異世界医学部看護学科 ~王子から婚約破棄された悪役令嬢は看護師を目指します~ 

せんぽー

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 タッタッタッ。
 石畳を踏む自分の足音。その音を消すほどの人々の声。
 私は、多くの人でにぎわう大通りを駆け抜け、スラム街への最短ルートで向かっていた。
 
 いつもなら少しだけヒールがある靴を履く私。でも、今日は試験で、着替え時間を短縮したかったので、履いているのは動きやすい靴。
 走りやすい靴を履いていてよかった。ヒールありの靴で来ていたら、きっと素足で走っていた。

 前で走っているのは、ヴェス王子。彼は、スルリスルリと人の間を通って、前に進んでいた。私は彼の後を追っていく。
 大通りは、前に来た時よりも人が多い………なんでなんだろう??

 案の定、変装なし彼は、やはり街の人の注目を集めている。
 やっぱり、ヴェス王子って目立つよね………。
 もちろん、彼らの相手をしている暇はないので、颯爽と通り過ぎていく。

 数分間走り続けると、私たちはスラム街に着いた。スラム街は、以前と変わった様子はなかった。
 でも、感染症はもう広まっている可能性がある。慎重に行かないと。
 ヴェス王子は、スラム街を見渡すと、小さくフゥと息を漏らす。
 
 「まだ、クローディアスは来ていないようだね」
 「はい、よかったです」
 「とりあえずはね」
 
 スラム街の様子を確認すると、私たちは、子どもたちが住んでいる家に向かった。
 家に行くと、いつも通り子どもたちは自由に遊んでいた。
 入るなり、私の所に1人の女の子が寄ってきた。
 
 「お姉ちゃん、どうしたの?? 今日は平日だよ??」
 「ちょっと用事があってね、ここに来たの」
 
 普段来ない時間にやってきた私たちを見て、子どもたちは驚きの目でこちらを見ていた。
 彼らには幸い、新型感染症の症状は出ていないようだった。
 でも、感染はしているかもしれないわね………。

 新聞記事に記載されていた情報が正確であれば、潜伏期間は1週間。
 感染して1週間経てば、熱や咳などの症状がでるらしく、重症化した場合肺炎になるとか。
 ある研究者は魔法が関与しているのではないか、という情報もあるらしいが、それはまだ調査中。
 
 子どもたちの無事は確認できた。でも、ここにいてもクローディアスがやって来るだけ。どこかに移動しないと。
 隣で子どもたちをじっと見つめるヴェス王子。私は、今後の予定について彼に尋ねた。
 
 「殿下、これからどうしますか?? そのうちクローディ………」
 「分かってる。だから………ここを離れる」
 「離れるって………………どこに向かわれるつもりですか??」
 
 大通りになんか行けば、多くの人の目を集める。クローディアスの耳にはすぐに入るだろう。
 でも、子どもたち全員を大学に連れていくわけには行かない。多分、追い出されるだろうから。
 ………どうすればいいの??
 少しの沈黙の後、彼は小さく答えた。
 
 「一旦街を出よう」
 「街を出る?? 住む場所は??」
 「それは後でどうにかする。今は、弟が来る前にここを去っておくべきだと思うんだ」
 
 そうよね………。
 下手をすれば、子どもたちも全員殺される。
 ヴェス王子は、子どもたちに呼びかけた。
 
 「みんな、ここから逃げるよ」
 「………逃げるって??」
 
 1人の男の子が首を傾げる。
 ヴェス王子は、コホンと咳払いをして、そして、答え直した。
 
 「街の外に行こうと思うんだ」
 
 何も知らない子どもたち。彼らは、輝きの目をして、嬉しさのあまりはしゃぎだした。

 「街の外だってよ!?」
 「外に行くなんて初めて………」
 
 この子たちは、1人で街の外に行っても、魔物がいるとされる世界で生きていけるか分からない。
 生きていたとしても、教育を受けていない子たちは、悪い道に進む人が多い。悪の組織スソもスラム出身が多いと聞いたことがある。

 だから、ヴェス王子は、街の外には出ないように、と子どもたちに言っていたみたい。
 今回街の外に出るのは、緊急事態だから。でも、子どもたちを怖がらせるようなことはしたくない。楽しんでいてもらう方がいいわね。
 
 そうして、私たちは、必要最低限のものを持つと、急いで家の外に出た。子どもたちは、元々そんなに物を持っていなかったので、すぐに出発することができた。
 ここまでは順調………まだ安心はできないけど。

 ヴェス王子が先頭を歩き、私は一番後ろを行く。子どもたちを守るような形で歩いていた。
 途中で出会った人たちもウイルスの情報を得ていたようで、私たちの列に並び、一緒に逃げることになった。
 人数が増えていく。油断はできないわね………。

 その瞬間、背後から私を呼び止める声がした。
 とても聞き覚えのある声。
 ………………そして、今一番聞きたくなかった声。
 呼び止められた私は、恐る恐るゆっくり振り向く。
 
 「おい。そこの女、待て」
 
 立っていたのは、豪華な服をまとう金髪の男。彼の青い瞳は鋭く、こちらを見ていた。
 ———————————————クローディアス!!
 彼の近くには、あのウルリカもいた。彼女は、クローディアスの後ろに隠れて、私をじっと見つめている。

 そんな………もう来たの??
 出会いたくなかった人物を前に、私は小さく首を横に振る。
 ウルリカの後ろには、鋭い槍を持つたくさんの兵士。
 そして、クローディアスの片手には拳銃があった。
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