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第1章 約束と再会編
第56話 愛してます
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遅れました! 第56話です! よろしくお願いします!!(`・ω・´)
――――――――
「――――なんで?」
まだ私が軍にいて、まだ正気を保っていた時のこと。
その日の夜は妖精王ソロモン陛下と面会していた。
陛下と会う時はいつも夢の中。
だから、私以外の人は来ないし、来れない。
「なんで、ルイがここにいるの?」
なのに、ルイが陛下の庭に来ていた。
庭の隅に彼が立っていた。
陛下を見ると、彼も知らなかったようで。
「我は呼んでいないぞ……」
と目を見開いて呟いている。
陛下が呼んだ人間以外が入り込むことなんてできない。
できれば、魔王軍を連れ込まれてしまう可能性があるからだ。
「私が呼んだのですよ、陛下」
そう言って、ルイの後ろから現れたのは妖精王の妃レイリアル様。
朗らかな笑みを浮かべて、ルイの肩にそっと手を添える。
「どういうことだ、レイリアル。説明してくれ」
「はい。もちろんです」
レイリアル様とソロモン陛下はこそこそと私たちに聞こえないように、話し始める。
2人を待っていると、ルイと目が合い、ニコリと笑ってくれた。
私以外の人間がここにいるのは新鮮で、なんだか安心できた。
その後、私は現実へ戻され、ルイと陛下たちがどういう話をしたのか知らない。
知らないけれど……その日以降彼も結界魔法を使えるようになっていた。
多分、ルイも陛下と契約をしたのだろう。
なんとなく察していた。
でも、そのルイはもういない。
ルイは死んでいる、彼が生きているはずがない。
そんなことは重々承知してる。
だけど、あの色の結界は――――。
彼の前に展開されているのは水色の半透明な結界魔法。
その結界はルイ専用。彼じゃないと使えないもの。
「――――ルイなの?」
そう名を呼ぶと、振り向いたアーサー様はニコリと微笑む。
「うん。そうだよ」
ルイが生きていて、ルイがアーサー様で……。
ただえさえ、鬼姫と戦っていて、頭がいっぱいいっぱいだった。
そこに突然の再会。動揺しないはずがなく。
「…………」
座り込み、固まっていた。
私に向ける清水のように透き通った水色の瞳は、ルイと同じ全く同じもの。
アーサー様の手前には何枚もの水色の結界が展開されていた。
パキっ――――。
その瞬間、1つの結界が割れ、私はようやく意識を取り戻し、立ち上がる。
唖然としている場合じゃない。
ルイが生きていて嬉しいけれど、今はそれどこじゃないわ。
「逃げて、エレシュキガル」
「そんなことできません。私も残ります」
シュレインの魔法に耐えているとはいえ、結界魔法がいつ壊れるか分からない。
ルイ……アーサー様にいくら湯水のような魔力があったとしても、相手はシュレイン。魔源核とかよく分からないものも使われているし、心配だ。彼をおいて行くことなんてできない。
「ここは僕に任せて」
だけど、彼は私を安心させるように優しく微笑み、そして、空いている手でスクロールを投げた。
「トランスティオ」
彼が口にしたその呪文――――それは転移の魔法。スクロールを使用した上で、対象物を転移させるもの。
だが、その展開に入るのは私だけで。
つまり、アーサー様は転移する気はなくて――――。
「待って!」
私も離れない、と口にしようとした瞬間、視界が光に包まれる。
「大丈夫、エレシュキガル。もう僕は負けないよ――」
アーサー様が強いのは分かってる。
でも、それでも1人にするのは嫌だ。
「君は戻ってきちゃだめだ――――」
アーサー様に手を伸ばすも、笑顔の彼の姿が薄くなって、視界が白くなって。
気づけば、王城の自室に戻っていた。
誰もいない暗闇に包まれた部屋。
その場で座り込み。
「うっ………」
途端に体が重くなり、猛烈な眠気が襲う。
寝るどころじゃない。今すぐにでもアーサー様の元へ戻らないといけない。
アーサー様、なんでこんな魔法を今かけたのっ……………。
体は床に倒れ込み、瞼は鉄のように重くなって、目を閉じ。
そうして、私は強制的に眠りにつかされた。
★★★★★★★★
何分、いや何時間経った頃だろうか。
いつの間にか運ばれていた私はベッドの上で目を覚ましていた。
「私、何時間寝ていたの?」
時計を見ると、短針は4時を指す。
深夜1時にシュレインと対峙しており、眠ってから3時間近く経っていた。
アーサー様は? 無事なんだろうか?
まだ戦っているのだろうか?
彼が結界魔法を使えたとしても、シュレインには無限に近い魔力量がある。あのままだと彼は死んでしまう。
「嫌だ………そんなの嫌っ………」
行かなきゃ――――。
靴も履かず裸足のまま、誰もいない部屋を飛び出し、廊下を駆け抜ける。
騒動を聞いた兵士たちが行き交っていたが、私はその間を縫って
「エレ様!? どこに行くの!? 今、森に行ったら――――」
途中で、ナナとすれ違い、何か言われたが、それも無視。
それどころじゃない。
だが、森へと向かう門には、重装備をした兵士や魔術師がいた。
きっと鬼姫以外の魔王軍関連者がいないか見張っているのだろう。
彼らは私に気づくと、兵士たちはなぜか立ちはだかった。
「どいて、私は森に行きたいの」
「森には鬼姫がおります。今は危険です」
「分かってる。アーサー様はまだ戦っているでしょ? だから行くの」
「で、ですが、陛下からあそこには近寄……って、エレシュキガル様! お待ちください!」
彼らと話していたって仕方がない。
そう考えた私は、止める兵士たちの頭上をジャンプで飛び越え、自分で開けた壁の穴から森へと向かう。
眠っていたとはいえ、シュレインとの戦いで、もう魔力はほぼ空っぽ。
体力は若干回復しているが、それも微々たるもの。足が重い。
それでも、最後のエネルギーを振り絞って足を動かす。
ドガッ――――ン!!!!
森の奥で爆発音が響き、鳥たちが羽ばたく。
直後、爆発の音源の方向から突風が襲い、あまりの強さに後ろへこけてしまった。
空を見上げると、あったのは地上からの炎で赤く染まる雲。
爆発で木々が燃えているようだった。
早く、早く、彼のとこへ――――。
体を起こし、爆発音がしたその場所へ走る。
ダッシュしたその先にあったのは、更地と化した森の残骸。
かろうじて残っている木々は、炎に包まれ、黒くなって灰になっているものもあった。
だが、煙が上がっているせいで先が見えない。人影すら見えない。
「プルビア! ヴェントス!」
魔力を振り絞って、水魔法を使って消火。
さらに風魔法で煙を飛ばし、彼らを探す。
そこにシュレインの姿はなかった。
「あ…………」
ただ1人の人間が横たわっていた。
途中よろけそうになりながらも、何とか踏ん張って、彼の元へ駆け寄る。
「アーサー様?」
そこにいたのはボロボロになったアーサー様。
服はすすで汚れ、顔にも切り傷があった。
「アーサー様、起きてください」
体を揺さぶって声をかけても、そっと目を閉じたまま。
返答もない。
彼の頭を膝にのせ、残り少ない魔力で回復魔法をかける。
それでも、彼は目を覚まさない。
「お願い、死なないでっ……」
生きる楽しさを教えてくれた、かつての戦友。そして、私に好きを教えてくれた最愛の人。
やっとルイだと気づけた。彼が生きていると分かった。
なのに、アーサー様を失うなんて、そんなの嫌だ。
「お願いだから、起きてっ………」
目には涙が溢れ、視界はぐちゃぐちゃ。
ぽたぽたと落ちる雫が、アーサー様の頬を伝う。
もう大好きな人を失いたくないの。
どうかお願い。神様、彼を死なせないで。
アーサー様の手を握り、目をぎゅっとつぶって祈る。
「泣かないで、エレシュキガル」
――――――――え?
聞こえたのは私の名前を優しく呼ぶその声。
そっと目を開けると、目を覚ましたアーサー様がいた。
彼はニコリと笑い、手を伸ばして私の頬に触れる。
煌めく水色の瞳は優しく笑っていた。
「エレシュキガル、僕勝ったよ」
その笑顔はかつて見たルイそのもの。
だが、彼は少しだけ残念そうに眉をひそめた。
「残念ながら、彼女には逃げられてしまったけど」
「そ、そんなことどうでもいい、です……」
シュレインはいつか倒せばいい話。
彼の無事が一番だ。
「ルイがっ、アーサー様がっ、生きててよかったっ………」
アーサー様が、彼が生きてる。
その安心感と同時に、感情が一気にあふれ出し、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
力も残っていないだろうアーサー様は体を起こし、私をそっと抱き寄せる。
その抱擁は何よりも温かくって、優しくって、涙腺はもう崩壊していた。
「心配させてごめん………でも、もう大丈夫。僕は君から離れない。永遠に君の傍に、隣にいる」
私の頭をそっと撫で、ひどく優しい声で言うアーサー様。
「だから、泣かないで」
それからも、アーサー様は私をなだめるように、優しく言葉を投げかけてくれて、私は徐々に冷静さを取り戻していた。
「…………アーサー様がルイだったんですね」
「うん」
「なんで会った時に言ってくれなかったんですか?」
「エレちゃんが僕を忘れているかもしれないとか、嫌っているかもしれないと思って」
「ずっと忘れもできなかったし、嫌いになんてなりませんでしたよ」
「そっか………すぐに言ったらよかった」
でも、彼ばかりは責めれない。
こうしてみれば、似すぎているのに、というか会った当初は似ていると思っていたのに、気づかない私も悪かった。
「ずっと大好きだったよ、ルイ」
みんなが死んでいく中で、ルイだけ忘れられなかったのは、ずっと彼が好きだったから。
そして、それに気づけたのは――――。
「愛してます、アーサー様」
アーサー様がいたから。
彼がいなかったら、私は一生“好き”という感情を知らないままだった。
「アーサー様が大好きです」
「…………」
私は何も言わない彼の額に口を寄せ、この前のお返しとして、ちゅっと口づけをする。
見ると、アーサー様は水色の瞳を見開いたままで、固まっていた。
「アーサー様?」
「………………ずるいよ、エレちゃん」
アーサー様は私の肩に顔をうずめて、ぎゅっと抱きしめる。
先ほどの抱擁よりも強く、苦しい。
「僕も愛してるよ、エレシュキガル」
耳元でささやかれるその甘い声に思わず、眩暈がする。
でも、彼の思いと私の思いが同じで、通じ合っている――――それが分かって、とても嬉しかった。幸せだった。
その後も抱きしめられたまま、アーサー様から「大好きだ」や「かわいい」と責められて、しまいには「エレちゃんがそんなかわいい反応をするから、意地悪したくなっちゃうね」と言われ、頭は爆発。オーバーヒートしていた。
「もう朝になってちゃったね」
「え?」
ようやくアーサー様の意地悪が終わり、東の空を見ると、夜が明け、朝日が私たちを照らしていた。
「戻ろっか」
「はい」
私に靴はなく、アーサー様の服はすすやほこりだらけ。
顔も傷や泥で汚れていた。
そんなボロボロの私たちは、笑い合いながら、もう二度と離さないという思いが伝い合うぐらいにしっかりと手を繋ぎ、眩しい朝日に照らされる王城へと戻った。
――――――――
第1章は次回で終了です! 最後までお付き合い頂けたらと思います! よろしくお願いします!<(_ _)>
――――――――
「――――なんで?」
まだ私が軍にいて、まだ正気を保っていた時のこと。
その日の夜は妖精王ソロモン陛下と面会していた。
陛下と会う時はいつも夢の中。
だから、私以外の人は来ないし、来れない。
「なんで、ルイがここにいるの?」
なのに、ルイが陛下の庭に来ていた。
庭の隅に彼が立っていた。
陛下を見ると、彼も知らなかったようで。
「我は呼んでいないぞ……」
と目を見開いて呟いている。
陛下が呼んだ人間以外が入り込むことなんてできない。
できれば、魔王軍を連れ込まれてしまう可能性があるからだ。
「私が呼んだのですよ、陛下」
そう言って、ルイの後ろから現れたのは妖精王の妃レイリアル様。
朗らかな笑みを浮かべて、ルイの肩にそっと手を添える。
「どういうことだ、レイリアル。説明してくれ」
「はい。もちろんです」
レイリアル様とソロモン陛下はこそこそと私たちに聞こえないように、話し始める。
2人を待っていると、ルイと目が合い、ニコリと笑ってくれた。
私以外の人間がここにいるのは新鮮で、なんだか安心できた。
その後、私は現実へ戻され、ルイと陛下たちがどういう話をしたのか知らない。
知らないけれど……その日以降彼も結界魔法を使えるようになっていた。
多分、ルイも陛下と契約をしたのだろう。
なんとなく察していた。
でも、そのルイはもういない。
ルイは死んでいる、彼が生きているはずがない。
そんなことは重々承知してる。
だけど、あの色の結界は――――。
彼の前に展開されているのは水色の半透明な結界魔法。
その結界はルイ専用。彼じゃないと使えないもの。
「――――ルイなの?」
そう名を呼ぶと、振り向いたアーサー様はニコリと微笑む。
「うん。そうだよ」
ルイが生きていて、ルイがアーサー様で……。
ただえさえ、鬼姫と戦っていて、頭がいっぱいいっぱいだった。
そこに突然の再会。動揺しないはずがなく。
「…………」
座り込み、固まっていた。
私に向ける清水のように透き通った水色の瞳は、ルイと同じ全く同じもの。
アーサー様の手前には何枚もの水色の結界が展開されていた。
パキっ――――。
その瞬間、1つの結界が割れ、私はようやく意識を取り戻し、立ち上がる。
唖然としている場合じゃない。
ルイが生きていて嬉しいけれど、今はそれどこじゃないわ。
「逃げて、エレシュキガル」
「そんなことできません。私も残ります」
シュレインの魔法に耐えているとはいえ、結界魔法がいつ壊れるか分からない。
ルイ……アーサー様にいくら湯水のような魔力があったとしても、相手はシュレイン。魔源核とかよく分からないものも使われているし、心配だ。彼をおいて行くことなんてできない。
「ここは僕に任せて」
だけど、彼は私を安心させるように優しく微笑み、そして、空いている手でスクロールを投げた。
「トランスティオ」
彼が口にしたその呪文――――それは転移の魔法。スクロールを使用した上で、対象物を転移させるもの。
だが、その展開に入るのは私だけで。
つまり、アーサー様は転移する気はなくて――――。
「待って!」
私も離れない、と口にしようとした瞬間、視界が光に包まれる。
「大丈夫、エレシュキガル。もう僕は負けないよ――」
アーサー様が強いのは分かってる。
でも、それでも1人にするのは嫌だ。
「君は戻ってきちゃだめだ――――」
アーサー様に手を伸ばすも、笑顔の彼の姿が薄くなって、視界が白くなって。
気づけば、王城の自室に戻っていた。
誰もいない暗闇に包まれた部屋。
その場で座り込み。
「うっ………」
途端に体が重くなり、猛烈な眠気が襲う。
寝るどころじゃない。今すぐにでもアーサー様の元へ戻らないといけない。
アーサー様、なんでこんな魔法を今かけたのっ……………。
体は床に倒れ込み、瞼は鉄のように重くなって、目を閉じ。
そうして、私は強制的に眠りにつかされた。
★★★★★★★★
何分、いや何時間経った頃だろうか。
いつの間にか運ばれていた私はベッドの上で目を覚ましていた。
「私、何時間寝ていたの?」
時計を見ると、短針は4時を指す。
深夜1時にシュレインと対峙しており、眠ってから3時間近く経っていた。
アーサー様は? 無事なんだろうか?
まだ戦っているのだろうか?
彼が結界魔法を使えたとしても、シュレインには無限に近い魔力量がある。あのままだと彼は死んでしまう。
「嫌だ………そんなの嫌っ………」
行かなきゃ――――。
靴も履かず裸足のまま、誰もいない部屋を飛び出し、廊下を駆け抜ける。
騒動を聞いた兵士たちが行き交っていたが、私はその間を縫って
「エレ様!? どこに行くの!? 今、森に行ったら――――」
途中で、ナナとすれ違い、何か言われたが、それも無視。
それどころじゃない。
だが、森へと向かう門には、重装備をした兵士や魔術師がいた。
きっと鬼姫以外の魔王軍関連者がいないか見張っているのだろう。
彼らは私に気づくと、兵士たちはなぜか立ちはだかった。
「どいて、私は森に行きたいの」
「森には鬼姫がおります。今は危険です」
「分かってる。アーサー様はまだ戦っているでしょ? だから行くの」
「で、ですが、陛下からあそこには近寄……って、エレシュキガル様! お待ちください!」
彼らと話していたって仕方がない。
そう考えた私は、止める兵士たちの頭上をジャンプで飛び越え、自分で開けた壁の穴から森へと向かう。
眠っていたとはいえ、シュレインとの戦いで、もう魔力はほぼ空っぽ。
体力は若干回復しているが、それも微々たるもの。足が重い。
それでも、最後のエネルギーを振り絞って足を動かす。
ドガッ――――ン!!!!
森の奥で爆発音が響き、鳥たちが羽ばたく。
直後、爆発の音源の方向から突風が襲い、あまりの強さに後ろへこけてしまった。
空を見上げると、あったのは地上からの炎で赤く染まる雲。
爆発で木々が燃えているようだった。
早く、早く、彼のとこへ――――。
体を起こし、爆発音がしたその場所へ走る。
ダッシュしたその先にあったのは、更地と化した森の残骸。
かろうじて残っている木々は、炎に包まれ、黒くなって灰になっているものもあった。
だが、煙が上がっているせいで先が見えない。人影すら見えない。
「プルビア! ヴェントス!」
魔力を振り絞って、水魔法を使って消火。
さらに風魔法で煙を飛ばし、彼らを探す。
そこにシュレインの姿はなかった。
「あ…………」
ただ1人の人間が横たわっていた。
途中よろけそうになりながらも、何とか踏ん張って、彼の元へ駆け寄る。
「アーサー様?」
そこにいたのはボロボロになったアーサー様。
服はすすで汚れ、顔にも切り傷があった。
「アーサー様、起きてください」
体を揺さぶって声をかけても、そっと目を閉じたまま。
返答もない。
彼の頭を膝にのせ、残り少ない魔力で回復魔法をかける。
それでも、彼は目を覚まさない。
「お願い、死なないでっ……」
生きる楽しさを教えてくれた、かつての戦友。そして、私に好きを教えてくれた最愛の人。
やっとルイだと気づけた。彼が生きていると分かった。
なのに、アーサー様を失うなんて、そんなの嫌だ。
「お願いだから、起きてっ………」
目には涙が溢れ、視界はぐちゃぐちゃ。
ぽたぽたと落ちる雫が、アーサー様の頬を伝う。
もう大好きな人を失いたくないの。
どうかお願い。神様、彼を死なせないで。
アーサー様の手を握り、目をぎゅっとつぶって祈る。
「泣かないで、エレシュキガル」
――――――――え?
聞こえたのは私の名前を優しく呼ぶその声。
そっと目を開けると、目を覚ましたアーサー様がいた。
彼はニコリと笑い、手を伸ばして私の頬に触れる。
煌めく水色の瞳は優しく笑っていた。
「エレシュキガル、僕勝ったよ」
その笑顔はかつて見たルイそのもの。
だが、彼は少しだけ残念そうに眉をひそめた。
「残念ながら、彼女には逃げられてしまったけど」
「そ、そんなことどうでもいい、です……」
シュレインはいつか倒せばいい話。
彼の無事が一番だ。
「ルイがっ、アーサー様がっ、生きててよかったっ………」
アーサー様が、彼が生きてる。
その安心感と同時に、感情が一気にあふれ出し、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
力も残っていないだろうアーサー様は体を起こし、私をそっと抱き寄せる。
その抱擁は何よりも温かくって、優しくって、涙腺はもう崩壊していた。
「心配させてごめん………でも、もう大丈夫。僕は君から離れない。永遠に君の傍に、隣にいる」
私の頭をそっと撫で、ひどく優しい声で言うアーサー様。
「だから、泣かないで」
それからも、アーサー様は私をなだめるように、優しく言葉を投げかけてくれて、私は徐々に冷静さを取り戻していた。
「…………アーサー様がルイだったんですね」
「うん」
「なんで会った時に言ってくれなかったんですか?」
「エレちゃんが僕を忘れているかもしれないとか、嫌っているかもしれないと思って」
「ずっと忘れもできなかったし、嫌いになんてなりませんでしたよ」
「そっか………すぐに言ったらよかった」
でも、彼ばかりは責めれない。
こうしてみれば、似すぎているのに、というか会った当初は似ていると思っていたのに、気づかない私も悪かった。
「ずっと大好きだったよ、ルイ」
みんなが死んでいく中で、ルイだけ忘れられなかったのは、ずっと彼が好きだったから。
そして、それに気づけたのは――――。
「愛してます、アーサー様」
アーサー様がいたから。
彼がいなかったら、私は一生“好き”という感情を知らないままだった。
「アーサー様が大好きです」
「…………」
私は何も言わない彼の額に口を寄せ、この前のお返しとして、ちゅっと口づけをする。
見ると、アーサー様は水色の瞳を見開いたままで、固まっていた。
「アーサー様?」
「………………ずるいよ、エレちゃん」
アーサー様は私の肩に顔をうずめて、ぎゅっと抱きしめる。
先ほどの抱擁よりも強く、苦しい。
「僕も愛してるよ、エレシュキガル」
耳元でささやかれるその甘い声に思わず、眩暈がする。
でも、彼の思いと私の思いが同じで、通じ合っている――――それが分かって、とても嬉しかった。幸せだった。
その後も抱きしめられたまま、アーサー様から「大好きだ」や「かわいい」と責められて、しまいには「エレちゃんがそんなかわいい反応をするから、意地悪したくなっちゃうね」と言われ、頭は爆発。オーバーヒートしていた。
「もう朝になってちゃったね」
「え?」
ようやくアーサー様の意地悪が終わり、東の空を見ると、夜が明け、朝日が私たちを照らしていた。
「戻ろっか」
「はい」
私に靴はなく、アーサー様の服はすすやほこりだらけ。
顔も傷や泥で汚れていた。
そんなボロボロの私たちは、笑い合いながら、もう二度と離さないという思いが伝い合うぐらいにしっかりと手を繋ぎ、眩しい朝日に照らされる王城へと戻った。
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