【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

44 ティファニー

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 青い空に、色とりどりの花が咲く花畑。
 そこに柔らかな風が吹き、花の香りを私たちに運んでくる。 

 「…………あはは」

 が、正直そんなことはどうでもいい。
 ここはどこ?
 私は誰?

 ………………いや、私は誰か分かるわ。

 私は私。ルーシー・イヴァ・ラザフォード。
 そして、隣にいるのは王国の王子、エドガー・ムーンセイバー。
 
 私たちは、アースの魔法石により、どこかに飛ばされていた。
 目の前には花畑が広がっているが、遠くの方に目をやると、畑が広がっており、ところどころに、家も見える。
 どうやら、田舎の花畑に飛ばされたようだ。
 
 しかし、田舎と分かっても、ムーンセイバー王国の田舎と、どこかの外国の田舎とでは大分話が違う。

 「どうしましょう、エド――」

 ――――――ねぇ、こっちにおいでよ。

 隣のエドガーに話しかけようとした瞬間、声が聞こえてきた。

 「え?」

 ――――――こっちにおいでよ。

 どこからともなく聞こえてくる女性の声。
 あたりを見渡すが、声の主は見当たらない。誰もいない。
 こっちって言われても………どっち?

 ――――――君の背後に森があるでしょ。

 背後?
 後ろ振り向くと、少し離れたところに森の入り口が。
 
 ええ、あるけど?

 ――――そこにさ、小さな小道があるから、そこを通ってちょうだい。そしたら――――。

 そしたら?

 その瞬間、リーンと鈴の音が響く。

 ――――――私に会えるわ。

 「エドガー様」
 「どうした、ルーシー?」
 「エドガー様、さっきから女性の声が聞こえるんです」
 「女性の声?」
 「聞こえませんか?」

 エドガーは目を瞑る。
 一時して彼は横に首を振った。

 「残念だが、俺には聞こえないな………」
 「そうですか……。私には『こっちにおいで』とか『森の小道を歩けば、私に会えるわ』とかって聞こえるんですけどね」
 
 ――――――ねぇ。そんな子、放っておいて、こっちにおいで。
 
 「と言われましても………」

 ――――――いいから、こっちおいでっ!

 すると、私の体が勝手に動きだしていた。

 「ちょっ、えっ!? え!?」
 「おい、ルーシー! どこに行く!?」
 「わ、私にも分かりません! 勝手に体が動き始めて」
 「体が勝手に動きだす? ちょっ、待て………」

 エドガーを置いて、花畑の中を猛ダッシュ。
 森に入り、陸上部のごとく駆けていく。
 一時走っていくと、開けた場所に出た。

 森の中はほとんど光が差し込んでおらず暗かったが、その場所だけは違った。
 日光がそっとあたり、木々を照らしている。

 そして、そこに1人の女性がいた。
 この人がきっと声の主……なんだろうけど。

 「はぁ…はぁ…」

 急に走らされるもんだから、疲れたわ。
 私は息をきらしながらも、彼女を見る。

 女性は腰まである綺麗な金髪をハーフアップにし、耳には滴のような水色のイヤリングをつけていて。
 古代ギリシャ時代のような白いドレスをまとっていた。

 「こうして会うのは久しぶりね、ルーシー」
 「………へ? あなたとお会いするのは、初めてですが」

 私が覚えていないだけ?
 まさか、どこかで会ったことがあるのかしら?
 
 「ねぇ、転生してどう? 結構経つけど」
 「え? あなたも私の転生のことを知っているんですか?」
 「ええ、だって私が神様だもの」
 「え?」

 神様?

 「神様って、あの神様ですか?」
 「ええ、そうよ。ほら、あのバカアースが話していたでしょう」
 「はぁ………あなたが神様………」
 
 これがアースの話していた女神様。
 めちゃくちゃ綺麗な人じゃない。ろくなことしか話さないって言ってたけど。

 彼女が大魔法使いか、それと同等の者と思っていた。

 脳に直接話しかけ、私の体を自由自在に動かす。
 簡単なように見えるが、結構高度な魔法技術、魔力量を必要とする。
 だが、彼女が女神様だというのなら、納得がいく。

 女神様ならなんだってできちゃうものね。

 「あなたは……いろんなことに対抗したものね」
 「…………対抗、ですか」
 「ええ、声が出なくなった時には、店を1人で探し回って、誘拐された時には、なんとか抗って、そして、学園に行かないという選択肢を一度は選んだ」
 「………………」
 「だけど、あなたの思い通りにはならない。少し違うみたいだけど、大筋はゲームの通り」

 女神様は足元に咲いていたフリージアの花を手に取る。

 「なぜかしらね。こんなに状況が違うのに」
 「………私にも分かりません」

 ゲームではルーシーの近くにカイルたちはいない。
 はっきり言って、ゲームとのルーシーとは異なる。
 なのに、肝心の婚約破棄はできない。

 ライアンとの縁を切ることができない。

 「あなたは抗わないの?」
 「何にですか」
 「運命に、ゲームのシナリオに」
 「………………」

 女神様はちらりと私の方に目を向ける。

 「死にたくないのでしょう?」
 「死にたくはないですね。長く生きていたいです」

 前世ではろくな死に方していないし。

 「でも、私が動いたところで、死を早めるだけなんです。だから――」
 「だから、諦めて、ゲームの通りに生きる、と」
 「はい」
 
 すると、女神様は「諦めるというのね、そうなのね」と小さく残念そうに呟いていた。

 「私、あなたに期待しないことにするわ」
 「………何か期待されていたんですか」
 「ええ、これでもあなたにかなり期待していたの」

 ウフフと笑う女神様。
 はて?
 私の何に、一体期待されていたのだろう?
 首を傾げていると、女神様は。

 「あなたがそういう決断するのなら、私はこれから一切期待しない」
 「いや、何に期待していたんですか」
 「ウフフ、それは秘密です」
 「えー」

 超気になるんだけど。

 「ともかく、私はあなたに期待しない。期待したところで意味はなさそうだからね………他の人に期待することにするわ」

 そう言って、彼女はフリージアの花をポイっと捨てる。
 そして、「でも」と話を続けた。

 「もし、私が全部全部仕組んだことだったら、あなたはどうする?」
 「…………」
 「シナリオに抗う? 私を殺してみる?」
 「………女神様を殺すなんてことできません」

 女神様を殺す?
 いやいや。
 そんな勇気も度胸もありません。
 それなら、一層ゲーム通りに生きる。ええ、そうする。
 殺すほうが寿命が縮まりそうだもの。

 と答えると、女神様は「あなたはそうよね」と小さく言った。

 「誘拐された時、あなたの抗っていた姿はよかったわ。正直あのまま抗ってほしかった」
 「抗ってたら、無理やり学園に行かされました」
 「なら、もう少し粘ればよかったのに」

 えー。
 あの王子相手に粘るって、胃に穴が空きそー。
 というと、女神様はウフフと笑う。
 その笑みはとっても美しかった。

 なんか、この女神様、思っていたものと少し違ったかも。
 もっと、こう……なんというか。
 厳かな感じをイメージしていたんだけど、思っていた以上に親しみやすい。

 「あら、あなたのお仲間が来たようね」

 すると、遠くから「おーい、ルーシー!」と私を探すエドガーの声が聞こえてくる。
 女神様は私の方に向き直していた。

 「私はあなたが長生きすることを祈るわ」
 「女神様が祈ってくれるのなら、絶対叶うじゃないですか」
 「………………ウフフ、そうかもね」

 そして、女神様は手をそっと振り。

 「それじゃあ………また会いましょう」

 背を向け、歩き出す。
 女神様は静かに、そっと歩いていた。

 「あの!」

 私は気づけば呼び止めていた。
 聞きたいことがあった。

 「あなたのお名前は?」
 「………名前?」
 「はい、女神様にもお名前があるかな……と思いまして」
 「ああ、そういうこと」

 女神様は少し考えていたが、一時して答えてくれた。

 「私の名前はティファニーよ。女神ティファニー。また、どこかでお会いしましょう、ルーシー」
 「はい!」

 ニコリと笑うと、彼女も笑い返してくれた。
 女神様の背が遠くなっていく。彼女が歩いていく先は光輝いており、何があるかは分からなかった。

 あっちには一体何があるのだろうか。

 そうして、私が歩き出そうとした瞬間。

 「ルーシー! 無事か!?」

 という声が聞こえてきた。
 振り向くと、そこにいたのはエドガー。
 彼は走ってきたのか、息を切らしている。

 「はい、大丈夫ですが………すみません。置いて行ってちゃって」
 「それは気にするな、それより誰かと会ったのか?」
 「あ、はい」

 女神様のことをふせて、1人の女性に会って少し話をしたことを、エドガーに報告。
 女神様に会ったなんて言ったら、おかしい人って思われるだけだし。

 「………それで、ここがどこか分かったのか?」
 「あ」

 私は今の状況を思い出す。
 私たち、あのアースのせいで迷子だった。

 女神様ならなんだって知っているのに。
 ここがどこかぐらいすぐに分かったはずなのに。
 名前じゃなくて、いる場所を聞くべきだったのに。

 ――――――何してんだ、私。
 
 そうして、私たち2人は森の中で再度迷子になった。
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