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しおりを挟むハッハッハッ───
まずい、まずいまずいまずいまずいっ!
新学期から遅刻とかないってっ、はあっはあっ
こんにちは、私の名前は隆酉円華と申します、以後お見知りおきを。
現在、皆々様のご想像通り全力ダッシュなるものをやってみてはいるものの、常日頃からインドアを極めている私のステータスでは、お散歩中のその辺の若いお犬様よりも遅く、大変な醜態を晒してしまっております、お見苦しいですね、すみません...
さて、何故私がこのような茶番を演じているかと申しますと、よくある話で、アラーム用のバイブのコードが本体から抜けており、遅刻というものをしてしまったからです。
いつもならお手伝いさんが様子を見にいらしてくださるのですが、生憎と昨晩からご家庭の事情で休暇をとっており、我が家には私一人しか居ないのです。
そうそう、遅刻をしかけてはおりますが、お手伝いさんが昨日のうちに作り置きしてくださっていたシチューの残りと食パンに牛乳をコップ一杯、それらはきちんと私のお腹に収めました。それはもう、バッチリと。何故って?それは勿論、お手伝いさんの厚意を無に帰すなどあってはならないことだからです。それに、朝食は抜くと後が辛いのです(以前それで吐き気を催しました、お恥ずかしい)
お、漸く正門が見えました、まだたくさんの方々がいらっしゃるようなので、一先ず安心です。
どの方々も道路沿いに植えられている桜の花のような小さく、それでいて華がある笑顔を見せていますね。微笑ましいです。
「ゆっちゃん、また同じ学校だね!」
「やった、3年間、またよろしくね!」
「今日はいいお天気ですね、木下さん」
「ええ本当に。まだ春先なのでもう少し冷えるかと思いましたが、今日は暖かいですね、まるで今日という日を神様が祝福なさっているようだわ」
たむろしている人々は絵になります。特に、桜の桃色と空の青、雲の白銅色。『入学式』と達筆に書かれている立て札の白に微かに匂いが残る墨色。
制服の榛摺色に天鵞絨色のラインで縁取りされている制服が目に鮮やかです。
ああ、何と美しい。ありがとうございます、神様。今日という日をお与えくださって。
「『保護者の皆様、式の開始時刻まで後二十分となりました。受付を終えた方から順に詰めて体育館の保護者席にお座りください。新入生の方は自分の教室に待機してください』」
おっと、まだクラスを確認していなかったのです、ぼうっとしている場合ではありませんね。
とはいえ、人の体でクラス表まで辿り着くのは困難です。うんしょ、えいやっと!
私の肩幅二分の一のスペースを、割り込んでは押し込み、ちょっと進んで人の並みに流されてはまた割り込み...
ふぅ、ふぅ... やっと着きました!
うーむ、少々香水に当てられてしまいましたね、くらくらします。でもまだいけます、やって見せます。ど根性で!
───あ、ありました、1ー3ですね、えー南棟の二階、階段から3つ目の教室です。
おう、ヤバイです、後8分です!
ではでは、ズルをして小走りでいきましょう!
「なんだあれ」
「ん?どうした?」
「いや、走ってんのにスゲー遅ぇやつがいた」
「えーなにそれ」
「さぁな。それより、俺らも行かねーとマジ遅刻すんぜ」
「だな、走れっ!」
「オイこら!カバン忘れてんぞ!」
─────────
後2分ですっ!
「ま、間に合いました」
肩で息をしつつ、確認のためもう一度クラスを確認します。はい、確かに1ー3です。
緊張で少々手が汗ばんできます。既に教室から中学からのご友人同士で興奮ぎみに何か騒いでいるようですが、私の知人は同じクラスだと男子一人、他のクラスでは数人ほどのようです。
つまり、今のところ孤立状態。あー、ドキドキが止まりません。
では、いざっ!
う、一瞬騒ぎが止まりました。皆さんこちらを見ています。でも知らない人間だとわかり、しかも特徴もない私には興味がないようなのです。すぐにもとの賑やかさが生まれました。
うっ、居心地悪いです。
あ、足跡が聞こえます。振り向くと、制服を着ていない男性がたっていました。何か名簿のようなものを持っています。先生のようです。
「お前、いつまで立ってんだ?とっとと席につきなさい」
「はいっ、すみませんでした!」
背後から差す日光でその顔は少し影って見えますが、その方の低く振動する声色から伝わる苛立ちが私の体を絡め取りました。要は、緊張と恐怖で動けなくなったのです。
しかし私の体は無意識に一歩下がって深くお辞儀をした後、簡潔に謝罪をして予めクラス表で確認していた席順を思いだし堂々とそこに向かい着席したのです。
その後、生徒の皆さんにチラチラと見られたのは謎でしたが。
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