【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー

文字の大きさ
上 下
5 / 89
第1章 出会い編

5 公爵家の子息様

しおりを挟む
 入学前のまでの婚約破棄を諦めて、数日が経ったある日のこと。
 私のところに1通の手紙がきた。
 差出人はカイル・アッシュバーナム。

 公爵家アッシュバーナムの子息からだった。
 
 カイル?
 もしかして、攻略対象者のあのカイル?

 差出人を確認すると、確かに私の名前が書かれてあった。
 間違いではない……………………なぜ私のようなところにカイルの手紙が?

 私の記憶が正しければ、ルーシーとカイルが初めて会うのはライアンや彼の兄弟が主催するお茶会。
 決して仲はよくはなく、ただ挨拶だけする程度の関係だった。

 まぁ、せっかくカイルから手紙を送ってくれたのだし、1回読んでみよう。
 私はナイフを使い、封筒を開封する。
 封筒の中には数枚の紙が入っていた。

 うん。
 なんか長そうな手紙だわ……………………。
 その手紙だが、こう書かれてあった。

 『初めてまして。ラザフォード家のご令嬢、ルーシー様。急なお手紙ですが、失礼いたします―――』
 
 て感じで、他愛のない文章が続いていた。
 が、ある一文が私の目に留まる。

 『突然ではありますが、ルーシー様のところへお訪ねしてもよろしいでしょうか?』

 え?
 私のところに?
 
 様々な疑問を浮かべながらも、私は先を読み進める。
 しかし、会いたい理由は特に書かれておらず、ただただひたすらに会いたいのだと書かれてあった。
 
 こちらも断る理由がないため、私は会うことを了承する手紙を出した。



 ★★★★★★★★



 カイルに手紙を出して数日後。
 彼はさっそくラザフォード家にやってきた。

 「こんにちは、ルーシー様」
 「こんにちは、アシュバーナム様」

 挨拶を交わした瞬間、爽やかな風が吹き、カイルの髪をなびかせる。
 艶やかな黒髪。
 そして、快晴の空のように透き通った水色の瞳。
 カイルはいかにも乙女ゲームの攻略対象者という感じであった。

 本当に綺麗だわ……………………。
 
 でも、随分と幼さがある。
 回想シーンでしか見たことがなかったけれど、幼少期のカイルはとっても可愛らしいかった。
 ヒロインちゃんの前に現れる時は、もっとこう大人っぽかったから、これから成長期を迎えるのかしら。

 そうして、私たちは散歩するため、庭へと出る。
 ラザフォード家の庭は恐ろしく広く、1時間散歩しても回り切れない。
 前世のもので表現するなら、学校の敷地ぐらいはあるのではないだろうか。
 ってぐらい広かった。

 私とカイルは話しながら、庭の中を歩いていく。
 
 「アッシュバーナム様」
 「なんでしょう、ルーシー様」
 「あなたの魔法を見せてくれませんか?」
 
 と頼んでみた。
 ゲームの中で見たカイルの魔法。
 それはそれは美しい物だった。
 
 ゲームであんなに美しかったのだから、リアルでは多分もっときれい。
 そして、私は少ししか魔法を使えない。全部の属性使えるけど、ほんのちょっと。
 魔法を使っても『え? 君、魔法使ったの? 今?』と言われても仕方ないレベルだった。

 だから、カイルの凄い魔法を一度生で見たかったよね。
 すると、カイルは私のお願いを二つ返事で了承。
 少し広いところに出ると、カイルは構え始めた。
 私はというと、少し離れた場所で見守る。
 
 「行きますよ」

 私はコクリと頷く。カイルはニコリと笑い、魔法を展開し始めた。
 そして、彼の前に現れたもの――――それは氷の彫刻。
 妖精が舞っている彫刻だった。

 カイルはどうぞと言わんばかりに、彫刻の方へ手を指し示す。
 好奇心でいっぱいの私はその彫刻に近づいた。

 「うわぁ…………」

 なんて綺麗なの。
 微笑む妖精は太陽の光に照らされ、キラキラと輝いている。
 思わず私はそれに向かって手を伸ばした。

 その瞬間、その彫刻はパリンと割れ。
 
 「綺麗…………」

 氷の結晶が舞う。
 晴れた日に見る氷の結晶。
 それは異様な世界だった。でも、美しかった。
 こんな綺麗な世界見たことがない。

 私は笑っていた。
 そして、勝手に踊り出していた。まるで子どもの頃に戻ったように。
 
 ――――――――――――この世界って綺麗なところもあるのね。

 「ウフフ、楽しんでもらえてよかったです」
 「あ」
 
 踊る私を見て、彼はニコリと微笑んでいた。
 …………うーん。
 10歳の男の子に笑われて、ちょっとなんか恥ずかしい。

 「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」
 「いいえ、大丈夫ですよ」 
 「か、かなり歩きましたし、お茶にしましょうか」
 「そうですね」

 そして、私たちは庭でお茶をすることになった。
 なったのだが。
 
 …………はて、どうしたものか。
 カイルは私と会うなりニコニコ笑顔になり、キラキラした目でこちらをずっと見ていた。
 
 まるで、私が物珍しいかのように。
 私、宝石じゃないんだけど。珍しい動物でもないんだけど。
 そんなカイルの背後にいた執事。彼もまたどこかソワソワしていた。
 
 「僕はルーシー様にあるお話をしたくて、参りました」

 だよね。何も目的がないのなら、私みたいなやつに会いには来ないでしょうね。

 「えーと、それはなんでしょう?」

 でも、一体何の用だろう?
 悪役令嬢この私と友人になりたいとか?
 そんなわけないか。
 
 「突然の話ではありますが、僕と婚約してください!」
 「え?」
 
 こ、こんやく?
 カイルと婚約?
 
 私は驚きのあまり、『あ、あ…………』と呟くだけ。頭がぐちゃぐちゃで自分の言葉が出てこなかった。
 
 それは、それは嬉しいのだけれど。
 
 「申し訳ございません。私、あの、殿下と婚約しているんです…………」
 「え?」

 私の返事にカイルはフリーズ。
 そして、彼の顔は徐々に絶望へと変わっていく。

 「そんなバカな。まだ、9歳なのに」
 「アシュバーナム様も9歳ですよ?」
 「いや、そうなんだけど……………………」
 
 なにやら、ショックを受けたカイルは顔を俯かせ、ずっと横に首を振っていた。
 私もライアンとの婚約を破棄できれば、カイルと婚約をしたいわ。
 だって、カイルが私の推しだったもの。

 乙女ゲームのプレイしていた以前の私はどの攻略対象者は好きだった。
 もちろん、ライアンも。
 しかし、一番推していたのは他でもないカイル。 

 まぁ、今のカイルは子どもで、こっちは二十を超えた大人。
 子どもだし、もうカイル相手に恋することはないだろう。
 すると、さっきからソワソワしていたカイルの執事が言ってきた。
 
 「カイル様。私は何度もお伝えしましたよ。ルーシー様は殿下と婚約なさっていると」
 「そ、そんなはずない!」
 「ルーシー様の左手を見てください。アレがどういう意味を示すのかお分かりでしょう?」
 「そんな、そんなはずは…………」
 
 カイルは私の左の薬指にある指輪を見つめる。
 そして、小さな声で尋ねてきた。

 「ルーシー様、殿下との婚約は本当に本当なのですか…………」
 「はい…………申し訳ございません」

 そう答えると、またしょぼんとするカイル。
 私、別に悪くないのについ謝ってしまった。
 でも、こうして悲し気にされると、なんだか申し訳ない気持ちになるなぁ。

 カイルとはいつか敵対関係に近いものになる。
 それでも推しと仲良くしておくのはいいんじゃないのか?
 
 「カイル様、婚約はお受けできませんが…………その、私の友人になっていただけませんか?」
 「え?」
 「私にはそんなに友人がいません。こうして、カイル様にお会いできたので、よければでいいんです、友人になっていただけませんか? あ、もしカイル様が嫌と――」
 「はい! 友人になりましょう!」

 そう言うと、カイルは席を立ち、私の手を取る。
 
 「僕はルーシー様の友人になりましょう!」
 
 宣言するカイル。
 こちらに向ける彼の瞳はその日の中で一番輝いていた。

 ――――――――――――ああ。
 私が悪役令嬢じゃなくて、あの王子と婚約していなかったら、彼の婚約を受けるのに。
 でも、きっとこの世界はゲーム通りになる。
 私の終わりは追放か、死になる。

 きっとそう。

 私はカイルに対して、ニコリと微笑む。
 その瞬間、ぶわっと風が吹く。
 彼の瞳は上の空と同じように美しい空色。
 その瞳は私に希望を与えてくれそうに見えた。

 いくら希望を与えてくれたって、きっとゲーム通りになる。
 ………………きっとそうだから。
 
 だから、運命の日まで、カイルと日々を楽しもう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...