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第二章
37話 決意
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ゴルジたちを縛り上げて洞窟の床に転がしたチロだが、結局なんの解決にもなっていないことに気づき、頭を抱えた。
いずれ、ゴルジたちは麻痺から回復する。
蔓でがんじがらめに縛っているから暴れることはできないし、もし暴れたとしても、またキングのアイフラッシュで痺れさせれば危険はない。
だが、それを繰り返すことに意味はなかった。
彼らは族長の娘であるヒナを取り返すことを諦めないだろうし、ヒナはチロと共にいることを望んでいる。
その齟齬を解消しない限り、ヒナはいつまでも追われ、チロもいつまでも襲われることになるのだ。
これから先も安全に、そして安心して暮らすためにはやはり、ヒナの父親である『族長』と話し合う以外に方法はない。
そう思い、チロはその考えをヒナに伝えた。
「だから、お父さんのところに案内してくれるかな」
「……でも、お父さんは優しいけど、怖いところもあるし、すごく、すっごく、強いよ?」
ヒナは、それでも行くのか、と念を押してきた。
「行くよ」
チロは、はっきりとそう答えた。
前世のチロであれば、『誰かがなんとかしてくれる』『そのうち自然となんとかなる』などと、他力本願かつ投げやりに考え、自分から動くことなどなかっただろう。
だが、ここには失敗を補ってくれる先輩も、逃げ込めば守ってくれる警察のような組織もない。
それになにより、
「俺がそうしなきゃならないと思うから、俺がそうしたいから、行く。
行って、ヒナとこれからも仲良くしたいって、ちゃんとお父さんに伝える」
チロは文字通り、生まれ変わったのだ。
一度死に、前世の自分の生き方を反省し、今度は楽な道に逃げることなく本気で生きようと決めたのだ。
「チロ……かっこいい……」
ヒナの表情や声には、チロに対する好意が溢れていた。
その好意を、チロは自分でも驚くほど素直に受け取ることができた。
そして、気づいた。
前世では、自分自身のことが好きではなかったのだと。
自分をかっこいいと思ったことなど、一度もなかったのだと。
「……やっぱり、俺、生まれ変わってよかったよ」
チロは、今の自分が好きだった。
力もなく、そのうえバッドスキルまで付与されている弱いゴブリンだが、それでも一生懸命に生きている自分をかっこいいと思えた。
だからこそ、自分を好きだと、かっこいいと思えるからこそ、ヒナの好意を受け入れることができたのだ。
「行こう」
「……うんっ」
ヒナの手を握り、チロは洞窟の外へ向かって歩きだした。
槍も毒も携えていないが、その足取りに恐れはない。
かつて営業職であったときには使うことのなかった、『想いを込めた言葉』を武器に、チロは強敵に立ち向かおうとしていた。
…………もちろん万が一のことを考えて、その頭の上に切り札であるキングが乗っているのは、言うまでもない。
いずれ、ゴルジたちは麻痺から回復する。
蔓でがんじがらめに縛っているから暴れることはできないし、もし暴れたとしても、またキングのアイフラッシュで痺れさせれば危険はない。
だが、それを繰り返すことに意味はなかった。
彼らは族長の娘であるヒナを取り返すことを諦めないだろうし、ヒナはチロと共にいることを望んでいる。
その齟齬を解消しない限り、ヒナはいつまでも追われ、チロもいつまでも襲われることになるのだ。
これから先も安全に、そして安心して暮らすためにはやはり、ヒナの父親である『族長』と話し合う以外に方法はない。
そう思い、チロはその考えをヒナに伝えた。
「だから、お父さんのところに案内してくれるかな」
「……でも、お父さんは優しいけど、怖いところもあるし、すごく、すっごく、強いよ?」
ヒナは、それでも行くのか、と念を押してきた。
「行くよ」
チロは、はっきりとそう答えた。
前世のチロであれば、『誰かがなんとかしてくれる』『そのうち自然となんとかなる』などと、他力本願かつ投げやりに考え、自分から動くことなどなかっただろう。
だが、ここには失敗を補ってくれる先輩も、逃げ込めば守ってくれる警察のような組織もない。
それになにより、
「俺がそうしなきゃならないと思うから、俺がそうしたいから、行く。
行って、ヒナとこれからも仲良くしたいって、ちゃんとお父さんに伝える」
チロは文字通り、生まれ変わったのだ。
一度死に、前世の自分の生き方を反省し、今度は楽な道に逃げることなく本気で生きようと決めたのだ。
「チロ……かっこいい……」
ヒナの表情や声には、チロに対する好意が溢れていた。
その好意を、チロは自分でも驚くほど素直に受け取ることができた。
そして、気づいた。
前世では、自分自身のことが好きではなかったのだと。
自分をかっこいいと思ったことなど、一度もなかったのだと。
「……やっぱり、俺、生まれ変わってよかったよ」
チロは、今の自分が好きだった。
力もなく、そのうえバッドスキルまで付与されている弱いゴブリンだが、それでも一生懸命に生きている自分をかっこいいと思えた。
だからこそ、自分を好きだと、かっこいいと思えるからこそ、ヒナの好意を受け入れることができたのだ。
「行こう」
「……うんっ」
ヒナの手を握り、チロは洞窟の外へ向かって歩きだした。
槍も毒も携えていないが、その足取りに恐れはない。
かつて営業職であったときには使うことのなかった、『想いを込めた言葉』を武器に、チロは強敵に立ち向かおうとしていた。
…………もちろん万が一のことを考えて、その頭の上に切り札であるキングが乗っているのは、言うまでもない。
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