【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第3章 学園編

38 なんで? 後編

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 「あなた、なんで、なんでこんなところに!?」

 突如学園に現れた魔獣。
 それは、私の可愛い可愛いペット——ミュトスだった。

 ラザフォード邸でお世話をしてもらえるようにしていたんだけど………………まさか、私を追いかけてきたのっ!?
 もう! 
 あなた、かわいすぎない!?

 「ミュトス、今日の姿も可愛いわぁ! 大好きよ!」

 久しぶりの再会に——といってもそれほど経っていないが——ミュトスをぎゅっとハグをする。
 すると、近くで様子を見ていたキーランが尋ねてきた。

 「姉さん、なんでこんなところに、学園に、ミュトスがいるの?」
 「さぁ…………ここに来るようには言っていないんだけど、ミュトスは1人お留守番で寂しくなっちゃって、私を追いかけてきたんだと思う」

 「だからって、姉さんの居場所が分かるとか………」
 「ミュトスは鼻がいいから、いくら遠くにいても私の居場所なんてすぐに分かるでしょう。ラザフォード邸からここまでそんなに遠くないから、すぐに分かったでしょうね。ね、ミュトス?」

 問いかけに、ミュトスは「ワン」と答え、尻尾をフリフリ。

 ————————————あー、可愛い。

 ミュトスは別れる時に、でっかいワンチャンになってって言ったから、現在は人間以上に大きな姿のまま。

 しかし、このままでっかいままだとちょっと困る。
 なので、小さいワンチャンになってとお願いし、柴犬サイズになってもらった。

 ミュトスは言うことをすぐに聞いてくれて、ホントいい子。
 よし、よし。
 いくらでも撫でてあげるわぁ。

 とわしゃわしゃと両手で撫でていると。




 「僕がお願いした通り、学園に入学してくれたんだね、ルーシー」

 なんで? 
 なんで、今?
 ————————私に声をかけてきたの?




 「ライアン……様………」




 私の前に現れたのは、婚約者のライアン王子。

 「こうして、話をするのは久しぶりだね、ルーシー」

 そして、彼の背後には例の彼女が。
 彼女の方にじっと目を向けていると、親切にもライアンが紹介してくれた。

 「ああ、ルーシーが彼女と会うのは初めてだね。紹介するよ、彼女はステラ。僕の友人さ」

 友人…………ですか。
 はあ、はあ、そうですか! そうですか!
 友人ですか!
 
 出会ったばかりの女の子が殿下の友人ですかぁ!!
 ふん! そうですかっ!

 ライアンの紹介に対して最高にいら立ちが募る。
 ジト目でステラを見ていると、彼女が前に出てきた。

 「お初にお目にかかります。私、ステラと申します。よろしくお願いいたします」
 「どうも、ステラさん。私は——」
 「存じ上げております、ルーシー様」
 
 彼女はそう言って、丁寧に、お辞儀する。
 平民出身の彼女だが、とても平民出身とは思えなかった。
 私も慌てて立ち上がり、お辞儀を返す。

 「エドガーから聞いた話からするに、それはシューニャもどきの…………ルーシーのペット?」
 「え? エドガー様がそうこの子の話を?」
 「うん、彼からルーシーのペットの話をちょっと聞いていたんだ」

 エドガーの方を見ると、彼は肩をすくめる。
 エドガーとライアンって、私のことを話題にするんだ。
 なんだか意外。

 「それで、それは君のペットなんだよね?」
 「そ、そうですが………」

 はて、そんなことを何度も聞くんだろう?
 ライアンにとって、捨て石のような婚約者のペットなんて、ものすごくどうでもいいことだろう。
 
 しかし、彼は。

 「え?」

 彼、ライアンは意外にも、驚きの表情を見せていた。
 今まで一番瞳を輝かせていた。
 ライアンがこんな顔をしたの、一度も見たことがないけど………………まさか、この子が欲しいの?

 ————————いや、絶対にあげない。ぜーったいにあげない。

 この子は私の子だもの。
 私は守るようにミュトスをギュッと抱く。
 その瞬間、ふと周りの声が耳に入ってきた。
 
 「今の、聞きました?」
 「ええ。シューニャなんて、気味が悪い」
 「シューニャってあんな姿をするものだったか?」
 「いや、伝説ではもっと大きくな体を持つと言われていたはずだ」
 「だったら、尚更気味が悪い」
 「新種の魔物だったりして」
 「そんなものをご令嬢は飼っているのか」

 周囲の鋭い視線が刺さる。
 え? 
 シューニャって忌み嫌われる存在なの?

 なんで? 
 なんでこんないい子なのに?

 すると、ライアンが歩き出した。私の目の前まで来ると、彼はミュトスに向かって手を伸ばす。
 
 「ガルルルルゥ………………」

 しかし、ミュトスはライアンを拒否。
 飼い犬は飼い主に似るって言われるけど、ミュトス、私はここまであからさまにライアンを拒絶しないわよ。

 あ、噛もうとしないで。
 相手は王子よ。
 心臓に悪いことはやめてちょうだい。

 「………………どうやら、僕は嫌われているようだね」
 「こ、こら、ミュトス。ライアン様に向かってそんな態度はいけません。すみません、殿下」
 「いや、いいさ」

 ようやくミュトスが大人しくなったところで、ライアンは再度ミュトスの頭に手を伸ばす。
 ミュトスは不服そうにしていたが、まんざらでもなさそうだった。
 ミュトスったら、ツンデレさんなのね。

 目の前にいるライアン。
 こんなに近くに寄ったのはビンタされたぶりだろうか。
 
 ただ、あの時と違うのは彼の瞳。 

 彼の青い瞳は全く鋭さを感じず、ただただ、優しい瞳を浮かべていた。

 「——————————」
 「え?」
 
 聞き取れなかったが、ライアンは何か小さく呟いた。
 独り言でも言っていたのだろうか?

 ………………まさか、私がろくなやつじゃないから、ミュトスをあわれんで、「この子が幸せになってくれますように」とか言ったのかしら!?

 ライアンはミュトスを撫で満足すると、ステラとともにその場を去っていった。

 そうして、突如学園に現れたミュトス。
 この子は屋敷に返しても脱走して、また私のところにやってくるかもうしれない。
 そう考え、私の部屋にいてもらうことになった。



 ★★★★★★★★



 シエルノクターン学園1年女子寮。
 その1室にいたのは乙女ゲームの主人公、ステラ。
 彼女は自室の洗面所にいた。

 シャワー上がりで、湿った金色の髪の上にはタオル。

 「なんで?」

 そして、彼女の頭の中にあったのは、ルーシーとシューニャもどきの姿。鮮明に浮かび上がっていた。

 「あの子がなんで…………なんで?」

 鏡に映る美少女の顔。

 「なんでよ?」

 しかし、せっかくの美形が台無しなほどに、眉間にはしわを寄っていた。
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