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第1章 出会い編
19 エドガー視点:ずっと会いたかった人
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ライアンと比べるとポンコツだった俺。
全てにおいて負けていたが、俺は努力をし始めた。
剣術、武術、加えて勉学。
時間のほとんどをそれに費やした。
………………まさか、勉強が大嫌いだった俺が、自分から勉強をし始めるとはな。
しかし、意外にも勉強は楽しく、深夜までやっていることもざらだった。
そして、王城のいたるところで、「エドガー様が別人のように変わった」という言葉を耳にするようになった。
記憶を思い出す前は何もかも真面目にやっていなかったもんな。
そう考えると、みんなが驚くのも当然といえば、当然。
ある意味別人になったのも間違いないから。
そうして、ある日のこと。
剣術の練習をしていると、ライアンが話しかけてきた。
「エドガー、最近頑張ってるね」
「………………そうか?」
「うん。勉強も稽古の時間以外にやっているでしょ。武術もやっているみたいだし」
「まぁ、確かに」
「それに剣術の模擬戦。以前は僕がずっと勝っていたのに、最近は僕がずっと負け。エドガーに負けてばっかりだ」
そう。
最近の模擬戦で勝っていたのは俺。ここのところずっとだ。
俺はふとあることを思いつく。
「なぁ、ライアン。俺と勝負しないか?」
今までそれを思いついても、俺から言うことはなかったものだった。
俺がそう言うと思っていなかったのか、ライアンは首を傾げる。
「勝負? 模擬戦のことかい? それならいつもしているじゃないか」
「それとは違うやつだ。剣術も武術も魔術もなんでもありの戦い。どうも剣術だけの模擬戦には飽き飽きしてたんだよなぁ」
すると、ライアンは「魔術あり?」と嫌そうな顔を浮かべた。
そうだな。俺が魔術を使うと、勝負もくそもなくなるよな。
勝負を始める前から、俺の勝ちが確定してしまう。
「なら、俺は魔術なしだな。お前は魔術あり。それに加えてさらにルールを追加する」
そう言うとライアンは食いつき、「加えるルールは何?」と聞いてきた。
「負けたやつは勝ったやつの言うことを1つ聞くこと。どんな内容であっても絶対に言うことを聞くっていうやつ」
俺が楽し気にニヤリと笑ってみせると、ライアンは訝し気な顔を浮かべる。
そして、彼は何を思ったのか、こんなことを言ってきた。
「さすがに法律を侵すようなことはできないよ」
「………………あたりまえだ」
★★★★★★★★
そして、次の日。
立ち上がれなくなった方が負け、というルールで勝負をした俺たち。
もしもの時のため、優秀なヒーラーを用意していたのだが、そのヒーラーの手当を受けたのはライアンだった。
俺の前には地面に座りこんだライアン。
彼の負った傷はすでに消えていたが、顔には悔しそうな、苦しそうな表情があった。
「魔法を使っていた僕が使っていない君に負けるなんて………………エド、いつの間にこんなに強くなったの?」
「さぁな」
俺は肩をすくめて見せる。
炎魔法と木刀を使うライアンに対し、俺は木刀のみ。
それでも、俺は勝った。
「さ、俺の言うことを聞いてもらおうか」
俺が楽し気にそう言うと、ライアンはゴクリと息を飲む。
ふっ、そんなに構えるなよ。王子様に犯罪染みたことをさせはしないさ。
俺が命令することは全然難しいことじゃない。
「………………それで僕にやってほしいことって?」
「簡単なことだよ。お前の婚約者を俺にくれ」
すると、ライアンは大きく目を見開く。
「え? 今なんて?」
「だから、お前の婚約者を俺にくれって言っているんだ」
言うことは聞く約束だろ? と言わんばかりにライアンに視線を送る。
俺は分かっているんだぞ。
お前がルーシーを好きじゃないことぐらい。
だから、婚約破棄なんて簡単だろう? ルーシーの婚約者という立場を俺に譲ってくれ。
しかし、ライアンは「うん」とも「分かった」とも言ってはくれなかった。
「それはできないよ……エドガー」
「そんなことはない。お前が婚約破棄すればできることだろう?」
ライアンは苦しそうな顔を浮かべ、横に首を振る。
「無理だよ。エドも分かってるでしょ。僕にはそんな権限なんてない」
「いや、ある」
「いいや、ないね。僕がいくら婚約破棄したくても、陛下も母上も許可はしてくれない……もし陛下や母上が許可してくれても、どうせ婚約破棄はできない」
国王が許可してもできない? どういうことだ?
「僕がルーシーの婚約者であることは絶対に変わらないんだ」
真っすぐな瞳を向け、そう言ってくるライアン。
そいつの瞳にはどこかどうしようもない虚しさがあったような気がした。
「だから、エドのお願いはほかのものにしてくれない? 他であれば、僕は何でも言うことを聞くからさ」
「他のって言われてもな…………」
せめて、ライアンに頼めばと思ったが、真正面から頼んでも、2人の婚約を失くすのは難しいことが分かった。
きっとルーシーはライアンにぞっこんだから、俺が急に頼んでも無駄だろう。
なら、ゲームの時のようなものを起こす必要がある。
ゲームのシナリオと同じように、ライアンが主人公、もしくは他の女子と恋に落ちる。
あるいは、シナリオではなかったルーシーがライアン以外の人物に惚れる。
そうすれば、2人の婚約は破棄に向かって行くこと間違いなし。
俺の考えとしては後者を取りたい。ルーシーが俺に恋するってパターンだ。
そのためには、まず彼女と会う必要があるのだが……。
ライアンとルーシー。
2人の間に何があったのか知らないが、ルーシーが王城に来ない。
俺が前世の記憶を思い出して数ヶ月経ったが、彼女は全くっていいほど来なかった。
だから、俺から会いに行くしかない。
でも、いきなり訪ねるのもなぁ。変にルーシーが警戒するかもしれないしな。
そんなことを考えていると、俺はふと思いついた。
「なら、頼みたいことがある――――――」
これなら、ルーシーと自然な出会いができるかもしれない。
★★★★★★★★
俺がライアンにお願いしたこと。
それは一緒にお茶会を開いてほしい、というものだった。
俺もライアンも今までお茶会を開くことなど一度もない。
まぁ、セッティングや予定などはほぼライアンに任せた。
めんどくさいし、これは罰ゲームみたいなものだからな。
そして、お茶会当日。
王城にやってきたルーシーは婚約者であるライアンの隣に立っていた。
が、俺は彼女に話しかけることはできなかった。
俺はライアンとともに前で挨拶した。
その後、彼女に話しかけようとしていたのだが。
ライアンは全体の挨拶をするなり、ルーシーを連れて個々の客人に挨拶し始めた。
そして、俺自身も別の場所で挨拶で回っていたのだが、一区切りした頃にはルーシーの姿を見失っていた。
会場を見渡しても、彼女らしい姿はない。
一体どこに行ったのやら。
――――――――――――まさか、もう帰ったとかはないよな?
俺は大広間を隅々まで確認にルーシーがいないと判断すると、その場を離れた。
もしかしたら、疲れたルーシーは1人王城を歩き回っているのかもしれない。
ライアンに連れられて王城を歩き回っているのかもしれない。
――――――まぁ、あのライアンがそんなことをするとは思えないが。
王城を歩き回り、中庭に沿う廊下を歩いていた時。
そちらの方から声が聞こえてきた。
声をたどっていくと、そこにいたのは2人の令嬢。
そして、1人の少女の手には大量の薔薇が。
「すごい薔薇の数だな……」
と呟くと、2人はこちらに気づき、すぐさまこちらに一礼をした。
そして、薔薇を持っていた令嬢が顔を上げると、俺はハッとさせられた。
――――――――――――俺は大馬鹿ものだな。
大量の薔薇に目が行ったのは仕方がないことだが、でも、彼女のことをなんですぐに気づかなかったのだろう?
太陽の光に照らされ、輝く銀髪。
こちらを真っすぐ見つめる瞳は宝石のように美しかった。
「お初にお目にかかります、殿下。私はルーシーと申します」
そこにいたのはずっとずっと会いたかった人。
前世で散々夢中にさせてくれた推し、ルーシー・ラザフォードがいた。
全てにおいて負けていたが、俺は努力をし始めた。
剣術、武術、加えて勉学。
時間のほとんどをそれに費やした。
………………まさか、勉強が大嫌いだった俺が、自分から勉強をし始めるとはな。
しかし、意外にも勉強は楽しく、深夜までやっていることもざらだった。
そして、王城のいたるところで、「エドガー様が別人のように変わった」という言葉を耳にするようになった。
記憶を思い出す前は何もかも真面目にやっていなかったもんな。
そう考えると、みんなが驚くのも当然といえば、当然。
ある意味別人になったのも間違いないから。
そうして、ある日のこと。
剣術の練習をしていると、ライアンが話しかけてきた。
「エドガー、最近頑張ってるね」
「………………そうか?」
「うん。勉強も稽古の時間以外にやっているでしょ。武術もやっているみたいだし」
「まぁ、確かに」
「それに剣術の模擬戦。以前は僕がずっと勝っていたのに、最近は僕がずっと負け。エドガーに負けてばっかりだ」
そう。
最近の模擬戦で勝っていたのは俺。ここのところずっとだ。
俺はふとあることを思いつく。
「なぁ、ライアン。俺と勝負しないか?」
今までそれを思いついても、俺から言うことはなかったものだった。
俺がそう言うと思っていなかったのか、ライアンは首を傾げる。
「勝負? 模擬戦のことかい? それならいつもしているじゃないか」
「それとは違うやつだ。剣術も武術も魔術もなんでもありの戦い。どうも剣術だけの模擬戦には飽き飽きしてたんだよなぁ」
すると、ライアンは「魔術あり?」と嫌そうな顔を浮かべた。
そうだな。俺が魔術を使うと、勝負もくそもなくなるよな。
勝負を始める前から、俺の勝ちが確定してしまう。
「なら、俺は魔術なしだな。お前は魔術あり。それに加えてさらにルールを追加する」
そう言うとライアンは食いつき、「加えるルールは何?」と聞いてきた。
「負けたやつは勝ったやつの言うことを1つ聞くこと。どんな内容であっても絶対に言うことを聞くっていうやつ」
俺が楽し気にニヤリと笑ってみせると、ライアンは訝し気な顔を浮かべる。
そして、彼は何を思ったのか、こんなことを言ってきた。
「さすがに法律を侵すようなことはできないよ」
「………………あたりまえだ」
★★★★★★★★
そして、次の日。
立ち上がれなくなった方が負け、というルールで勝負をした俺たち。
もしもの時のため、優秀なヒーラーを用意していたのだが、そのヒーラーの手当を受けたのはライアンだった。
俺の前には地面に座りこんだライアン。
彼の負った傷はすでに消えていたが、顔には悔しそうな、苦しそうな表情があった。
「魔法を使っていた僕が使っていない君に負けるなんて………………エド、いつの間にこんなに強くなったの?」
「さぁな」
俺は肩をすくめて見せる。
炎魔法と木刀を使うライアンに対し、俺は木刀のみ。
それでも、俺は勝った。
「さ、俺の言うことを聞いてもらおうか」
俺が楽し気にそう言うと、ライアンはゴクリと息を飲む。
ふっ、そんなに構えるなよ。王子様に犯罪染みたことをさせはしないさ。
俺が命令することは全然難しいことじゃない。
「………………それで僕にやってほしいことって?」
「簡単なことだよ。お前の婚約者を俺にくれ」
すると、ライアンは大きく目を見開く。
「え? 今なんて?」
「だから、お前の婚約者を俺にくれって言っているんだ」
言うことは聞く約束だろ? と言わんばかりにライアンに視線を送る。
俺は分かっているんだぞ。
お前がルーシーを好きじゃないことぐらい。
だから、婚約破棄なんて簡単だろう? ルーシーの婚約者という立場を俺に譲ってくれ。
しかし、ライアンは「うん」とも「分かった」とも言ってはくれなかった。
「それはできないよ……エドガー」
「そんなことはない。お前が婚約破棄すればできることだろう?」
ライアンは苦しそうな顔を浮かべ、横に首を振る。
「無理だよ。エドも分かってるでしょ。僕にはそんな権限なんてない」
「いや、ある」
「いいや、ないね。僕がいくら婚約破棄したくても、陛下も母上も許可はしてくれない……もし陛下や母上が許可してくれても、どうせ婚約破棄はできない」
国王が許可してもできない? どういうことだ?
「僕がルーシーの婚約者であることは絶対に変わらないんだ」
真っすぐな瞳を向け、そう言ってくるライアン。
そいつの瞳にはどこかどうしようもない虚しさがあったような気がした。
「だから、エドのお願いはほかのものにしてくれない? 他であれば、僕は何でも言うことを聞くからさ」
「他のって言われてもな…………」
せめて、ライアンに頼めばと思ったが、真正面から頼んでも、2人の婚約を失くすのは難しいことが分かった。
きっとルーシーはライアンにぞっこんだから、俺が急に頼んでも無駄だろう。
なら、ゲームの時のようなものを起こす必要がある。
ゲームのシナリオと同じように、ライアンが主人公、もしくは他の女子と恋に落ちる。
あるいは、シナリオではなかったルーシーがライアン以外の人物に惚れる。
そうすれば、2人の婚約は破棄に向かって行くこと間違いなし。
俺の考えとしては後者を取りたい。ルーシーが俺に恋するってパターンだ。
そのためには、まず彼女と会う必要があるのだが……。
ライアンとルーシー。
2人の間に何があったのか知らないが、ルーシーが王城に来ない。
俺が前世の記憶を思い出して数ヶ月経ったが、彼女は全くっていいほど来なかった。
だから、俺から会いに行くしかない。
でも、いきなり訪ねるのもなぁ。変にルーシーが警戒するかもしれないしな。
そんなことを考えていると、俺はふと思いついた。
「なら、頼みたいことがある――――――」
これなら、ルーシーと自然な出会いができるかもしれない。
★★★★★★★★
俺がライアンにお願いしたこと。
それは一緒にお茶会を開いてほしい、というものだった。
俺もライアンも今までお茶会を開くことなど一度もない。
まぁ、セッティングや予定などはほぼライアンに任せた。
めんどくさいし、これは罰ゲームみたいなものだからな。
そして、お茶会当日。
王城にやってきたルーシーは婚約者であるライアンの隣に立っていた。
が、俺は彼女に話しかけることはできなかった。
俺はライアンとともに前で挨拶した。
その後、彼女に話しかけようとしていたのだが。
ライアンは全体の挨拶をするなり、ルーシーを連れて個々の客人に挨拶し始めた。
そして、俺自身も別の場所で挨拶で回っていたのだが、一区切りした頃にはルーシーの姿を見失っていた。
会場を見渡しても、彼女らしい姿はない。
一体どこに行ったのやら。
――――――――――――まさか、もう帰ったとかはないよな?
俺は大広間を隅々まで確認にルーシーがいないと判断すると、その場を離れた。
もしかしたら、疲れたルーシーは1人王城を歩き回っているのかもしれない。
ライアンに連れられて王城を歩き回っているのかもしれない。
――――――まぁ、あのライアンがそんなことをするとは思えないが。
王城を歩き回り、中庭に沿う廊下を歩いていた時。
そちらの方から声が聞こえてきた。
声をたどっていくと、そこにいたのは2人の令嬢。
そして、1人の少女の手には大量の薔薇が。
「すごい薔薇の数だな……」
と呟くと、2人はこちらに気づき、すぐさまこちらに一礼をした。
そして、薔薇を持っていた令嬢が顔を上げると、俺はハッとさせられた。
――――――――――――俺は大馬鹿ものだな。
大量の薔薇に目が行ったのは仕方がないことだが、でも、彼女のことをなんですぐに気づかなかったのだろう?
太陽の光に照らされ、輝く銀髪。
こちらを真っすぐ見つめる瞳は宝石のように美しかった。
「お初にお目にかかります、殿下。私はルーシーと申します」
そこにいたのはずっとずっと会いたかった人。
前世で散々夢中にさせてくれた推し、ルーシー・ラザフォードがいた。
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