イベント・フィールド!

akt

文字の大きさ
上 下
4 / 5

3 町とギルド

しおりを挟む
 


遺跡に向かう準備を、とはいえ、何も情報がないままに向かうのはあまりに無謀。
家を出たティオは、まず情報を得るために慣れた街道を歩き出した。

ディールの町の周囲には、北にある城から石壁が円形になって築かれている。
東西と南には出入り口となる大きな門が設置されており、それぞれの門と城を繋ぐようにして、整備された街道が伸びる。
道と道がぶつかる町の中心には大きな円形の広場が作られていて、出店も出て昼間は人の行き交いが多い。
広場から北へ行けば城が、東には普通の家々が、西には一般の商店が。
そして最も人通りの多い南は、冒険者の集う店が多く軒を連ねている。
もちろん店の数やにぎやかさは、王都や王都近隣の町と比べられるほどではない。
だが、この町で生まれ育ったティオには楽しいにぎわいだ。

(たとえ田舎のにぎわいだとしても!)

ディールのあるフィールドールは他国に見劣らず歴史ある大きな国である。
広く雄大な土地は遥か昔の遺跡も多々残る。
周囲に広がる豊かな自然には精霊の力が満ち、また闇ある所に他を害する魔物も潜む。
それらに挑むは何も学者や魔術師だけではなく、冒険者と名乗る者も立ち上がる。
勇敢に未知へと進む彼ら冒険者は、ある時は遺跡の謎を解き、ある時は魔物の群れを打ち倒し、数々の伝説が語られた。
フィールドールも冒険者がその時代に大地を駆け、この時代でも各地で勇姿を見せつけている。
ディールの町にも多くの冒険者が――かつては足を運んでいた。
町があるのは国の隅、つまり王都から見れば辺境の片田舎。
領主家があるディールは近隣の町よりは整備され、店も一通り揃っている。
だが、王都から勇んで足を運び続けるにはほど遠く、目的とされるものがないに等しい。
今ではぽつりぽつりと、思い出したように立ち寄ることがほとんどとなってしまった。

(片田舎の弱みだよな……秘境ってわけでもなく、都会ってわけでもなく)
「おう、ティオじゃねぇか! 帰ってきてたのか?」

ティオが町並みを眺めながら考えていると、街道に点在する露店のひとつから声が飛ぶ。
馴染みの店主の笑顔を見つけて、ティオは町に帰ってきたことを実感する。
すぐに軽く手をあげて応えた。

「ああ。ようやく昨日な」
「遅いんで心配してたんだが、無事で良かった」
「この通り怪我はひとつもないよ」
「朝っぱらから出歩いてるってことは、まだ飯食ってないんだろ? ほれ」

厚紙に挟んで押し付けられたのは、軽く焼いたパンに野菜と厚切りの肉を挟んだ軽食だった。
落とさないようにティオは慌てて受け取る。
この店のパンは軽くつまめるものから、ボリュームたっぷりのパンまでそろっている。
美味しい上に値段も手頃で、ティオはこれまで何度も世話になっていた。

「っとと、いいのか?」
「おうよ! 大変だったんだろ。遠慮なく食ってくれ」
「サンキュー!」

ありがたい心遣いに、ティオは遠慮なくパンにかぶりついた。
食べ慣れた味だというのに、今日はなおさら美味く感じてならない。

「お代なら、また俺がギルドに依頼した時にちゃちゃっと片付けてくれや」
「任せとけ! ……と言いたいが、俺に振り分けられたらの話だな」

ティオの言葉に、それもそうだと店主は豪快に笑う。
軽く手を振って店主と別れ、パンを食べながらティオはまた歩き出す。

ディールに限らず、辺境の町には悩みがある。
外からの客足が遠のいたり過疎が進むこともそうだが、何より問題は王都から離れていること。
王都の騎士団に要請するような、大きな懸案が届くのに時間がかかりすぎるのだ。
賊や魔物退治などの要請が王都で受理され次第、要請の内容に応じての団員が派遣される。
だが、名の知れた騎士団には各地から絶え間なく要請が送られてくるのだ。
騎士団の任務は何より王都を護ることが第一。
どんな要請であろうとも、膨大な声の中では取りこぼされてしまうのだろう。
辺境の町は何かと後回しにされてしまう事例が多い。
故に王都から離れた辺境の地は自分たちの力で何事にも奮起するしかならず、切迫した状況から発足し、各地でそれぞれ自由に、独自に発展していった組織が生まれた。
それがティオが属するギルドである。

各地での特色こそあるが、主に傭兵をまとめて管理し、集まってくる要請を振り分けて解決する組織が、ギルドと言える。
特にこの辺境ではディールの町が中心であり、唯一のギルド、その上領主家に仕える兵士や術師も腕がたつ。
そのため、ギルドの人手が足りなくなった時には人員を要請出来るようになっている。
各地では騎士団とギルドが睨み合うといった諍いもあるようだが、ディールのギルドでは協力体勢がきちんと作られていた。

(たとえ近隣住民の依頼しかなくても! その他の依頼が少なくても! 身内ギルドみたいになっていても、うちは成り立ってるんだ! ……それもこれも、領主が俺たちのこと考えてくれてるからだしな)

ディールの町のギルドは、数年代前の領主自らが立ち上げた。
領主家に仕える者や、賛同した者たちで運営して成り立っている。
用心棒から護衛、魔物や盗賊退治はもとより、農作業の手伝いから専門的な学術指南など幅広く依頼を受けていて、近隣からの依頼も多い。
他にも旅人や冒険者に対してのサポートとして、情報提供や簡易的な寝食もギルドで提供しており、町の商店が皆々協力している。
ギルドとしての存在意義と、町の活性化を繋がらせているのだ。

最後の一口を飲み込んだ時、ティオの足は広場へ踏み入った。
横手に伸びる道の先にある領主家を見やる。
城と言える大きさや造りではないが、石造りの荘厳な雰囲気は遠目にも感じ取れる。
それでも人を遠ざけるような所に見えないのは、やはり領主の人柄が出ているのだろうか。
ふと考えたことにティオは苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

(うちの領主は好かれてるしな)

領主家に背を向け、ティオは広場を突っ切っていく。
目線の先にあるのは、南門へ続く街道の角。
悠然とある建物の門につけられた看板には見慣れた文字が彫られている。
この町の者なら誰もが知っている名前。
――ギルド・ディール。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...