【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

56 キーラン視点:誘惑

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 どうも皆さま。
 僕はルーシー・ラザフォードの弟、キーラン・ラザフォードです。

 僕は入学して間もなく会長にスカウトされ、生徒会に入っています。
 僕以外にもカイルやリリー、エドガー様も入っていますが、残念ながら姉さんは入っていません。
 僕は姉さんも誘ってみましたが、姉さんは断固拒否。「私なんて生徒会に入っても意味がない」と言って、入ってはくれませんでした。

 ああー、会長を脅して、姉さんを入れてもらおうと思ったのに。

 まぁ、そんな姉さんがいない生徒会に入っている僕ですが、今日の昼休みはその生徒会の仕事がありました。
 その生徒会の仕事というのは地味な書類処理。
 部活許可やサークル許可、部活のポスター掲載許可などあまりにも書類が大量にあって、なぜこんなにも溜まっているんだと憤りを感じましたが、そこは抑えて。
 僕はさっさと書類をかたずけました。

 それもこれも、姉さんと過ごすためです。僕は姉さんとの時間のためならなんだってできます。
 そうして、仕事を終えた僕は姉さんがいるであろう、図書館に向かいました。

 姉さんは最近人気なので、静かに過ごしたい姉さんは人が少ない、もしくは話しかけずらい場所にいます。
 でも、僕は難なく姉さんを見つけたわけですが。
 なんと姉さんは数人の男子生徒に囲まれていました。
 
 僕は困り果てていた姉さんを救い出し、今に至ります。
 今は何をしているのかというと、姉さんといます。
 ああ……簡潔すぎますね。詳しくいうと。

 「我は魔王軍幹部!」

 色々あって、姉さんと学園の地下にいます。

 「殺戮の悪魔カーリー・カーライルじゃ―!」

 そして、自称魔王軍幹部の幼女と対面しています。

 「いや……え?」
 「我は! 魔王軍幹部! カーリー・カーライルじゃ!」
 「………………」

 ちらりと横を見る。
 どうやら姉さんも困惑しているようで。

 「聞いたことはないのかっ!?」
 「……いえ、聞いたことはあります」
 
 それでも、姉さんははっきりと答えた。
 確かに、カーリー・カーライルの名前は僕も知っている。
 黒月の魔女と同じくらい世界で恐れられている悪魔だ。
 
 ――――――でも。

 「姉さん、殺戮の悪魔ってこんな感じだったけ?」
 
 僕の知っている限りでは、殺戮の悪魔カーリー・カーライルはもっと怖くて、少なくともこんな幼女じゃなかった。
 100年前の記録では確か男の姿って書いてあったような?

 「ううん、カーリーはもっと怖い男だったはず。それに、ろくに話もせず、すぐに戦おうとする好戦的な人だったはずよ……こんな陽気な人だとはどの本には書かれていなかった」

 だよね。こんなかわいい感じではなかったはず。

 「そうじゃの……昔はかなり暴れまわったからのぉ……昔はみな我のことを畏怖しておった」

 思い出しているのか、うんうんと頷く幼女カーリー。
 
 「どうせ戦わんといかんじゃろうから、面倒で話すこともせんかったなぁ」
 「えー。話してほしかった」
 「うむ。我も今では後悔しておる。こんな状態になってから、ちゃんと人間と話すようになったじゃが、その時に人間は意外と面白いと気づいたからなぁ……」

 と、カーリーは悔しそうな表情を浮かべる。
 そんな幼女さんに、僕はさっきから気になっていたことを、ストレートに聞いてみた。

 「……それで、魔王軍の幹部さんがなんでこんなところにいるんですか」
 「よくぞ聞いてくれたっ!」

 すると、殺戮の悪魔さんはドカッと胡坐を相手座りこんだ。
 
 「お主らも座れっ!」
 「「はい」」

 カーリーに促され、僕と姉さんは地べたに座る。
 地下であるせいか、地面はちょっと冷たい。

 「お主らは100年前の戦いのことを知っておるか?」
 「はい」
 「まぁ、だいたいなら」
 「では、我がどうなったかは知っておるか?」
 「ええと、確か…………」

 100年前の戦いで、殺戮の悪魔ことカーリー・カーライルは封印されたと聞いている。
 魔王軍幹部として、戦っていたカーリー。
 彼は魔王と同じように、人間からの総攻撃を受け、弱体化。 
 しかし、カーリーは不死の人間であったため、完全に倒すことができなかった。
 そこで、人間側は彼を谷に封印した。

 というのを、カーリー本人に説明する。
 すると、彼女(いや、彼?)は「少し違うのぉ」と部分否定。
 
 「実際には谷ではない……この学園の地下ここに封印されたのじゃ!」
 「!?」
 「だから、今はこうして地下で暮らしているっていうわけじゃ!」
 「封印されてからずっとこの地下に?」
 「ああ、そうじゃ! どこにも行けぬからの! 退屈で仕方なかったわい! しばらくの間は戦いなどせなんだわ!」
 
 ははあ……まさか自分たちが普通に暮らしている地下に魔王軍幹部が住んでいたとは。
 少し驚きつつ、今までカーリーの想いをふと考える。
 
 かつて、カーリーは戦い好きだとも言われていた。
 そんな彼がいくら戦いたくっても、こんな地下にいても戦う相手がいないだったら、戦うことはできない。
 さぞかし退屈であったのだろうが。
 
 まぁ、戦い好きといえども、長期間ここにいれば他の楽しみも見つけたんじゃないだろうか。
 それで自然と殺戮の悪魔を卒業………と思ったが。
 カーリーはうるさい声をさらに上げて話し始める。

 「じゃが、2年前ぐらいかの! ゾーイがここに来るようになってからはな! 我はやつ相手に戦いをするようになった!」

 …………ゾーイって、姉さんと同じ授業を受けているっていう先輩?だよね。
 なんで、先輩が地下にいるカーリーこの幼女に会ってるんだ?
 
 「あの、カーリー様はゾーイ先輩とお知りあいなんですか?」
 「知り合い? そんなものではないぞ。あいつは我の監視者じゃ!」
 「監視者?」
 「ああ、そうじゃ、我がいつか封印を解くと思ってか、騎士団か宮廷魔術団か知らんが、監視者を寄越しておる!」

 ………………ああ、なるほど。
 ゾーイ先輩は表向きは魔術技術の向上に学園へ来たことになっている。
 けど、実際は魔王軍幹部の監視を目的に学園に来た。
 
 ゾーイ先輩が監視者として来ているのならば、きっと騎士団が派遣したんだろう。

 「じゃが、今の我はこんな強力で複雑な封印をもう解く気はしておらん! 解くんだったら、もうとっくに解いておる! ……それに、魔王様が封印され、我の身も封印され敗北同然の今、何もすることがないというのに……監視者なんてなぁ!」
 「きっとカーリー様が強いから、警戒されているんですよ」

 そう言うと、「あはは、世辞を言うでない!」とカーリーは分かりやすくニヤニヤ。
 いや、本当に強いと思っているんだけどなぁ。
 強くないと封印なんてされないだろうし。

 「まぁ、今はゾーイが美味しいご飯を持ってきてくれるから、やつらの言う事は聞くんじゃがの!」

 そして、わっはっはー!と笑う。ホント楽しそうな人。
 僕、やっぱりこの幼女が殺戮の悪魔だなんて思えない。

 それに、封印されているとは思えなかった。
 足枷もなけりゃ、手枷もない。
 なにも拘束されていないのに、封印されていると言うカーリーには違和感があった。

 地下だけなら動けるような封印をされている……のか?

 「お主の名は何という!」
 「ルーシーです」
 「そっちは!」
 「キーランです」
 「姉弟か!」
 「「はい」」
 「そうか! いいな!」

 ニッコリと笑う悪魔。
 やっぱり、この子があの殺戮の悪魔とは思えないんだけど。
 まぁ、話してる感じからするに、この幼女はカーリーで、中身は男なんだよな。

 そうして、僕と姉さんはカーリー様と様々な話をした。
 僕らがここまでどうやってきたのか。
 僕らが学園で何をしているのか。
 現在、地上ではどうなっているのか。

 話している感じからするに、カーリーはゾーイ先輩から若干地上で起きていることは聞いているようだった。
 また、彼女は魔王軍幹部と名乗っているものの、再び魔王が復活しても戦う気はなさそうだった。
 でも、ちゃんと確認がしたかったので、僕は率直に、魔王が復活したらどうするかを聞いてみた。
 
 「戦うことは好きじゃが、戦争はもううんざりじゃ。誰も死なない戦いがしたい」

 らしい。要するに、スポーツがしたいみたいな感じだろう。
 昔の話から比較すると、柔らかくなったもんだ。

 もし魔王との戦いが始まったとしても、魔王側にも人間側にもつく気はないらしい。
 …………そういうことなら、元・魔王軍幹部と言えばいいのに。

 と思ったが、どうやら魔王軍幹部とか殺戮の悪魔とか名乗っておけば、皆が驚いて面白い反応をしてくれるから、それを見るためにそう言っているらしい。
 全く愉快な人だ。

 「………姉さん、そろそろ帰ろう」

 僕はそう声を掛け、立ち上がる。
 結構時間が経った。きっともう少しで昼休みが終わる。
 もうそろそろ帰らないと、授業に間に合わない可能性がある。

 しかし、隣の姉さんは立とうとしない。

 「ちょっと待って、キーラン。私、もうちょっとカーリー様と話してみたいの」

 僕は別にカーリー様が嫌っていうわけじゃない。
 うるさいけど、話した感じ悪い人じゃないし、話していて楽しいし。
 けど、時間が時間だしなぁ。

 「姉さんの気持ちも分かるけど、早く帰らないと遅刻しちゃうよ」
 「そうだけど……カーリー様と話したいの」

 すると、カーリーが瞳をキラキラさせる。
 
 「おおう! ルーシーはそう思っておったか! 我も話したいぞ!」
 「ちょっとカーリー様は黙っててください」
 「むぅ」
 「姉さん、遅刻嫌いでしょ?」
 「そうだけど……カーリー様に聞きたいことがあるの」

 珍しく粘る姉さん。
 よほど聞きたいことでもあるのだろうか。

 「じゃあ1つだけ。1つだけカーリー様に質問したら帰る」
 「…………」
 「ね? お願い、キーラン」

 あのピアノのある場所からここに来るまで、結構時間かかった。
 だから、帰るのにもそれなりに時間がかかる。ルートは分かっているとはいえ、迷う可能性もゼロじゃない。
 だから、早く帰りたいんだけど。

 「……分かった。1つだけだよ。でも、早くしてね。授業に遅れてちゃうから」
 「ありがとう、キーラン」

 すると、姉さんは正座に座り直す。そして、幼女様に向き直った。

 「カーリー様」
 「なんじゃ? ルーシー」
 「カーリー様は月の聖女について、何かご存知ですか?」

 ここに来る時の階段があった場所。
 そこには月のマークがあった。そして、その上には女性がほられていた。
 それを何を意味するのか、なんとなく予想がつく。
 そして、姉さんがマークを触って、現れた階段の先に、カーリーがいた。
 もし、彼女が知っているのなら、僕も知りたい。

 彼女なら知っているのかもしれない。
 そう期待して、カーリーを見る。
 しかし、幼女様は苦笑して、首を横に振った。

 「悪いが、あまり知らないな」
 「…………そうですか」
 「すまんの。知っての通り、我は魔王軍幹部じゃった。そして、聖女は我らの敵じゃった。我が情報収取して戦う者じゃったら、知っていたかもしれんが、我は即座に戦おうとしていたからからのぉ。他の幹部なら少しは知っているかもしれんが、我は知らん、すまぬ」
 「いえ、大丈夫です。あと、その……月の聖女様はカーリー様にとって、やはり敵だったのですか」
 「昔はな」
 「?」
 「……そのぉ、今の我ならその聖女とやらとも、ちゃんと話せるかもしれんと思ってな。だから、『昔は』だ」
 「そうですか」

 姉さんはニコリと笑みを浮かべる。
 
 そして、僕らはカーリーから『また、こい』と言われた。特に姉さんに言っていたから、カーリー様は姉さんのことが気にいったのかもしれない。
 ああ、姉さんを取られないようにしないと。

 幼女の姿をしているとはいえ、中身は男。用心しておかないといけない。
 そして、帰ろうと姉さんが立ち上がった時。

 「……?」

 カーリーはなぜか訝し気にこちらを見ていた。
 何か気に食わないことでもあったんだろうか?
 姉さんが帰ることにがっかりしているんだろうか?

 「どうかしたんですか?」
 「…………む!? ……む、む、む、む、む、む!?」

 カーリーは姉さんの方にぐっと寄る。そして、顔をまじまじと見ていた。

 「カーリー様、姉さんがどうかしたんですか?」
 「うむ! ちょっと見えてのぉ!」
 「見えた?」

 はて?
 一体何が見えたというのだろう?
 まさか、幽霊とかじゃないよね?

 お願いだがら、後ろに幽霊が……なんて言わないでほしい。
 帰れなくなってしまう。

 「ああ! お主の姉は何かの加護を受けているようじゃの!」
 「え?」
 「だから、何かの加護を受けているようじゃ、と言ってるのじゃ!」
 「何の加護なんですか?」

 カーリーは目を細め、姉さんを見つめ始める。

 「星々の加護とはまた違う……これは月の加護か?」
 「え? じゃあ、黒月の魔女が姉さんを月の聖女と言ったのは?」

 僕がそう呟くと、カーリーはぐっとこちらに顔を向ける。

 「イディナがそんなことを言ったのか!?」
 「あ、らしいです。ね? 姉さん?」
 「ええ、黒月の魔女はそう言ってました」
 「ほう! そうじゃったか! なら、間違いない! あのイディナが言ったのなら間違いない! ルーシーは月の聖女じゃ!」

 カーリーは嬉しいのか、笑みを浮かべて姉さんの肩を叩く。
 ちなみに、手はギリギリ届いている。

 「あははっ! まさかこんなすぐに聖女と会えるとはな! あははっ!」
 「えっと、本当に私が月の聖女なんですか?」
 「ああ! イディナが言ったのなら間違いはない! 大丈夫じゃ! 我を信じよ!」
 「…………」

 カーリーと対称的に、姉さんは未だに信じられないのか、困惑気味。
 正直、魔王軍幹部に聖女認定されても、僕も完全に信じられないと思う。

 「月の聖女よ! 握手をしようじゃないかっ!」
 
 姉さんは困惑しながらも、カーリーと握手をした。
 魔王軍幹部と握手する――――奇妙すぎる。
 カーリーはニコリと笑っていた。嬉しそうだ。

 が、突然。

 「なに、これ?」

 カーリーの足元がぐらっとふらつき。
 
 「急に……眠たく……なって…………」

 そして、倒れこんだ。
 カーリーは僕らを気にすることなく、すやすやと眠り始める。
 僕は動揺してしまったが、姉さんは平然としていた。

 「え? 姉さん、これ大丈夫?」
 「……大丈夫だと思うわ。カーリー様は小さな体だから疲れやすいのかもしれないわね」
 「『なに、これ』って言ってたけど?」
 「久しぶりに人と長時間お話したから、予想以上の疲れが来たのよ」
 「そういうもの?」
 「ええ、そういうものよ。楽しかったら、いくら疲れていても疲れなんて忘れちゃうでしょ? それと一緒」
 「まぁ、確かに」

 僕も姉さんがずっと遊びたいというのなら、疲れ果てていても、遊べる気がする。

 「さぁ、キーラン。カーリー様のお休みを邪魔しちゃ悪いわ。行きましょ」
 
 姉さんは「カーリー様、おやすみなさい」と言って、眠った幼女に一礼。
 まぁ、ここで暮らしているようだから、どこでも寝床なんだろうな。
 そして、僕らはもと来た道をたどり、歩いていく。
 道中、迷うことなく、あの礼拝堂に帰ってくることができた。
 
 図書館へと繋がる階段へと歩き出そうとした時。
 姉さんはなぜかピアノの方へ歩いて行った。

 「姉さん?」

 そして、そのピアノの上に乗っかり、足を組んで座る。

 「ねぇ、キーラン」
 「なに?」
 「こっちおいで」
 「え?」
 「いいから」

 姉さんが何を考えているのか分からず、僕は困惑。
 だが、姉さんの言う通りにし、姉さんの方に歩いていく。

 「ねぇ、キーラン。ちょっと、ピアノを弾いてくれる?」
 「さっきも弾いたよ」
 「もう一回聞きたいの」
 「……うーん、姉さんが望むのなら、弾いてもいんだけど……でも、そんなことしてたら、授業に遅れるよ。いいの?」

 遅れるのは嫌だろうから、きっと「そうね」と言って諦めてくれる。
 それにしても姉さんはそんなに僕のピアノが好きなのか…………よし、放課後にでも弾いてあげよう。
 と考えていたが、姉さんは。
 
 「別に、授業ぐらい遅れていいじゃない」
 
 と言った。遅刻なんて、1回ぐらいいいじゃないって感じだった。

 そんな、遅刻を気にする様子がない今の姉さんは足を組んでいるせいか、妖艶に見える。
 僕にとって姉さんはいつだって、綺麗で美しい存在。
 女神と表現してもおかしくない存在だ。
 
 でも、その時は綺麗とか神々しいとかそういうのとは違って。
 いつも以上にセクシーに見えた。

 「ねぇ、キーラン」
 「なに?」
 
 すると、姉さんは僕の肩に腕を回す。
 そして、ぐっと顔を寄せてきた。

 「私とキスしましょ」
 「——————え?」
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