【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

54 反応

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 黒月の魔女の一件以来。

 周囲の反応はがらりと変わった。
 ミュトスのことがあって、今までは、私はクラスの人たちから距離を置かれていたのだが。

 きっと私が月の聖女と分かったからだろう。

 彼らは、今のうちに月の聖女とコネクションを作っておこうと考えたのか、私に接触し始めた。
 彼らは私に声を掛けてくるようになった。

 たが、そんな下心はすぐに気づく。

 かといって、断るとか、冷たい対応をするとかはしなかった。
 最初は嫌とは思わなかったから。

 だけど、一気に多くの人と関わるようになったためか、そのうち疲れがではじめ、いつの間にか話しかけられる前に逃げるようになっていた。
 一時、こんな噂が流れ始めた。

 『ルーシー・ラザフォードが月の聖女であることは、デマである』

 ―――と。
 正直なところ、私もそう思った。
 魔女がてきとうなことを言っただけだと思う。 

 私は、聖女の最大の特徴である光魔法が全くと言っていいほど使えない。
 さらには保持魔力も少ない。他の魔法も使えるのは初級のみ。
 治癒魔法もまともに使えない。

 そんな私が聖女だとは思えなかった。

 もしかしたら、魔女は公爵令嬢を殺す理由がほしくて、てきとうなことを言ったかもしれない。

 ………………そう考えていたが。

 だが、ライアンは魔女が私を聖女と言った時、こう言った。

 『なんで、お前がそれを知っている』

 ――――――と。
 まるで、私が月の聖女であることを事前に知っていたようだった。
 その後のライアンと魔女の会話から判断するに、国王陛下や臣下はきっとそのことを知らない………知らないのだ。
 
 なら、なぜライアンがなんでそんなことを知っていたんだろう?

 私も、誰も知らなかったのに。
 アースに予知してもらって、教えてもらったんだろうか?

 ていうか、本当に私が月の聖女なんだろうか?
 もしかしたら、勝手にライアンが思い込んでいる可能性だってある。

 分からない……分からないことだらけ。

 しかし、あの魔女の件があって以降。

 ライアンは挨拶をしてこなくなった。話しかけてこなくなった。
 私に対するあたりが強くなったような気もする。
 すれ違って挨拶をしたり、頭を下げたりするけど、彼は私を空気のように扱う。

 この前までと変わらない対応だから、いいんだけどさ。
 でも、少し仲良くなりかけたような気がしたからさ。

 ………………でも、ちょっとだけ、残念に思った。

 また、魔女の出現に伴って、学園に巨大な結界がはられることになった。
 その結界をはるのはアース。学園長に頼まれたそうだ。
 アースはその結界をはる際に、私を誘ってきた。

 なぜ、私? とは思ったが。
 丁度、彼に聞きたいことがあったので、了承した。

 また、2人きりになりたいので、カイルたち4人には来てもらわないことにした。
 大勢で行くと、答えてもらえない可能性だってあるからね。
 4人から文句は言われはしたが、了承してくれた。
 
 そして、昼休み。
 アースとともに学園敷地の一番端を歩いていく。
 今日は天気もよく、見上げると青空が広がっていた。

 夏も近くなり、若干暑さを感じる。
 が、風があるので、うだるような暑さではない。
 念のため、日傘はさしている。

 …………だって、日焼けなんかしたくないもの。

 前を歩くアース。
 今日の彼はいつになく静かだった。
 いつもなら、もっと陽気で。

 「君、黒月の魔女に会ったんだってー? どうだったー?」

 と事件のことを聞いてくる。
 だが、彼は事件から今日まで、事件のことを聞いてくる様子はなかった。
 話題にすらしてこなかった。

 そんな彼に違和感を感じていた。
 
 だから、ちゃんと話したいと思って、来たんだけど……。
 彼の右手には杖があり、器用に動かして、結界を張っていた。
 そんな彼に問いかけた。

 「ねぇ、アース」
 「………なんだーい?」

 背を向けたまま、結界を作っていく。

 「……魔女が街に現れること、知ってたの?」

 アースはすぐには答えてくれなかった。
 
 「知ってたよ」
 「……」
 「だから、ムーンセイバー王国こっちの宮廷魔導師には一応報告しておいたんだけど……」

 彼はアハハと軽く笑う。

 「でも、まさか君たちの前に現れるとは思わなかったなぁー」

 今回のことはどうやらアースにとっても、予想外のことだったらしい。

 「しかも、襲うなんてねぇ…………」
 「アースは私が月の聖女であることは知ってたの?」

 そう問うと、アースの足が止まる。
 そして、彼は私の方を一瞥して。

 「………………さぁ?」

 と言った。軽く笑って、肩をすくめいた。

 「私は月の聖女なの?」
 「………………違うんじゃない?」
 「やっぱり?」
 「………………さぁね、僕には分からない」

 その後も、何度か尋ねた。
 が、答えてくれなかった。
 全部はぶらかされた。

 いつもなら、馬鹿正直答えてくれそうアース。
 だが、その質問に対してはなぜか頑なに、真剣には答えようとはしなかった。
 なぜ、はぐらかすのかも分からなかった。

 もしかして、自分の目で確かめろって言いたかったのかしら?

 そう考えた私は図書館で本を探した。
 月の聖女について書かれた本を。
 月の聖女と関連のある本を。

 図書館の隅々まで探した。

 ――――だが、なかった。

 月の聖女について書かれた本も、関連する本も一切なかった。
 星の聖女や太陽の聖女に関する本はある。
 かなり研究が盛んにされているのか、大量にあった。

 たが、月の聖女に関するものが一切ない。
 司書さんにも探してもらったが、貸し出されてて本がないというわけでもなかった。

 ムーンセイバー王国のみ月の聖女が生まれるにも関わらず、図書館にも、学園にも、どこにも月の聖女に関連することが一切なかった。
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