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第三章
53話 郷愁(きょうしゅう)
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「う、うぅ……うま、うま……」
「……チロ」
「キュアァ……」
ヒナとキングはチロから距離を取り、遠巻きにその行動を見守っていた。
チロは今、呪われているとしか思えないほど不気味な植物である『ムンクさん』から流れ出た黒い液体を、指先につけては舐め、指先につけては舐めを繰り返している。
しかも、涙を流して「うま、うま……」と呟きながらだ。
「どうしよう、キング……チロが、おかしくなっちゃった…………」
その異様な姿に、ヒナはキングを抱きしめたまま泣きそうな声を上げた。
本当は、今すぐにでもチロをムンクさんから引き剥がし、黒い液体を舐めるのをやめさせたほうがいいかもしれない。
だが、ヒナにはそれが正しいことなのか分からず、またそれを行う勇気もなかった。
もし、強引に引き剥がしたせいでチロが壊れてしまい、「う、うま…………ヒャァアアアアッ! ウマッ、ウッマァァアアアアアッ!」とか叫び出したりでもしたら、取り返しがつかないうえに怖すぎるからだ。
「どうしよう、キング……わたしは、どうすればいいの?」
「…………」
ヒナの問いかけに、キングは目を閉じて考えるような仕草をした。
そして数秒後にカッと目を見開くと、「キュアッ」と一度短く鳴き声を上げ、顔を洞窟の入口の方向に向けた。
一瞬、キングがなにを言おうとしているのか分からなかったヒナだったが、
「……そうか、お父さんなら、なんとかしてくれるかもしれない!」
すぐにその意図を察し、希望を見出した表情を浮かべると、洞窟の入口に向かって走り出した。
だが、途中で一度足を止めて振り返り、
「まっててね、チロ…………すぐにお父さんを連れて、帰ってくるから…………」
未だに「うま、うま……」と呟きながら黒い液体を舐め続けるチロに声をかけると、今度はもう振り返ることなく、父親のいるゴブリン集落へと走り去っていくのだった。
────それから、数十分後。
ヒナに連れられてきたゴーダに拳骨を落とされたことにより、チロは正気を取り戻した。
しかし、チロから事情の説明を受けたゴーダもまた、郷愁の念を抑えられなくなって黒い液体を舐めてしまい、涙を流しながら「うま、うま…………」としばらくトリップすることになるのだった。
「……チロ」
「キュアァ……」
ヒナとキングはチロから距離を取り、遠巻きにその行動を見守っていた。
チロは今、呪われているとしか思えないほど不気味な植物である『ムンクさん』から流れ出た黒い液体を、指先につけては舐め、指先につけては舐めを繰り返している。
しかも、涙を流して「うま、うま……」と呟きながらだ。
「どうしよう、キング……チロが、おかしくなっちゃった…………」
その異様な姿に、ヒナはキングを抱きしめたまま泣きそうな声を上げた。
本当は、今すぐにでもチロをムンクさんから引き剥がし、黒い液体を舐めるのをやめさせたほうがいいかもしれない。
だが、ヒナにはそれが正しいことなのか分からず、またそれを行う勇気もなかった。
もし、強引に引き剥がしたせいでチロが壊れてしまい、「う、うま…………ヒャァアアアアッ! ウマッ、ウッマァァアアアアアッ!」とか叫び出したりでもしたら、取り返しがつかないうえに怖すぎるからだ。
「どうしよう、キング……わたしは、どうすればいいの?」
「…………」
ヒナの問いかけに、キングは目を閉じて考えるような仕草をした。
そして数秒後にカッと目を見開くと、「キュアッ」と一度短く鳴き声を上げ、顔を洞窟の入口の方向に向けた。
一瞬、キングがなにを言おうとしているのか分からなかったヒナだったが、
「……そうか、お父さんなら、なんとかしてくれるかもしれない!」
すぐにその意図を察し、希望を見出した表情を浮かべると、洞窟の入口に向かって走り出した。
だが、途中で一度足を止めて振り返り、
「まっててね、チロ…………すぐにお父さんを連れて、帰ってくるから…………」
未だに「うま、うま……」と呟きながら黒い液体を舐め続けるチロに声をかけると、今度はもう振り返ることなく、父親のいるゴブリン集落へと走り去っていくのだった。
────それから、数十分後。
ヒナに連れられてきたゴーダに拳骨を落とされたことにより、チロは正気を取り戻した。
しかし、チロから事情の説明を受けたゴーダもまた、郷愁の念を抑えられなくなって黒い液体を舐めてしまい、涙を流しながら「うま、うま…………」としばらくトリップすることになるのだった。
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