【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

文字の大きさ
上 下
52 / 89
第3章 学園編

52 リリー視点:お姫様の危機

しおりを挟む
 その瞬間、直感的にルーシー様が危ないと思った。
 なぜか分からないけど、そう思った。

 だから、私は走った。
 お姫様ルーシー様の元に向かって全力で走った。

 人の流れに逆らって、人の合間を縫って駆け抜けていく。

 途中、ステラとすれ違った。
 彼女は私の顔を見て「え?」って顔していたけど、あの様子からだと気づいていないのかもしれない。
 
 クレープ?
 そんなの、どうでもよくなった。
 それよりもルーシー様が危ない。

 ルーシーの背中が見えた。あの王子と一緒にいた。
 2人はある方向を見ていた。誰かと話しているようだった。
 さらに近寄る。

 見えた。
 2人には黒いローブコートを着た人が。
 あの人から、とんでもない邪気を感じた。

 私はルーシー様の前に立つ。
 
 「ルーシー様、殿下、ご無事ですか」
 「…………ええ」「ああ」

 そいつは私を見ても、反応しなかった。

 「あなた、何者ですか? 随分と物騒な雰囲気を醸し出していますけど」
 「黒月の魔女といえば分かるかしら?」

 そう答えて、黒ローブ女はニコリと笑う。

 ―――――――は? 黒月の魔女ですって?

 なんでこんなところに。
 ゲームでこんな展開は、私は知らない。 
 だいたい魔女が現れるシーンなんて1つもなかったはず。

 でも、魔女はさっきからルーシー様ばかり見ている。
 
 ルーシー様に何かするつもり?
 なんの用があってきた?

 私が様々な疑問を浮かべている中、魔女はこっちに向かって歩いてくる。

 「近づくなっ!」

 声を上げる。
 そして、私は持ってきていたレイピアを魔女に向かって構えた。
 しかし、魔女は気にすることもなく、私の前に立ち止まると、ルーシー様をじっと見始めた。

 一体、この魔女は何がしたい?
 
 ちらりとルーシー様を見る。
 魔女にまじまじと見られて、居心地悪そうにしていた。
 そんな彼女だが、恐る恐る魔女に話しかけた。

 「………………あの」
 「うん! 間違いないわ!」
 「………………魔女様?」
 「この子、聖女だわ!」

 魔女は大声でそんなことを言ってきた。
 ルーシー様が聖女? 
 何を言ってるの、この魔女は。
 ゲームではルーシーが聖女になる、なんてことはなかったはず。

 ルーシー様も同じく驚いたのか、声を上げていた。

 「え? 私が聖女?」
 「そうよ? あら、あなた気づいてなかったの?」
 「気づいていないもなにも……星の聖女なわけがありません」

 すると、魔女はそりゃ当然という顔をしていた。

 「え? そりゃあ、そうよ。あなたは星の聖女なわけがないじゃない」
 「じゃあ、なんだというんですか」
 「あなた、月の聖女よ」

 ルーシー様はさらに訝しげな顔を浮かべる。
 まぁ、そりゃあそうよね。
 いきなり世界が恐れる魔女が現れて。
 その魔女から「あなたは聖女よ」なんて言われたら、私もあの顔をするわ。

 それにしても、月の聖女かぁ。
 ここはムーンセイバー王国だし、ありえなくない話。
 それにルーシーという名前は月と関連あるし、誘拐事件の時はあんな強力な魔法を放った。

 私は月の聖女が何をするのかは知らないけど、だいたい星の聖女と同じだから、治癒魔法と光魔法を得意とするはず。
 でも、ルーシー様は光魔法以前に、魔法を扱うことが難しい。

 保持魔力が少なくて、初級魔法しか扱えないらしい。
 対して、星の聖女は一般の人よりも保持魔力も多いという報告がある。

 だけど、ルーシー様は誘拐事件の時に光線をぶっ放している。
 もしかしたら、ルーシー様の保持魔力が少ないっているのは間違いなのかもしれない。測定間違いなのかもしれない。
 だから、ルーシー様が月の聖女であることは、今のところは肯定も否定もできない。

 まぁ、話がそれたけど。
 ルーシー様は魔女の言ってることが信じられないようだった。
 何言ってんだ、こいつ、とでも言いたげだった。
 ルーシー様はそんな言葉遣いされないけど、思っていることは私も同じ。

 そんな中、誰よりも驚いていたのは、彼だった。
 ライアンはありえないとでも言いたげな顔をしていた。

 「なぜ、お前がそれを知っている……」
 「ふん。その様子だと、ムーンセイバー王国は把握済みだったようね。ま、婚約者にしているんだから、当たり前かしら」
 「………………いや、陛下はご存じないはずだ」
 「ふうん、そうなの」

 魔女はそう言って、ルーシー様の方に目を戻す。
 ライアンがとんでもない発言をした気がするけど、それどころじゃない。
 嫌な予感がする。

 「魔王様はああ言ってたけど………………まぁいいか」

 魔女から殺気を感じる。
 一応、私は後ろにいる彼女に目くばせをしておく。

 「ラザフォード家のお嬢さん、月の聖女であるあなたには死んでもらいましょう!」

 私の直観は当たっていた。
 私はすぐさま動いた。

 「恨むのなら、私ではなく、月の聖女として生まれた自分を恨んでちょうだい! じゃあ、月の聖女様。さようなら! テーネブラモルス!」

 私は死の呪文を防ぐ方法は知らない。しかし、彼女はコクリと頷いてくれた。
 だから、きっと彼女ならやってくれるはず。
 嫌いだけど、きっと彼女なら防御魔法を繰り出せる。

 私はルーシー様の前に立ち、魔法を受ける覚悟を決める。
 しかし、私の体は押しのけられた。
 ルーシー様が私を押していた。
 紫紺の雷光がルーシー様に直撃する。

 「ルーシー様!」
 「くっ!」

 パリンっという音が響く。
 ………………そんな、そんな。
 私のルーシー様が。

 「私は……大丈夫」

 しかし、ルーシー様はそう言った。声を出した。
 即死魔法を受けたのにもかかわらず、私のお姫様はピンピンしていた。
 多少よろけていたが、立っていた。

 その代わり、彼女の手から砕けた青い石が落ちていく。
 あ! なるほど!
 身代わり魔石を使ったのね!
 さすが、ルーシー様! 

 「あらら……身代わり魔石を持っていたのね。やられたわ」

 魔女は口元に手を当て、残念そうに見る。
 黒月の魔女とはいえ、即死魔法を連続で使うことなんてできないはず。
 なら、今のうちに。

 「殿下とルーシー様はお下がりください! 余裕があれば、宮廷魔術師をお呼びください!」
 「ああ、呼ばせた! 君たちで持ちこたえそうか?」
 
 すると、ライアンは自分も戦うと言い始めた。
 彼に戦ってもらうのはありがたいが、それではルーシー様1人になってしまう。
 今魔女が狙っているのはルーシー様。私たちのことはどうでもいいように思える。
 だから、ライアンにはルーシー様を任せたい。 

 「………………なんとかします。殿下はルーシー様をお願いします」
 「分かった」

 ライアンは私の意をくんでくれたのか、ルーシー様を守るように杖を構えた。
 分かってる。
 たぶん、私だけじゃ、無理だ。
 なんせ、相手は世界が恐れる魔女、黒月の魔女。
 1人で何人も死にやった、魔王の臣下。

 「私も加勢します!」

 先ほどまで、ルーシー様の後ろの方にいたステラ。
 彼女は私の隣に立った。

 ――――――――魔女と戦うのは、1人じゃ無理だ。
 だけど、嫌いなステラ星の聖女様とならきっとルーシー様を守れる。

 「ステラさん、さっきはありがとう」
 「いいえ。あなたが亡くなると、ルーシー様が悲しむので、守っただけです」

 そう言って、ステラは顎を引き、杖を構える。戦闘に慣れているようだった。
 星の聖女がいるのなら、時間を稼ぐことぐらいはできるだろう。

 「行きますよ!」
 「はい!」 

 そうして、黒月の魔女との戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...