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害虫よろしくバスケットボールで鉄柵から叩き落とされた俺達は、先輩に連れらて体育館の倉庫に入った。

「お前らそこのマットの上に正座しろ」

言われるままに正座して一体何を言われるかと思ったら

「で、蜂飼ってのはどっち?」
だった。

「俺です」

仕方なく手を挙げる。

「じゃ、もう1人のお前、帰っていいぞ」

これが坂本なら喜んで帰っていっただろうがなにせ今いるのは立田だ。

「いや、俺もココにいます」

あの日たっちゃんと呼ばれていた先輩に治安の悪そうな顔で見下ろされる。

「俺が用があるのはハルとキスしたコイツだけなんだ」
「あ、それならやっぱり俺もここにいます!」

ねぇ待って。色々語弊も誤解もあるしこのメンツじゃ俺がとんでもなく不利!!

改めて先輩は俺に向き直るととんでもない事を言い出した。

「おいお前、ちょっとハルに優しくされたからって自分が特別だとか思ってないよな?」
「優しくっていうか通り魔的な痴漢被害にあった記憶しか、、、」
「あ、想像してた10倍くらいオモシロ面倒くさそうなシチュだった」
「立田君帰らないで!さっきここにいるって言ったばっかじゃん」
「いやなんか帰って宿題でもしようかなーなんて。終わったら連絡してよ」
「蜂飼、お前は今俺と話してるんだろーが!てかハルも来るって言ってたのにアイツどこ行ったんだよ」

俺達がわちゃわちゃしてたらどこからかか細い声が聞こえてきた。

「たっちゃ~ん、こっちこっち!」
「誰かの声が聞こえる」
「か細《ぼそ》!めっちゃか細い声する!!」
「ハル?どこにいんだよ!」
「ここでーす」

声をたどっていくと体育マットにきれいに簀巻きされキッチリ縛られて転がってるハルさんがいた。

「おいっ!大丈夫か?!」

3人がかりで巻いてあるロープを解こうとしたけどホントにもう丁寧にキッチリ結んであって全然解けない。

ハルさんは寒さと酸欠とでモデルみたいな顔を蒼白にさせてるし唇が紫色で俺達は無言でロープと格闘した。

しばらく格闘してたらやっと解けた。

「誰だ、誰にやられた?」
先輩の後ろに黒いオーラが立ち上ってる。
ハルさんはヤバそうな気配を察知して縮こまって答えた。
「あ、えーと、自分でやりました」
「ああ?!出来るわけないだろ。誰か庇ってんのか?」
「いや庇ってない。ホントお願いして縛ってもらいました」
「誰にだよ」

なんでもたっちゃんを驚かせてついでに誘惑しちゃおう!と某古代女王の真似をして薄着でマットレスにくるまってみたんだとか。

「上手くくるまれなくて苦戦してたら2-4のクラス委員のバッチをつけた子がたまたま通りがかってロープで結んでくれたんだよ」

浮葉あ!!
お前なんてことしてくれてんの?!
キッチリ結びすぎて危うくこの人息の根止まっちゃうとこだったよ?!

「すっごく上手に結んでくれてさ~」

当の本人は満足した様子でたっちゃんの膝の上に座っている。この人が着ているものといえば秋服のペラいシャツ1枚。肌シャツもご丁寧に脱いじゃってわざと乳首が透けるようにしている。

「先輩凍えて指先真っ白になってるしとりあえず保健室に行きますか?」
「いや、俺達保健室出禁になってっから」

とんでもない強ワードに俺達は固まった。



適当に自販機かコンビニでホットドリンクを奢って逃げようと思ったがたっちゃんがどうしても納得してくれず、強引にウチに案内させられた。

「ただいまー」
「お帰り。あらお友達?」

家にいた母親が出迎えてくれた。

「こんにちわー、お邪魔しまーす」
「どうぞー。寒かったでしょ。なんかあったかい飲み物つくるわ」

口々にお礼を言い、部屋に案内する途中で中庭に干してある洗濯物からチリーンと鈴の音がした。カーテン越しに三角形の洗濯物が見える。

「鈴の音って丁度この時期って感じがして良いわね~ジングルベールジングルベール」

立田が壁に頭をぶつけた。
不意にハルさんが俺の耳元で囁いた。
「蜂飼君のお母さんのパンツの布面積小さくない?」
「ハルさんちょっと口閉じててもらっていいですか?」

口を閉じてもらった隙にその辺に放置されていたオトンのイビキ防止テープを貼りつけた。
もちろん使用済み。
口を閉じたままハルさんが何か言っている。
なんとなく「加齢臭」とか「脂」とか聞こえたけど素知らぬふりをして部屋まで案内した。


「うわ~エグッ。いつもどんなプレイしてるの?」
「なぁコレもしかして使用済み?」
「使ってません!!」

部屋の真ん中に何故か開けっぱなしになっていた段ボール。中身を見た先輩達がドン引きしている。因みにバイブはしっかり包装して引き出しの奥底に保管済みだ。

「入るわよ~」

カップと蜂蜜、ショッキングピンクのシリコン棒を載せたトレイを母親が持ってきた。慌てて段ボールの蓋を閉める。

「あ、ありがと」
「ミルクティにブランデーを少し垂らしておいたから。蜂蜜はお好みでどうぞ~」
「あれ、お母さん出かけるの?」
「今からちょっとお友達とお茶してくるわ。夕飯までには戻るから」

母親は既にコートを羽織り首に狐の尻尾を巻いている。金色の丸いピンがワンポイントになっていてとてもおしゃれだった。

「あ、ヒトシの部屋からちょっと拝借しちゃった!それじゃあみなさんごゆっくり~」

母親が出かける音がしたのを確認し、なんとなく全員で顔を見合わせる。

「なあ、この段ボールの中身って全部エログッズなんじゃねーの?」
「そうです」

詰め込んだ張本人が頷いた。

「あの尻尾、本当はアナルプラグついてたんじゃ、、、」

ハルさんがそう言いながらクッションに座り直そうとしたら、隙間から切り落とされたアナルプラグが転がりでた。

「ねぇピンは?ピンはエログッズじゃないよね?!」
立田がそっと目を逸らした。
まじかよ~~~!!

「じゃあ俺達はコレ飲んだら帰るわ」
たっちゃんがティスプーンで蜂蜜を掬ってお茶にいれた。
「先輩何しにきたんですか」
「お前がハルのこと本気になってないかちょっと確認したかったんだよ。お前の隣に思ったより愛の重いやつがいるのが分かったからもう良いかなって」
「ポケットにシリコン棒入れて持ち帰ろうとしないでください」
「えー僕そんなの使いたくないー」
「いやコレは保険だ」

なんの保険だよ。

「お前にもし、ちょっとでもハルに気があるそぶりが見えたらコイツをお前のロッカーに入れる」
「そんな、、、クラスメイトの前でそんなモノがロッカーから転がり出てきたら!」
「そう!お前の学校生活は終わりだ!!」
「いやだ~~~」

とんでもない保険を掛けられようとしている!!
俺達がふざけた茶番を繰り広げている間にハルさんも同じようにしてお茶を流し込み、2人は仲良く帰っていった。

「ホント何してくれんのお前」
2人っきりになり立田に詰め寄る。
「あー、んー」
立田は目を泳がせている。
「クリスマスプレゼントじゃないって言ってたけどホントに違うの?」
「違うよ」

立田がちょっと黙って、それから話し出した。

「アドベントカレンダーってのはさ、クリスマスが来るまでのワクワク感を盛り上げるためのグッズなんだよ」

そうらしいね。
確かに俺も毎日ワクワクしながら開けてたわ。

「で、クリスマス当日は俺をプレゼントするつもりだったんだよ」

発想が!ハルさんと一緒だ!
そんなに好かれているのかと思うとくすぐったい。それならもっとシンプルでいいじゃん。

「クリスマスなんだからさ、映画見てフードコートでご飯してショッピングセンターのイルミネーションでも見に行かねえ?」
「帰り道に人気の少ないところでキスするのもセット?」
「そりゃそうだろ」

今も絶好のタイミングなんだけどね。
クリスマスのプランに浮かれた立田はそれに気づかず帰っていった。





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