51 / 64
第三章
49話 転生者のふたり
しおりを挟む
「────いいか、チロ。ここから先は森林狼の縄張りだ。あいつらは動きが早くて力も強く、しかも賢い。間違っても近づくなよ?」
「りょ、了解です」
いきなり洞窟から拉致同然に連れ去られたチロだったが、気づけばゴーダによって周辺の危険地帯を教え込まれていた。
毒の沼地、食肉植物の生えている場所、森林狼の縄張り…………
どれも洞窟から歩いて一時間以上はかかる場所だが、こうして教えられなければいつか足を踏み入れていたかもしれないと思うと、チロの背筋に寒気が走る。
「よし、じゃあ次行くぞ」
「うす」
頷き、先を歩くゴーダの後を追った。
倍近い身長差があるものの、ゴーダが歩調を緩めてくれるおかげで、チロもそれほどキツくはない。
足元だけではなく、周囲に意識を向ける余裕があるくらいだ。
上を見上げれば空は高く、肌に感じる日差しや風は暖かく、耳をすませば鳥や虫の声が聞こえてきた。
この世界にも四季があるのかは分からないが、少なくとも今の森は豊かで、生命に満ち溢れているように感じられた。
その後も歩きながら森のあちこちに視線を送っていたチロだったが、ふと興味を引かれる植物を発見して、立ち止まった。
一見するとどこにでも生えている普通の草のように見えるのだが、根っこの部分の土が少し盛り上がっている。
もしかすると、大根や人参のような根菜系の植物かもしれない。
だとすれば、採取しないわけにはいかないだろう。
「ゴーダさん、ちょっと食材っぽいもの見つけたんで、採取していいですか?」
「ん? おう、構わんぞ。今日はあと一箇所回ったら終わりにしようと思ってたしな」
振り返りながら言ったゴーダのそのセリフに、チロはデジャヴのようなものを感じた。
そして、それがなんであったのかをすぐに思い出すと、口元に笑みを浮かべて「ふっ」と笑い声を漏らした。
「どうした、チロ」
「いやぁ、今のゴーダさんのセリフ、人間だった頃によく聞いたな、と思いまして」
「ん? ああ……ははは、確かにな」
まだチロが夢も希望もないダメリーマン『田中一郎』だった頃も、ゴーダは得意先の注意点などを教えながら、チロのことを連れ回してくれた。
そして、ダレてきた田中が「先輩、ちょっとあそこの喫茶店でコーヒーでも飲みませんか」と言うと、決まって先ほどのセリフを返してきたものだった。
「ホント、不思議な縁ですよね。こうして生まれ変わっても、また同じようにゴーダさんの後ろを歩きながら、色々と指導して貰ってるなんて」
「合縁奇縁、人生はあざなえる縄のごとし……ってな。俺もまさか、死んだ先でもう一度お前に関わることになるとは思ってもみなかったよ。
しかも、娘の恋人としてな」
ガハハ、と笑うゴーダに釣られて、チロも笑い声を上げた。
「で、それが見つけた食材ってやつか?」
「ええ、たぶん根菜系の植物じゃないかと思うんですけど、ゴーダさんは知ってますか?」
チロの指差す植物にじっと視線を注ぎ、ゴーダは首を振った。
「いや、わからん。この辺で狩れる動物なら多少は知ってるんだが、植物となると全くだな。そういうのは嫁さんが詳しかったんだが……」
ゴーダの嫁はエルフであり、しかも冒険者だったと言っていたから、そういうことに詳しかったのだろう。
「あ、じゃ、じゃあ、ぱぱっと引き抜いちゃいますね」
若干しんみりしてしまった空気をごまかすように、チロは植物の葉っぱを両手で握ると、体重をかけて引き抜いた。
その瞬間────
「イィィィィィィィィィィヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
凄まじい絶叫が、辺りに響き渡った。
「りょ、了解です」
いきなり洞窟から拉致同然に連れ去られたチロだったが、気づけばゴーダによって周辺の危険地帯を教え込まれていた。
毒の沼地、食肉植物の生えている場所、森林狼の縄張り…………
どれも洞窟から歩いて一時間以上はかかる場所だが、こうして教えられなければいつか足を踏み入れていたかもしれないと思うと、チロの背筋に寒気が走る。
「よし、じゃあ次行くぞ」
「うす」
頷き、先を歩くゴーダの後を追った。
倍近い身長差があるものの、ゴーダが歩調を緩めてくれるおかげで、チロもそれほどキツくはない。
足元だけではなく、周囲に意識を向ける余裕があるくらいだ。
上を見上げれば空は高く、肌に感じる日差しや風は暖かく、耳をすませば鳥や虫の声が聞こえてきた。
この世界にも四季があるのかは分からないが、少なくとも今の森は豊かで、生命に満ち溢れているように感じられた。
その後も歩きながら森のあちこちに視線を送っていたチロだったが、ふと興味を引かれる植物を発見して、立ち止まった。
一見するとどこにでも生えている普通の草のように見えるのだが、根っこの部分の土が少し盛り上がっている。
もしかすると、大根や人参のような根菜系の植物かもしれない。
だとすれば、採取しないわけにはいかないだろう。
「ゴーダさん、ちょっと食材っぽいもの見つけたんで、採取していいですか?」
「ん? おう、構わんぞ。今日はあと一箇所回ったら終わりにしようと思ってたしな」
振り返りながら言ったゴーダのそのセリフに、チロはデジャヴのようなものを感じた。
そして、それがなんであったのかをすぐに思い出すと、口元に笑みを浮かべて「ふっ」と笑い声を漏らした。
「どうした、チロ」
「いやぁ、今のゴーダさんのセリフ、人間だった頃によく聞いたな、と思いまして」
「ん? ああ……ははは、確かにな」
まだチロが夢も希望もないダメリーマン『田中一郎』だった頃も、ゴーダは得意先の注意点などを教えながら、チロのことを連れ回してくれた。
そして、ダレてきた田中が「先輩、ちょっとあそこの喫茶店でコーヒーでも飲みませんか」と言うと、決まって先ほどのセリフを返してきたものだった。
「ホント、不思議な縁ですよね。こうして生まれ変わっても、また同じようにゴーダさんの後ろを歩きながら、色々と指導して貰ってるなんて」
「合縁奇縁、人生はあざなえる縄のごとし……ってな。俺もまさか、死んだ先でもう一度お前に関わることになるとは思ってもみなかったよ。
しかも、娘の恋人としてな」
ガハハ、と笑うゴーダに釣られて、チロも笑い声を上げた。
「で、それが見つけた食材ってやつか?」
「ええ、たぶん根菜系の植物じゃないかと思うんですけど、ゴーダさんは知ってますか?」
チロの指差す植物にじっと視線を注ぎ、ゴーダは首を振った。
「いや、わからん。この辺で狩れる動物なら多少は知ってるんだが、植物となると全くだな。そういうのは嫁さんが詳しかったんだが……」
ゴーダの嫁はエルフであり、しかも冒険者だったと言っていたから、そういうことに詳しかったのだろう。
「あ、じゃ、じゃあ、ぱぱっと引き抜いちゃいますね」
若干しんみりしてしまった空気をごまかすように、チロは植物の葉っぱを両手で握ると、体重をかけて引き抜いた。
その瞬間────
「イィィィィィィィィィィヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
凄まじい絶叫が、辺りに響き渡った。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる