【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

41 美少年と王子様 前編

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 ニコリと爽やかな笑みを浮かべる美少年。

 「————————転生者のルーシーさぁーん?」

 彼がそう言った瞬間、さっーと風が吹く。私のシルバーの髪を大きく揺らした。

 え? うそ?
 今、私のことを『転生者』と言ってきた?

 アースと名乗った少年はニコリと笑う。

 嘘でしょ。

 「な、なんで、私の転生を知ってるの?」
 
 知っている人なんてこの世界に誰1人としていない。
 そう思っていたのに。

 彼ははっきりと私を『転生者』と言った。
 しかし、アースは私の焦りなど知らず、のんびりとしている。

 「まぁ、そう焦らずにかけてよー。そこの椅子にさー」
 「あ…………はい」
 「君とはいつかじっくり話したいと思っていたんだよねー」

 と言って、彼は向かいにある椅子に促してきた。私は言われるがままに、座る。
 一体、この人なんなのだろう?
 
 私が転生者であることを知っているということは、彼も同じ転生者かもしれないけど…………。

 「それでアース様」
 「僕のことはアースと呼んでー」
 「……アース様」
 「アース」
 「………………アースさん」
 「アース」

 なぜ、そんなに呼び捨てにこだわる。
 私はハァと大きく溜息をつく。
 そして。

 「………………………アース」
 「なんだいー? ルーシー」

 ようやく呼び捨てにすると、彼はにっこりと笑った。

 「それで………なぜ、私が転生者ってことを知っているの?」
 「そうだねぇー。君が転生者であることを、僕が知っているといえば、知っていることになるのかなぁー」
 「?」

 なによ、その曖昧な返事は。
 私はアースの返事に首を傾げていると、彼は説明してくれた。
 
 「預言者である僕はある能力を持っているわけさー。ルーシー、何か分かるー? 当ててみてー」
 
 わくわく顔で突然クイズを出してきたアース。
 当ててみてと言われても………。 

 「能力と言われましても、私には見当がつきません」
 「あははー、突然言われても分かんないよねー。そうだよねー」

 ニコリと笑っていたアース。
 彼の表情は真剣なものに変わり、吸い込まれそうな青眼を真っすぐ向けてきた。

 「ねぇ、ルーシー、予知は分かるー? 僕はそれを持っているんだー」

 予知能力。
 それは未来の出来事を把握できる超能力。
 それはアースはできるという。

 へぇ。
 この世界では前世と違って、魔法が存在するからそればかりに気がとられていたけど、そんな人もいたんだ。

 「じゃあ、アースは未来が見えるんですか」
 「そうさー、まぁ断片的ではあるけどねー。だから、僕は君を『転生者のルーシーさぁーん』と言ったんだー」
 「?」

 いや、『今ので分かったでしょ?』みたいな顔されても。
 私が眉間にしわを寄せていると、彼は説明してくれた。

 「僕は複数の未来が見ることができる。たとえば、君と話さなかった未来。たとえば、君が転生者であることを僕は口にしなかった未来。まぁ、現在はこうして君と話して、転生者であることを言ったのだけどねー」
 「ほう」
 
 さっぱり分からん。

 「つまりさ、君のことを『転生者』と言えば、君が動揺する未来が見えたってことー」
 「………………え? じゃあ、私が転生者ってことは知らなかったってこと?」
 「知らなかったわけじゃないけど、確証はなかったよー。でも、君は動揺した。そして、『なんで転生者って知ってるの』なんて言ってきたー」
 
 それで、アースはようやく私が転生者であることを知ったのか。
 
 「あの…………預言者っていうのは?」

 冗談で言ったわけじゃないよね?
 彼は私の言葉にうんうんと頷く。

 「あー、それは間違いではないよー。神様と話したことはあるしー」
 「え!?」

 神様と話したことがあるの!?

 「もちろん、あの神様とも話はするけど、ろくなことはしゃべっていないからなぁ、あの人ぉ。だから、神託という神託は聞いてないよー」
 「………………ろくなことしか言わないってどんな神様なのよ」
 「えー? ルーシー、会ってないのー?」
 「はい、会ってません」
 「うそぉーん」
 「うそと言われましても………」

 会ってないものは会っていないのだけど。
 てか、神様にどうやって会うのよ。
 『ねぇ、神様。私の前に出てきて、ヘルプミー』とでもいえば出てきてくれるのかしら?
 
 困惑顔を浮かべていると、アースは「そっか、そっか」と呟き。

 「………『会っていない』と言うのかぁ…………君も彼女にてっきり会っているのかと思ったよー」

 と言ってきた。
 いや。

 「神様に会うわけないじゃない」

 聖女であるステラなら分かるけど、悪役令嬢である私が会うことなんて考えられない。
 「そっかぁ、そうだよねー」とずっと呟くアース。
 彼は立ち上がり、私の方に手を伸ばす。

 「ちょっと面白いこと考えたぁー」
 「え?」

 私の首の方へと、両手を伸ばす。



 「ちょっと、ルーシーには死んでもらおっかなぁ」
 「え?」



 この人、何言ってるの?
 ライアンじゃあるまいし。
 にこやかに、手を伸ばしてくるアース。

 逃げようとしたが、体が動かず。
 魔法を使おうとしたが、それもできず。

 そして、アースの両手が私の首に触れた瞬間。
 砂ぼこりが舞い上がり、思わず目を瞑る。
 
 いざって時に助けてくれるのはいつもミュトス。
 だが、今回目の前に現れたのはミュトスではない。

 「………イザベラ」

 そっと目を開けると、私の侍女がいた。
 彼女は私に背を向け、守るような態勢を取っている。

 「ルーシー様、ご無事ですか」
 「え? あ、うん。大丈夫だけど、なんでイザベラがここに?」
 「…………ルーシー様に危機が迫っていると思いまして、至急参りました」

 なに、その直感的な発言は。リリーじゃあるまいし。
 一方のアースは。

 「あいたたたぁ…………分かっていても、痛いものは痛いなー」

 数メートル先に吹き飛ばされていた。
 生け垣がクッションとなり、彼は軽症ですんだようで。
 服についた葉っぱを払い、そして、何事もなかったように、こちらに歩いて来ていた。

 そして、アースはイザベラへと目を向ける。
 突如として現れたイザベラに驚く様子はない。
 まるで、当たり前かのように、平然としていた。

 彼は予知ができるから、当たり前といえば、当たり前か。
 
 「ねぇ、イザベラぁ」
 「………………失礼ですが、どなたですか? あなたは」

 警戒心むき出しのイザベラ。
 一方、アースは「またまた~」なんて言いながら、ふざけたように笑っていた。
 
 「『どなたですか』なんて寂しいよー、イザベラぁ」
 「そう言われましても、私はあなたがどなた存じ上げません。あと、私は『イザベラぁ』ではございません。『イザベラ』です」
 「そんなぁー、イザベラぁ」
 「申し訳ございません。あと、『イザベラぁ』ではありません………それで、あなたはなぜルーシー様の首を絞めようとしていたんですか」
 「さぁー、なぜだと思うー?」

 問いかけるアースは変わらず笑みを浮かべるだけ。
 そんな彼にいらだったのか、イザベラはチッと舌打ち。

 こ、こんなに怒ったイザベラ、見たことないわ。

 「私にはルーシー様を殺そうとした理由なんて見当がつきません」
 「またまたぁ~」
 「ですが、あなたがお嬢様に手を掛けようと言うのなら、断固として許しません。あなたが誰であっても」
 「僕が国賓レベルの人間であってもー?」
 「ええ、当然です。あなたは私と戦いますか?」

 真剣に問うイザベラ。
 彼女は全て真面目に言っているようだった。

 そんな彼女に対し、アースは大きなため息をつく。笑みも消えていた。

 「もう危害を加えないよー、君とも戦わないよー」
 「…………本当にしませんか?」
 「ほんとー、ほんとー」

 アースは降参と言わんばかりに、両手の手のひらをひらひらさせて見せる。
 しかし、彼は「でも」と話を続けた。

 「彼女にはちょっと眠ってもらおうかな」

 と言って、アースが指を鳴らす。
 その瞬間、強烈な眠気に襲われた。

 う゛っ…………うとうとする。めっちゃ眠たい。
 でも、こんなところで寝るのは、マズいわ。
 
 公爵令嬢が庭で寝ているなんて、知られたら、ライアンになんて言われるか。
 お母様になんて言われるか。

 「じゃあねー、ルーシー」

 しかし、眠気には勝てず。
 私は膝から崩れ落ち、力が抜けたように倒れこむ。そして、地面に横たわった。
 そんな中でも、私は一つの疑問を抱いていた。
 
 ………………な、なんで、アースは私に魔法を?

 この眠気はアースの魔法によるもの。
 急に眠たくなるなんて、おかしいもの。
 
 私は眠気に抗いながら、重たい瞼を必死に開ける。

 イザベラ…………イザベラは?

 私の前に立っていた侍女、イザベラ。
 彼女は背を向けられており顔は見えない。しかし、平然と立っていることは見えた。

 ………………なぜ、私にだけ?

 「また、会おうー」

 まさか、この2人戦おうとしているわけじゃあ…………。
 声を出そうとする前に、私は眠りに落ちた。
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