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第三章
47話 燻製肉
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「どれ、そろそろかな?」
「できた?」
「キュアァ」
燻製小屋に火を入れてから約3時間。
もう十分に燻された頃だろうと、チロは燻製小屋の扉を開けた。
「げっほ、げほ、ごほっ!」
「けほっ、けほっ」
「キャフッ、キャフッ」
すると、当然のことながら中に充満していた煙が扉から溢れてきて、その煙をもろに吸い込んだチロは、隣にいたヒナや頭の上のキングとともに咳き込んだ。
無事だったのは、冷静に距離を取っていたゴルジだけである。
「……なにやってるんですかい、チロの兄貴。それとお嬢も」
「げほっ、ごほん……い、いやぁ、ちょっと油断してました」
「けほっ、けほっ、わくわくを、抑えられなかった」
「キャッ……キャッ……キャブシュッ」
やや呆れたように声をかけてくるゴルジに答えながら、チロたちは一度溢れ出る煙の波から避難した。
そして少し離れたところから『送風』で風を送り、小屋に立ち込める煙が薄まったところであらためて中を覗いてみる。
「おぉ~、いい感じだな。初めてにしては、良く出来てるんじゃないか?」
「お肉、おいしそう」
「キュアァッ、キュアァッ」
燻製肉は煤けて黒くなることもなく、綺麗に燻されていた。
チロは『制土』によって作成した皿に、燻製肉を一つ取って乗せる。
そしてそれを四等分に切り分けると、ヒナたちの前に差し出した。
「はい、ひとりひと切れずつ味見ね」
「わぁい」
「キュアッ」
「……オレも、ですかい?」
ヒナとキングが喜びの声を上げる中、ゴルジだけが驚いたような顔でチロを見た。
なぜなら、ゴブリンは集団で生活する社会的な生き物であり、食事をするときは上位のものから順に食べていくという暗黙の決まりがあるからだ。
ゴルジの中では『ゴーダ>チロ≧ヒナ>ゴルジ』という明確な序列が定められているため(キングはチロの付属物)、チロたちと一緒に食事をするという発想自体がなかったのである。
「いやいや、小屋作ってくれたり枯れ枝集めてきてくれたり、むしろ一番働いてくれたのがゴルジさんじゃないですか。そのゴルジさんが食べないでどうするんです」
「ゴルジ、いっしょに、たべよ」
「チロの兄貴、お嬢…………」
ゴルジは戸惑いながらも、ふたりに勧められるまま皿の上の燻製肉を口の中に放り込み、遠慮がちに二度、三度と噛み締めた。
そして、
「…………っ、うまい」
噛むごとに口の中に広がる、スモークされた肉の濃厚な旨みに、思わず唸りを上げた。
ゴルジの反応を見て笑顔を浮かべたチロたちも、それぞれに燻製肉を口の中に放り込む。
「もぐもぐ。おいしい」
「ガツガツ。キュアァッ」
「どれどれ…………おっ、しょっぱめだけど、こりゃうまいっ」
三人と一匹は、口の中の燻製肉を夢中で噛み締め、飲み込んだ。
そして当然のようにもう一つ燻製小屋から取り出して皿に乗せると、また四つに切り分けて仲良くひと切れずつ食べた。
それもなくなると、さらにもう一つ…………と、結局は味見というよりも立食パーティさながらに、チロたちは燻製肉を食べ続けるのだった。
「できた?」
「キュアァ」
燻製小屋に火を入れてから約3時間。
もう十分に燻された頃だろうと、チロは燻製小屋の扉を開けた。
「げっほ、げほ、ごほっ!」
「けほっ、けほっ」
「キャフッ、キャフッ」
すると、当然のことながら中に充満していた煙が扉から溢れてきて、その煙をもろに吸い込んだチロは、隣にいたヒナや頭の上のキングとともに咳き込んだ。
無事だったのは、冷静に距離を取っていたゴルジだけである。
「……なにやってるんですかい、チロの兄貴。それとお嬢も」
「げほっ、ごほん……い、いやぁ、ちょっと油断してました」
「けほっ、けほっ、わくわくを、抑えられなかった」
「キャッ……キャッ……キャブシュッ」
やや呆れたように声をかけてくるゴルジに答えながら、チロたちは一度溢れ出る煙の波から避難した。
そして少し離れたところから『送風』で風を送り、小屋に立ち込める煙が薄まったところであらためて中を覗いてみる。
「おぉ~、いい感じだな。初めてにしては、良く出来てるんじゃないか?」
「お肉、おいしそう」
「キュアァッ、キュアァッ」
燻製肉は煤けて黒くなることもなく、綺麗に燻されていた。
チロは『制土』によって作成した皿に、燻製肉を一つ取って乗せる。
そしてそれを四等分に切り分けると、ヒナたちの前に差し出した。
「はい、ひとりひと切れずつ味見ね」
「わぁい」
「キュアッ」
「……オレも、ですかい?」
ヒナとキングが喜びの声を上げる中、ゴルジだけが驚いたような顔でチロを見た。
なぜなら、ゴブリンは集団で生活する社会的な生き物であり、食事をするときは上位のものから順に食べていくという暗黙の決まりがあるからだ。
ゴルジの中では『ゴーダ>チロ≧ヒナ>ゴルジ』という明確な序列が定められているため(キングはチロの付属物)、チロたちと一緒に食事をするという発想自体がなかったのである。
「いやいや、小屋作ってくれたり枯れ枝集めてきてくれたり、むしろ一番働いてくれたのがゴルジさんじゃないですか。そのゴルジさんが食べないでどうするんです」
「ゴルジ、いっしょに、たべよ」
「チロの兄貴、お嬢…………」
ゴルジは戸惑いながらも、ふたりに勧められるまま皿の上の燻製肉を口の中に放り込み、遠慮がちに二度、三度と噛み締めた。
そして、
「…………っ、うまい」
噛むごとに口の中に広がる、スモークされた肉の濃厚な旨みに、思わず唸りを上げた。
ゴルジの反応を見て笑顔を浮かべたチロたちも、それぞれに燻製肉を口の中に放り込む。
「もぐもぐ。おいしい」
「ガツガツ。キュアァッ」
「どれどれ…………おっ、しょっぱめだけど、こりゃうまいっ」
三人と一匹は、口の中の燻製肉を夢中で噛み締め、飲み込んだ。
そして当然のようにもう一つ燻製小屋から取り出して皿に乗せると、また四つに切り分けて仲良くひと切れずつ食べた。
それもなくなると、さらにもう一つ…………と、結局は味見というよりも立食パーティさながらに、チロたちは燻製肉を食べ続けるのだった。
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