【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第2章 対抗編

30 救世主

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 突如現れた少年。
 僕らを攫ったリアムたちの仲間だと思われるそいつは、ルーシーをぎゅっと抱きしめていた。

 「ちょっ! 何勝手にルーシーに……………」

 僕は彼をルーシーから離そうとしたが、それは止めた。
 暴走して、怪物のようになっていたルーシー。
 悔しいが、少年が抱きしめたことにより、彼女が徐々に落ち着きを取り戻していた。
 
 地面に広がっていた綺麗な夜空は消え、大風も感じなくなる。
 そして、意識を失ったルーシーを少年はぐっと支え、地面にそっと寝かせた。

 「ねぇ、これどういうこと?」

 なぜルーシーがこんなことになった?
 なぜ少年こいつにはルーシーの暴走を止められたんだ?

 「なぜあんたたちは僕らを攫ったんだ?」
 
 しかし、僕の質問に少年は答えることなく、静寂の時間が流れる。
 すると、空の遠くの方から声が聞こえてきた。
 
 「あっちから! あっちから! ルーシー様を感じたんです! 私、確かに感じたんです!」
 「…………なんだ、そのスピリチュアル的な発言は。怪しすぎる占い師みたいだな」

 徐々に近づいてくる複数の声。

 「ハッ、エドガー様、さては私の直観をバカにしてますね。バカにしているのは今のうちです。私の直観は確かに当たるんです」
 「…………ふん、適当なこと言うな」
 「適当なことは言ってまーせーんー。この前だって、当たったってルーシー様に会うことができたんですからね」
 「……………どうせ偶然だろ」
 「信じないというのなら、べつぅーに構いませんよ。私のルーシー様に対する思いは相当強いですし、私の心とルーシー様の心が繋がっているんです。エドガー様と違ってね。だから、私は直観ですぐに見つけることができるんですよ!」
 「……………お前なぁ、さっきも『ルーシー様があっちにいるわ!』なんて言いながら、いなかったじゃないか。ルーシーがいる場所なんてこれっぽっちも分かっていないんだろ? どうせお前のルーシーへの思いも俺のに比べて大したことないんだろ」
 「んなぁっ! そんなわけないじゃないですか! 私のルーシー様に対する思いの方が何千倍、いや、何万倍も————」
 「あーあ、2人ともしゃべってないで、姉さんを探して、この辺でさっきの光が見えたはずなんだから」
 「はいはーい」

 この声って……………。
 
 「話は戻るけど、さっきの光の魔法って、もしかしてルーシー様を誘拐した犯人だったりしてね……………って、あれっ? あなた、カイルじゃない。なんでそんなところにいるの?」
 
 見上げると、リリー、キーラン、そして、エドガーがこちらを覗いていた。
 僕らがいた場所は地下だったようだ。どうりで窓がないわけだ。
 
 「もしかして、さっき放ったのってカイル?」
 「いや、違う。ルーシーだよ」
 「えっ!? 姉さんがやったの!? てか、姉さんがそこにいるの!?」
 
 ルーシーに気づいたキーランがこちらに下りてくる。続いて、リリーとエドガーの2人も下りてきた。

 「あの人、誰なんです? まさか、ルーシー様を攫った犯人?」
 「張本人ではないけど、犯人の仲間だと思う」
 「……………ねぇ、そこの人。姉さんから離れてくれない?」
 
 キーランも見ず知らずの人がルーシーに触れているのが嫌と感じたのか、少年を睨んでいた。
 ラザフォード家の騎士団も駆けつけ、少年の逃げ道はなくなった。
 しかし、白いローブを着た少年は逃げる様子も慌てる様子もない。

 顔は見えないが、ただただルーシーを心配しているようだった。
 こいつ……………………本当に何者だ。
 
 すると、エドガーが声を掛けた。警戒してか、彼は剣を構えている。

 「お前…………何者だ」

 少年は答えない。

 「ルーシーから離れろ」

 それでも少年は答えない。
 一時すると、少年は立ち上がり、周囲を確認。
 そして、彼はキーランに目を止めると、彼に真っすぐに指をさす。

 「お前を恨む」

 そう言い残して、少年は塵のように消えていった。

 

 ★★★★★★★★



 私、ルーシーは自宅で目が覚めた。
 起きると、足元には疲れ果てて眠ってしっていたキーラン、リリーがいて。
 少し離れた椅子には眠るエドガーとカイルがいた。

 これはどういうこと?
 何があったんだっけ? 
 1人困惑していると、イザベラが意識を失ってからのことを説明してくれた。

 3日間、ずっと眠っていたこと。
 私とカイルは誘拐されていたこと。
 誘拐した者はまだ捕らえていないこと。

 イザベラが分かりやすく説明してくれたが、それでも頭が追いつかないぐらいの情報があった。
 3日前、街に行ったのは覚えているけど、カイルに会ったっけ?
 全く覚えてないや。
 
 聞かされた情報を整理していると、私はあることに気づく。

 「ねぇ、イザベラ」
 「はい。なんでしょう?」
 「なんで私、話せるようになってるの?」

 ここ数日はずっと声が出せなかった。
 だが、今は何もなかったように話せる。
 しかし、イザベラは困ったような顔を浮かべた。

 「それは…………私には分かりません」
 「え?」

 分からない?

 「もしかして、イザベラが薬を探して、飲ましてくれたとか?」
 「していません」
 「話せなかったのは呪いのせいで、それをイザベラが解いてくれたとか?」
 「解いていません」
 「今言ったことをイザベラじゃなくて、他の人が——」
 「誰もしていません」
 「じゃあ、なんで治ったの?」
 
 と尋ねると、イザベラはにこりと笑う。

 「誰も何もしていませんよ。医師の方に見ていただくことはありましたが、それ以外は特段何もしておりません」
 「それじゃ、私の喉は勝手に治ったっていうの?」
 「そうとしか言いようがありませんね」

 イザベラはそう言って、私の服を用意し、他の作業に移る。
 私の努力はなんだったのよ……。
 思わず、出るため息。

 そうして、3日間の眠りの末、目覚めた私。
 当然お腹が空いて仕方なかったので、早速食事をすることに。

 せっかくだから、みんなで朝食しようかなと思っていたけど、カイルたちはスヤスヤと眠っていたので、そっとさせておく。
 そりゃあ、疲れるし、友人がずっと目を覚まさなかったら、心配にはなるわよね。

 イザベラ曰く、彼らはずっと私の看病をしていてくれたらしい。
 キーランは何があろうと、私から離れずにいて。
 一日目には心配のあまりリリーがわんわん泣いて。

 一国の王子であるエドガーは珍しくわがままを言って、ここにいたようだ。
 エドガーに関しては、帰るべきでしょ、とは思ったけど。
 
 それもこれも私のことを心配して、やってくれたことのようだったから、何も言わないことにした。
 そんなイザベラからの説明を聞きながら、食べていると、

 「姉さん!」
 
 キーランに突然抱き着かれた。
 リリーもエドガーも起きたのか、食堂にやってきていた。
 
 「何抱き着いているんですか! キーラン! ずるいですよ!」
 「……………………まぁ、別にいいじゃないか。姉弟なんだから」
 「はぁ!? エドガー、何言ってるんですか!? あの人は私たちと同じ………」

 と2人が言いあっている後ろから、カイルも現れた。

 「元気になったんだね、ルーシー」
 「ええ。おかげさまで」

 私とともに誘拐されていたカイルだが、彼も元気そう。
 それもそうか。
 私と違って、カイルは見つかった時には起きてたっていうし。

 ……………なら、なんで私は意識を失っていたんだろう?

 もしかして、誘拐犯が怖すぎて失神したとか?
 それだとしたら…………は、恥ずかしい。
 というか、情けない。
 私の方がカイルよりも精神年齢はずっと上なのに。

 誘拐された時のことを思い出そうとするが、何1つ思いだせない。
 だが、胸の奥で引っかかるものを感じる。
 
 誰かに大切なことを言われていたような気がして、それで————。
 私は何度も何度も思い返したが、その“大切なこと”も全て思い出せなかった。 

 

 ★★★★★★★★


 
 そこは真っ白な空間。
 もの1つなく、白い世界がずっと続いていくだけ。
 そんな世界に、彼は女と対峙していた。

 「私、言ったはずなんだけどー」

 寝転がっているその女は退屈そうに、少年を見ていた。
 白いローブを着ているせいか、女からは少年が世界と同化しているように見える。

 「いや、言ってない」
 「いいえ、言った。私は確かに言ったの」

 女が指を鳴らすと、白い世界から空の上と移った。
 足元には、ムーンセイバー王国の街が広がっている。

 「私の気分次第ではあなたの邪魔をするって、ちゃんと言ったわよ。だから——」
 「今回、邪魔したって言うのか」
 「ええ。それが私の仕事だと思う・・もの」

 少年は思わず拳を作っていたが、ぐっとこらえる。

 「…………あんたの気分次第で僕らは殺されるって言うのか」
 「私は殺さないわよーん。そんなことしたって意味がないもの。私の願いが破綻するもの」
 「ハッ、あんたみたいなやつにも願い事があるのかよ」
 「神様みーんな、願い事があるわよ? そのためにこうしているんだもの。まぁ? 私はまだマシな願い事を持つ神様だとは思うけど」 

 女はフフフと笑みを浮かべる。

 「さっきも言ったけど、私の仕事は邪魔することだと思う・・から。だから、せいぜい頑張って」
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