自分が『所有物』になったけど全て思惑通りなので無問題。

甘田

文字の大きさ
上 下
17 / 22

16.落札者の正体

しおりを挟む
 劇場の奥には控え室が複数あり、落札者たちが契約を行う場所になっている。
 俺はその中でも特に豪華な部屋へと通され、応接ソファーに座らされる。俺を案内した支配人が信じられないとばかりに話し始める。
「今まで奴隷に億の値段がついたことなんてないのに」
「良かったな。俺のおかげで大儲けして」
「本当に感謝しかありませんね」
 騒々しく扉が開かれた。二人してそちらへ注目すれば、そこには暗いローブを羽織った長身がいた。
「支配人、そいつの代金だ。さっさと指輪を渡して部屋から出て行け」
「確かに受け取りました。ではこちらをどうぞ。指輪と手足の枷の鍵が入っております」
 支配人は受け取った小切手を確認してから木箱を渡す。その中には指輪が入っている。
「では、お楽しみ下さいませ。またのご利用をお待ちしております、王弟殿下」
 深々と一礼した支配人が部屋を出た瞬間、素早い動きで押し倒される。衝撃が背中に走り、首元には骨張った手のひらが回される。
 勢いよく俺に飛び乗ったおかげかローブが乱れた。
「ふは、はは、酷い、顔だな、お前」
 俺を見下ろすルカ・ランベールを見た瞬間、堪えていた笑いが漏れ出る。だが、首を絞められているせいで上手く呼吸が出来ない。
「……どこまでが、お前の計画だ」
 苦々しい声だ。俺がここにいることで、ルカの中で仮説が立ったのだろう。
 俺は求められるがまま答えた。
「どこから、どこまでを指しているか、分からんが、少なくとも、お前が職務よりも、俺を取ることは、計画、通りだな」
 首を絞める力が一瞬強まったがすぐに離される。ルカは俺に馬乗りになったまま指輪を嵌めた。
 思いの外すぐに冷静さを取り戻したらしい。
「そうか……俺はお前の手のひらの上で踊ってやったのか」
「ありがとう」
「俺の所有物になりたかったのなら最初からそう言え」
「お前も俺を所有したかったくせに最初から言わなかっただろうが」
 お互い逸らすことなく言葉をぶつけ合う。切れたところでいつかのようにルカの顔が近付いてきたので、やはりいつかのようにそれを拒んだ。
「……アリーチェ・リシャール、お前は俺が飽きるまで俺の所有物になったんだぞ」
「ここから南西に行ったところで闇オークションが開かれる。そこの商品は全員拉致された人間だ」
「……」
「俺の可愛い姪が必死に掴んだ情報なんだ。制圧してきてくれ」
 ルカは俺の上から退くと再びローブを頭から被る。いつの間にか入り口には壮年の男が立っていた。気配もなかったため気付かなかった。
「スヴェン、こいつを別邸に連れて行け。何を言われても枷は外さなくて良い」
「かしこまりました」
「俺は部下を連れて現場に向かう。ここでは怪しい売買はなかった。分かったな?」
「かしこまりました」
 ルカは俺を一瞥した後、足音もなく駆けて行く。残された俺は彼に連れられオークション会場を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

‭転生『悪役令息』だけど、強制力を無効化、第三王子を逆断罪し第一王子と幸せになる!…を、強制力と共に阻止。そう、私が本当の主人公第三王子だ!

あかまロケ
BL
あぁ、私は何て美しいのだろう…。ふっ、初めまして読者と呼ばれる皆々様方。私こそは、この物語随一の美しさを持つ、ラドヴィズ=ヴィアルヴィ=メルティス=ヴァルヴェヴルスト。この国ヴァルヴェヴルスト国の第三王子である。ふっ、この物語の厨二病を拗らせた作者が、「あらすじは苦手」などと宣い投げ出したので、この最も美しい私がここに駆り出された。はっ、全く情けない…。そうだな、この物語のあらすじとして、私は明日処刑される。それだけ言っておこう! では。

薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない

くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・ 捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵 最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。 地雷の方はお気をつけください。 ムーンライトさんで、先行投稿しています。 感想いただけたら嬉しいです。

悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます

藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。 それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。 それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で…… 4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

処理中です...