ゴブリン飯

布施鉱平

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第三章

51話 ムンクさん

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「どうこれ」
「…………」
「キュアァ……」

 その後、洞窟に帰ったチロは、持ち帰った『ムンクさん』をヒナとキングに見せていた。

 ふたりから返ってきた反応は、予想していた通りのものだ。

「……チロ、これは、食べられるの?」
「キュア、キュアァ……」

 ヒナは不安げな表情を浮かべ、キングも「なに拾ってきてんだよ」的な鳴き声を上げる。

 それはそうだろう。

 ムンクさんは、その名前どおりの外見をしているのだ。
 もしくは他に例えるとするならば、大昔に流行はやった『死にかけ人形』にも似ているだろうか。
 
 どちらにせよ『美味しそうな見た目』からはほど遠く、普段であれば一緒に夕食を食べていくゴーダも、よほどムンクさんを食べさせられるのが嫌だったのか、いつの間にか姿を消していた。

「……でもまあ、食べられるのかどうかは、実際に食べてみないと分からないしね」

 ひとり前向きなチロはそう呟くと、とりあえずはムンクさんのことを改めて観察してみることにした。

「…………」

 見れば見るほど『ムンクの叫び』にしか見えない。

 しかし、土から引き抜いた時に上げた絶叫といい、人の形を模した姿といい、分類的にはファンタジーものにありがちな『マンドラゴラ』とかそういうたぐいの不思議植物なのだろう。

 顔の部分さえ見なければ、色や根の分かれ方は朝鮮人参にも似ている。

「マンドラゴラなら、ゲームやアニメだと霊薬の材料とかに使われてるイメージがあるし、朝鮮人参も漢方の材料だし、やっぱりこれも干してから使う系なのかな……
 もしくは、養○酒みたいに酒に漬けておくとか……?」

 などと予想はしてみたものの、干している時間はないし、もちろん酒もない。

 なので、

「とりあえず、切ってみるか」

 結局は、そういうことになった。

 切った時にまた叫び出さないとも限らないので、ヒナとキングには離れた場所で耳をふさいでいてもらい、チロ自身は耳の中に『制土』で作った耳栓を詰める。

 そして同じく『制土』で作った陶製ナイフを構えると、ムンクさんの脚(っぽく見える部分)に刃を当て、そのままぐっと押し込んだ。

 すると────






 ブシュッ



 


「うわぁ…………」

 叫び声は、なかった。

 だがその代わりに、切り落とした部分や目と口の穴からは、ドロリとした黒い液体が流れ出してきたのだった。
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