【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

文字の大きさ
上 下
46 / 89
第3章 学園編

46 エドガー視点:迷子でも散歩気分で

しおりを挟む
 「本当にここはどこなんですかね………」

 隣を歩くルーシーは、そう小さく呟く。
 俺とルーシーは先ほどまでいた花畑に向かって、森の中を歩いていた。

 道という道はなかったが、俺は自分が通ってきた場所を覚えていた。
 もとに戻るように、森の中を進んでいく。

 ちらりと横を見る。
 彼女の服はところどころ破れていた。怪我はないか尋ねると、彼女は何もないと言った。

 が、彼女の足元を見ると、擦り傷があった。草木で切ったのだろう。
 俺は魔法を使って、治した。

 光魔法を得意とするやつほど治癒魔法を使えないが、少しはできた。治癒魔法を練習していてよかったと思う。
 ルーシーは申し訳なさそうにしていた。

 いや、照れていたのか?
 ちょっと分からない。

 「エドガー様」
 「なんだ?」
 「どうやって帰りましょう?」

 心配そうな顔を浮かべるルーシーは、そう聞いてきた。
 帰ることは完全に無理というわけではないだろうが、すぐに帰ることはできないだろう。

 「やっぱりあの集落に行ってみますか?」
 「ああ、そうだな」

 花畑の先にはぽつぽつと家があった。きっとあそこは集落なはずだ。
 その集落にいた人にここがどこか尋ねて、馬車に乗せてもらって帰る。
 そして、2人で仲良く帰る…………いいじゃないか。

 が、俺は立ち止まった。

 ――――――おい、待てよ。

 迷子なら、ずっとルーシーと2人きり。
 いっそのこと、ここで暮らすのもありじゃないか。
 ここには何もないけど、ルーシーがいる。

 ルーシーだけがいるのだ。
 あのいらないキーランも、邪魔ばかりをするリリーも、紳士みたいなあのカイルもいない。 

 家を作って、2人で暮らす。
 いいじゃないか。最高じゃないかっ!

 「…………なぁ、ルーシー」
 「はい?」
 「迷子ままでもいいんじゃないか」
 「………………何冗談言っているんですか、エドガー様」

 というと、ルーシーに白い目で見られた。
 まぁ、そんな生活は俺の妄想。
 ルーシーには婚約者がいて、俺はその婚約者の弟。
 現状を見る限り、2人暮らしなんて、夢のまた夢だ。

 俺はふぅーと息をつく。

 だけど、今は楽しんでもいいんじゃないだろうか。

 「ルーシー、楽しんでいこう」
 「え? 突然なんですか」
 「俺たちは今散歩していると考えていこう」

 迷子でも散歩気分でいこうじゃないか。
 と話すと、ルーシーは。

 「はぁ………どこかいるのか分からないのに、ですか?」
 「ああ」
 「帰る場所がどこにあるのか分からないのに、ですか?」
 「ああ」

 心配そうな顔を浮かべるルーシー。
 そんな彼女に俺は笑いかける。

 「全てに気を張っていたら、疲れるしな。少しは楽観的に考えるのもいいんじゃないか。死ぬわけじゃないし」
 「死ぬわけじゃない…………」

 そうして、森を抜け、ようやく花畑へと出てきた。

 「せっかくこんな綺麗な花畑に来たんだ。ちょっとは楽しもうじゃないか」

 そう言うと、ルーシーはにっこりと笑みを浮かべる。
 可愛い笑みだった。

 「こうしてみると、ここの花畑は綺麗ですね」
 「ああ」

 彼女の紫の瞳は輝いていた。
 柔らかな風が、彼女の髪を揺らす。花弁を散らす。
 見たことはないが、彼女は女神様のように美しかった。
 服は破れていても、俺の目には彼女が輝いていた。

 俺は彼女の姿に、心を奪われていた。

 かつての俺、前世の俺はルーシーが推しだった。
 姉貴がある男性キャラクターが好きなように、俺もルーシーが好きだった。

 「なぁ、ルーシー」
 「はい?」

 だが、ここに来てからは、本物のルーシーと出会ってからは違った。
 俺は彼女に恋をしていた。好きがもっと大きくなった。
 大好きになって、そして――――――。
 
 俺は腰に手を回し、グッと抱き寄せる。

 「エ、エドガー様!? なにを!?」
 「俺はお前が好きだ。愛してる」

 俺は真っすぐに彼女見る。
 ルーシーもまた俺を真っすぐ見ていた。頬を赤く染めていた。
 だが、一時してルーシーは目を逸らす。

 「私には………」

 と答えようとしていた。

 「ああ、分かってる」

 彼女には婚約者がいる。
 ライアンはなんの理由でか分からないが、好意を持っていないのに、婚約破棄をしていない。

 でも、ステラが現れた今、いつか婚約破棄する時がくる。
 だから、その時には。

 「俺がお前を奪いに――」

 と言いかけた瞬間。
 周りが光始める。

 「――――――なにこれ?」

 真っ白な光に包まれ、俺は思わず目を瞑る。 
 しかし、ルーシーは離さない。さらに、ぎゅっと抱き寄せていた。

 少しして、光はおさまった。
 俺はそっと目を開ける。
 気づけば、アースの研究室に戻ってきていた。

 「ほら、戻ってきたよーん、って…………あれっー?」

 衝撃的なことを目前にしたように、ポカーンとこちらを見るカイルたち。
 そして、俺とルーシーは抱き寄っていた。
 俺と彼女との間はキスしそうなぐらい近い距離。

 「………………エドガー様?」
 「え? は?」
 「ギィャア――――!!」

 発狂したリリーが俺たちの方に飛び込み、ルーシーから俺を引き離す。
 そして、ルーシーを守るように、リリーは構えた。
 
 「エドガー様」
 「…………なんだ」
 「――――――金輪際、ルーシー様に近寄らないでください」
 「………………」

 女子とは思えないほどに、俺にガンをとばすリリー。
 口を開けっぱなしのカイル。
 とんでもない目で俺を見るキーラン。
 なぜか気絶しているルーシー。

 「あっはははっ――!!」

 そして、そんな状況に1人大笑いをするアース。
 カオスだった。
 最悪なほどにカオスだった。

 「なんか………すまん」
 「すまんで済むかっ――!!」
 
 その後、俺はカイルたち3人に4時間ほど問い詰められた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...