ゴブリン飯

布施鉱平

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第二章

38話 巨人

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 ヒナに連れられ、チロは森を歩いていた。

 遠い昔に両親と並んで歩いたことはあるが、それ以外の誰かとは初めてだ。
 もちろん、異性と手をつないで歩いたこともない。

 これがデートであれば言うことはないのだが、向かう先はヒナの父親が待ち構えているゴブリンの集落だった。

「ヒナのお父さんて、どんなひとなんだ? ほら、身長とか、体型とかさ」

 歩きながら、チロは尋ねた。

 既に、ゴブリンの族長であること。ヒナには優しいが、怖い部分もあること。とにかく強いということなどは知っているが、外見などはまだ聞いていない。

「お父さんは、大きい。すごく、大きい」

 ヒナが、チロの顔を見ながら笑顔で答えた。

「すごく大きいって、どれくらい?」

 重ねて尋ねると、ヒナは「んー……」と悩む様子を見せたあと、

「チロの、倍くらい」

 と、また笑顔で答えた。

「…………」

 倍くらい。

 それはさすがに、予想外の答えだった。

 感覚的なものでしかないが、地面への距離などから、チロは自分の身長をだいたい150センチくらいだろうと考えていた。

 だとすれば、もしヒナの表現が誇張ではなく正確なものなら、ヒナの父親の身長は3メートル近いということになる。

「…………お父さんって、ほんとにゴブリン?」
「そう、だよ。すごく大きくて、すごく強い、ゴブリン」

 ヒナとの会話を続けるうちに、だんだんとチロは不安になってきた。

 つい先ほど、ヒナが父親のことを『すごく大きいと』と言ったときにチロが想像したのは、自分よりも一回り大きいゴルジより、さらに一回り大きいくらいのゴブリンだった。

 だが、ヒナの言葉を信じるなら、実際にはチロの倍くらいの大きさだという。

 ならば、ヒナの言った『すごく強い』というのは、どれくらいの強さなのだろうか。
 
 もし、大きさの時と同じくらいチロのイメージを上回るのであれば、その強さは間違いなくゴブリンのわくに収まらないだろう。

「……ねえ、ヒナ。もうちょっと、歩きながらお父さんの話をしようか」

 実際に会う前に、心構えをしておきたい。

 そう思い、ヒナから父親のことを聞き出そうとチロが話しかけた瞬間──── 

 ガサリッ

 と、前方の茂みが音を立てて揺れた。

 明らかに風の音ではない。

 何か巨大なものが、草木をかき分けて進む音だった。

 チロが恐る恐る視線を向けたその先には…………










 見上げるほど巨大な、緑色の巨人が立っていた。

 
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