【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

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第1章 出会い編

6 カイル視点:僕の推しに出会うまで

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 僕の名前はカイル・アッシュバーナム。
 転生者である。

 そのことに気づいたのは9歳の時。
 突如、前世の記憶を思い出したのだ。

 その前世の記憶はこんな感じだった。



 ★★★★★★★★



 前世での僕は死ぬ前は高校生だった。
 そして、双子の妹瀬奈せな瀬楽せらがいた。
 その妹たちはまぁいわゆる隠れヲタク。
 彼女たちは家に帰ってくるなりすぐにゲームをしていた。
 
 彼女たちがしていたゲームは乙女ゲーム。
 僕がいようが、両親がいようが、気にすることなくリビングで乙ゲーをしまくっていた。
 本人たちが楽しいのなら、僕は構わないんだけどね。

 ただ父さんが嫌そうにしていたからさ。
 止めてあげて、と何度か思ったことはある。
 でも、僕はそのプレイを見ている分は面白かったし、決して嫌ではなかった。

 自分がプレイすることはなかったけど。
 そして、そのうち妹たちは兄である僕に乙ゲーを進めてくるようになった。

 「僕が乙女ゲームを? 僕、男だけど?」
 「最近じゃ、男子も乙女ゲームするよ?」
 「そうそう。私たちのクラスにそういう男子いるし」
 「お兄もやってみてよ。案外ハマると思うよ?」
 「えー…………じゃあ、やってみようかな」
 
 僕は妹たちの圧に押され、その乙ゲーをすることに。
 そして、妹たちの言う通りハマってしまった。

 もちろん、推しもできたのだけれど、その推しのグッズはでることはなく。
 妹たちに気づかれないよう、こっそり自分でグッズを作り始めるまで、ハマり。
 自分も妹たちと同じように、立派な隠れヲタクとなっていた。

 だが、友達に乙ゲー好きという勇気はなかった。
 
 そして、休みの日。
 その乙ゲーをプレイしていると、妹たちが寄ってきて。

 「お兄、まんまとこのゲームにハマってるね」
 「ほんとにそれ。やっぱり、私たちのお兄だわ」
 「ところで、お兄。いろんな何周もしているみたいだけど、誰か推しでもいるの? 」
 「それとも箱推し?」

 と交互に聞いてきた。

 「えーと、箱推しではないよ」
 「「じゃあ、誰?」」

 詰め寄ってくる妹たち。
 僕の推しを言っても、笑われないだろうか。
 いや、僕の妹たちだ。笑うことはないだろう。
 
 ――――――――――――まぁ、ただ文句を言ってくるだろうが。
 
 「僕が推しているのはルーシー様だね」 
 「「えー?」」

 自分の推しを答えると、妹たちは互いに顔を合わせ、横に首を振った。

 「お兄、それはないよー。ルーシーってあの悪役令嬢でしょ?」
 「あの悪役令嬢、本当に最悪じゃん」
 「うちらの邪魔をしてくるし、性格マジでダメだし」
 「そんな悪役令嬢ルーシーのどこがいいの?」
 
 妹たちは息ぴったりに話してくる。
 どこがいいって……………………。

 「ルーシー様は強いお姉さんだから。気が強くてかっこいいから、かな?」

 すると、妹たちは大きなため息をつき、肩をすくめた。
 
 「お兄って絶対にMだよね、瀬奈」
 「そうね、瀬楽。きっとお兄の将来はお嫁さんに尻に敷かれると思う」
 「じゃあ、お前たちは誰を推しているんだよ」
 「決まっているじゃんね、瀬楽」
 「うん。あの人しかいないでしょ、瀬奈」

 妹たちは顔を見合わせると、笑顔になり。

 「「私たちの推しはね――――――――――――」」


 
 ★★★★★★★★


 
 「カイル・アシュバーナム…………」

 妹たちの推しはカイル。
 そして、僕はその乙女ゲームの攻略対象者カイル。
 自分の両手を顔に触れ、そして、近くの鏡を見る。
 どこをどう見ても、あのカイルの姿だった。

 ウソだろう?
 僕がカイル?
 なんでカイルに転生しているんだ?

 そうして、前世の記憶を思い出した僕は、自分が乙女ゲームのキャラクターであることを思い出した。
 決して、自分の推しと仲良くないキャラだった。


 
 ★★★★★★★★


 
 「あ、ルーシーに会いに行こう」 

 とふと呟いた。
 
 ゲーム通りだと、カイルとルーシーが9歳の頃に会うなんてことはない。
 しかし、今のカイルは違う。
 ゲームのシナリオを知っている、ルーシーを推しとするカイルだ。
 
 しかも、まだ僕らは9歳。
 ルーシーはあの王子と婚約なんてしていないはずだ。

 婚約のことを僕の執事であるハーマンに話すと、彼は。

 「ルーシー様ですか? 婚約されましたが」
 「え?」
 
 と平然として答えた。
 ルーシーはすでに婚約している?
 一体、誰と?

 そう聞くと、執事は「ルーシー様はライアン殿下と婚約されました」と話した。
 思わず僕は横に首を振る。

 ウソだ。
 まだ、僕らは9歳。
 ルーシーとライアン王子が婚約するのは10歳だったはず。
 なのに、なぜもう婚約しているんだ。

 すると、ハーマンが僕に尋ねてきた。

 「ルーシー様がご婚約されたのは1年前の話ですが…………どうなさったのでしょうか?」
 「1年前だって?」
 
 1年前。
 つまりルーシーが8歳の時。
 なぜそんなにずれているんだ?

 「そんなのウソだ…………」
 「はい?」
 「そんなのウソだと言っているんだ」
 「ウソもなにも………国王とラザフォード家はちゃんと公表されていましたよ」
 「…………」

 せっかくルーシーと一緒に過ごせるチャンスと思ったのに。
 ルーシーを僕のものにできると思ったのに。

 「僕は信じない! 僕はルーシーに婚約を申し込む!」
 「な、なんですと!」
 「婚約すると言っているのさ! さぁ、ルーシーに手紙を書くよ。用意して」

 「いや、でも…………」

 とハーマンは呟きながらも、彼は便箋を用意。
 僕がルーシーと婚約すれば、彼女は不幸になることも、死ぬこともないんだから。
 だから、僕がルーシーに婚約を申し込まないと。

 そして、僕は勢いのままに手紙を書き始めた。 
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