな彼女にはある特徴が。
それはもうとんでもない乙ゲー好きってこと。
学校行っては乙ゲー。
バイト行っては乙ゲー。
僕と遊んでは乙ゲー。
怖いぐらいの乙ゲー三昧。
それでも初姫は成績をトップで維持。
なぜそんなに好成績を収めるのか、聞いてみたところ、彼女は。
「推したちが頭がいいから、私も頭良くなろうと思っただけよ!」
と、即座に返答。
その時の僕は、推しのためになぜそこまでできるのだろうと思っていた。
全く想像がつかなかったね。
そして、時が過ぎて、高校1年生が終わろうとしていた春。
突然、初姫から。
「やってみてよ! 一星もきっとはまるから!」
と乙女ゲームを勧められた。
「え? 僕、男なんだけど?」
「それがなによ! 男でも乙ゲーをプレイしちゃいけないの!?」
「いや、別にそんなことは言ってないけど……」
「じゃあ、やってみなさい! きっとはまるから! はいっ!」
最初は全然乗り気じゃなかった。
乙ゲーするぐらいなら、他のゲームをしたい。
だって、乙女ゲームって女の子を対象とした恋愛ゲームでしょ?
はっ、僕が二次元の男を好きなるわけない。
だが、いざやってみると。
「は? ……めちゃくちゃ面白いじゃん」
その考えは間違いだって分かった。
次の日には、初姫に会うなり、土下座をした。
「ごめんなさい、乙女ゲームなめてました」
「あはは! 一星もはまったのね! いいわ! 許してあげる!」
「ありがとうございます、師匠」
初姫は自分のカバンをがざごぞ。
バッグの中から何かを取り出した。
「じゃあ、次! これしてみて!」
差し出されたのは違う乙女ゲーム。
「ははぁ~、ありがたき幸せ」
僕はそれをありがたく受け取った。
――――――――数ヶ月後。
「一星! このゲームしてみて!」
また、初姫からゲームを紹介された。
渡されたボックスのタイトルには「Twin Flame」。
「…………ん?」
そのゲームの名前には非常に見覚えがあった。
あ、これ、知ってるぞ。
乙ゲー界隈で流行ってるやつだ。
「うーん」
だが、このゲームは王道だったはず。
僕の中では王道乙ゲーはあんまり。
悪くはないんだが、もう少しシリアス展開や驚きの展開がほしい。
そう思って、渋っていると。
「まぁ、やってみなさい! やってみないことには面白いか分からないでしょ!」
と押されたので、とりあえずやってみた。
最初の方はまぁありきたりな乙女ゲームだなと思った。
絵もよし、ボイスもよし、シナリオは普通という評価。
だが、彼女が目の前に現れた瞬間、その評価はガラリと変わる。
「…………へ?」
綺麗な銀色の髪をもつ少女。
彼女はめちゃくちゃ怒っていて、主人公を見下げていた。
ゴミを見るような目だった。
そんな彼女――――ルーシー・ラザフォードに、僕は惚れた。一目惚れだった。
彼女が多く登場するライアンルートを何周かして、ルーシーが好きであることを確認。
ゲームを紹介してくれた初姫には涙をしながら土下座し大感謝。
「え!? あの悪役令嬢が好きになったの!?」
「はい、師匠」
ルーシーに恋したことを話すと、初姫は珍しく「うーん」と唸っていた。
だが、一時して。
「それもいいわね! 一星らしい乙女ゲームの楽しみだわ!」
と言ってくれた。
さすが乙ゲーの師匠。最高の師匠だ。
それからは、ルーシー中心の生活に変化。
勉強しては、ルーシーに会いに行き。
生徒会の仕事をしては、ルーシーに会いに行く。
そんな日々を繰り返した。
最終的には等身大のルーシーパネルを自作。
それを初姫に見せた時には、「いいわね! あんたらしいわ!」と褒められた。
★☽★☽★☽★☽
高校2年の秋。
僕は生徒会長になった。
初姫は副会長。他のメンバーは知っている子たちばかり。
身内だらけの生徒会が発足した。
その生徒会の仕事だが、勉強や部活があったので、それなりには忙しかった。
だけど、1年生の時にも生徒会に入ってたしな。
去年ほどきつくはなく、楽しくできた。
平穏な学校生活を満喫していたある日。
僕はこんな噂を耳にする。
それは他校には全員が「Twin Flame」が好きなクラスがあるというもの。
どうやら、クラス全員をツイフレ民にさせた女の子がいるらしい。
(「ツイフレ民」とは「Twin Flame」のプレイヤーのこと、またはそのオタク)
会ってみたいんだが、学校遠いしな。
それに、急に「はい! 君もツイフレが好き! 僕も好きなんだ! 仲良くしよう!」と話しに行くわけにもいかない。
と、僕はその女の子に会いに行くのを諦めた。
せっかくなので、初姫師匠にもこの噂を知ってほしいと話してみた。
すると、師匠は。
「ちょっと遠いから、会うのは無理そうね! 残念! 私もその子と友達になってみたかったわ!」
元気よくそう言ってきた。
全く同感だった。
――――――数ヶ月後。
文化祭開催が近づき、僕は初姫と文化祭の準備をしていると、
「最近、〇×をしめていた不良が大人しくなったらしいわよ!」
彼女がそんなことを話してきた。
「へぇ、よかったじゃん」
不良が更生をすることはいいことだ。
「どうやら、彼の付き合いが悪くなったみたいね!」
「…………なんでお前、そんなことを知ってんだよ」
「ちょっと耳にしたのよ! もしかしたら、彼も一星みたいに、乙ゲーにハマっていたりして、不良やめたのかもね!」
「そんなのあるわけ…………その話が本当なら、僕は今すぐにでもそいつと友達になりたいね」
僕も笑いながら冗談を言った。
不良と友達…………そんなことはきっとありえないだろうけど。
「私もよ!」
初姫もにっこり笑って、答えていた。
★☽★☽★☽★☽
――――――――数日後。
結論から話す。
僕は事故にあった。
運転手が居眠りしていたのか、それとも気が狂っていたのかは分からないが。
その車は見るからに暴走していた。
しかし、初姫は楽しそうに僕に話しかけていた。気づいていなかった。
だから、初姫の体を押した。
車に衝突後、僕の体はぽーんと飛ばされ、コンクリートにゴロゴロと転ぶ。
痛い、痛い、痛い。
全身には痛みが走り、手足末端に至っては感覚なし。
視界もぼやけている。
そんな状況でも、なぜか僕は意識があった。話せた。
「バッカじゃないの! なんで私をかばったのよ!」
初姫は僕を抱きかかえ、叫んでくる。
なんでって。
「それは……師匠が引かれそうだった、から」
「ばっかじゃないの! それならあんたも側転して避ければよかったじゃない!」
…………いや。そんなアクロバティックなことできないよ。
「あんたが私をかばう必要なんてなかったでしょ!」
いや、あったよ。
師匠には死んでほしくなかった。
最近、師匠には彼氏ができてたし、2人は幸せそうにしているのを何度か見かけた。
だから、きっと師匠に何かあったら、彼氏さんが哀しむだろうと思った。
――――――――でも、僕は?
彼女はいないし、ぶっちゃけルーシーにしか興味がない。
だから、僕はきっと一生独り身。
ルーシーとぐらい魅力的な人と結婚したい願望はあるけど、そんな人は現れるはずがない。
結婚が全てじゃないのは分かってる。
でも、師匠には死んで哀しむ人がいっぱいいるから。
師匠には将来幸せになる未来が見えているから。
だから、師匠には生きてほしかった。
「誰か! 救急車を! 誰か! 助けて!」
初姫の声が遠のいていく。
ああ……助かりそうにないな。
死ぬのなら……そうだな。
ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな。
できればルーシーの世界へ行きたい。
ルーシーに会いたい。
…………あは。まぁ、そんなの無理だろうけど。
初姫はらしくなく、泣いていた。
彼女の涙が、ぽたぽたと僕の顔に落ちてくる。
「あんたは最高のゲーム仲間なの! 趣味仲間なの!」
僕もだよ、師匠。
「…………大切な親友なの!」
僕もだよ、初姫。
「だから、お願い! 死なないで! こんなところで死なないで!」
「…………ご、めん」
「ダメ! 一星! 目を閉じないで! 死なないで!」
初姫は僕をぎゅっと抱き着く。
――――――――じゃあな、相棒。お前と過ごせて、本当に楽しかったよ。
そうして、僕は目を閉じた。
★☽★☽★☽★☽★☽
気づけば、部屋にいた。
――――――――病院?
いや、違う。
木造の家にいた。
一体ここはどこだ?
そう思って、体を動かそうとする。
だが、上手く動かせない。
なんなんだ、この体。
刺されて動けなくなったのか? 神経が麻痺したのか?
自分の手を見てみる。
…………え?
自分の手は小さかった。赤ちゃんみたいだった。
え?
うそ?
え?
なにこれ?
手以外にも頑張って、見る。
自分の体は赤ちゃんみたいだった。
僕は、ふと死ぬ間際に考えていたことを思い出す。
『ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな』
…………え?
あれ、冗談だったのに?
本当に、僕、転生したの?
うそでしょ?
「うぅあ――!!」
うまく言葉を発せず唸っていると、視界に女性の顔が入ってくる。
「そんな顔して、どうしたのー?」
どうしたもこうしたもありませんよ、奥さん。
僕、転生したみたいなんですよ!
すごくないですか!?
なんてことは伝わることはなく。
金髪の女性はこちらにニコリと笑うだけ。
でも、この女の人。
どこかで見たことがあるような………。
思い出そうと、その女性を凝視していると。
「あれー? ステラちゃーん? そんなにこっちみてどうしたのー? うーん?」
と言ってきた。
え?
ステラちゃん…………だって?
もう一度、その女性の顔をみる。
赤ん坊の視力のせいかよく見えないけど。
でも、この人見たことがある。絶対にある。
…………ああ。
Twin Flameのサイドストーリーで出てきた主人公のお母さんだ。
となると、僕は――――――――ステラ・マクティア?
え? うそでしょ?
まさかの乙ゲー主人公に転生?
しかも女に転生?
はー、もう最悪じゃん。
そういうのはフィクションだけにしてよ。
僕、女の子として生きるとか嫌なんだけどー。
と初めはがっかりした。
―――――――だけど、冷静になってあることに気づいた。
僕がステラ・マクティアってことは、この世界は「Twin Flame」?
じゃあ、じゃあ。
ここがあの乙女ゲームの世界だというのなら、この世界にはあのルーシーがいるってこと!?
ふぉっ!? 僕の推しがいるってこと!?
「あぎゃ――――――――!!」
「ス、ステラちゃん? 急にどうしたの?」
よぉっしゃあ――!!
僕の大好きなルーシーに会えるぞぉ――!
僕を転生させてくれた神様、マジありがとう――!
最高だぜっ!
「あぅぎゃ――――――!!」
「……え? どうしたの? ステラちゃん?」
突然、奇声を発し始めた赤ちゃんに驚くお母さん。
僕はそんなお母さんを無視して、体をめいいっぱい動かし、叫けぶ。
そして、神様に赤ちゃん風に大感謝していた。
★★★★★★★★
余談:初姫師匠、始めは男の子設定でした。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる