【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

58 悪役令嬢VS主人公

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 私、ルーシーが通うシエルノクターン学園。

 この学園には座学以外に、魔法技術訓練という授業がある。
 その授業の目的は生徒の魔法技術向上。
 もちろん、魔法を扱う授業は他にもあり、座学でも生徒が魔法を使用することはある。

 だが、この授業が他の授業と大きく異なる点は、魔法を使用しての試合があることだろう。
 
 シエルノクターン学園には、生徒の魔法使用の制限について述べられた校則がある。
 例えば。

 「学園内の魔法を扱う対人試合は学園教員もしくは博士号を取得している学園の研究員等の監督下でのみ実施可能である」

 という校則。
 
 もちろん、黒月の魔女のような指名手配犯的な存在に対しては、教員らの許可なしに、魔法攻撃を生徒でも行うことができる。
 まぁ、そんなやつが目の前に現れたら、魔法無しでは逃げれない。それに、許可どころではないだろうから、当たり前と言えば当たり前。
 
 あとは、創作目的の魔法使用や、対人目的ではない魔法使用に関する校則もある。 
 が、その校則に関して生徒は攻撃魔法以外の自由な魔法使用を許可している。
 いちいち許可を貰いに行くのも面倒だし、この校則はありがたい。

 …………まぁ、たまに術者が人に当てるつもりがなくても、人に当たってしまうことがあるため、この校則の見直しが検討されているようだが、正直、今の自分たちには関係ない。
 
 今日の授業では見直し検討されていない校則どおり、先生の監視の下で、対人試合が行われる。
 その対人試合は屋外で、そして、他のクラスの人たちとともに実施。

 「やっぱり3クラスともなると人が多いね」

 学園指定の運動着に着替えたカイルは、私の右隣でそう呟いた。
 彼が言っているように、今回は3クラス合同であるため、いつもより人数が倍になっている。
 周囲を見渡すと、クラス同士で固まっているところが殆どで、他のクラスの中にはライアンやステラの姿が見えた。
 2人は相変わらず一緒にいるようだ。

 「人が多かろうと関係ありません。いつも通りするだけです」

 左隣のリリーは他人を気にすることなく、堂々とした様子。
 彼女も指定の運動着に着替えているが、少しカイルとはデザインが異なる。
 もちろん、私も女子用の運動着に着替えている。

 この学園指定の運動着はデザインこそはいいものの、本当に学園指定なのかってぐらい露出が多い。
 どうやら学園創立の時に貴族の間で有名だったデザイナーが作ったそうだが、私はそいつが変態だったんじゃないかと思ってしまう。

 正直、日本のあの体操着の方がいい。
 シンプルだけど、あっちの方が動きやすい。

 「……ルーシー、俺、頑張るから見ていてくれ」

 背後を見ると、運動着姿のエドガーもいた。彼もどこか生き生きとしている。

 「はい。見てます」

 いいな、魔法が使える人はきっとこの試合を楽しめるんだろうな。
 うらやましい。

 この前までエドガーに対しキョどっていた私だが。
 最近はそのようなことはなく、平常心を保てるようになっている。
 転移の時の言葉きっと、何かの間違いで。
 彼も王子だから、関わりの少ない女子との距離感を掴めていないのかもしれない。
 
 それで、この前はあんなことを言ったのだろう、と私は1人結論付けることにした。

 すると、リリーがエドガーになぜか張り合い始める。

 「私も頑張るので! ルーシー様、私もちゃんと見ていてくださいよ!」
 「はいはい」
 「僕も頑張るから、ルーシーも頑張って」
 「ええ……って、そこは僕を見ててじゃないのね、カイル」
 「うん。あ、でも、ルーシーが見たいのならずっと見てていいよ」
 「ねぇねぇ、姉さん」
 「キーラン、あなたの試合もちゃんと見てるわよ」
 「ありがとう。僕も頑張るだけど……」

 エドガーの後ろにいたキーラン。
 彼はこっちに耳を貸してとジェスチャーしてきた。彼も運動着を着ている。

 「だけど?」
 「姉さんに話すことがあるんだけど……場所移して話そ」
 「? ここではダメなの?」
 「……ここではちょっと」

 ……はて?
 他の人には聞かれてはならない話なのだろうか?
 と疑問を抱きながらも、キーランについて行き、場所を移動。
 キーランは少しカイルたちから離れ、他の生徒からも離れたところで、足を止めた。
 しかし、近くに誰もいないというのに、彼は小さな声で話し始める。

 「ねぇ、姉さん」
 「どうしたの? まだ、そんな小さな声で……緊張してトイレにでも行きたくなったの? それならさっさと行ってきなさい。恥ずかしがることないわよ」
 「…………いや、トイレじゃないよ」
 「じゃあ、何? もしかして、あなたもこの授業が嫌? 私もこの授業は嫌よ。魔法がみんなみたいに使えるわけじゃないから、ホント嫌。一番退屈な座学を3時間受ける方がまだいいわ…………でも、あなた私より魔法が使えるんだから、もっと自信持ちなさい」
 「……違うよ。月の聖女についてだよ」
 「月の聖女?」
 「そーそー、だから小さな声で話してるの」

 なるほど。私のことを配慮して、小さな声で話していたのか。
 
 「話を続けてちょうだい」
 「姉さん、今日の試合で月の聖女の力を使ってみたら?」
 「……使ってみたらってね、一体どうやって使うのよ」
 「こう……手に魔力を溜めて? かめかめ……いや、聖女様だから、加護の力を借りて使ってみる? 『月の神様、どうかお願い! 私に力を貸して』祈ってみるとか?」
 「できるわけないでしょ……」

 この前、元・魔王軍幹部カーリーから月の聖女であるとは言われたが、あまり信じてはいない。

 だって、変わっていないんだもの。

 魔法があまり使えないこと、保持魔力を少ないことは現在も未だに変わっていない。
 だが、キーランが聞いたことによると、カーリーが私の体に入っていた時「保持魔力が多いこの体がいい」と言っていたらしい。

 だから、この前試しに限界まで魔法を使った。
 しかし、私は初級魔法を10回ぐらい放って――――――倒れた。

 普通の保持魔力量の人なら、100回以上でやっとふらつく。
 そのことを考慮すると、私の保持魔力はむしろ減っているんじゃないかとも思った。

 そんな状況で魔法技術訓練の授業。
 非常に憂鬱である。
 
 「聖女の力なんて使わないわ」
 「えー」
 「大体使い方が分からないのだし……それで、話はそれだけ?」
 「まぁ……そうだけど」
 「なら、みんなの所に戻るわよ」

 そうして、私たちはカイルたちのところに戻った。
 カイルたちは私たちが何を話していたのか気になったのか、やんわりと聞かれた。
 まぁ、カイルになら答えてもいいかな。
 と思ったが、カーリー様の件はゾーイ先輩に口止めされているため、それを伏せて説明することが面倒なので、結局「家のことでちょっと用事があった」と適当に答える。

 「ルーシー、今日の授業に自信は?」
 「……自信なんてあるわけないじゃない。カイルはどうなの?」
 「まぁ、そこそこ?」
 「『そこそこ』ね……まったく、余裕のある人はいいわね」
 「僕に余裕なんてないよ」

 とカイルと話していると、数人の先生がやってきた。
 その中の1人の男性の先生から集合がかけられると、私たち生徒はクラスごとに並ぶ。

 「今回の試合は一対一で行う!」

 生徒が整列を終えると、1人の先生が全体に聞こえるよう、大声で話し始めた。
 
 「対戦相手は他のクラスメイト同士だ。組み合わせはこちらで決定する!」

 今日の試合が行われる場所はテニスコート程度の大きさのフィールド。
 その周囲には長方形のバリアが張られるが、そのバリアは透明であるため、他の生徒も観戦も可能となっている。

 「勝敗についてだが、ジャッジは1人の教員が行う」

 先週の授業で事前に説明があったのだが、先生がおさらいのためか、試合のルールを説明し始めていた。

 この試合で勝つ方法、それは2つ方法ある。
 1つは相手の戦闘不能にさせること。もちろん、殺すってことはあってはならないのだけど、貴族の子息や令嬢であっても奇絶させるレベルはOKらしい。
 それを見込んでか、何人かヒーラーが待機している。

 そして、もう1つの勝利方法。それは相手の魔法石を破壊すること。
 テニスコートほど大きさのある試合場の両短辺には、1つずつ手のひらほどある魔法石が設置されている。それを壊したら勝ち、ごく単純。
 もちろん、壊すのは相手の背後の魔法石。相手も自分の魔法石を壊しに来るので、自分の魔法石を防御しなければならない。

 先生曰く、試合で使用される魔法石は一定量以上の魔法攻撃を受けないと壊れないらしく、頑張れとのこと。
 その話を聞いて、私はあの魔法石がちょー高い身代わり魔石なんじゃないかと思い、壊しずらくなった。
 まぁ、私にははなから壊す能力はないけれど。

 そうして、試合説明が終わると。

 「ジェイク・スピカ君! そして、リリー・スカイラー君! 君たちからやってもらおう! 準備してくれ!」

 他クラスの男子の名とリリーの名前が呼ばれた。
 始めに呼ばれた彼女だが、緊張はなく、にっこにこの顔で。

 「では、ルーシー様! 行ってまいります!」

 と言って、スキップでフィールドへと向かっていた。
 いいな。私もあんな感じで試合に臨みたいわ。

 試合場には1人の男子生徒が、そして、もう彼の向かいに杖を握りしめたリリーが立つ。

 試合場の周囲には生徒たちが囲んで見学。
 私たちはというと、リリー側に立ち、彼女の背中を見つめていた。

 試合場に堂々と立つリリー。
 彼女はどうやらこういう実践訓練は実家でしたことがあるらしく、試合は手慣れているらしい。

 「始め!」

 先生の合図とともに、男子生徒は走り出す。
 一方のリリーはその場を動く様子はない。
 彼女はただ右手に持つ杖を真っすぐに彼に向けていた。

 すると、男子生徒の足元に薔薇の蔓が出現。彼は駆けながら、火魔法を使って蔓を燃やす。
 そして、手が空けば、リリーの魔法石に向かって、火魔法を放った。

 「クソっ!」

 走り続ける男子生徒は汚い言葉を吐きだす。
 声を荒げてしまう彼の気持ちが分からないことでもない。
 燃やしても燃やしても、蔓は伸び続け、しつこく彼を追いかけていた。

 火魔法が当たることなく、レジストされてしまう。

 リリーはというと、杖を振るだけ。一歩も動くことはない。

 そして、男子生徒は一時走り回っていたが、リリーの蔓は彼の足に巻き付き、男子生徒はばたんと倒れこむ。
 そのまま蔓は彼に巻き付いていき、男子生徒の体を飲み込んでいく。
 
 そうして、相手を行動不能にしたリリーは、勝ちが確定したのにも関わらず魔法石を破壊。
 リリーの圧勝で、あっという間に試合が終わった。

 勝利したリリーは満面の笑みで、帰ってきた。

 「ルーシー様! 私の戦いどうでしたか?!」
 「すごかったわ。完全勝利なんて本当にすごいわ、リリー」
 「ありがとうございます!」

 男子生徒はさぞかしプライドをズタズタだろう。
 …………うん、どんまい。

 そして、リリーの試合後。
 何回か試合があったのち、エドガーの試合が始まった。

 彼の対戦相手はなんと兄であるライアン。
 エドガーは得意とする色魔法をライアンに警戒されてか使うことが難しく、他の魔法を駆使。
 ちょっとずつではあったが攻撃魔法を魔石に当てていく。

 もちろん、ライアンも威力のある攻撃魔法を放っていたが、先にライアンの魔石が壊れ、エドガーの勝利。
 その2人の王子の試合を見ていて、羨ましいと思った。

 ライアンみたいにドカーンと魔法を使ったり、エドガーみたいに器用に複数の魔法を使ったり。
 あんな風に私も魔法を使いたい。

 まぁ、どちらも魔力の贅沢な使い方であるため、できないが。

 「……ルーシー、勝った」

 兄に勝ったことがよほど嬉しかったのだろう。
 試合場が下りてきたエドガーはらしくなく、優しい笑みを浮かべていた。
 
 「おめでとうございます」
 「ありがとう」

 その熱い王子対決があった後。
 次に名前を呼ばれたのは我が弟キーラン。
 リリーと同じように、彼の対戦相手は異性で女子生徒。
 そのためか分からないが、試合場にあがった時のキーランは少し申し訳なさそうにしていた。

 しかし、試合が始まると、彼はとたんに変わった。

 キーランは試合開始とともに、自分の魔法石を守るため土魔法で壁を作り、そして、女子生徒に向き直ると、ためらうことなく魔法を打ち込み始めた。

 敵の戦闘不能を狙っているのか、女子生徒にバンバン攻撃。

 一方の女子生徒も、攻撃魔法をキーランに放っていたが、自分の防御で手一杯になったのか、攻撃頻度は落ちていく。
 それを見て、私は本当に女子生徒がかわいそうと思った。
 …………最初は。

 「は?」

 しかし、なぜか女子生徒は喜んでいた。
 私は思わず自分の目を疑う。
 目をこすって、もう一度見直したが、でも、やっぱり女の子は喜んでいて。

 この世で一番幸せそうなくらいの満面の笑みを浮かべていた。

 最終的には女子生徒は戦闘不能になり、キーランは勝利。
 キーランはなんとも言えない顔をして、帰ってきた。

 「姉さん、ただいま」
 「おかえり、キーラン。あと、おめでとう」
 「ありがとう」
 「……女の子相手に戦闘不能で勝ちを狙うなんて、あなたらしくなかったじゃない」

 ほとんどの人は魔石を破壊して勝利を目指すのに。
 すると、キーランはポリポリと頬をかく。

 「僕も最初は魔石を破壊して勝とうと考えていたんだけど……ちょっと対戦相手の子に頼まれて」
 「頼まれた?」
 「うん。試合前にあの女の子に言われたんだ。『ラザフォードさん、魔石破壊ではなく、ぜひ戦闘不能を狙ってください。遠慮しないで私にガンガン攻撃してください』って」
 「…………」
 「だから、その子に言われた通りにしたんだよ。ちょっと嫌だったけど」
 「……そうだったの」

 キーランの話を聴いて、私はあの女の子が攻撃を受けて喜んでいた理由に気づいてしまう。
 
 …………彼女、変態ドMだったのね。

 そして、キーランの試合後。
 何人かの生徒の試合があったのち、カイルの名前が呼ばれた。
 彼の対戦相手は、小さな男の子。
 小学生、それも低学年ぐらいの身長の少年。

 どうやら小さな彼は飛び級でこの学園に入学した子らしい。
 さぞかし優秀な子なのだろう。
 そんな優秀な子相手で、カイルは大丈夫だろうかと心配していたが、その心配は無用だった。

 開始早々、少年が攻撃をしかけたが、カイルはすぐに対応。自身の魔法石を氷で覆い防御壁を完成させる。
 そして、ニコニコ笑顔で、ポンポンと氷魔法を放ち、少年の魔法石に当てていく。
 少年も防御をしつつ攻撃をするが、氷の壁は壊れる様子はない。

 防御が完璧なカイルは、前に出て魔法を確実に相手の石に当てる。
 爽やか笑顔で少年を追い詰めていく。

 そうして、少年側の魔石はパリンとわれ、カイルの勝利。

 試合後、カイルと少年が握手を交わしたが、少年は「後で覚えてろよ」とまぁ分かりやすい発言を残して去っていった。
 そんな少年に対して、カイルは終始営業スマイル。それもそれで怖かった。

 「ルーシー、勝ったよ」
 「おめでとう」
 
 うん。カイルは敵にしたくないな。 

 そして、迎えた最後の試合。
 最後に戦うのは、なんと私だった。
 残り数試合でなんとなく察してはいたけど、まさか最後が私とは。
 
 私の相手は………。

 「よろしくお願いいたします、ルーシー様」
 「こちらこそよろしく……ステラさん」

 そう。
 私の対戦相手はステラ・マクティア。
 女神様の仕業か、悪役令嬢VS主人公となっていた。

 先生方は一体何を考えてこの組み合わせにしたのだろうか。
 これだと、私の敗北が目に見えているじゃないの。

 でも、仕方ない。先生に文句を言ったところで意味はないので、やるしかない。

 深呼吸をし、やる気スイッチを入れる。
 自分が10回の魔法使用で倒れることを考慮すると、私には耐久戦は無理。

 高威力の魔法は使えないから、魔石破壊での勝利も無理。
 だから、私はステラの戦闘不能を狙うしかない。
 あと、物理での戦闘不能も勝利にはなるが、先生たちの印象は悪くなるから、魔法を使って勝つ。

 よし。短期勝負だ。
 やってやる。 
 ここで勝って、好成績を収めるんだ。

 「開始ッ!」

 試合開始の合図とともに、私は氷魔法を展開。自分の魔石の防御壁を作った。
 展開するのと当時にステラの方を見る。彼女はバリアを形成したようだ。

 光魔法適正抜群な人はバリアの形成なんて簡単。うらやましい。

 ちなみに。
 ステラは回復系の魔法は得意としているが、今回は使えない。
 これはステラに限ったことではなく、授業での試合では回復魔法全般は禁止されている。 

 どうやら、何十年か前に回復魔法を得意していた者同士が戦い、試合が1日経っても終わらない事があったため、この決まりができたらしい。

 長時間試合が行われると、他の生徒の試合がいつまでたってもできない。
 また、生徒も審判である先生もみんな疲れる。下手すれば、生徒よりも先に年寄りの先生が倒れちゃう。
 
 だから、早く試合を終わらせるために、回復魔法が禁止されていて、フィールド内で光魔法が使用されると、すぐにアラートが作動する。
 全く、このフィールドもよくできたもんだ。誰が作ったんだか。

 もちろん、使用者は反則負け。
 
 この話を聞いた時、数十年前のことであるが、一日中戦い合うのもそれはそれで凄いと思ったし、その人たちの保持魔力が羨ましく思った。

 私には回復魔法も使えないし、魔力があるわけではないから関係ない。
 が、ステラは得意としている回復魔法を封じられるため、自身のカードを失うことなる。

 今回の試合はそれを利用させてもらう。

 私は人差し指ほどの大きさの氷を2つ作りあげ、それを風魔法で操作。
 氷は弧を描きながら、ステラの方に向かい、彼女の足を切る。
 が、ダメージが少なかったためか、難なくステラは立っていた。

 そんな小さな攻撃を受けながらも、ステラは魔石の方に向かって、光線を放つ。
 彼女はあくまでも魔石の破壊を狙うようだ。

 私はもう一度氷魔法と風魔法を使って、ステラに攻撃。
 4発目でようやく、ステラは痛みに耐えれなくなったのかがくりと膝を落とした。

 これなら、いけるんじゃない。

 一方、ステラは膝をついたことも気にすることなく、ひたすらに光魔法を打ち込む。数発目で防御壁を破壊された。
 勝機と思ったのだろう。

 彼女は相当威力のありそうな光魔法を魔石に向かって放った。

 「え?」

 しかし、光魔法は反射し、術者であるステラに向かう。

 そう。
 これは、私が事前に仕掛けていたもの。
 魔石に一度だけ攻撃魔法を反射できる魔法をかけていた。
 この魔法、魔力コストが高いから使うか迷っていたが、この時本当に使ってよかったと思った。

 私は反射した光魔法を追いかけるように、ステラに向かって走り出す。

 一方のステラはバリア張りレジストしようとするが、自身が放った攻撃を受けた。
 威力もそれなりにあった。倒れかける。
 
 その瞬間に、私はリリーが使っていたような、蔓を少し出現させ、ステラの体を拘束。蔓の棘がステラの体に突き刺さる。
 
 「っつ!」
 「……」

 痛そうと思ったが、私は油断せず。
 ステラが握っていた杖をさっと奪いとり、遠くに投げ捨てる。
 これで完璧。

 ステラは動かない。動けない。

 …………勝った。

 あの、ステラに勝った。
 最強主人公ちゃんに、悪役令嬢の私が勝った!

 「やったわ!」

 勝利の嬉しさに私は思わずガッツポーズ。
 観戦していた生徒から歓声が上がる。
 
 



 ――――――――分かっていたはずだった。


 決して、ジャッジがつくまで勝った気にはなっていけないことを。
 そして、審判がまだ何も言っていないってことを。


 ――――――――なんで、あの時勝ったなんて思ったのだろう。
 後で思い返して、私はそんな後悔をした。

 勝利と確信した私はもといた位置に戻ろうと、翻した瞬間。
 背後から、ぼわっと音がした。
 振り向くと、ステラを拘束していた蔓が燃えていた。彼女は炎の中で右手を私の方に伸ばしていた。

 「ルーシー様、ごめんなさい」

 彼女がそう言った瞬間、光が見えた。輝く星が見えた。
 星の光に包まれて視界が真っ白になっていた。

 「ぬるいことをして、ごめんなさい」

 そして、遅れて全身に痛みがやってくる。

 その痛みを感じて、私はステラに光魔法で攻撃をされたとようやく気づいた。
 だが、力が入らない。力を入れようにも、空回りして抜ける。
 視界もままならない。

 そうして、ボロボロになった私はばたりと地面に倒れこんだ。

 …………一度は勝ったと思ったのに。
 こんなにもあっさりやられるなんて。
 
 やっぱり悪役は主人公に勝てないってわけね。

 私はせめてドローを狙おうと、杖を動かそうとしたが、すでに杖はなく。
 一方のステラは蔓から解放されたのか、足音がこちらに近づいてきた。
 見上げると、彼女が立ちはだかっていた。彼女が私の杖を持っていた。

 私はもう、何も、できなくなっていた。

 たった一発でやられるなんて。

 完全に私の負け。
 分かってはいたけど、こんなの試合が始まる前から勝敗が決まったようなものだったわ。
 まぁ、私にしては結構やった方だったし、先生の評価も悪くないはず。
 ……………………負けたけど。

 そうして、敗北を確信した瞬間だった。

 「アハハ……」

 なぜか笑い始めていた。
 ステラが笑っている? 

 ――――――――いいや、彼女じゃない。
 
 「アハハ、アハハ」

 私自身が笑っていた。
 なぜか笑いが止まらなかった。

 「アハハ」
 「え? ルーシー様?」

 きっと魔力枯渇で狂った。おかしくなった。
 そう自分がおかしいことを自覚していても、笑いがおさまることはない。
 目の前のステラも、奇妙なものでも見たかような顔をしていた。

 「アハハ!」

 体の奥底から湧いているくるエネルギー。
 体が燃えるように暑い、暑い、暑い。

 ステラが持っていた杖を、私はさっと奪い取る。
 彼女は何が何だか分からない様子だった。 

 私は光魔法にやられてボロボロ。さっきまでは立つことすらできなかった。
 それでも。

 ――――――――なぜか勝てる気がした。

 見上げると、広がっていたのは夜空。
 星がキラキラと輝いている。
 大きな月も見えていた。

 「アハハ、キレイ」
 
 綺麗な夜空を前にし、私は思わず両手を伸ばす。
 そこに大風が吹き、私の髪を荒らす。その束ねていた銀髪はぼさぼさ。
 傷だらけの髪ぼさぼさの私をみんなが見ていたんだろうけど、そんなのどうでもよかった。

 『ステラ・マクティアを殺してしまえ』

 という感情だけが私を支配していた。
 別にステラを嫌っているわけではないのに。
 本気で殺したいなんて思っていないのに。
 微塵もそんなことは思っていないのに。

 「コロシテヤル」

 その言葉が私の口から出ていた。
 そして、右手を動かし、杖先をステラに向ける。

 「コロシテヤルッ!」

 呆然としていたステラだが、ようやく我に返り、さっと後方へ下がってバリアを張る。
 それと同時に、私は杖を振る。

 すると、夜空に輝く星々が、月が、光を放った。
 その光線は彼女に向かって伸びていく。

 「くっ!」
 
 ステラはその光線を避けようとするが、私が微調整しているせいか、パリィはできず、光線をバリアで受ける。

 そして、バリアで対抗していたが、一時して割れ、ステラに直撃。
 彼女の体はフィールドの壁にぶつかり一度は止まるが、その壁も壊していく。
 生徒たちの悲鳴が響く。

 「え?」

 気づけば、私が放った光線はステラの体は貫いていた。
 意識が自分の体に戻ると、私は魔法を止めた。

 そして、体にぽっかり穴が空いた彼女の体は、地面にゴロゴロと投げられる。
 私はつまづきながらも、彼女の元へ駆け寄る。

 自分でやっておきながら、心配するなんて、なんて滑稽だろうか。
 みんな、きっと私をおかしいと、狂人だと思うだろう。
 でも、それでも、心配で仕方なかった。
 
 ――――――――あの魔法は自分の意思でやったものじゃないから。

 「ステラさん?」

 返事がない。起き上がってくる様子もない。
 出血が酷かった。

 息はしてる…………よかった辛うじて生きてる。
 でも、意識は戻らない。戻ってくれない。
 ステラは眠ったまま。

 「ステラ!」

 駆け寄ったライアンが声を掛ける。私は彼に押しのけられる。
 そして、遅れてヒーラーがやってきた。
 ヒーラーは必死にステラに回復魔法をかける。ライアンは彼女を抱きかかえて名前を何度も読んでいた。

 私はそんな状況に呆然としていた。
 一時してやってきたカイルたちが声を掛けてくれていたが、彼らの声が遠くで聞こえていた。

 耳鳴りがした。不穏な感じがした。嫌な予感がした。

 別にシナリオ通りにしたいわけじゃなかったし、実際シナリオ通りのことは今の所起きていない。
 だけど、今回起きたことは何か――――自分の死に、国外追放に繋がってしまうんじゃないかと思った。

 私は確かにステラに向かって、魔法を放った。
 「殺してやる」って言った。

 でも、あれは私の意思じゃない。
 私、ステラを殺そうとしたわけじゃない。
 あの魔法は自分の意思でやったんじゃない。

 そうみんなに伝えようとした瞬間、とんでもない脱力感に襲われ、私の意識はぷつりと途絶えた。
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