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第3章 学園編

36 なんで? 前編

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 みなさま、ごきげんよう!
 私はルーシー・ラザフォード。「Twin Flame」乙女ゲームの悪役令嬢のルーシーよ!
 
 今日はある場所にいます。
 え? 
 あの屋敷にいるのかって?

 ————————いやいや。

 あの愛しいラザフォード家の屋敷ではないの。
 その屋敷から少し離れたとある場所にいるの。

 じゃあ、どこにいるかって?
 今ね、私の目の前には校舎があるの! 
 ご立派な洋風の校舎!

 そう! 
 私は学園に来ています!
 婚約者に言われた通り、シエルノクターン学園に来ています!

 正直、今すぐにでも帰りたいです! 

 でも、そうもいきません!
 だって、婚約者に言われましたから!

 私の婚約者(仮)がただの貴族とか、乙女ゲームのモブキャラならいいです。
 その人の言うことなんて、ガン無視で、屋敷で引きこもってます。
 でも、私の婚約者はただの貴族でもなく、乙女ゲームのモブキャラでもありません。

 王族で、乙女ゲームのメインキャラです。
 
 ………………でも、こんなやる気のないやつが入学しても意味ないんで、帰らせていただけませんかね? 

 かねぇ? 

 「ルーシー様、急ぎませんと、授業が始まりますよ」

 と思ったところで意味はありませーん。
 私は帰れまてぇーん。
 帰ろうとすると、侍女のイザベラが通せんぼします。
 
 「姉さん、帰りたい気持ちは僕にはすご——く分かるけど、授業も案外楽しいかもしれないよ? 行ってみようよ? ここまで来たんだからさ」

 「ルーシー様と授業を受けることができるなんて、私幸せです!」
 「………ルーシー、まさか帰るつもりじゃないだろうな?」
 「どんな授業があるんだろうね? ルーシー」
 
 そして、左右にいるキーランたちもそう言ってきます。
 囲まれていて、逃げ道はどうやらないみたい!

 「はぁ………………」

 仕方ない。授業を受けるとするかぁ。
 まぁ、逃げ道があっても受けるんだけどね。

 なんてたって、婚約者に脅されたからね。
 
 この前、学園に入学しないと言ったら、ビンタされて。冗談だよねって言われて。
 そんでもって、脅しの手紙までもらったわけですよ。

 『学園にこないのなら、どうなるか分かってるよね?』

 ————なんて手紙をね。

 一体何をするつもりなんでしょうか?
 私を殺すとか? 
 家族全員、どん底に落とすとか?

 ともかく、何をされるか分かったもんじゃないので、私はとりあえず学園に来ました。

 それで、学園に行くことを説明したら、キーラン以外の3人は大喜びしたんだよね。
 逆にキーランは少し不満げだったけど、それでも彼も学園に来てくれた。

 まぁ、学園に入学するにしても、殺されるのは絶対いや。
 死にたくはなくて、殺されたくなくて、ここに来たんだもの。

 ライアンには学園に入れとは言われたけど、真面目に授業を受けろとは言われてないしぃ?
 全くもって言われていないしぃ?
 ほどほどに授業を受けて、適度におサボりでもかまそうかとは思ってる。
 
 それに、魔力のない私が限界は目に見えてる。
 授業を真面目に受けたって、いくら訓練したって、優秀なみんなには到底追い付かない。

 だから、明日からさっそく授業をおサボり。
 今日は入学式だけで、授業が始まるのは明日から。
 今日は授業をおサボりする必要はなし。

 入学式は午前中にあって、午後は暇になる。
 せっかくだし、午後は学園全体を散歩してもいいなぁ。
 なんて考えながら、校舎入り口に向かうと、クラス表が掲示されていた。

 「どうやら、僕らは同じクラスみたいだね」
 「僕は姉さんとだけ同じクラスがよかったのに…………」
 「ルーシー様! 私たち同じクラスですよ!」
 「………………ふむ、教室は2階にあるのか」

 そうして、2階にある自分たちの教室を確認し、講堂へ移動。
 王子であるエドガーを筆頭に、ヤバいメンツが揃っているから、移動中は目立ってしかたなかった。まぁ、みんな話しかけにはこなかっただけ、マシだけど。

 そして、講堂への近道である渡り廊下を歩いていると、ふと下の中庭に目がいった。

 「ルーシー? 立ち止まってどうしたの?」

 クローバーの花が咲き誇った中には2人の少年少女。

 あれはライアンと………。
 ライアンの隣にいる少女。ものすごく見覚えのある金髪の少女。
 私は彼女の名前を知っている。

 ————————なんてたって、彼女は乙女ゲーム「Twin Flame」の主人公、ステラ・マクティアなのだから。
 
 2人の笑い声が中庭に響く。
 私の頭の中で響く。

 彼らは楽しそうに話していた。
 あれはきっと出会いイベント。
 
 ああ………………思い出した。
 ここはライアンと出会う例の中庭だった。

 彼女はライアンルートに進むのだろうか?

 「そういや、名前を言ってなかったね。僕の名前はライアン。君の名前は?」
 「私はステラ・マクティアと申します。よろしくお願いいたします、殿下」
 「なんだ、僕のことを知っていたか………ライアンでいいよ。ステラ」

 「………………いいのですか?」
 「ああ」
 「では、お言葉に甘えて。ライアン様、よろしくお願いいたします」

 そう言って、ステラは左手を差し出す。
 そんな彼女にライアンは少し戸惑っていた。

 「………………左手ですか。出会ってそうそう、僕のことを嫌いだなんて………」
 「はっ! 私左利きなもので、ついつい………すみません」

 ステラは慌てながらも、右手を差し出し直した。
 彼女は失敗を誤魔化したいのか、ニコリと笑う。
 その彼女の笑みは遠目からみても、太陽のように眩しかった。

 さすが主人公というべきか。

 「改めて、よろしく。ステラ」
 「よろしくお願いいたします、ライアン様」

 ライアンも右手を差し出し、握手を交わす。
 
 ————————ついに出会ってしまった。あの2人が。
 その瞬間、さっと冷たい風が吹く。
 そして、彼と目があう。

 彼は私がいたことに驚くこともなく、こちらに目を向けていた。
 そんな彼の目に、思わずハッとしてしまう。
 
 「…………なんで? なんで?」

 なんでそんな目をしてるの?




 なぜ、私を睨むの?

 学園に来いと言いながら、婚約者を睨み、初めて間もない主人公彼女には笑みを浮かべる。
 
 ————————訳が分からない。

 誰よ、こんなゲーム作ったの。

 誰よ、悪役令嬢ルーシーなんてキャラクターを作ったのは。

 ————————私なんか、邪魔だけじゃないの。
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