ゴブリン飯

布施鉱平

文字の大きさ
上 下
43 / 64
第二章

42話 みんなでご飯

しおりを挟む
「────うまいっ!」

 剛田が、角ウサギの丸焼きを豪快にかじりながら、そう叫んだ。

「すごく、おいしい……っ」

 ヒナもまた、小さく切り分けた角ウサギの肉をもぐもぐと噛み締めながら、目を輝かせてて喜んでいる。

「キュアッ! キュアァッ!」

 そしてキングも、ようやくありつけた食事に、喜びの声を上げていた。

「うん、うまい」

 三人の反応に満足しながら、チロもむしゃむしゃと肉を頬張る。
 角ウサギの肉はやはりうまいが、今日の味は格別だった。

 とくに味付けや調理法を変えたわけではない。

 いつもと同じように、焼いて塩を振っただけだ。

 それなのにいつもよりもうまく感じるのは、やはり大人数で食事をしているからだろう。

(自分が作ったものを美味しいって言ってもらえるのって、こんなに嬉しいんだな……)

 剛田や、ヒナの笑顔が(キングの表情は変わらないので除外)チロに料理を作る喜びを教えてくれた。
 そしてその喜びが、食事の時間を何倍も楽しくさせてくれていた。

「しかし、このでかい水晶みたいのが、全部塩だとはなぁ…………」
「驚いたでしょ。俺も最初はただのインテリアだとしか思ってなかったんですけど、舐めてびっくりですよ」
「塩って、すごいんだね、おいしいんだね」
「あっ、ヒナ、これも食べてみなよ。シトラ草って言うんだけど、さっぱりした甘みがあってうまいんだ」
「たべるっ…………もぐもぐ…………あま、うま………」
「あっ、いいな。俺にもくれ」
「キュアァッ」
「はいはい、ふたりともどうぞ」

 会話も弾み、和気あいあいと食事は進んでいった。

 そして、食べ終えた頃には全員が微笑みを浮かべ、満足げな息を吐いていた。 

「ふ~っ、食った食った。こんなにうまいもの食ったのは、こっちに来てから初めてだな」
「……むふ~、ちょっと、食べすぎた」
「キュアッフ」
「水飲みますか? 口の中の脂が、ちょっとはすっきりしますよ」
「おう、くれ」
「のむ」
「キュア」

 チロは制土で湯呑を三つと皿を一枚つくり、湧水を汲んで渡した。
 
「うまっ! なんだここ、塩があるだけじゃなく水もうまいのか!」
「水、おいしい」

 剛田とヒナが、水のうまさに驚きの声を上げる。

「あれ、先輩って、浄水スキル持ってないんですか?」

 そうだとしたら、これまで大変だったろうな、と思ってチロは聞いたのだが、

「浄水? スキル? なんだそれ」
「え?」

 剛田から返ってきたのは、スキルそのものに対する疑問だった。
 
「まさか先輩…………自分のステータス見てないんですか?」
「ステータス? …………ステータスって、なんだ?」

 どうやら剛田は、そもそもステータスの存在すら、知らないようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

神よ願いを叶えてくれ

まったりー
ファンタジー
主人公の世界は戦いの絶えない世界だった、ある時他の世界からの侵略者に襲われ崩壊寸前になってしまった、そんな時世界の神が主人公を世界のはざまに呼び、世界を救いたいかと問われ主人公は肯定する、だが代償に他の世界を100か所救いなさいと言ってきた。 主人公は世界を救うという願いを叶えるために奮闘する。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...