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第3章 学園編

45 考え

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 ルーシーの名前を呼びながら、森を駆け抜けて、ようやく彼女を見つけた。
 ルーシーは森の中1人立っていた。

 他の場所は光がほとんど入らなかったが、そこだけは綺麗に日光が入っていて。

 彼女の銀髪を照らしていた。

 ………………はぁ。
 びっくりした。
 ルーシーが急に走り出して、森の中に入って。

 追い付かなかったから、ルーシーともはぐれてしまうとも思った。

 無事で良かった。よかった。
 そうして、俺エドガーはルーシーと再会。
 1人でいたルーシーだが、彼女がいうには1人の女性に会ったという。

 だが、この場所がどこかは聞いていなかったようで。
 彼女は申し訳なさそうに、「すみません」と言った。

 「それで、その女性はどこに行ったんだ?」
 「あっちに行きました――――って、へ?」

 ルーシーが指した方向。
 それはただの森。
 暗い森が広がっているだけ。道1つない。

 「あんな暗いところを1人で歩いて行ったのか?」
 「え? あ、いや、さっきはあっち側がすごく眩しかったんですけど………………あれ?」

 そう言って、首を傾げるルーシー。
 彼女は「おかしいな?」と呟いていた。

 何度見ても、暗い森があるだけ。家も道も何もない。
 もしかして、幽霊でも見えてるんじゃあ………。
 幽霊でも会ったのかと尋ねると。

 「そうですね、幽霊に似たような人? いや、その表現は失礼か………でも、分類としては似てるけど………」 

 と話していた。
 おい。
 怖いこと言うなよ。

 そんなルーシーは周囲をキョロキョロと見渡す。

 「また、森の中で迷子になっちゃいました?」
 「………………そうじゃないが、でも、どこにいるのかは分からないままだ」
 「うーん」

 ここから花畑に戻る道は分かるが、相変わらずここがどこかは分からない。
 ムーンセイバー王国かもあやしい。

 そんな状況に、さっきのルーシーは絶望的な顔をしていた。
 だが、さっきとは違い、今は少し晴れ晴れとしている。

 「アースは何を考えて、こんなことをしたのでしょう?」
 
 ルーシーはそう呟いていた。
 そんな彼女の一言に、俺はあることを思い出す。

 ルーシー誘拐事件後。
 カイルからこんな話を聞いた。
 
 アースという人物がルーシーを欲しがっていた、と。
 だから、彼が手下を使って、ルーシーを誘拐したのだ、と。

 アースという名前はまぁ、正直どこにでもいる名前だ。
 しかし、それを陛下や側近の者たちに話すと、事件の公表はなしになった。
 
 犯人も捜さない。これ以上事件については追及しない。
 
 なぜかそんな決定が下された。
 なぜそのような決定をしたのか、陛下に尋ねると、陛下はこう言った。

 預言者アースが何らかの目的を持って行ったことではないかと。
 
 俺もアストレア王国に預言者がいることは知っていた。
 災害ならほぼ的中。
 外すことは稀にしかない、そんな預言者を。

 だが、それが俺たちと同い年の王子アースであることは、その時初めて陛下から始めて聞いて、知った。
 
 預言者アースと、アストレア王国第7王子アース。
 俺はてっきり偶然同じ名前で、それぞれ別の人物だと思っていた。世間も同じ認識だろう。

 だが、2人は同一人物。
 預言者アースはおじいちゃん預言者ではなかった。
 
 だとしても、事件については無視できない。
 一国の公爵令嬢ルーシーが誘拐されたのだ。
 相手が預言者だとしても、放っておけない。

 俺は臣下たちに、何か罰を与えるべきだと訴え続けていた。

 そして、俺に押された臣下たちは、一応確認のためと言って、アストレア王国に事件について、尋ねの手紙を出してくれた。
 すると、返信の手紙には預言者アースからの返答が記載されてあった。
 
 それには「それなりに考えがあった」とだけ。

 しかし、ムーンセイバー王国にもアストレア王国との関係もあるため、陛下はこれ以上はさぐらないことにした。

 一方、今回は公爵家の人間が狙われたこともあるため、彼の監視を裏の目的に、表向きは国の交流を目的に、ムーンセイバー王国側はアースに留学を持ちかけた。

 アースはそれを承諾し、シエルノクターン学園に入学した。
 入学後の彼は、なぜか研究までし始めていた。

 そして、今。
 あいつのせいで、遭難しかけている。
 本当に、あいつは何を考えているんだ。
 何を考えて、何を思って、こんなことを?

 「………俺にも分からないな。何か考えてやったことなんだろうがな」



 ★★★★★★★★



 「何も考えてないよっー! あははっ――!!」
 「なんですってぇ゛――?!」

 一方、アースの研究室では。
 怒りMAXのリリーはアースの胸倉を掴み、問いただしていた。

 しかし、アースは気楽そうに笑みを浮かべている。
 そんな状況に、カイルは困惑。パニック。
 
 「リリー、やめなよ。相手は王子だよ」
 「そうだよー、僕は王子様だよー」
 「チッ………王子であろうと関係ありません。ルーシー様が消えたんです! 一大事なんです! それだけではなくエドガーこの国の王子もどっか消えたんですよ! 大問題なんですよ!」
 「そうだっ! 姉さんが消えたんだっ!」

 リリーと一緒になって、キーランも問い詰めていた。

 「一体何をしたの!? ルーシー様に何をしたのよっ!?」
 「何をしたって、見れば分かるでしょー? 転移したんだよ、転移ぃー」

 アースはリリーに胸倉を掴まれたまま話始める。

 「ルーシーが触ったあの魔法石には、複数の術式を刻んでいたんだよー。1000通りぐらい、あるのかなー? 魔法師が持つとランダムに起動するんだよー」
 「………………」
 「未来が見える僕でも、君たちの未来はなぜか非常に不安定。完全に見えないわけじゃないけど、他の人ほど強い未来を見えないんだよねー」

 アースはバッと両手を広げる。

 「だからこそ、君たちと関わるのは楽しいぃー! 新鮮なんだよねー!
 そして、今日は君たちがあの魔法石に触ったら、どんなことが起きるのか、試してみたんだー」

 すると、アースの胸倉を握るリリーの手はさらに力が入る。

 「………………なぜそんなことを?」
 「もっと楽しくなるから――!」
 「この変人がぁ――――!!」
 
 リリーはアースの顔面を殴ろうとする。
 しかし、彼はサッと瞬時に避ける。
 それがリリーをさらに苛立たせた。

 リリーは魔法を使い、アースへと薔薇の蔓を伸ばす。
 しかし、蔓ははねのけられる。
 はねのけられた蔓が棚へ、魔法石へとあたる。
 棚からは本が落ち、魔法石は床に落ち、パリンっと音を立て割れていく。

 研究室は大荒れだった。
 始めはリリーに加勢していたキーランだが、彼は呆然としていた。

 「姉さんとエドガー様はあの魔法石のせいでどっか消えちゃって、リリーは怒りを爆発させて、アースなそんなリリーを見て笑ってる」

 まさにカオスの世界。
 キーランにとっては正直手に負えない状況だった。

 「なんとかしないといけないけど、どうする? カイル?」
 「………………」
 「カイル?」

 カイルはキーランの呼びかけに応じない。
 それもそう。

 さすがのカイルも怒っていた。

 アースの訳の分からないお遊びで、愛するルーシー(エドガーも含む)がどこかに飛ばされたのだ。
 アースも転移先が分からないようなので、転移先が安全かも分からない。

 だが、優先すべきことははっきりしていた。
 いつもとは違う声色で、低い声で、カイルは彼に尋ねる。

 「――――ねぇ、アースさん」
 「なんだいー?」
 「ルーシーたちをここに戻す方法はあるの? 戻せるよね?」

 カイルはいつになく威圧的でいた。
 そんな彼に物怖じせず、ニコリと笑うアース。

 「そんなの簡単さー」

 彼は自信気にそう答えていた。
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