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第三章
48話 拉致
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────それは、初めての燻製作りから数日後の、穏やかな日差しが降り注ぐある朝のことだった。
「せいっ、てりゃっ」
「ん~…………えいっ」
チロが日課であるやり投げの練習をし、その隣でヒナが使えるようになったばかりの『属性魔術(初級)』を練習をしていると、
「おう、チロ! いるか!」
いきなり、ゴーダが大声を出しながら洞窟の住処に飛び込んできた。
「うわっ、びっくりした。……ゴーダさん、脅かさないでくださいよ」
「お父さん、おはよう」
チロは驚いた拍子に持っていた槍を明後日の方向に投げてしまったが、ヒナはまるで動じる様子もなく振り返り、ゴーダに朝に挨拶をした。
ゴーダと一緒に暮らしていたからその大声に慣れている、というのもあるのだろうが、明らかにヒナのほうがチロよりも肝が座っている。
「おう、おはようヒナ! 今日もチロと一緒に仲良く練習か、えらいな!」
「えへへ」
「おはようございます、ゴーダさん。今日はやけ早いですけど、何かあったんですか?」
チロも気を取り直して挨拶を返し、ついでにゴーダに尋ねた。
週に2~3日は顔を出すゴーダだが、基本は狩りをしてから獲物をぶら下げて現れるので、洞窟には昼過ぎになってから訪れることが多いのだ。
しかし、今日はまだ昼前だし、見たところ獲物も持ってはいない。
「ああ、今日はちょっとお前に用があってな」
「? なんですか?」
「それはな…………」
と、意味深な笑みを浮かべたゴーダは、いきなりチロの体を引っ捕まえると、そのまま肩の上に抱え上げてしまった。
「ちょ、ゴーダさん!?」
「ヒナ! チロは連れてくから、留守番よろしくな!」
「いってらっしゃい」
唐突に現れた父親に恋人を拉致されそうになっているというのに、やはりヒナに動じた様子はない。
「いや、ちょ、説明を……!」
「チロ、口を閉じてないと舌を噛むぞ! じゃあ、夕方には帰るから!」
「うん、わかった。気をつけてね」
ばいばい、と笑顔で手を振るヒナに見送られながら、チロは状況が何も分からないまま、ゴーダに連れ去られてしまうのだった。
「せいっ、てりゃっ」
「ん~…………えいっ」
チロが日課であるやり投げの練習をし、その隣でヒナが使えるようになったばかりの『属性魔術(初級)』を練習をしていると、
「おう、チロ! いるか!」
いきなり、ゴーダが大声を出しながら洞窟の住処に飛び込んできた。
「うわっ、びっくりした。……ゴーダさん、脅かさないでくださいよ」
「お父さん、おはよう」
チロは驚いた拍子に持っていた槍を明後日の方向に投げてしまったが、ヒナはまるで動じる様子もなく振り返り、ゴーダに朝に挨拶をした。
ゴーダと一緒に暮らしていたからその大声に慣れている、というのもあるのだろうが、明らかにヒナのほうがチロよりも肝が座っている。
「おう、おはようヒナ! 今日もチロと一緒に仲良く練習か、えらいな!」
「えへへ」
「おはようございます、ゴーダさん。今日はやけ早いですけど、何かあったんですか?」
チロも気を取り直して挨拶を返し、ついでにゴーダに尋ねた。
週に2~3日は顔を出すゴーダだが、基本は狩りをしてから獲物をぶら下げて現れるので、洞窟には昼過ぎになってから訪れることが多いのだ。
しかし、今日はまだ昼前だし、見たところ獲物も持ってはいない。
「ああ、今日はちょっとお前に用があってな」
「? なんですか?」
「それはな…………」
と、意味深な笑みを浮かべたゴーダは、いきなりチロの体を引っ捕まえると、そのまま肩の上に抱え上げてしまった。
「ちょ、ゴーダさん!?」
「ヒナ! チロは連れてくから、留守番よろしくな!」
「いってらっしゃい」
唐突に現れた父親に恋人を拉致されそうになっているというのに、やはりヒナに動じた様子はない。
「いや、ちょ、説明を……!」
「チロ、口を閉じてないと舌を噛むぞ! じゃあ、夕方には帰るから!」
「うん、わかった。気をつけてね」
ばいばい、と笑顔で手を振るヒナに見送られながら、チロは状況が何も分からないまま、ゴーダに連れ去られてしまうのだった。
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