ゴブリン飯

布施鉱平

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第二章

40話 和解

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「────すまなかった!」
「いやいやいや、頭上げてくださいよ、先輩!」

 地面に頭を擦りつけて土下座する巨人────もとい、ヒナの父親であり、前世で世話になった会社の先輩でもある剛田の肩に手を置き、チロはその体を起こさせようとした。

 だがもちろん、チロの力でその巨体が動くはずはない。

「チロ、お父さんと、知り合いなの?」
「あー……いやー、なんていうか、そうね。昔いろいろと助けてもらったり、ご飯おごってもらったり……」
「すまなかったーっ!!」
「あっ、いや、違いますから! あのことで責めてる訳じゃありませんから!」
「お父さん、チロに、悪いことしたの……?」
「ヒナ……お父さんは、お父さんはな……昔、こいつを……田中を死なせてしまったんだ!」
「タナカ……? チロ、タナカってなに?」
「田中っていうのは、その、ファミリーネーム? 二つある名前の内のひとつみたいな……」
「うぉーっ! 俺を許してくれ、田中ぁーっ!」
「ああ、もう! 収拾がつかない!」
 
 土下座したまま大声で謝罪する剛田。
 突然の父親の奇行に混乱し、その説明を求めるヒナ。
 そのふたりに挟まれ、どちらにも対応しなければならないチロ。
 
 事態は混迷の一途をたどっていた。

「とりあえず! とりあえず、いったん冷静になりましょう! ヒナには後でちゃんと説明するから、今はちょっと待っててもらえるか?」
「……うん、わかった」
「剛田先輩は頭を上げてください! せっかくこうして出会えたんだから、落ち着いたところで話しましょうよ! ね!」
「うぅっ、田中、俺を許してくれるのか……?」

 剛田が顔を上げ、チロに視線を合わせた。
 前世よりも数倍厳ついその顔は涙に濡れ、苦悶に歪んでいる。

 面倒見がよく、責任感の強い剛田のことだ。
 ずっと、自分が連れて行った店で後輩を死なせてしまったことを、悔やんでいたのだろう。

「もちろん許します。まぁ、許しますっていうか、そもそも恨んでもいませんから。俺は、この世界に生まれ変わることができて、ほんとによかったと思ってるんですよ」
「田中……」
「チロです。今は、チロって名前なんで、先輩もそう呼んでください」
「……ははっ、なんだそりゃ。さっきからヒナが言ってたが、チロってお前の名前だったのか。犬みたいな名前だな」
「俺もそう思います」

 冗談めかして肩をすくめるチロに、剛田はようやく口元に笑みを浮かべた。

「さ、行きましょう、先輩。俺の住処に案内しますから、そこでこれまでの事とか、これからの事とか色々話しましょうよ」
「……ああ、わかった」

 チロに促され、剛田が立ち上がる。
 
「……成長したな、田な……いや、チロ」
 
 剛田は感慨深げに、チロを見下ろしながらそう言った。

 チロは「そんなこと……」と謙遜しながらも、

(先輩が、ちゃんと腰巻きを身に付けるデリカシーを持っててよかった……)

 顔のすぐ横にある剛田の股間を意識しながら、そんなことを考えるのだった。
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